「これ……どうしようかな~」
学校の校庭には何かロボットの残骸があった。
丸焦げの機体は動くことはなさそうに見える。
どかすにしても装備もなければ重機はないし。
朝の登校時に残骸を見つけてから一人唸っていたのだった。
その時、
「ん?」
私の耳にかすかに何かの振動するような音が聞こえる。
私はあたりを見渡すが、音の出どころはわからない。
武器を手に取る。
警戒しつつ周りを見渡す私の耳に確かにその声は聞こえた。
『目覚めたのですね。レイヴン』
声が聞こえたのと同時に、残骸がギシリと音を立てた。
「っ!!」
動き出した残骸にショットガンを構えつつ距離を取る。
残骸は顔部分に赤い光をともしながら体勢を立て直すと機械的な男性の声がした。
『システム再起動完了、コクピットブロックを排出し、救難信号の発信を開始します』
ガション!ポンッ!
子気味の良い射出音を出しながら残骸から箱のようなものが飛んで、校庭に落ちた。
警戒する私には目もくれず、残骸は役割は果たしたとでもいうように目からの光も消え、動かなくなっていた。
射出されたもの……見にいこうか。
そう思って残骸にショットガンは向けたまま、射出されたものに近づく。
一応、残骸のアナウンスが正しければあれはコクピットであり、誰かが乗っているはずだ。
盾に仕込んでいたサブのハンドガンも取り出して飛び出したものに近づく。
近づくと、また機械音声が響く。
『救助可能な人員を確認、ハッチオープン』
空気の抜けるような音と共に開けられた扉へ銃を向けながら中を覗く。
コクピットの名前に相応しいレバーやモニターがあるかと思えばそんなものはなく、
あるのはずいぶんとがたいの大きい装置のついた車椅子が一台、金具に固定されているだけ。
そこに座っている誰かの影が見える。
「手を挙げて、出てきてくれるかな?」
そう問いかけても、人影は何も答えない。
私はもう一度声をかける。
「こっちは武装してる。おとなしく出てきて」
変わらず、乗り込んだ誰かは答えなかった。
残骸の状態と音声を鵜吞みにすれば、すでに意識がない怪我人、もしくは……
黒こげってこともあり得るかな……そうだとすれば見たくないや。
そうは思いつつも確認しないわけにはいかない。
コクピットは狭い、私はショットガンをしまって、ハンドガンを握りなおす。
警戒しながら覗き込んだコクピットにいたのは、包帯でぐるぐる巻きの人間……と思われるもの。
正直、人型だから人と思ったくらいだ。けれど、胸部が上下していることで呼吸はしていることがわかる。
意識は……予想通りないみたいだけれど。
超重症だ。このまま放置は人として避けたい。
固定された車椅子を調べる、どこかに固定を外す器具があるはずだ。
「あった」
椅子の下の床カバーを外せば引いてくださいとご丁寧に英語表記されたレバーがあった。
ぐっとレバーを引けばガションと音を立てて車椅子のロックが外れる。
これでよし。
そう考えて車椅子に手をかけた時だった。
『ハンドラー・ウォルターよりメッセージを確認、再生します』
急になった音声に思わずハンドガンを構えなおしていた。
メッセージ? 乗ってる子に関することだとは思うけれど……
警戒する私に機械音声の言っていた音声が再生され始める。
『依頼内容は話していた通りだ。再手術とその後の物資調達』
再手術……この包帯巻きのことだろうか。
物資調達まで含めるということは、その後の生活にということだろう。
『お前に頼むことになったのは業腹だが、お前のことは信用している』
どうやら私とは別の誰かが本来はこの人を受け取る手はずだったらしい。
元々受け取る人とこのハンドラーは仲良くはないが、何かしら頼みはできる関係らしい。
『代金のカギはそこの621が知っている……以上だ』
そう言って音声は切れた。
621ってこの包帯ちゃんだよね……代金のカギってことは治さないなら渡さないってことだよね。
信用しているとは言ったが信頼しているとは言わないわけだし、相応の対応ということだろう。
私は改めて車椅子に手をかける。
「よっと……」
「な、なによこれーーーー!!」
コクピットから車椅子を取り出したところで後輩の大きな叫びが聞こえた。
「あ、セリカちゃーん! おはよ~」
「おはようございます、ホシノ先輩……って車椅子!? 誰ですかそれ!?」
「うーん……ひろいもの?」
「包帯ぐるぐる巻きの拾い物なんて見たことないですよ!」
「うへ~どうしようね~」
元気のいい後輩に笑いつつ再生された音声に黙って返答する。
ハンドラー・ウォルターさんだっけ、私は依頼された本人じゃないけれど、
今のところはできるとこまではあなたの依頼を聞いてあげるよ。
*****
「レイヴン」
「はい、先生」
検査を終えた私を先生が呼んだ。
ユウカへ指示を出していたり、さっきは私の検査結果かを聞いていたりと、
先生の呼び名の通り彼は良い立場の人間らしい。
「君のこれからについて少し話をさせてほしいな」
「わかりました」
彼の言葉に私は頷く。良いタイミングだった。
これからどう生きようかと考えていたところだったし。
「君は一旦私のところで預かるよ」
「先生のところは、ここではないのですね」
ユウカや私を見てくれたコトリやウタハ、ヒビキの三人も先生に親しく話しているように見えていたし、
今私の居るここがそのまま先生の所属している組織か何かなのだと考えていた。
先生はそうだよと首を縦に振る。
「ここはミレニアムサイエンススクールっていう学校だよ」
「学校……」
知識としては知っているが、強化人間手術以前の記憶がない私の中では縁がない場所。
つまり、ユウカやウタハたちは学生で、この人はそのまま教職としての先生なのだろう。
だが、先生はこのミレニアムサイエンスという学校の人ではないらしい。
「私はシャーレという組織の人間なんだ」
「シャーレ、ですか」
先生曰く、今いる場所はキヴォトスという大きな都市であり、
そこにある連邦政府から超法規的組織として独立しているのがシャーレであり、
ミレニアムはそこにある大きな学園の一つと聞いた。
ルビコンで言う企業が学校になったようなものだろうか。
政府組織は……惑星封鎖機構だろうし。
「ここのミレニアムにっていうのも考えたけれど……」
「私の素性が完全にわからない以上、引き取るのは難しいということですね」
濁された先生の言葉を引き継ぐ。先生は頷いた。
私の素性についてはユウカにも聞かれた。
面倒見の良いらしい彼女は検査を受けている私に予備の服やらなにやらと用意をしてくれた上で、
『倒れてたし、体調的に話にくいとは思うんだけれど……聞いておかないとあなたもまずいことになるから』
そう言ってくれていた。
ルビコンでの話は……なんとなくぼかすことにしていた。
彼女の言う通り話しておかないとまずいことになるとは思ってはいる。
だが、素性を知らない状態で話せる内容ではないことからある程度ぼかしたのだ。
雇われとして戦っていたがそこで爆発事故に巻き込まれたところ、目が覚めたらあそこにいた……と。
最初の更衣室で個体番号といってしまったこと、レイヴンといういつかの相手から借りた名義を名乗ったことでか、
彼女はあまり追及をしてこなかった。
が、それで完全に無罪で受け入れということは不可能だろう。
「もし、話せるようになったら教えてほしいな」
「……わかりました」
先生もユウカも私のごまかしはわかっているだろう。だが正直に話すには証明もできない。
いまは、引き取ってくれる以上話せることはなかった。
「手続きは済ませてくるから、またあとでね」
そう言って、先生は部屋を出ていった。
一人になって天井を見上げる。
だれもいなくなった瞬間に、私は自分に影が差したような気分になっていた。
生きている……生き残ってしまっている。
諦めて、手放したはずのそれが自分の手に中にある。
それをどう使うのか、今の私はその答えをもう持っていなかった。
やっぱり賽投げEDって可能性の塊ってことで便利だというのが個人的見解です。
次回は武器やらなにやらの話になる予定です。