お気に入りもいつの間にか200になっていますし、
評価のバーも赤色になっているし、嬉しいです!
誤字報告もありがとうございます。
アンケートでどうしようか悩んでいたものを置いてありますので良ければお答えいただければ嬉しいです。
集金人が来ると言われた日付、私がアル社長たちと共に出かける日付の朝だった。
集金人が来ると言われた時間よりも早い時間に私の携帯が鳴る。
それは、ホシノからの連絡だった。
曰く
『今、車椅子の方に移動できるかな?』
私ではなく車椅子問いかけということは、アビドス関連かと思いながら短く返事を返してベッドに戻る。
軽く目をつぶり、紅の光をまた瞼の裏に感じてから目を開く。
見慣れた……けれど、今はもうあまり見ることのないぼやけた私の視界がそこにあった。
そして、私の耳には対策委員会の皆の声が車椅子を通して聞こえてくる。
「あ、起きられましたね」
「ん、セリカの見間違いかと思った」
「ちゃんと声もかけて確認したんですよ。ね、えっと……621さん?」
「621さん……番号がお名前なんて珍しいですよね☆」
「珍しいなんでものじゃないと思いますけど……」
ワイワイと話す皆が私のぼやけた視界に映る。
なるほどと私は思った、セリカが誘拐された日の朝、車椅子にいた私は一度セリカと会っている。
これはその確認に来たのだろう。
ホシノの声がみんなの後ろから聞こえた。
「まあまあ、皆気になるのはわかるけどさ~自己紹介しなきゃ」
その言葉に皆は私の前に並んで順番に自己紹介をしてくれた。
私は口がきけないので皆の言葉にふんふんと頷きを返す。
ただ、そうしていると思ってしまう。
私の私と手放しで言える体はやはり不便な肉の塊でしかないなと少し虚しく感じた。
「さて、621さん自己紹介も含めて目覚めてすぐで申し訳ないのですが……」
そう言ってアヤネが私の隣に座る。
「いくつか質問させてください」
そうして始まった私への質問、何のことはない私の記憶があるかなどの質問だった。
あらかじめ目覚めたらという話を皆でしていてくれたのだろう。
ただ、頷くか首を横に振るかしかできないことが少し申し訳なかった。
かつてならこんなこと感じなかったはずなのに、もう一つの肉体で不便のない生活をしているからだろうか。
「軽く質問しただけなので何とも言えないですが……五感がほぼ効かないんですね……耳は聞こえてるようですが」
そう言ってくれたアヤネの誤解に私は首を横に振る。
私の耳はほぼ聞こえない、車椅子のマイクから聞いているだけだ。
「え、ですがこうして受け答えを……いえ、わかりました」
そう聞いてアヤネは紙に私の答えを書いてくれる。
もう一つの肉体を得たからだろうか、こうして車椅子の姿で誰かと話すことで不便さを改めて目の前に見せつけられているように感じる。
「621さん、あなたの体は、こちらのホシノ先輩が診てくれています。
貴方の乗られている車椅子やそれにかかわる技術について、私たちもできる限り調べています。
ゆっくり過ごしてくださいね」
アヤネはそう言って、車椅子の私ににこやかに笑いかけてくれる。
並ぶアビドスの皆を見て、私は小さく頷く。
「さ、621さん改めまして」
「「「「「アビドスへようこそ」」」」」
彼女達の挨拶に笑顔を向ける。情緒の薄いと言われた私の顔はうまく笑えただろうか。
もう一つの肉体でも感じていたこと、彼女たちが普通の少女と言えるものなのだとしたら、
この少女たちのような私を目指すべきなのでしょうかウォルター。
「それじゃあ、おじさんたちはブラックマーケットに」
「私たちはアビドス砂漠ね」
そう言ってお互いに手を振って別れる。
拠点であるアビドスはアヤネ一人にして、委員会はブラックマーケットへ行き、
私たちはヘルメットさん(ヘルメットはもう被ってないけれど)を案内役にして砂漠に向かうことになった。
通信はヘルメットさんが中継器を置いて接続してくれるらしいから、アビドスとも通信ができる状態だそうだ。
そして、出発してから数十分。
「本当に、人がいないわね」
荒廃してうずもれてしまった市街地を歩きながら私は呟いた。
砂漠に入るまでの比較的市街地と言えるところでも人が少ないこのアビドス地区は砂漠に近づくほど砂で覆われていて、
事前情報でみんなで調べた通り、辺鄙な土地としか言えない状態となっていた。
「本当だよねー、定期的に砂嵐もあるらしいし、メガネっ子ちゃんたちも大変だね」
少し前を歩くムツキがそう同意しながら砂の上をるんるんと楽しそうに進む。
ムツキの楽しそうな表情は良いが変わらない砂景色は意外と気が萎えてしまう。
私は左右の隣を歩くカヨコとレイヴンを見て、後ろのヘルメットさんとハルカにも少し目を向ける。
(ヘルメットさんは当然としてカヨコは普通にしてくれてるけど……)
ハルカはレイヴンの背中をじっと見つめている。
アビドスのホシノさんはレイヴンをいい子と言ってたし私も何とかしたいけれど、
ちょっと間違えたらハルカが暴走しちゃったりするんじゃないかと考えて、私の心臓はドラムロールになったんじゃないかと思ってしまう。
でも、と私は自分に活を入れる。
(大丈夫、大丈夫よ陸八魔アル! ハードボイルドなアウトローはどんなこともクールによ!)
まずは、あの時レイヴンから聞いた恩人さんの話を聞いてみよう。
聞いた感じすごく格好いい人だし、話の種としては有効なはず!!
「れ、レイヴン?」
「どうしたの? アル社長」
無表情なレイヴンが私の方を向く、恩人さんの話や私に向けた安心したような顔意外で彼女の表情と言える表情を見た記憶がない。
でも、恩人さんの話なら笑顔を見せてくれるはず!
「あなたの恩人さんについて聞いてみたいんだけれど、いいかしら?」
私の問いかけにレイヴンは少し目をぱちくりさせてから微笑んで頷いてくれた。
(やったわ!!)
上手くいったことに内心ガッツポーズをしながら彼女の言葉に耳を傾ける。
そうですね……と彼女はエピソードを選ぶようにしてから話し始めた。
「彼は……彼に買われたんです」
「へ?」
そうして一言目に聞いた単語で私は間抜けな声を出した。
そんな私を知ってか知らずが彼女は話を続ける。
「その……私は俗にいう身売りをさせられたような状態で、ここで買い手がつかなければというところを彼が買ってくれたんです」
そうして聞いた話はとても微笑みながらなんで話せるのかと思える内容だった。
「私は後がなかったし、彼にもどうしても成し遂げないといけない目的がありました。
私はそれの達成のために戦場へ出ました。彼は目的を成し遂げるために私を使うしかなかったんです」
私は思わず目の前を歩ていたムツキと隣のカヨコへ目を向ける。
二人とも私の顔を見て少し困惑した顔を見せていた。
「私の居たところは結構危険なところで、私の前にも何人か人がいたようなのですが全員私が彼からお仕事をいただくころには……という感じで」
(これ、どんな顔で聞くべきなの!?)
そもそもこんな軽々して聞いてよかったのだろうか。
ハルカなんか睨みつけるのも忘れて口が開いているし、ヘルメットさんも目を見開いたまま固まっている。
もっと、もっと映画みたいな話が出ると思っていたのに、こう……悪の組織から颯爽とレイヴンを救ってくれたとかだと思ったのに!
レイヴンが配慮してくれてぼかされているが(おそらくぼかせていると思ってるんだと思うけれど)これは……
(どう考えたって人が死んで普通みたいなところの話じゃない!)
「彼の目的というのが、危険な過去の遺物を破壊したいというもので、彼のお父さんがそれに関わったりしていたのではと私は考えています。
彼はたぶん、その身内が残してしまった危険なものを何とかしたいと思っていたようです。
親の残してしまったもの、それを何とかするために私を買って、私はそのために仕事をする」
彼女の饒舌さは止まらない、そんなに彼の話ができるのが嬉しいのだろうか。
遠くを眺めて懐かしそうな目をしながら彼女は微笑をそのままに話を続ける。
「私のように買った人を使いつぶす人間なんだとそう思われていたようです。
けれど、私から見た彼は違いました。仕事の後は私をねぎらい、褒めてもくれるし、体調の心配もしてよく休むようにも言ってくれる。
彼は私に『お前の意思に従え』と遺してくれました。私の自由意思を持って決めてよいと。
そんな優しさを捨てきれない人だったんです」
「アル社長のように」とレイヴンはそう私の目を見て言った。
突然私と話の中の彼がリンクされて、言葉に詰まる。
「そ、それはどういう意味でかしら? 少なくとも私は人を買ったことがなくて……」
恐る恐るそう言うと、レイヴンがうーんと悩みながら教えてくれる。
「そうですね、アル社長はもしそこに倒れている人がいたらどうしますか?」
レイヴンの口がその問いかけに続いて条件が継ぎ足されていく。
「助けたとして、絶対に介護が必要そうなことが見た目でわかって、もし助けたら一生アル社長が面倒見ないといけないかもしれないです。
場合によってはその倒れている誰かのせいで、便利屋の今後が危なくなるかもしれません」
重くなっていく条件と、
「見捨てても構いません、罪にも問われません、むしろ見捨てたほうが介護をしなくてよいから便利屋はうまくいくかもしれません」
見捨てる理由が付けたされていく。
「保証しましょうアル社長。私が今示した人物は助けたところで百害あって一利なしです。
それでも、あなたはその人物に手を差し伸べますか?」
レイヴンが足を止めて私を見た。全員の足が止まる。
私は彼女の目を見る。まっすぐ私を見つめる目は私が何を言うかをすでに知っているようにも見えた。
私は迷いなく答える。私の目指すものをしっかりと意識をして。
「ええ、助けるわ。そこで見捨てるような外道になるつもりはないもの」
満足そうにレイヴンは頷く。
「彼もそう言う人だったんですよ」
砂漠を進む、アル社長も周りの皆も私の話を真剣に聞いてくれている。
彼の、私の恩人について知ってもらえるのがうれしくて行けないと思いつつもどうしても口が軽くなってしまうのを感じていた。
それに彼女にウォルターと似た部分を感じたからだろうか、私の話も滑るように出てしまう。
「彼は……もう居ませんが、私は彼の遺志を引き継いだつもりなんです」
「遺志?」
「はい、先ほど言った彼の消したかった過去の遺物は私が焼きました。
もう……残っていないと思っています」
そうあってほしいと願う。
そして、彼の私へ願ったであろうことも口に出す。
「そして、残った私に、彼は再出発を用意してくれました。
今まで普通に生きられなかった分の新しい人生を用意してくれました」
なので、と続ける。
「私は人生を勉強中なんです。アビドスの皆や、便利屋の方々のようないろんな人を見て、
ウォルターの願った普通の人生がどういうものなのかを知っていこうと思ってるんです」
色々お世話になるかもしれませんね。なんて笑いかけてみるがそこで気づく、皆どういう反応をすればという顔をしていた。
饒舌になりすぎて見えていなかったらしい。周りの皆を見渡してあわあわしていると、アル社長が私の肩をつかむ。
「レイヴン」
「は、はい」
「……えいっ!!!!」
そう言って彼女は私を抱きしめてぐりぐりと頭を撫でた。
アル社長の胸元に顔がうずもれて、柔い感触に包まれながら私は固まる。
「ア、アルちゃん?」
「社長、急にどうしたの?」
「どうしたもないわ! なんとなくこれは抱きしめとかないとと思ったのよ!」
そう言ってぐりぐりされる頭はすごく心地が良くて、アル社長に私はされるがままにする。
けれど……そろそろ息がきつい気がする。
「なあ、そろそろ……」
「ア、アル様、レイヴンさんがなんだかぴくぴくされてるような」
そう二人が言ってくれたあたりでアル社長のごめんなさいが聞こえて私の頭が解放される。
少し詰まっていた息を深く吸い込んで、私はいいんですよとアル社長に言う。
「ありがとうございます。その……暖かかったです」
そう私が言ったことにアル社長は満足そうに頷く。
「それは良かったわ! さ、先を急ぎましょう!」
そして歩みを進める途中でアル社長が私に告げた。
「レイヴン」
「何でしょう」
「私の個人的な感想だけれど、普通にとらわれ過ぎないようにしてね」
アル社長は歩む先を見つめたまま私に言う。
「あなたの意思にと遺したのなら、新しい人生は貴方の望むように生きてほしいと思うわ」
「少なくとも私はね」そう言って彼女は砂漠の先を指さす。
「見えたわよ、あれが目的地ね」
そうして指さす先には見慣れない何かの施設のように見える。
歩みを再開しながら私はアル社長の言葉を反芻する。
私の意思に……カーラが言ってくれたことを思い出す。
『選ぶことは良いことだ』
ウォルターの意思はアル社長の言うように私の望む生き方なのだろうか。
彼の言ってくれた言葉はあの時の会話が最後……その先を私は知らない。
もし、あそこでもう一度彼と話せてコーラルを処理できていたなら、彼は私に何と言ってくれたのだろうか。
今回は便利屋とウォルターの話になりました。
今回はアルちゃんがメインで話してましたが、他のメンバーとレイヴンのこともまた書きたい……のでどこかで書けたら書きたいです。
キズナエピみたいな感じで。
※うちのレイヴンはよく自分の情報ポロる子の予定です。
上手く隠せすぎちゃうと話が進まなくなっちゃうきがしてるので…