猟犬烏の青春   作:面無し

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2-18 壁

 

 

 

 

ジャガーノート──以前いた世界での重装機動砲台は、極端に厚い前面装甲と、

車体右上部に三連のグレネード、左右に二連の副砲と六連ミサイル、ブースターで素早く走り、走った後ろに地雷まで撒ける。

車高だけで45mほど、ほぼ同じ長さの横幅を持つそれは「壁」と呼ばれた難攻不落の要塞を守る黒鉄の壁と言って差し支えない戦車だった。

私が戦友と攻略したのだが。

 

「ああいう手合いは得意でね、任せてもらえるかな?」

 

着地したトラックの荷台でいつもと違う少し格好をつけた話し方をする。

嘗て目前の戦車を共に相手した戦友が今の私のように私の増援に来てくれた時を真似てみる。

私の口が動いていたなら、黄色い声の一つでも君に送っただろうに、戦友(ラスティ)

 

私はトラックの荷台からジャガーノートの頭上に乗るように跳ぶ。アビドスの皆への説明らは後だ。

まずは、あの戦車を何とかしなければならない。

 

「まって、レイヴンちゃ……」

 

私を呼び掛けたホシノの声は跳躍と同時に撃たれた砲撃音で聞こえなくなった。

後で彼女の話はゆっくり聞けばいい。いつか聞いた先輩らしく後輩を返す帰すための囮でもしようとしたのだろう。

 

私は戦車へ目を向ける。

記憶のものからすれば高さも幅も半分程度とずいぶんと小さい。拍子抜けをするほどに。

主要道の4車線はこいつ一台で満杯、進むか下がるか旋回するしかなく、嘗てのように縦横無尽に走り回れる状態ではない。

弱点は後方だが、それを相手も知ってか守るための後方随伴車両が三台。

 

アビドスはこの後方を気にして飛び越えられなかったのだろう。

けれど、私なら全て躱せる。

数ももっとあると思っていた。

故に、生温い。

 

『621、仕事の時間だ』

『行きましょう、レイヴン』

 

「了解、さあ壁越えと行こう」

 

飼い主とエアの声がする。かつての壁ではないが、黒鉄の戦車を大きな壁に見立てて私は返答する。

変わらずトラックを狙い続けるジャガーノートの頭上を踏み台に向こう側にいる随伴車両の一台へ向けて真っ直ぐ跳ぶ。

 

「来たぞ! 構え──

 

迎撃のために随伴の車両に乗っていた人員が私に銃を向けるよう話した時には私はすでにその車両のフロントに乗ってハンドガンを構えていた。

随伴の機械人間達が私を見る前に全員の頭を打ち抜き、車両後方へ銃弾を躱すために走り抜け、残りの随伴二台の内一つへショットガンを放ちながら跳ぶ。

 

「なっ速──

 

スラッグ弾が二台目の全員の頭を打ち抜くのを確認して、便利屋からいくらか貰った爆弾を取り出し、

二台目を踏み台にして私は三度目の跳躍をする。そのまま空中で三台目の車両に爆弾を放りながらジャガーノートの頭上にも爆弾をいくらか置いてトラックの方向に跳躍し爆破する。

 

派手に爆発した最後の随伴車両がスリップしながら、行動不能になるのを確認して、ジャガーノートへも目を向ければ、いつかの時よろしく、バチバチと音を立てて急停車を余儀なくされていた。

私の世界の技術の劣化コピーだ、いくらか衝撃を与えれば行動不能というのもいつものことらしい。

ジャガーノートの前方に着地しつつ、耳のインカム越しにアビドスの皆へマイクをつける。

 

「ジャガーノートは少し行動不能になる。このまま逃げて」

 

『レイヴンは!?』

 

真っ先に慌てたような先生の声が聞こえる。

ずいぶん心配させたらしい。

 

私よりも先で停車した車からホシノたちが見える。

なぜか皆覆面をしているのに今更気づいた。

 

「私は居残ります。こいつは仕留めた上で原型がなくなるくらいには爆破しておかないといけなくて」

 

そろそろジャガーノートが再始動する。私は黒鉄の壁に向き直りつつみんなに告げる。

 

「大丈夫だよ、こいつは一回無傷で仕留め切っているからね」

 

皆からの返事が聞こえる前にそう言い切ってインカムを切る。

再起動したジャガーノートがこちらへ突進するのを跳躍して躱し、ついでのように巻かれた足元の地雷を処理する。

振り向いて撃たれた副砲の砲撃を躱しながら駆け抜けつつ再度の跳躍をしながら、今回が道路であることを考えて私は思う。

 

(むしろ難易度が下がったくらいだ)

 

単調な突進を躱して、振り向きざまに放たれた六連ミサイルを間を縫うように躱し、

グレネードの砲撃をスライディングでくぐるように避け、その車体前面部分を足場にジャガーノートの頭上へ飛び乗る。

人の体だからこそできるようになった動きは、細かい回避に非常に役に立つ。

 

再度爆弾をいくらか撒けば、私を振り落とすようにジャガーノートは旋回する。

直上に跳躍して振り落とされないようにしながら、私は爆弾の起爆ボタンを押す。

 

(もっと随伴は多く、どんどん後続も来ると思ったが……)

 

真上に飛んだ私に向かう爆風を意図してコートを広げて受けて体を宙へ大きく飛ばす。

この頑丈な肉体もありがたい、車椅子の体なら死ぬような攻撃も、うまく跳躍すれば自分を空へ運ぶ風になる。

 

高く跳んだ私の真下に行動不能になったジャガーノートを収め、視界の向こうで小さくなったトラックを見つける。

うまく逃げてくれたようで何よりだと思いながら私は左手に巻き付けた装備を振り上げ、強く意識する。

 

砂漠から飛ぶ際にハルカさんから渡されたそれは、飼い主から最初に貰った近接用の一振りだった。

砂漠で一応確認したときは使えなかったが、今ならと予感する。

 

「起動」

 

『メ……テム……起動』

 

随分とノイズがかったcom音声と共に左手につけた兵器の先端が少し開く。

そして淡い緑の光が幾本も放たれ、それは波打った刃の形をとった。

パルスブレード、嘗ての世界で私の機体と常にあった近接兵器。

 

光の刃を直下のジャガーノートの背面をめがけて、落ちる勢いに任せて真っ二つにするように振り下ろす。

私の導きの刃は劣化コピーのジャガーノートの装甲を軽く切断する。

そして振り下ろすに任せて体をひねって一回転し、車体の下部分も含めて切断しきり、私は車体から飛び降りる。

 

 

ジャガーノートへ向き直りながら地面に着地したのと同時に、大きく音を立ててジャガーノートが爆発を起こすのを確認する。

 

「破壊完了」

 

後は残骸も含めて爆弾で消し去ってしまえばいい。

一息ついて、後方からの追撃部隊が来ないことを確認する。

 

車両三台にジャガーノート……もっと来ると思っていた。

アビドスがマーケット内で戦いながら逃げていたとはいえ明らかに少ない。

 

『大丈夫か?』

 

ヘルメットの彼女から通信が入る。

私は少し悩みながらも答えた。

 

「ああ、追撃がないのが気になっただけ」

 

そう言いながらマイクをつける。

即座に、アビドスのみんなからの大声が聞こえてきた。

 

『レイヴンちゃん! 大丈夫!?』

『レイヴン怪我してない?』

『レイヴンさん、どうなったんですか!?』

『レイヴンなんか光ってたの大丈夫だった!?』

『レイヴンさん! 一人で行くなんて許してないですよ!』

 

にぎやかだなともう動きの停まったジャガーノートへ残った爆弾をありったけ設置しつつ私は笑う。

しっかり逃がせてよかった。

この追撃のなさはかつてなら別動隊が向こうに来てると言われても驚かない。

私はインカム越しの彼らの声にできる限り明るく答えた。

 

「大丈夫、今回も私は傷一つないよ」

 

戦友、私はまた君に称賛を送ってもらえる戦いが出来たと思っていいかな?

 

 

****

 

 

 

「終わったらしいぞ」

 

私は通信越しに聞いていたレイヴンの勝利宣言を聞いて便利屋に伝えた。

レイヴンを送ったデカい発射台に今いる施設を爆破する以外で残った爆薬をすべてと、

MTと呼ばれた兵器に乗せるためであっただろう燃料を詰めたコンテナも載せる作業をしていた便利屋メンバーがやったと手を取り合う。

それを見ながら、私はカーゴランチャーと一緒に見つけた資料へ目を戻した。

 

レイヴンの戦場の兵器であるMT達の外観や内部装置の構造を記した技術書らしい。

だが、書いてある大きさが違うし、私が見る限りで使われている技術も真似ようとしているができてない。

レイヴンが言っていた通り外見と装備を真似ただけのパチもん上等と言っていい。

そもそも向こうはこのMTとか言うのでも有人兵器だが、こっちはカタフラクトのような大きなものでもない限り無人用だった。

 

考える限りは技術の間が開き過ぎていて作るに作れなかったのだろう。

それでも、ジェネレーターの内部構造やら、装備自体の素材に関する資料は技術的価値としてはこれは値千金だろう。

うさん臭い企業であるカイザーがこんなものを手に入れたのはあまり良い予感がしない。

レイヴンの言っていたできるだけ爆破して何も残らないようにするのは正しいらしい。

 

「そろそろ爆弾とか発射するけど、資料の方はどんな感じ?」

 

資料に目を向けていた私の頭上からカヨコが声をかけてきた。

カタフラクトがあるとはいえまた囲まれるのは避けたい、それに確認にしたいことが多くできている。

私は資料をしまい込んでカヨコに目を向けた。

 

「私はいつでもいいぞ、資料は……あいつの世界やべーってことを再確認した」

 

「やっぱりそうなんだ」

 

半ば予想していたであろう事実だが口に出して共有すれば気が重くなる。

資料が軍事関係しかないのはいい、ここはカイザーの施設で武器を作っているから。

そうではなく、このMTやらなにやらの装備に関して、兵器がやられないことに関する資料はあっても()()を無事にする技術についての記述が全くと言っていいほどなかったのだ。

元の兵器は有人、レイヴンの口ぶりからヘイローなしの人間が乗るにも関わらず。

 

「人が乗るのに緊急のコクピットの射出機能がない兵器ってどう思う? 遭難時なんかの分離はできるらしいがな」

 

「つまり、やられた時は潔く……?」

 

「まあ、生きてられる怪我で済んだら宝くじ買いに行った方がいいだろうな」

 

私の言葉にカヨコはため息をつく。

 

「社長にどう言おうかな、すでにレイヴンの対応でどうしようってかなり気を使ってそうだし」

 

それには同意だった。

ハルカもそうだがレイヴンのことをどう扱おうかと悩んでいるのがわかってしまう。

けれど、私が見る限りはあいつはそれを望まない。

 

「あんまり気を使わない様にっても言っておけよ」

 

「どうして?」

 

「あいつ多分、気にされる方が気になるタイプだから」

 

「……言っておくよ」

 

頷いてカヨコは便利屋メンバーの方へ歩いていく。

私も立ち上がって、カーゴランチャーの操作盤へ移動しながら、

増えた疑問を思い出す。

 

「ヘイローに耳にと……アイツも大変だな」

 

 

飛んでいく爆弾満載のカーゴたちを見ながらそう思う。

着弾時は結構派手な光と黒煙がでて、便利屋とそれを確認しながら言った。

 

 

「随分素敵な感じに燃えたな」

 

 

 




レイヴンですが、ゲーム中で化け物扱いされていることから、
ノーコンパーフェクトクリアレイヴンの設定なので人外軌道の回避は素です。
スパイダーマンみたいなことやってる想定です。


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