今回もよろしくお願いします!!
宙に浮かぶような夢を見ていた。
暗い空間を浮かぶ私の周りを赤い電が取り巻いて、
ああ、エアに初めて会った時もこんな景色を見ただろうかと曖昧な意識の中で思った。
『何よ、あんたたち』
ラーメンをご馳走してくれたアビドスの猫耳少女の声がする。
誰かと話しているのだろうか。
『黒見セリカ……だな?』
他の誰かの声がする。セリカは誰と話しているのだろうか。
『カタカタヘルメット団? あんたたち、まだこの辺をうろついてんの?』
私たちが基地を潰したヘルメット団の名前がセリカから聞こえた。
敵対していたヘルメット団との接触は危険なのではないだろうか。
そう私が考えるうちに私の耳には銃声が聞こえていた。
『捕らえろ』
銃声に交じってセリカと話していたヘルメット団の声が聞こえるのと同時に、私の意識は浮上した。
車椅子の上でびくりと体を震わせ意識が戻る。
先ほどの夢の内容を反芻する限りセリカを捕えようとする相手とセリカが戦ったように聞こえるが。
『確証がない』
ただの夢だと思うこともできる。
だが、私は自身のこの強化人間としての体に微量にだけ残ったコーラルを知っている。
再手術で失われるはずだったそれを起点に何かが起こっている可能性もある。
今朝にも考えた可能性を否定したくはある。けれど、私のあずかり知らないところのまで聞こえるならそれはこれが原因なのではとも思う。
一度、落ち着いてホシノにまた相談しようと思って、私は一度考えを落ち着ける。
まずは、セリカのことを確かめたい。現実でさえなければ私の夢で終わるのだから。
目を閉じてアビドス教室の私の部屋に寝ている私の体に移動し、学校から出る準備を始める。
武器を手に取って、慌ただしく教室を出たところで先生の言葉を思い出す。
『皆もいるし頼ってほしいな』
先生はそう言っていたか。
私は隣の教室の先生の部屋を叩くほぼ間を置かず開いた扉からはまだ半分目の閉じた先生が顔を出した。
「レイヴン? こんな時間に何かあったのかな?」
「先生、緊急なんです。セリカが襲われたかもしれません」
その言葉を聞いた瞬間先生は眠気が吹き飛んだようで私の目をまっすぐに見た。
「わかった。どこで襲われたかはわかる?」
「いえ、ヘルメット団と接触したところまではわかりましたが位置はわかりません。
戦闘を行ったようだから高いところに上って煙等がないか確認するつもりでした」
「わかった、そしたらレイヴンはこのままどこで襲われてるかの位置把握をお願い。
位置把握が終わったら私に連絡を入れて、加勢には……できれば入って助けたいけれど、
間に合わなかった場合は可能であれば追跡」
「了解です、位置把握と追跡、可能であれば救出ですね」
そこまで聞いて屋上へと駆ける。
屋上の貯水タンクの上まで駆け上がって昨日の昼間戦った市街地の方を見る。
小さい爆発があったのか黒い煙が遠くで細く伸びているのが見えた。
携帯を取り出しながら校舎から飛び降り、煙へ向けて駆ける。
付近の家屋の屋根を飛び移りながら、先生へと電話をかけた。
「先生」
「レイヴン、どうだった?」
「戦闘の跡のような黒煙を発見しました。
申し訳ないですが、アビドスでセリカの家に近い誰かにセリカの家を確認してもらってください」
「もちろん、レイヴンも狙われてるかもしれない。気を付けてね」
そう私を心配してくれる先生にお礼を言って電話を切る。
近づく黒煙は新たなものが立ち上る様子も音も聞こえない、おそらく戦闘はもう終わっているように見える。
先生へ追跡に切り替えるとだけメッセージを入れてとりあえずは戦闘のあった場所まで行こうと足に力を込める。
今回は、飼い主の声が聞こえた気がする。
『621、仕事の時間だ』
戦闘の痕跡の残る場所にセリカはもういなかった。
だが、近くのビルから見渡して、付近にヘルメット団が見えた。
対空砲だろうか、回収して、移動しようとしているらしい。
「……好都合だ」
撤収の準備ができたタイミングで襲撃すれば、乗り物をいただき、対空砲をいただき、案内役まで用意できる。
みんなと合流するにしてもセリカを救出後の戦闘も予想できる。対空砲があったほうが楽に殲滅できるはずだ。
私は撤収準備を進めるヘルメット団にバレない様に彼らの頭上へ移動し準備が終わるのを待つ。
『【クソ野郎】から緊急招集とは何事でしょうか?』
『【クソ野郎】にはよくあることだよペイター君、人を呼びつけるのが好きなんだろうね』
記憶にない会話が一瞬フラッシュバックする。似たような場面を、私はルビコンで見ただろうか。
眼下のヘルメット団を数えながら様子を見る。4人はのんきに撤収作業を続けていた。
「おい、荷物は全部乗せれたか?」
「ああ、対空砲も接続で来た」
「よし、ずらかるぞ」
そろそろかと思って奴らの車に近づくと嘗ていた彼女の知らない声がする。
『目標を確認、四脚ACが
『ああ、エアそんな任務は私は知らない』
そんな風に過去の彼女に応えながらヘルメット団の一人の背後に降り立つ。
「あん?」
そいつが振り向く前に私はそのヘルメット団にショットガンを数発ぶち込んだ。
「なっ! お前アビドスのとこにいた!」
最初の時か前線の時のメンバーがいたのか声をあげる。
そいつだけ残して周りを倒せば、こいつはきっと言いなりになってくれそうだと考えて、私は武器を構えるヘルメット団へ駆けた。
「なんで銃口に向かってきて当たらないんだよ!!」
私に向けて単調に銃を撃つ相手の懐へ飛び込みショットガンを放つ。
「うっ」
怯んだそいつを担ぎ上げて移動しながら飛び上がり、空中から一人へ投げつける。
「えっちょ……ぐえ!」
飛んできたやつに潰されたのを確認して、残った一人の銃撃を躱しながら折り重なった二人へ近づく。
「ちょ、お前、どけ! 来てるって!」
「う、ごめ……ひい!」
重なる二人に容赦なくショットガンを打ち込むと、何発目かのあたりでぐったりと動かなくなってくれた。
いつの間にか止まっていた攻撃の主へ私は目を向ける。
「ひっ」
そんな引きつった声を聴いたことで、私は計画がうまくいったことを心の中で悟った。
そして、銃を向けながら問いかける。
「言うことを、聞いてくれるな?」
「は、はい!」
気絶した三人を縛り付けてもらって乗ってきていた車の後部にのせ、残った一人を運転席に座らせて運転をしてもらう。
私はと言えば、ありがたいことに車体は屋根がなかったので気絶した三人の上に座らせてもらうことにした。
「「「ぐえ」」」
私が座るときにそんな声を聴いたような気がするが、気のせいだと片づけて私は運転を進めさせる。
風を感じながら、先生へと電話を掛けた。
「レイヴン? 怪我とかはないかな?」
「ありません。今のところ無傷です。一人親切なヘルメット団の方に車を運転してもらって案内してもらっています」
「え、そんな人がいたの!?」
「はい、ついでに対空砲もくれるらしいので救出後の戦闘の戦力になるかと」
「ほんとに!? レイヴンはすごいねえ」
そうやって褒められて私は少しうれしい気持ちになった。
すこし、幸福感を感じていると運転席のヘルメットが私に声をかけてくる。
「おい、あげるなんて私一言も」
「なに?」
私はそいつに向けたハンドガンを見せつけるようにもう一度突き出しながら問いかける。
「ナンデモナイデス」
「うん。ありがとう」
そのやり取りを聞いて電話口の先生が私に問いかける。
「レイヴン? 本当に親切なヘルメット団なんだよね?」
「はい。もちろんです。この後は手伝ってくれたお礼もするつもりですよ」
そっか……くれぐれも丁寧に扱ってあげてねなんて言う先生の言葉を聞いてから電話を切った。
先生は優しいなと思いながら、すこし考えてルビコンの考え方はいけないなと考え直す。
総長なら言いそうなお礼の鉛玉ではなく、本当のお礼の方に切り替えることにする。
その方が普通の選択で、ウォルターも喜んでくれるはずだ。
「おい」
「……なんだよ」
遅れて聞こえた返事に。一度だけ息を吐いてから声を出す。
「お礼考えておいて」
「……わかった」
ぎこちない返事を確認して、私は車の先を見つめた。
車の運転をしながら私は前方に別動隊の後方車両が見えたのを確認した。
「な、なあ」
「どうした」
後ろに声をかけると冷たく返事が返ってくる。
できるだけ刺激しないようにできるだけ気さくに話しかける。
「目の前の奴がアビドスの奴を乗せたやつだよ、あの一番大きいトラックに乗ってるはずだ」
「そうか、しばらくこのままの距離で追跡しろ、先生の車両を後方に確認したら指示を出す」
「わかったよ」
そう答えておとなしく運転をしながら考える。
アビドスのところに入って来たこの新人、前に見た時と姿が変わっている気がしたからだ。
前の時も倒される直前の一瞬の記憶しかないけれど、それでも以前見た時と違っている部分が二つあった。
『こいつ犬耳なんかついてたか!? それになんかヘイローも変わってないか!?』
私に仲間を縛らせた時も、それを積み込ませた時も、さきアビドスの連中と話してる時も、
ピコピコピコピコ頭頂部についたそれが動いてるのを確認していたのだ。
それに、ヘイローについても初めて見た時は三重円だったはずが、今は一番内側の輪が赤色になってるし、
真ん中にはなんか赤色の惑星みたいのが浮いてるし。
『しかもべらぼうに強いし! なんでこんなのがあんな廃校寸前のとこに来てんだよ!』
弾薬も切れかけのはずとか聞いたからついて来たのにと最初の襲撃を思い出す。
あの時は確かに何も頭になかったはずなのに、こいついつの間に生やしたんだ……
「よし、先生たちの車両を確認した。このまま止まって先生と合流しろ、私は先に行く」
そう言って私に指示を出したあいつは車のフロントに一度足をつけたかと思えば、
だんっと大きな音を立てて車体が揺れて、あいつは空中へ跳ぶ。
「跳ぶっつーか飛ぶだろあんなん、翼でもついてんのかな」
トリニティかゲヘナの生徒にありそうなそれがついてるように錯覚するような跳躍を見ながら車を停める。
アイツは大体三歩目の跳躍で前方の車両群に追いつくと、銃声と共にアイツが舞うのが見える。
「あーあ、ここにアビドスも来るのか」
独り言を続けながら私はあいつの戦闘を見守る。こりゃあ負けたなと思いながら明日のごはんどうしようかと考える。
後ろからアイツの言ってた車が来て停まったころにはあいつはすでにトラックの荷台を開けようとしているように見えた。
「君が協力してくれたヘルメット団?」
そう私に大人が問いかけてきた。
こいつが先生だろう。
「そーだよ、仕方なくって感じだが、抵抗する気はないから攻撃はやめてくれ」
手をあげながらそう言うと、先生は後ろのアビドスの奴らに目を向ける。
私に疑念の目を向けるそいつらに私は変わらず両手をあげたまま声をかける。
「どうしても心配なら一人監視に着けてあっち行けばいいからさ、
もう戦闘も終わらせてるはずだぞ、追加の戦闘でこの対空砲使うんだろ?」
そう言って後ろの対空砲を顎で示せば、灰色髪に狼耳の奴が助手席に乗って来た。
「ん、じゃあ私が監視する」
「おう、よろしくな」
そうして、残りの奴らが来る前もう一度乗ってアイツのところへ向かったのを確認して私も車を動かす。
隣の奴に問いかける。
「なあ、アイツって名前なんて言うんだ」
「だれ?」
「ほら、先に飛んでった奴だよ」
「ああ、あれはレイヴン」
絶対本名じゃねえと心で突っ込みつつそうかよと返す。
追加で確認したかったことを聞いてみる。
「あいつ、犬耳生えてたっけ……」
「レイヴンはそんなのつけてないはず」
いやいや、ついてた、絶対ついてた! そう言いたいのを我慢する。
向こうにつけばきっとみんな確認するからその時もっかい言おう、
ヘイローについても合わせて聞いてやろう、そう思って車を進める。
「おい、仲間は助けられたか」
追いついた私は前方にいる集団に声をかければ、黒髪のツインテールが私を睨みつける。
「あ、あんた! ヘルメット団じゃない! よくも……」
「お、おい落ち着けよ。私は戦わないって。
ほら、あっちから増援来てるし、対空砲使うんだろ!? 私も準備手伝うからさ!」
そう言って乗って来た対空砲を指さすと、ツインテールは私へ変わらずぷりぷりしつつも一旦は矛を収めてくれたようで、
リーダー格だったはずのピンク髪へも声をかける。
「そこのピンクの奴も、このあと戦闘だろ?」
ピンク髪は私を見てしばらく観察する様に上から下まで見てから言った。
「そうだね、そしたら対空砲の準備してもらっちゃおうかな~」
「お、おう、そう言えばアイツ……レイヴンは?」
そう言えばと思い出しあいつはどこだろうと聞いてみる。
そうするとトラックの荷台上部からアイツの声がする。
「私はここだ、どうした」
「どうしたもこうしたもお前……」
耳ついてたのをハッキリさせたくてと言おうとして見たアイツの顔を私は二度見する。
『何もついてないんかい!! ヘイローもそのままだし、なんだ、私の幻覚だったのか!?』
最初に見た時同様のつるっつるの黒髪に戻った頭頂部を見て私は自分はこいつに襲われて何か変にでもなったんじゃないかと疑う。
そんな目を丸くする私をよそにアイツは無表情のまま首をかしげる。
「お前……何?」
「いや……対空砲用意するのに一人か二人くらいほしいんだけど……」
そういう私の言葉を聞いたアイツは先生へ目を向ける。
先生にそのまま抜擢されたレイヴンが私を手伝って対空砲を用意してくれることになった。
「対空砲なんか当てれんのお前?」
一応そうレイヴンに聞くと彼女は控えめに頷く。
「的があれだけデカいなら私でも打ち抜ける」
そう言ってアイツは「あの時の彼を一度でいいから真似してみたかったんだ」とも付け加える。
そういう顔は遠足前の小学生のようで、無表情からの変わりように私はため息をつく。
「勝手にしてくれ」
『巨大な重火器も確認しています! 対空砲があるとはいえ、お気を付けください!』
そんな通信が私の通信機からも聞こえる。
ヘルメット団の物だけど、アヤネってアビドスの奴が使えるようにしてくれたらしい。
レイヴンと用意した対空砲は後の標準やら発射をレイヴンに任せることになったので、私は後方指揮の先生と並んで体育座りで待機していた。
弾の交換も独りでするとか言い出すし……手間暇考えれば複数人でってだけで、一人でも扱えはするだろうとは思うから私はいいが。
「レイヴンから、なにもされてない?」
「あ、はい。大丈夫です」
先生にそう返して、私は対空砲を操作するレイヴンを見る。
あの後方の雑兵集団にでも標準をつけているんだろう。
それはほっといて、先生にもあの犬耳を確認しようと指揮の邪魔にならないか心配しながら声をかける。
「あ、先生」
「どうしたの?」
こんな私にもにこやかに聞いてくれる先生ならわかるかもしれないと私は少し希望を持つ。
『外しはしない』
「先生…私──
でも、そんな私の声はちょうどレイヴンの声と共に発射された砲弾の轟音で掻き消えていた。
『ラブコメじゃねえぞ!!』
先生にまで聞こえたであろう部分のセリフを思い返してそう突っ込みたかった。
だが、もういい、もう萎えた、考えても仕方がないと思う。
もういいやと投げ出した私はため息を一つついて別の話題を先生にする。
「レイヴンのお礼……何がいいと思います?」
先生には私が考えるのが大事だからゆっくり考えてみてと言われて、お礼を言ってうんうん悩みつつまた戦場に目を向ける。
対空砲を構えるレイヴンは、今度はなぜかすごいキリっとしたキメ顔をしていた。
『巻き込まれるなよ』
「とりあえずカタカタヘルメット団やめるかなあ」
戦線はもう二発の対空砲の発射とアビドスの奴らの錬度の高さでボロボロだった。
ここ最近のやられ具合から私はもう不良やってんのに嫌気がさしてきていた。
足を洗っても学籍ないしどうしようかなあなんて考えながら変わらずキメ顔のレイヴンを眺める。
『これで決める!』
その言葉と共に発射された砲弾は間違いなくヘルメット団の戦車を打ち抜いていて。
これは確かに決まったなと他人事みたいに思った。
※このヘルメット団員は本編でもう一回登場する予定です。
レギュラーになるかはまた考えるかもしれません。