今回もよろしくお願いします。
空中から二人が落ちた時、戦闘は一旦停止となった。
先生はもつれるように着地した二人の元へと駆け出す。
『「「「先生!」」」』
風紀委員との間にいた対策委員会の子たちの声を背にして、向かった先ではもつれてまだ動く二人がまだいて、二人の内耳の生えた少女が先生の方へ跳び、その隣へ着地した。
「レイヴン!!」
先生が彼女を呼べば、体制を直したレイヴンは多少ふらつきながらも自分の落ちた先にいるもう一人に向けて銃を構えようとする。
先生は慌てて止めた。
「待って、レイヴン」
「先生……下がってください」
先生の前にレイヴンは立つ。彼女にとって前線近くまで移動していたのは予想外だった。
攻防を続けるうちに自分の位置を気にする余裕がなくなっていたことに彼女は気づいて、しっかりしろと後悔する。
そう思いながらも警戒を続ける彼女に、落ちたもう一人である風紀委員長のヒナが先生へ向けて声を出す。
「貴方が先生ね……その子、そのまま止めてもらえる?」
「もちろん。レイヴン、ダメだよ」
まだ先生の横で武器を構えていた彼女へもう一度先生が目を向ける。
警戒したままの彼女が渋々ながらも銃を下げたところで、ヒナとその周り全員へ向けた通信の音が響く。
「アコ」
名前を呼ばれた彼女のうろたえた声がそのまま周囲へと響いた。
『ヒ、ヒナ委員長……』
「マーケットの子に手を出すとはね。報告書で考えていた以上だったわ」
問題なく立ったように見えたヒナだったが、空中で手放した愛銃はもう持っておらず、その体は若干ふらついている。
レイヴンもヒナの方を叩きつけるまではいかないまでも何とか下敷きにした着地だったが、それでも受けたダメージは大きく、お互いにこれ以上の戦いは避けたかった。
「他学園の自治区で、委員会のメンバーの独断運用……説明はしっかりしてもらうわ」
静かに、けれどしっかりと声を発してヒナは怒りの声を通信先のアコへ向ける。
レイヴンとカヨコの推理どおり、今回はアコの独断専行であり、彼女はその独断によってかなり怪我をした。
その通信が入る中、先生の後ろからは彼を追いかけてきた対策委員会の子たちの足音がする。
『先生、レイヴンさん! メットさんの報告通り、あれは風紀委員長、空崎ヒナです』
「あ、あれが……委員長ってことはトップよね?」
そんなアヤネとセリカのそんな声がする間もヒナと通信先のアコは話すのを続けていた。
『そ、それは……素行不良の生徒の捕縛に……』
「それは、どこにいるの?」
その言葉に反応したのはすぐ近くに立っていたイオリだった。
「い、委員長、奴らならそこに……」
そう言って指さした先に彼女達の姿はもうない。
二人が落ちる直前に、先生の指示で彼女たちは戦闘が長引いた場合の逃走作戦を開始したところだったのだ。
『い、いない!? いつの間にいなくなったんですか!?』
居なくなった彼女達へのアコからの驚きの声が聞こえる。それに一度ため息をついて、ヒナは続ける。
「アコ……彼女たちは居ないようよ。あなたの考えてることはわかってる。大方シャーレの先生の確保によるゲヘナの不安要素排除でしょう。
でも、それは私たちがするべきことじゃない……あなたなら、説明せずともわかるはずよね? ……通信を切って、私たちが戻るまで校舎で謹慎してなさい」
『……はい』
有無を言わせないだけの圧をかけた言葉に通信先の彼女は了承以外の言葉を何も返すことなく通信を切っていた。
通信が切れたのを確認して、空崎ヒナはもう一度ため息をつく。正直めんどくさいなんてものではない、彼女にとっては散々だった。
そして、それを見ていたイオリがヒナの少し後ろから声をかける。
「い、委員長、その怪我は……」
「イオリ、あなたもよ。少し下がりなさい」
彼女はイオリを見もせずに声を出す。イオリは何も言えずに後ろへ下がるしかなかった。
ヒナは改めてと先生へと目を向ける。後ろの対策委員会の面々も含めて少しの沈黙が流れた。
そして……
「つづける? せっかくだし」
「そうだね、改めて……」
「ダメだよ。二人とも」
レイヴンが強がって言った言葉に、シロコが同調する。それを手で制したのは先生だった。
合わせて、通信越しのアヤネの声も二人を止める。
『待ってください! ゲヘナ風紀委員長はキヴォトスでも強者中の強者です! レイヴンさんとの戦闘で消耗し、こちらにも先生の指揮とメットさん達がいるとはいえ、他の委員会メンバーもいる中戦闘を何の葛藤もなく再開しようとしないでください!』
「そうだね、特にレイヴンはかなり怪我もしているし、まずは話をしよう」
「ごめん」
「……了解」
二人は頷く。素直に止まってくれたと先生は胸をなでおろすが、彼はそれと同時に聞こえた言葉に驚いていた。
(レイヴン……そこまで強かったのか……)
マーケットの一件から、強いとは思っていたがそこまでとは考えついていなかった彼は改めてレイヴンを見て、彼女に関係するという対策委員会の調べ物が頭に浮かぶ。
だが、今はそれに気を取られ過ぎないようにと思いなおして前を向く。
アヤネからの通信も続く。
『こちらはアビドス対策委員会、奥空アヤネです。ゲヘナ風紀委員長、初めまして、
状況は先ほどの通信を聞く限り把握されている認識でよいでしょうか?』
「ええ、事前通達なしの他自治区での武力行使、他校生徒との衝突」
よどみなくヒナは答えていく。自分たちの非を認める発言だが、けれどと付け足して彼女は続けた。
「便利屋を捕縛しようとするこちらの公務の妨害でもある……ちがう?」
その言葉にアヤネが詰まる、それに反論したのはレイヴンだった。
「違うな、アビドスは便利屋と風紀の戦闘を止めるため後からの参戦だ。
なにより、元の発端はお前らの民間への無断攻撃。ここがアビドスである以上それをする権利があるのは対策委員会だけだ」
レイヴンは嘗てのルビコンで封鎖機構と呼ばれた公的組織が企業や現地組織に対して行った取り締まりという名の攻撃を思い出していた。
便利屋がアビドスでやりすぎたなら、出てくるのはアビドスでなければならない。
続けるようにレイヴンはアヤネのドローンに声をかけた。
「メット、記録」
『あるよ、対策委員会が最初に「待ちなさい」と警告したことも、その後自治権がアビドスにあると主張したのもな、
私のだけで不満ならそこの対策委員会のメンバーも記録撮ってるはずだぞ、アヤネ?』
『はい! 到着時のセリカちゃんの発言から全て音声で保存済みです!』
便利屋の方を対応してもいた元ヘルメットの彼女からの通信、新しく出てきた声にヒナは様子を見つつ返答する。
「あなたは?」
『私は……アビドスの新入生で6人目だ。
民間人の被害についてはそこの対策委員会の元からいるメンバーに確認してもらえばいい。
その被害を受けた人自身も無事だから、その人に証言してもらうのでもいい』
元ヘルメットはよどみなく答える。
それに対して、ヒナはわかったと答えた後レイヴン委目を向けて問いかける。
「便利屋はいたということでいいのね?」
レイヴンはその目をまっすぐ見つめ返しながら答える。
アコと話したときと同じく、固い交渉をするなら、自らの飼い主のイメージで。
「お前ならわかっているだろう。私がお前の相手をしている分、他の委員はフリーだった。
対策委員会が実力者かつ、先生がいるとしても持ちこたえるならもっと人員がいる」
援護をするようにメットからの通信も入る。
『さっきのやり取りでお前はあの行政官からの口出しを取り上げたかっただけだろ。
お前が指揮権と責任を持つ方がこの場はうまく収まる、便利屋がいたことが事実って口実がなきゃ体面上風紀が来れないなんてのも委員長のお前ならわかってるはずだ』
「私が主張するのはあくまでお前たちに非があるということだ……大将へも謝ってもらうぞ」
そこまで主張した彼女にヒナは答えない。今指摘されたことは事実だった。
彼女の目的は最初にレイヴンに主張した通りあくまで戦闘の終結、レイヴンとの戦闘でけがを負い彼女としては早く帰路につきたかった。
主張されたことへの反論も記録を取られているなら仕方ないと彼女は考える。
「そうね……ごめ「うへ~これは結構やられたね~、どういうことか、説明してもらえる?」」
口を開こうとした彼女の言葉にかぶさるように声がして、今までいなかったホシノが現れた。
普段通り──では決してない全く笑わない目と若干の剣呑さを纏い、口元の微笑みだけはかろうじていつも通りに着けてヒナを見ていた。
ヒナは驚く、唐突に表れたホシノをまじまじと眺めて、彼女が自分の中にあった姿とは違ったことを素直に口に出した。
「驚いたわ、姿が以前からずいぶん変わっているように見えたから、でも……その雰囲気確かに小鳥遊ホシノね」
「あれ~おじさんのこと知ってるんだ?」
自分の名前が出たことにホシノは反応し、既に持っていた銃をもう一度しっかり握りなおしてヒナへと目を向ける。
「ええ、私は元情報部だから、あの事件からは……アビドスから居なくなったと思っていた」
そしてそこまで言ってヒナははっとしたように先生を見た。
そして納得したように頷いてから、後ろの風紀委員たちへ向き直った。
「皆、撤収準備をして、イオリも、帰るよ。チナツも、もう動ける?」
先ほどまでの戦闘からどうなるかという話だったことを踏まえればあっさりとした撤収命令、一番驚いたのは対策委員会メンバーと風紀委員として最前線にいたイオリだった。
「え!?」
『帰るんですか!?』
驚きのまま聞き返したイオリとアヤネにヒナはそうよと軽く答えた。
「私は戦闘を収めるために来たんだもの。当然でしょう」
そして、体を対策委員会メンバーへ向けとそれぞれへ一通り顔を向けてからしっかりと頭を下げた。
「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。
このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドス廃校対策委員会に対して公式に謝罪する」
深々と頭を下げたままヒナは言葉を続ける。
「今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することは無いと約束する。建造物や治療費についても、こちらで全て補償する。どうか許してほしい」
素直に下げられた頭、アビドスの皆がそれに面食らったように見つめる。それに横槍を入れたのはずっと前線にいたイオリだった。
「ま、待って委員長、便利屋がいたのが事実ならあいつらはどうし──あ、ぅ」
風紀委員として違反者を捕まえるためと考えて戦っていたイオリの言葉。けれど、それは事を荒立てたくないとしていたヒナに反する。
彼女の少し黙っていてとでも言いたげな睨みつけに彼女は言いかけた言葉を途中で切って引き下がるしかなかった。
「いいよ。約束、守ってね」
「ありがとう……ほら、帰るよ」
お礼を言ったヒナはため息を一つ吐いてそう風紀委員へ通達する。
端的に発せられた言葉を合図に風紀委員たちはぞろぞろと撤収を始めた。
「お、終わったの?」
「みたいですね……」
「ん、お疲れ様」
その撤収を確認しながら、対策委員会のメンバーが気の抜けたように息をついた。
先生も1つ息を吐いてから皆へと声をかけた。
「さ、私達も帰るようにしよう」
それにうなづいて皆が帰る準備をする中、レイヴンは自分を見つめるホシノに気づいていた。
(連絡つかず戦闘にいなかったし。何かあったのは確かだけど)
そうレイヴンは疑問に思う。けれど、今は柴大将の対応なんかもあるからと皆へと手を貸す。
後で絶対聞こうと彼女は考える。
しかし、聞くまでもなくその疑問の答えはアヤネから聞くことが出来た。
いい時間だからと皆が帰る前に見回りも済ませようとした彼女は帰ってきた彼らの前に息を切らしながら走って来て告げた。
「621さんが……攫われました」
レイヴン本人だけがそれを告げられる直前で倒れ、何も聞けなかった。
次回は会話メインの回予定
先生が621を知るのが今なのは大体スーパーアロナちゃんでルビコン技術が何とかなってしまうだろうという予想のためです。