よろしくお願いします。
朝早くに私を呼び出したのは一番新しい後輩のメットちゃんだった。
便利屋の一件からアビドス入学が決まった彼女を私は元ヘルメット団の事があったとはいえ後輩として認めることにしていた。
ヘルメットをもう脱いでいた彼女だが、名前は学生証受け取りの時にと皆には秘密にしてヘルメットとかメットって呼ばれている。
学生証の作成で聞いた私だけが、今のところは彼女の名前を知ってる状態。
屋上の扉を開く、メットを被ってると蒸れるからとベリーショートに揃えたらしい濃い茶色の髪と、黄金色の目をした顔がこちらに向く。
凛々しい顔立ちの彼女は私に気づいてようと手をあげた。
私もそれに手を振り返す。
「メットちゃん、どうしたの? おじさんのこと呼び出して」
「ホシノはすでに全部レイヴンから教えられて知ってるかもと思ってな」
そう言ってメットちゃんは私も知ってる彼女の名前を出した。
「ウォルターって知ってるよな?」
「……知ってるよ」
隠してもよかったが、おそらく確信しているような問いかけを私は肯定する。
メットちゃんは私の返答にそうかと答え「確認しつつでいいかなと確認を取って」続けた。
「あいつの恩人らしいが……再出発を用意してくれてたって話もたぶん知ってるよな?」
「うん」
もちろん知っている、それは私が受けた依頼だから。
頷く私にそっかそっかと何度か頷いてメットちゃんは続ける。
「でさ、あいつはウォルターがそう願ってたってことで普通の生活とか自分のやりたいことってのを探してるらしいんだ」
拾ってくれた恩人の最後の願い……そんな話もあったんだねと思いながら私は頷く。
メットちゃんは「それで、その……」と若干言いづらそうにしつつも言葉を出してくれる。
「アビドスの入学とかで手伝ってもらったし、普通ってわからないなって、私とおんなじだなみたいな……
それでさ、手伝ってやりたいんだけど、マーケットのこととかあるじゃん?」
そこまで聞いて彼女が言いたいことが分かった。
あの時、私たちに迷惑はかけないからと言ったのを気にしているのだろう。
レイヴンちゃんを助けたいけれど、場合によってはマーケットのようなこともあるかもしれない。
砂漠の時は学生証も未発行だし、アビドスのためだと言えたが、今回は違う。
「レイヴンを手伝ってたらさ、同じようなことあるかもしれないと思って、
だから、手伝っていいかどうか、ホシノに聞いてからのがいいのかなって思ったんだ。
ウォルターの話がきっかけだから、他の皆が知ってるか知らないし、とりあえずホシノにだけ……」
便利屋を脅す作戦の録音でも思ったが、自分のやりたいことと、
自分の判断でやっていい範囲や自分の力でできることをこの子はよくわかっている。
だから、私にこうして相談して、頼ってくれたのだろう。なら、私がやるなら一つだけ。
「危ないことをするなら相談するって約束してくれたら、いいよ」
「ほんとか!? する! 絶対する!!」
微笑む私に応えるように彼女顔に花が咲きそのまま彼女は手をあげてやったーと声をあげる。
凛々しい顔立ちでノノミちゃんより高い彼女は、言っては悪いがはしゃぐ少年のようにも感じて可愛らしい。
思わず声を出して笑ってしまった私に、彼女は頬を掻きながら少し顔を朱に染めて微笑んだ。
「ありがとう。アビドスには感謝しかないよ。あの時、襲ったのが失敗してここを廃校にしなくてよかった」
そうアビドスがあってよかったとお礼を言ってくれる新しい後輩はすごく眩しくて。
「おじさんは先輩だからね、後輩のためにも学校は守らないと」
私は少しだけ胸を張れる気がした。
「……それで、どう手伝うかは決めてるの?」
「おじさん詳しく教えてほしいな」なんて言いながら屋上の柵を背もたれにしながら隣に座るようメットちゃんを促す。
彼女は少し笑いながら私の隣に座って話し始めてくれた。
「それだけどさ、私元々ヘルメット団だろ? 野良の依頼受けたりはよくあったし、
他にもお祭りの露店みたいなのも一応やったりもしたんだ! まあ場所は正式なとこじゃないけど……
他にも対空砲とかの知識はあるからさ、アヤネに電子系とかの知識とかもっと教えてもらって、サポーター的な?」
そう言って彼女は自分の立てたプランを話してくれる。
新しい後輩も含めて6人のアビドス、学生証を渡すときの写真撮影が楽しみだななんて思いながら、
会議までの時間を彼女のプランを聞かせてもらいながら過ごした。
*****
アビドスの空き教室の一つ、手を貸す間臨時で事務所にさせてもらった場所で私は皆に向けて言った。
「レイヴンを便利屋に勧誘するわ」
「全員集めたと思ったら、今度はなに社長」
「レイヴンちゃんの話を聞いて、何かできないかなって思っちゃったんでしょ?」
カヨコがため息をつくと、ムツキはわかるよとでも言いたそうに私に言った。
確かにその通りなのだけれど、それでは情にほだされ過ぎたような感じがしてちょっと癪だった。
私は「違うわ」と冷静な顔を作りながら続ける。
「ジャガーノートっていう戦車を倒したのを聞いたでしょう?
あの戦力、魅力的だと思わない? 私たちはアウトロー集団、法に縛られない活動する際は治安維持組織と対立することもある。
特にゲヘナの風紀委員なんかとはね、そんなとき彼女がいれば、前衛で耐えてくれるハルカと突破してくれるレイヴン、有能な社員になると思わない?」
私は昨日の夜に唸りながら考えたレイヴンを便利屋に勧誘する理由を話す。
さあ、これでレイヴンをうちに引き込めば、日夜活躍するアウトロー集団をしつつ、
日々の依頼でレイヴンに色々と世間をみせることもできる!
私は自慢げに胸を張るが、カヨコはため息をついているし、ムツキは楽しそうに笑っている。
ハルカは気まずそうに眼をそらしていた。
「な、なに? 何かおかしなこと言ったかしら?」
「くふふ、アルちゃん、便利屋はアウトローでしょ?」
「治安維持組織と対立するときもあるし普通ではないでしょ」
……言い返せない。というより、正直そんなことは自分でも最初からわかっていたのだ。
「そうよね、そうよねぇ……」
肩を落としつつ、カヨコからあの地下施設で言われたことを思い出す。
『レイヴンは気にされる方が気になるって言ってたよ』
そうだろうなとは思っていた。もういないウォルターさんが考えていたと思うことをあんなに考えているのだから。
けれど、あそこまで知って何もしないというのはむず痒い。
私は唸る。
「でも、何もしないのも気になるのよ……」
そんな私にカヨコは声をかけてくれる。
「そうだね。何もしないのは私も嫌だし、あんまり目を付けられなさそうって仕事なら手伝ってもらうくらいいいんじゃない?」
そういってくれるカヨコは隣のムツキへ目を向ける。
「そうそう、自由に、縛られないが便利屋でしょ? 頼れるなら頼っちゃおうよってことで!」
「ね! ハルカちゃん!」と投げられたハルカも私に向けて少し微笑みながら頷く。
「砂漠で色々教えてもらったので、私もお願いします!」
そう言って三人は私を見つめてくれる。
その目に応えて私は宣言する。
「いいわ! 便利屋68臨時職員レイヴン、勧誘作戦やるわよ!」
「「「おおー!!」」」
*****
朝の委員会室でアヤネが手を打つ。
「それでは、メットさんがホシノ先輩を呼び出してくださっている間に、621さんの考察会議を始めます!」
その掛け声に私とノノミ、セリカの三人は頷く。
つい昨日の技術資料について、一番最初に共有されたアヤネから、皆にホシノ先輩抜きで相談したいことがあるということで連絡があったのだ。
ホシノ先輩の乱入防止はメットが話したいことがあるからということで引き受けてくれていた。
「ん、会議はいいけれど、621さんのことなのにホシノ先輩抜きでっていうのはどういうこと?」
私はアヤネに問いかける。
621さんやレイヴンの話なら対策委員会全員で話してもよいことだと思ったのだ。
けれど、アヤネはそれに首を振る。
「その621さんのことについてホシノ先輩以外の皆で話したかったんです」
そう言ってアヤネは話を始めてくれる。
「レイヴンさんがトラックの上で戦車と戦う前になんて言ったか覚えてますか?」
「ん、前にも戦ったみたいなことを話してた」
答える私にアヤネはそうですと頷く。
「レイヴンさん達が持ち帰ってくださった資料にあった戦車を元に作ったのがマーケットのものだとすれば、
レイヴンさんの故郷はキヴォトスとの技術の乖離がかなり大きい世界とみています」
ここまでは今日の会議でも出ると思いますとアヤネは言って、そのうえで話し出す。
「621さんの車椅子も同じ世界の技術なのではと考えています」
その言葉にセリカが反応する。
「え、つまりレイヴンと621さんは同郷ってこと?」
「出身地という意味では違うかもしれませんが、どこから来たのかという意味ではそうです。
そして、あの車椅子なんですが、それだけ複雑なものだから操作方法もわからなくて、
私も調べていましたし、ホシノ先輩なんか特に調べていたと記憶してます」
ですが、とアヤネは続ける。
「以前は良く私の本なんかも借りに来てたのが最近は資料室の方から別の本をもっていっているようなんです」
その言葉に、今度はノノミが反応する。
「あ、そう言えば、確かに621さんのお部屋に置いてある本が機械の本から医療の本に変わってました!」
そう言われて、私も思い出す。
皆で621さんに挨拶したとき、ホシノ先輩は一歩引いて話していた。
あの人を校庭で見つけて、自分がお世話をすると言って、一番調べ物もしていたのに。
あの時、一番前に出てあの人のことを気にかけそうなのはホシノ先輩だったはずなのに。
「皆であいさつしたとき、すでにホシノ先輩は621さんについて何か知ってた?」
「その可能性があります。私は、それが車椅子について教えてもらったのではないかなと思っています」
彼女は五感がなく、手足も不自由で、口もきけません、意思疎通は限られます。
言いながらアヤネは俯きながら自分の考えを話してくれる。
「ただ、単に教えてもらったのなら私たちにもホシノ先輩は教えてくれるはずと思ってます。
教えてもらった方法とか、教えてもらった経緯とか、何か私たちには話せない何かがあるのかなと思って、
みんなと案を出したくて集まってもらったんです」
なるほどと納得する。
けれど、ホシノ先輩が私たちにも秘密にする理由となれば思いつくのは少ない。
621さんが新しく来た人だとすれば……
「ホシノ先輩は秘密にした方がいいだろうって思ってるってことだね」
「そうですね、話したくないって事なら、秘密にしてるってことは教えてくれますよね」
私の考えにノノミが頷いてくれる。
そこに、セリカが手をあげた。
「はい、実は621さんから秘密にしてほしいって言われてるとか?」
「たしかにそれが一番すんなり来ますが……」
「確かに、でも話せないのよね……あの人」
車椅子の操作説明となると他の人も必要だろうと個人的には思う。
背中で繋がっているようなので考えたりだけで操作できる機能があるかもなんてアヤネは言っていたが、
少なくともみんなで話しかけた時には声を出したりするような機能は見ていない。
なら……
「レイヴンが教えたのかも……同じ世界出身なんだよね?」
私の発言に皆が確かにと頷いてくれる。
「それなら説明ができますね」
「ならレイヴンは教えたことを秘密にしてほしいってことよね。なんで秘密にするの?」
セリカの問いかけはノノミが答えた。
「621さんの怪我とレイヴンちゃんが関係あるとか?」
二人に関係して、人に大きく言えない怪我の関連とすれば……
「レイヴンがいた戦場は621さんみたいな人がいっぱいいるからとか……それならなら説明がつく」
「そんな……でも、確かに」
アヤネが俯く、そうこれなら説明ができてしまう。
たくさんけが人が出る戦場のことだから、銃で人が死なないキヴォトスの私たちにはあんまり伝えたくないと秘密にされた。
そもそも、場合によっては……レイヴン自身も人をということがあり得るから。
ノノミとセリカもあまり信じたくないというように口を噤む。
私自身もそうだ、あの彼女がいた戦場は621さんみたいな重傷者がいっぱいいるようなところだなんて。
「ひとつ、提案があります」
そう言ったのはアヤネだった。
「621さんが乗っていたあの機械……黒こげですが、レイヴンさんが生きてたなら中身が無事かもしれません」
待ってとセリカが提案を遮る。
「車椅子と同じ場所の機械でしょ? 無事だったとしてどうやって読み出すのよ」
「これです」
そう言って取り出したのは先日レイヴンが持ち帰ってくれた技術書だった。
「確かにすべての再現は不可能だと思います。
ですが、現代でも側だけなら再現できることはカイザーが証明してくれました。
私たちは専門ではないですが、読み出しプラグの再現ができれば中から音声か映像の吸い上げくらいならできるかも」
正直、可能性はあると思う。けれど、私たちに知識は乏しい。
お金も潤沢にあるわけではないし、そもそも隠しているものに手を出していいのだろうか?
アヤネの提案を前に、皆は黙ったままになる。
もしデータを知れたとして、望まないものが出てきたなら私はどう思うのだろうか。
例えば、本当にレイヴンが621さんに怪我を負わせた人で、戦場では同じようなことをしてたなら?
621さんは私たちよりはるかに体が弱い、健康であっても、先生のような体だったはずだ。
前に聞いたお仕事の内容は戦うこともあるというのはわかっている。
それが先生のような人とも戦うこともある仕事なら?
レイヴンはたくさんの人を……もしかしたら殺しているかもしれない。
それがわかったら、私はレイヴンといままで通り話せる?
答えはわからない。でも、
「私はやる。もしホシノ先輩が全部知ってるなら、先輩に全部押し付けることになる」
そう答える。他の三人も私の言葉に頷いてくれた。
「そうですね、何かあったならホシノ先輩にだけっていうのは嫌ですものね」
「そうですよね、ありがとうございますシロコ先輩!」
「皆でできる限りのことをやりましょう! とりあえずは朝の会議からですが」
皆で手をあげておー! と合唱する。
今日の議題は私とおそろいの耳のこともある。
今回のことも含めて、しっかり調べさせてもらおう。
******
(動かないか……)
マーケットからの帰還の後、左手のブレードを見てそんなことを思った。
そして、一緒に見つけた記録媒体の方も。
(何も聞こえない……)
入っていた音声ファイルは再生しても何も聞こえてはこなかった。
条件があるのだろうか。
私のヘイロー……動くという確信はどこから湧いたのか。
扉の開錠も、呼ばれていた感覚も、どこから来たの来たのだろうか。
「ウォルター」
左手の思い出の一振りを撫でながら、恩人の名を呼ぶ。
もしそれがありえたなら、あの時見た紅い惑星を想像する。
『火をつけろ621』
「もちろんです。ハンドラー」
広い教室で私は紅の炎にもう一度誓った。
あの会議の裏ではとか前にはこんなことが実はあったんです系の話が好きです。