よろしくお願いします。
アビドスの委員会室、武装解除された便利屋とアビドスメンバー、シャーレの先生とレイヴン、そして元ヘルメット団の彼女が部屋にいた。
便利屋のカヨコは座席とお茶まで出された状態に戸惑いながらも委員会メンバーへと目を向ける。
「それで、脅しまで使ったんだし、何させたいの?」
「いや~ごめんね。おじさんたち実は何も考えてなくて……」
そう答えるたホシノが頭を掻きつつどうしようかと委員会メンバーに目を向ける。
委員会メンバーはことさえ終わってしまえばいがみ合いなしとでもいうようにどうしようかと互いに目を見合わせた。
「襲撃や作戦についても先ほど知ったので……」
「え、そうなの?」
「ん、私たちはそこの子の作戦に乗せてもらった」
アヤネが戸惑いながらも言った言葉にアルが反応し、シロコが応答する。
そして指さされた先には元ヘルメット団員の少女がいる。
傭兵が解散して帰る中、彼女だけが委員会室に来たことで、今回の傭兵の寝返りの仕掛人であることは便利屋のだれから見ても明らかだった。
「アル様を裏切るなんて!」
脅しをかけた本人であったレイヴンを睨み続けていたハルカがぎろりと元ヘルメット団員の少女へ目を向ける。
その顔からメットを外していた彼女はその睨みに多少ビビりながらも平静を装って返答する。
「悪いな、私もそれくらいしかなくってさ。傭兵やあんたらみたいなのを金で雇うってのはそう言うこともあるもんだろう?」
そうビビりつつも返す彼女をアルは肯定する。
「そうね。その通りよ。今回は私のミスだわ」
「アル様!!」
振り向くハルカの頭にアルはそっと手を乗せる。
「いいのよハルカ。怒ってくれてありがとう」
「それで、結局私たちは寝返ったわけだけどさ、お金貰ってこのまま帰らせてくれたり?」
そう問いかけたムツキに、ヘルメット団員の少女がいやと手をあげる。
「委員会の皆にさ、もしうまく行ったら便利屋にって言うのを考えてたんだけどいいかな?
あくまでアビドスに寝返ってもらったし、皆がやってほしいのがあるならそっち優先でいいから」
そう対策委員会の顔を伺いながら話す彼女に対策委員会のノノミがいいんですよと応答する。
「メットさんが今回のを考えてくれたんですし、何かあるなら全部教えてください☆」
そう言われて元ヘルメット団員の彼女はアヤネに目をむける。
「アヤネ、確か前の…セリカの一件でカイザーがって話あったろ?」
「あ、はい」
「あの後、あいつらの狙いに進展あったか?」
元ヘルメット団員の言葉にアヤネは首を振る。
それを聞いて頷いた彼女はアビドス自治区の地図を出して広げた。
その地図にはなにやら赤色で砂漠の数か所にマーカーが付けられていた。
「アビドスをカイザーが狙ってるってことから、アビドスの土地が目的なのは明らかだ。
だから、便利屋を調べるついでにヘルメット団のブラックマーケット経由の販売を洗ってアビドスに行ったものを調べたんだよ。
この赤丸はその物資が届けられた先のマークがついてる」
そこまで聞いて察しを付けたセリカが答えた。
「そこを調べれば、奴らの狙いがわかるかもってことね!」
そういうこと、と元ヘルメット団員は頷く。
「アビドスのメンバーが調べに行くと、借金関連でいちゃもんつけられかねないからな。
となると、候補は私か、レイヴンか先生になる。でも、私は戦闘あんまだし、レイヴンは強いけど砂漠に一人は難しい、先生は当然無理だ」
「その点、私たちなら複数人で動けるし強さも……と」
アルが納得したように言った言葉に元ヘルメット団員は頷いた。
「どうかな?」
改めてアビドスメンバー問いかけるヘルメット団員にアビドスの皆は納得したように頷く。
一人、ホシノだけは今まで眺めているだけだったレイヴンへも目を向けた。
「レイヴンちゃんはどう思う?」
その問いかけに、一泊おいてからレイヴンが応答する。
「……私?」
「そう、今回の作戦、レイヴンちゃんが時間稼ぎとかしたって聞いたよ。
おじさん、レイヴンちゃんがそんなことできるって知らなかったからびっくりしたんだ~。
レイヴンちゃんは便利屋さんたちはどう動いてほしいかな? アビドスがどう動くかとかでもいいよ?」
そう言われたレイヴンは少し俯く。今回彼女は悪だくみをしたが、あまり困らせたいわけではなかった。
自分が考えていることを言うと、また困らせるのではと思って一瞬先生の方を見る。
その視線に気づいたのか、先生はレイヴンの方を見て少し微笑む。
「どうしたの、レイヴン? 大丈夫だよ、言うだけで、動いてないでしょう?」
その承認を聞いて、レイヴンは元ヘルメット団員を見て話しだす。
「なら、借金を回収しに来た奴を皆でふん縛って集金した金をどこにもっていくか聞く。
上手くいけば不正の証拠と集めてたお金の両方が手に入る」
「うん、実行しちゃだめだよ」
即座に返した先生と難しいですねと呟いたレイヴンを見つつ、ムツキはアヤネに小さく声をかけていた。
「レイヴンちゃんってさ……結構解決すればオッケーで考えるタイプ?」
「あはは……可能性はあるかもしれません」
そこまで聞いていたカヨコが今度は口を開いた。
「でも、証拠を集めること自体はいいんじゃない?
集金に来たやつがどこに行くのかは見てて損ないと思うよ」
そう言われたあたりで、じゃあ二手に分かれて探そっかとホシノが言った。
「おじさんたちと便利屋ちゃんで分ければいいし、便利屋ちゃんどっちがいいかな?」
聞かれたアルは少し社員たちの顔を見てから言った。
「荷物の行き先の方を調べるわ。集金人の方もいいけれど、あなた達の借金に直接かかわってるみたいだし、
そこに私たちが突っ込んで証拠を集めたりは……私の趣味じゃないわ」
「……カヨコちゃん、さっきの台詞」
「うん。レイヴンに言われて使ってみたかったんだと思う『趣味じゃない』って」
「ちょっと、聞こえてるわよ!!」
「さすが、恰好いいですアル様!!」
じゃあそれで~と決まったメンバー分けに、レイヴンが手をあげる。
「あの、私ってどっちに……」
それを聞いて合わせるように元ヘルメット団員と先生も手をあげた。
「私もだな、さっき言ってた通り私あんま戦力ならないから足しになるかわからないけど」
「私もだね、私は守ってもらうことになるけど……」
気まずそうな元ヘルメット団員とあははと苦笑いする先生を見て、アビドスのメンバーと便利屋が顔を見合わせる。
「はーい、戦闘を考えると先生を砂漠に出せないので借金取りさんになると思います☆」
「じゃあ、私はアビドス組だね」
ノノミにそう答えて先生が頷く。
それを見てムツキが今度は手をあげる。
「メットちゃんって元ヘルメット団ってことだけど砂漠詳しい感じ?」
それに頷いた元ヘルメット団員は答えた。
「ああ、まあそこそこかな。元居たカタカタヘルメット団は砂漠も含めて結構広い範囲でやってたし」
じゃあこっちだねーっといったムツキに元ヘルメット団員が頷く。
そして、そこされたレイヴンはどうしようかとアビドス組と便利屋を見ていた。
そうして迷うレイヴンにホシノが手をあげる。
「レイヴンちゃん、便利屋ちゃんたちについていってあげてよ」
その言葉を一番信じられないと思ってみたのはアビドスメンバーの方だった。
そして、それを確認する様にヘルメット団員が口を開く。
「正気かホシノ?」
その言葉の裏には今回の一件で実際にアルに銃を向けたレイヴンをつけて大丈夫なのかという意味があった。
それを知ったうえで、ホシノは頷く。
「うん、もちろん。今回のことでいろいろあるかもしれないけど、おじさんとしてはレイヴンちゃんとしっかり話してほしいな」
すごく、いい子だからさとホシノは便利屋へウインクする。
それに即座に反応したのはハルカだった。
「嫌です! アル様に銃を向けた相手と一緒なんて! 銃を取り上げて! 無理矢理言うことを聞かせて!」
その意見に大きく賛成はしないが便利屋メンバー内でもあまり意見は異なっていなかった。
作戦は元ヘルメット団のものとはいえ、脅しで放たれたアルへの銃撃や、ラーメン屋でのやり取りが演技だったことなど、実行員であるレイヴン自身への良い印象はない。
───当のアルを除いて。
「ハルカ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
ハルカがアルの方を振り向く、確かめるようにムツキも声を出した。
「いいの? アルちゃん」
「ええ、構わないわ」
アルはあの時自分を見て安堵の笑みを浮かべていたレイヴンを思い出していた。
そして、それを見ていたアルの善性はそれを見過ごせない。
(あんな顔をした子を悪くなんて見れないわよ……)
そう思いながらアルは社員に向けて伝えた。
「私たちはハードボイルドなアウトローよ。手を組む相手は選ばないわ。
それに、せっかく話せる機会だもの、ラーメン屋と今回の件だけで人を測ってしまうのはもったいないと思わない?」
「……そうだね、私は構わないよ」
そのアルの言葉にカヨコは頷いた。
ムツキは二人がそう言うならとオッケーと納得し、「ア、アル様がそうおっしゃるなら……」とそうハルカも頷いた。
「じゃあ決まりね」
そう言ってアルはレイヴンへと近づいていく。
レイヴンはまっすぐアルを見つめる顔は変わらず無表情で、あの時見た微笑みは欠片も見えない。
その彼女に、アルは手を差し出す。
「改めてよろしく、レイヴン。便利屋68社長の陸八魔アルよ」
レイヴンはその手を少し眺めてから握る。
嘗て仲良くなって握れなかった人たちの手を思い浮かべながら。
「よろしくお願いします、アル社長。シャーレ所属、レイヴンです」
「レイヴン?」
「何でしょう、アル社長?」
握手から数秒、アルの手はいまだにレイヴンの手に包まれていた。
レイヴンの手はにぎにぎと感触を確かめるようにアルの手を繰り返し握っている。
「その……握られ続けるとは思わなくて」
「ああ、すいません。握り心地が良くて」
そう言いながらも彼女はアルの手を放さない。
周囲がひそひそ何か話しながら向けられた視線がそろそろ痛くなってきたなとアルが思い出したころ、レイヴンが思いついたように声を出した。
「あ」
「ど、どうしたの?」
「私の恩人が言っていた言葉を思い出したんです。アウトロー? ハードボイルド? を目指すなら知っておいていいかもと思いまして」
「レイヴンの恩人さん? その人はハードボイルドでアウトローな人だったの?」
握った手を堪能しながらレイヴンは答える。
「はい、私の大事な人でした、今回の件、私の作戦びっくりしましたか?」
「ええ、驚いたけれど……」
そう言ったアルに「ならきっと役に立ちますね」と言い、ムムムと物まねをしながらアルに伝える。
「アル社長『ひとつ助言を送ろう……不測の事態を予測しろ』」
嘗てその言葉を送ってくれた人の表情を思い浮かべながら言う。
そして、それを見たアルは今度こそ我慢できずに声を出してしまっていた。
「カ、カッコいいー!!!」