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「レイヴン」
「むも?」
柴関ラーメンにて、チャーシュー丼を口にしながら目を輝かせていたレイヴンがこちらを向いた。
「おいしい?」
私の疑問にレイヴンは頬張ったチャーシュー丼をそのままに頷く。
目を閉じて幸せそうな顔で口の中のものを飲み込み、食事時や時たまにだけ見せるにこやかな笑顔でレイヴンは答えてくれた。
「はい、とても美味しいです」
そう言って、レイヴンはまた目を輝かせながらチャーシュー丼をまた口に入れる。
セットにしたラーメンの特盛も合わせて食べているのだから大食漢だ。
そうして輝く彼女の顔から眼を外して、私はテーブルへ目を向けた。
「アヤネ、やっぱり報酬が良いのから行くほうがいいと思う」
「待ってください、シロコ先輩。利益が大きいということは危険も伴うということです。
アビドスの私たちはヘルメット団と戦ったりで経験はありますが、それを過信すると痛い目を見ると思います」
「じゃあじゃあ、こっちの指名手配犯の確保とかいいんじゃないですか?」
「うーん。確かに報酬額はちょうどよいですが……長く学校を空けてしまうことになります。
砂嵐の影響を私たちの掃除で賄っている以上、私一人しか学校にいない状態を作りたくはないです」
「皆~案件もいいけど、ラーメン伸びちゃうよ~」
料理に目を輝かせるレイヴンと対照的に、アビドスメンバーのホシノを除いた三人は私の渡した案件候補に夢中なようだった。
セリカもバイト中でも気にはなるのか私たちがどんなのを見ているのかちらちらとこちらを見ているように見える。
「そうだね、伸びてしまうともったいないし、皆、案件は後にしよう」
「「「はーい」」」
私もホシノに合わせて三人に声をかければ素直な返事と共にラーメンに口をつけだす。
それでも、話す話題が案件なあたり、私が出した候補は彼女たちに結構響いたようだ。
「ありがとね、先生。案件とか紹介してもらっちゃって」
「いやいや、いいんだよホシノ。生徒のために動くのが先生だからね」
「いや~、頼りになるなあ」
そう言ってホシノも三人の輪に加わって仲良く話しているのを見て、私も思わず笑顔になる。
けれど、そんな緩んだ口元は、改めてレイヴンに目を向けて彼女の顔を見ているうちに引っ込んでしまっていた。
レイヴンの今朝の作戦会議や定例会議での提案を思い出しながら彼女の過去がどんなものだったのかに薄々気が付き始めていたからだ。
詳しく話してもらえていない過去、けれど、前にいた場所も戦場だったことや定例での依頼を受ける業態について提案していたこと、
おのずと私の中で彼女の過去は同じような傭兵をしていたのだろうと想像がつく。
恩人がユウカのメモにいる人物だったとして、丼に笑顔を浮かべる少女を死地で傭兵にしてまで叶えたい目的が何なのか私には想像できない。
ただ、良い人とは素直に言えないのだろうとそう感じた。それを彼女もわかっているから私には秘密なのだろう。
「先生、どうしましたか?」
思考にふけって見つめていた視線に気づいたのかレイヴンが私に目を向ける。
私はとっさに何でもないんだよと、彼女の問いかけをごまかした。
「おいしそうに食べるなと思って」
「はい、とても美味しいです。最高です」
そういって、微笑む彼女は本当にかわいらしい。
食事と、過去に関するときは本当に表情が豊かだなとそう思っていた時だった。
「四名様ですか? お席にご案内しますね」
「んーん、どうせ一杯しか頼まないし大丈夫」
そうセリカが言っているのが聞こえて、入って来た客の顔を見たレイヴンの顔は丼を口に入れたままにもかかわらず無表情に戻っていた。
私も振り返って客を確認する。見慣れない四人組、うち二人には角が生えているのを私は確認した。
四人はなにやらラーメン一杯にお箸四膳を頼んでいて、どうにもお財布が厳しいらしい。
「えっ? 四膳ですか? ま、まさか一杯を四人で分け合うつもり?」
「ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金がなくてすみません!!」
問い返すセリカに紫髪の女の子がそう謝り出す。
あの四人は生徒名簿で見たことがある、ゲヘナの生徒だったはずだ。
たしか、陸八魔アル、浅黄ムツキ、鬼方カヨコ、伊草ハルカの四人。
それよりも……
「レイヴン、どうかしたの?」
既に元の幸せそうな表情に戻って口は変わらず動かしていたが、
先ほど一瞬無表情に戻っていたレイヴンに私は問いかける。
「また、後ほど」
その言葉に私は頷くが気になりはする。
新しいお客が来てからとなればそれが原因かと考えて入って来た子たちを見た。
先ほど案内されていた子たちは隣の席に座っていて、なにやら一杯のラーメンを分け合うことになっているらしかった。
「ぶっちゃけ、忘れたんでしょ? ねえ、アルちゃん。夕飯代取っておくの、忘れたんでしょ?」
「ふふふ」
灰の髪を揺らしながら楽しそうに笑うムツキに、揶揄われていた相手であるアルについては意味深な笑顔を浮かべているものの、冷や汗をかいているのが見て取れた。
ラーメン一杯しかと言っていたことからも彼女たちのお財布は現状かなり寂しいらしい。
「まあ、リスクは減らせた方がいいし、ヘルメット団みたいなのには扱えないってことには同意する」
そう言ってため息をつきつつもアルの判断を認めたのはカヨコで、断片的ながらも話を聞いてみれば彼女たちは仕事の事前投資でお金を使ったらしかった。
仕事が成功したらすき焼きだなんだと、彼女たちは話しているのを聞く限りは、微笑ましいが先生としては生徒がおなかを空かせているというのは見過ごせない。
そう思って追加で三つラーメンを彼女たちに注文しようかと思った時だった。
「今からお仕事ですか?」
レイヴンが、隣の席の彼女たちに話しかけていた。
大将に上げようとしていた手が止まる。
「あら、あなた隣の席の……」
「はい、話がちらっと聞こえてしまって、ごめんなさい」
突然話しかけたことをレイヴンは素直に謝る。
いつもの無表情のままだが言葉は丁寧でしっかりと抑揚をつけて喋っていた。
「私も今度新しく人から依頼を受けるような仕事を始めようかと思ってて。
仲良く話してるの見てたらお話し聞けたらなと思っちゃって」
「そうなの。もちろんいいわよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
そう言ってレイヴンは薄く微笑みを浮かべる。
私は一瞬彼女の狙いがわからなかった、先ほどは警戒するように無表情になっていたはずなのに。
「もう、社長……また安請け合いして」
「まあ、まあいいじゃん? ちょっとお話しするくらい」
ね、ハルカちゃん? そう投げられた言葉に呼ばれたハルカはおどおどと応答する。
「は、は、はい。私なんかの話で良ければいくらでも!」
「ハルカさんですね。よろしくお願いします」
そうして、いつもより柔らかい雰囲気のレイヴンは軽い話口で彼女たちから話を引き出していた。
「今度の仕事は傭兵をやろうと思ってて、皆さんは屋号とかあったりするんですか?」
とか
「私はショットガンを使ってるんです。四人でお仕事されてるってことは連携とか大事ですよね。
武器はそれぞれのポジションで決められたんですか?」
とか
「ハードボイルド、ですか? 格好良さそうな響き、生き様ってことですよね?」
とか
「そのお財布ですか? 皆さんでプレゼントに? 仲が良いんですね!」
とかそうして、しばらく……
「お待ちどうさま!」
ドンっ
セリカの言葉と共に机に置かれた特大のラーメンを見て、レイヴンは言った。
「ここのラーメンは絶品ですよ。私の席の子たちみんな常連なんです」
その言葉に配膳をしていたセリカとレイヴンが話していることに気づきつつもアヤネのご機嫌取りをしていた対策委員会のメンバーが振り向く。
「おお~大きいラーメンだね。なになに、レイヴンちゃんお友達作ってたの?」
「はい。これからお仕事だそうで」
ホシノとレイヴンは何もないかのように続けるが、対策委員会のメンバーは微笑むレイヴンを物珍しそうに見ながら続けた。
「……レイヴン楽しそう、ラーメンの話をしてるから?」
「そんなに私いつも無表情ですか?」
「そうですね、いっつもクール! って印象です」
「そちらの方はゲヘナの方ですよね、遠くから来てくださったんですね」
そんな風に談笑を始めながらゲヘナの四人とアビドスのメンバーはにこやかに話し始める。
はたから見ればにこやかな雰囲気だったが、私は一瞬だけ無表情となったレイヴンがどうにも引っかかっていた。
*****
こんなもんでいいだろう。
私は柴関から出て私たちが見えなくなるまで手を振ってくれたアル社長を見ながら思った。
当初の作戦から行けばここで彼女たちと会ったのは想定外だったが、作戦の流れから行けば好都合この上ない。
そして、アビドスのみんなと学校についたタイミングで先生に呼ばれたかと思えば、聞かれたのは想像していた通りのことだった。
「それで、レイヴンどういうことか教えてもらっていいかな?」
「もちろんです、先生」
私があんな風に自分から彼女たちに近づいたのが気になっていたのだろう。
先生に呼び止められた私は一階の教室とは別の部屋にいた。
二人きりにしてくれたあたりに先生の優しさが見えて、やっぱりいい人だなと思う。
私は、先生に彼女達について話していく。
「彼女たちがアビドスの次の襲撃者です。もう十五分程度でここに来るでしょう」
「そうなの?」
先生が私の言葉に驚く。私はその声に頷いて続けた。
「今回、彼女たちを可能であれば味方に引き入れる作戦を思いついたんです」
今後も武力をカイザーが雇うなら、味方は多い方が良いでしょう?
と私が続ければ、先生はこの状況から取れそうな作戦に思い至ったのか渋い顔をしながら私に言った。
「私はその方法を使ってほしくない。無理矢理言うことを聞かせても後から軋轢を生むだけだよ。
それに、アビドスの皆に話しておけば皆で先に対応もできる。被害を最小限にというならその方が良い」
そう言うと思っていた。けれど、この方法以外で依頼主とアビドスの安全を両方達成するのは難しいというのが私の考えだった。
それに、現状でおそらく彼女たちは私たちの味方になってくれるという確信があった。
私は先生を説得するために考えていたことを話していく。
「ヘルメット団員の彼女を覚えていますか?」
「うん、もちろん」
「この作戦の立案は彼女です」
そこまで言えば、先生は私の目標が何なのか察しがついたらしい。
「彼女の学籍なら君と同じものを私が用意できる。わざわざあの子たちを脅かしてアビドスの学籍を手に入れる必要はない」
その返しも想定通りだ。
「そうですね。学籍だけならそれでよいでしょう。
でも、先生なら当然わかっているはずです。降って湧くだけの宝に何の意味はないでしょう?」
嘗ての廃棄処分の寸前の私のように後がないなら、一時それでも良いだろう。
けれど、無償の奉仕は求められないのであれば考えて使わなければ毒になる。
「それでも、争いごとを推奨はできないよ」
「そうですね。先生は優しいですから、賛成してくれるとは思っていませんでした」
貴方はウォルターではないから、あの冷酷な優しい人と同じ判断はできないだろうと思っていた。
なので、と私は続ける。
「今、彼女からアビドスの皆へ作戦と、学籍の話がされています」
「へ?」
素っ頓狂な声をあげから、先生がまさかといった表情になったのを確認して私は続ける。
「アビドスの皆が承認してくれたなら。彼女は学籍を自分で手に入れたという達成感と学籍という報酬も得られる」
襲撃までの時間はもうない、今から彼女の学籍を用意する段取りをつけたり、
アビドスの皆に承認してもらった作戦を覆させるようなこともできない。
「レイヴン……君は」
「暗い過去がある……ただの子供だと思いましたか?」
私は今ずいぶんと悪い表情をしているのかもしれない。
嘗てのルビコンで戦うだけの私がしなかった、ウォルターがやってくれていたこと。
今は私に飼い主はいないから、考えることは私もしなければいけない。
先生はしまったと大きく叫びたそうな表情をしていた。
「いや、君を軽く見たつもりはなかった。ごめんね」
「いいえ、先生は良い人ですから、ちょっと悪いことをしたくなったんです」
ウォルターの普通にはこういう悪だくみも含まれているのではと思うから。
先生に私が言葉を言った後で、私の携帯が1コールだけ音を鳴らす。
それを確認して、私は言葉を続ける。
「アビドスの皆は納得してくれたみたいです。
カイザーの依頼を彼女たちに断らせた後の補填、よろしくお願いしますね」
「わかった……けれど、できるだけ戦闘にならないようにするように」
先生は変わらず渋い顔をしていたけれど了承してくれて、その顔に頷きながらも私は言う。
「これは私のやりたいことです。応援してくれるんですよね?」
その言葉にもっと渋い顔をした。
「あの時の私にもうちょっと君をよく見るように言いたくなってきたよ」
そこで私を説教しないから、本当に良い人だなと勝手に思った。
そして、初めての簡単な悪だくみは思いのほかうまくいったと思いながら私は委員会の扉を開いた。
※例のウォルターの最後のメッセージは後ほど出てくる予定です。
あんな大事なのは絶対いいところで使いたいですからね!
アビドス編で出せるかは不明です。