猟犬烏の青春   作:面無し

31 / 67
誤字報告等ありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

一話の導入部分を追記しました。
物語に特に影響はないですが、AC6の細かい流れの追記のような感じです。


2-27 不屈

 

 

 

 

アヤネとセリカ、先生は大将のお見舞いに行くと聞いている。

メットは変わらず倒れて意識のないレイヴンの部屋にいた。

 

「パッと見、電源の落ちた機械みたいな状態だよ、ピクリとも動かねぇ」

 

どうしようもねえなあという彼女はそれでもレイヴンのそばを離れなかった。

 

「ホシノの隠してること……昨日はどこまで?」

 

「昨日はケーブルなんかを手に入れるだけになった。色々あったから」

 

レイヴンが倒れて、利子が増えて、621さんは攫われて、本当に色々あった。

でも、ホシノ先輩の隠し事は今みんなでやっていることから突き止められる。

もしかしたら倒れたことから教えてもらえるかもと思ったけど、それは叶わなかった。

先輩ならきっと言ってくれてると思ったからショックだったが、教えてくれないなら仕方ない。

 

「今日はその続きをする。全部終われば先輩のやりたいこともわかるはず」

 

「……なあ、シロコ」

 

メットは私の顔を見た。そして少し俯いて頭を掻いて、もう一度私を見てというのを繰り返す。

 

「どうしたの?」

 

「言うべきか迷ったんだよ。ほんとは今回の621さん関連のってのはゆっくり話が進んで、その間にレイヴンから話されたりするかもとか思ってたりもあってさ」

 

その口ぶりから私はある程度察しを付けた。

 

「メットも知ってるの? 秘密の内容」

 

「知らない、全くな。でも、想像がつけれる話をこいつから聞いた」

 

そうして、メットは横になったままのレイヴンの顔を見た。

 

「その621さんも……レイヴンもさ……どんな奴でも助けるってシロコは思うか?」

 

「どういう意味?」

 

「実はカイザーからのスパイで隙を見て先生を殺そうとしてるやつでしたとか、621さんなら……アビドスの今の状況が逐一わかるようにしてるやつでしたとか」

 

想像ができない、そもそもそれが目的なら既に果たしてると私は思う。

私が答えあぐねていると、メットは一度深呼吸してもう一度私の目を見て言った。

 

「レイヴンも621さんも実はいっぱい人を殺してきた殺人鬼で、今でも必要なら殺すの自体は何とも思ってない奴だったらお前はどうする?」

 

確かに戦場にいたと聞いた。アヤネの推理から621さんみたいな人がいっぱいいるところかもと聞いた。

会議の中でMTみたいな兵器が歩兵をして有人兵器だっていうのも聞いた。

彼女の言っているのは最もだった。621さんもレイヴンも本当は人殺しでないなんて絶対言えない、なら人殺しだったって方が自然だ。

 

でも、それは私にはまるで別人の過去のように感じて、想像がつかなかった。

私の見てきた621さんは、私たちの前で包帯姿のまま弱弱しく首を振って、でもそれでもその目に強い光を宿しているような人で、あんな人が人を殺してるところなんて想像できない。

私にとってのレイヴンは戦うのが強くて、ご飯を美味しく食べて、アビドスに協力してくれる頼もしい女の子だった、大人びた顔なのに、たまに見せてくれる表情は可愛くて、彼女が人を殺してるところなんて全く想像できない。

彼女の光の剣も、私たちを助けてくれたマーケットの戦闘も格好良くて。

だから、もしそうだったとしても、それは今の私と二人に関係なく思えた。

 

「助けると思う」

 

「……そうか、ならいい」

 

「メットは、そうじゃないの?」

 

返した私の問いかけに彼女は答えにくそうに話す。

 

「どうだろうな。私は悪いことをしてきた。カツアゲもした、強盗もした、喧嘩もしたし、言ってしまえばセリカの件で誘拐もやってる。矯正局に入ってないのは私より悪い奴がいっぱいいるからってだけだ。私は……殺人がもしそこにあったら」

 

「答えになってないよ」

 

実際のところどうなのか彼女は明言しない。

 

「もしその事実があったとして、私はその時二択が迫った時しか決められないと思う。

うじうじしてるやつだからヘルメット団なんかにいたんだと思うしな!」

 

そう言って、彼女は自嘲するようにハッハーと口をあけて笑った。

私から見た彼女は便利屋のことも含めて思い切りが良く見えたのだが……

 

「シロコはそんなことないと思うからさ、しっかり助けてやれよ。レイヴンのこと」

 

「当然」

 

私は力強く宣言する。それじゃあそろそろ委員会室に行ってくると言って、私は教室から出る。

新しいアビドスの生徒、彼女は一年生なのか二年生なのか、もしかして三年?

どれでもいい……あの子もホシノ先輩を気っと大切に思ってる。

私は委員会室に向かう。

 

 

 

委員会室にはホシノ先輩もいるだろう。先輩もレイヴンのことは大切と思ってくれてるはずだ。

だから、きっと隠してることはアヤネたちと協力して見つけ出して、先輩にもしっかり協力してもらう。

そう決めて私は委員会室のドアを開ける。

 

「おはよう」

 

そこには、誰もいなかった。その代わりというようにホシノ先輩の鞄がぽつんと置いてある。

……覗いてみようか。覗けば秘密のヒントの一つや二つあるかもしれない。

そう私の中の何かが告げる。考えた後は早かった。

鞄を開けて中を見る。水筒、昼寝用の枕、小さいクジラのぬいぐるみ、銃弾の替えがいくつか、本……『先進再生医療の現在』、レイヴンの世界の技術書の写し。

本と技術書以外の勉強に関するものが何もない……あの先輩は本当にだらしない。

けれど、でも、ホシノ先輩は先輩だから、やるときはやるし、621さんのためのこの本や技術書みたいに重要なものはしっかり持ってるはず。

そうして、私は変わらずゴソゴソと鞄をあさって……紙の封書を見つけた。

 

「これ……」

 

『退会・退部届 対策委員会小鳥遊ホシノ』

 

「……え」

 

思考が一瞬止まっていた。今の状況から、ホシノ先輩が委員会を辞めるというシチュエーションの流れが思いつかない。

なんで、どうしてと頭の中で疑問が浮かぶ……私がうろたえて鞄から一歩距離を取ったと同時。

扉の開く音がする。

 

「……ホシノ、先輩」

 

「うへ~見られちゃったかあ」

 

そう言って先輩はいつもみたいにフニャフニャ笑う。

レイヴンや621さんのこともある時なのに、退部は重要なことなのに、大事な先輩のことなのに、それがそんな何でもないような調子で言われるのに無性に腹が立って、私は先輩に詰め寄っていた。

 

「説明して、全部、レイヴンのことも、621さんのことも、この届出のことも」

 

「なんでもないよ。やだなあシロコちゃん、何かあった時のためにってだけだよ~」

 

「今がその何かあった時でしょ」

 

昨日のセリカも言ってた、どうして教えてくれないのって。

この退学届もそう、大事なこと、全部大事なことだ。先輩だけで決めてほしくない。

 

「教えて、ホシノ先輩、私たちの知らないところで私たちのことが決まってるなんてもう嫌。土地のことも、借金のことも、レイヴンのことも、お願い」

 

そう言った、精一杯伝えた。それなのに。

 

「ごめんね……シロコちゃん」

 

「しらを切らないで!」

 

私は思わず先輩を突き飛ばして大きく声を出していた。

 

「いたた……痛いじゃ~ん、シロコちゃん。いつものクールなシロコちゃんらしくないよ」

 

「いい加減にして」

 

「さっき言った通りだよ、何かあった時のための保険……ね?」

 

私はもう我慢できそうになかった。そうして、もう一度声が出そうになった時だった。

 

「ホシノ先輩!? シロコ先輩!?」

「や、やめてください!」

 

慌てた様子のセリカとアヤネがいた。後ろには先生とノノミもいる。

思わずしまったと思って、上っていた頭の血が一気に下がっていくのを感じる。

 

「どうしたの?」

「なにか、あったんですか?」

 

先生とノノミが私とホシノ先輩に向けて言う。退部届……言ってしまうには事が大きすぎる。

私は少し考えてから皆に告げる。

 

「……ホシノ先輩に、用事があって」

 

二人にしてとも言おうと思ったけれど……今の私の怒りがレイヴンとホシノ先輩の秘密からきていることからもそれはやめた。

ノノミは私たちに少し微笑みながら告げた。

 

「私たちは運命共同体です。ちゃ~んと説明してくださいね☆」

 

そう、その通りだと思う。だから、私はまだ握っていた退部届のことを言おうとして……

 

「いやあ、実はまたおじさんお昼寝しちゃって、レイヴンちゃんも大変な時なのにって怒られちゃったんだ~。確かにその通りだし、ごめんね、シロコちゃん」

 

ホシノ先輩に先を越された。こう主張されて今更大きい事柄を伝えて皆を混乱させられるほど度胸は私にはなかった。

 

「うん……そう、ホシノ先輩がまた寝てたの」

 

私はホシノ先輩に同意する。

ホシノ先輩はそれを聞いて満足げに手を打って、皆に言った。

 

「ほら、もういい時間だし今日の会議始めよ!」

 

そうして、皆でいつもの話し合いを始める……けれど、その雰囲気はどうしても暗く、まともな意見も出ずに解散となってしまっていた。

 

 

 

 

「そしたら私は今日は出かける予定があるから、夕方には戻ってくるよ~」

 

そう言ってホシノは出かけて行った。

それを見送る皆の表情は暗い。けれど、それでくじけていられない。

私は皆にまた目を向ける。

 

「レイヴンの機械……調べる作業を進めよう」

 

そう言うけれど、ノノミが手をあげて出鼻をくじくように私に聞いた。

 

「その前に、朝のことを教えてください☆」

 

「え……それは……」

 

いざとなると言い出せない私がいる。先輩もこんな気分だったのだろうか。

でも、それでも話してほしいことだとは確かに思う。

どうしようと考えて私は皆に目を向けて言う。

 

「とっても大事なことだから……今明かすとレイヴンのことに集中できなくなると思う、でもレイヴンに関連するから、秘密にしたい……」

 

多分皆は納得してくれない……だから、私は頼れる大人に任せることにした。

 

「だから、先生に明かして全部任せるようにさせてほしい。レイヴンのこの作業さえ終わればすぐ皆にも共有する、絶対言うから」

 

念を押して、皆に宣言する。

 

「そんなに大きいことなんですか?」

 

セリカが私に聞いてくる。昨日のことでも一番先輩が秘密にしてることでショックそうだったのはセリカだった。

心配するのは当然、けれど、このことを話せば皆作業できずに先輩を追いかけることになる。それでは回り道だ。

 

「うん、私も、今も先輩に聞きたい、でも秘密にされたから……」

 

私の言葉に皆はそれならと気合を入れてくれた。

 

「わかりました、まずはレイヴンのことですね!」

「そうですね、頑張りましょう☆」

「必要なものはできる限り揃えました! きっとできるはずです」

「うん、皆頑張ろう!」

 

そうして皆でおー! と手をあげる。

きっと、皆でやれば大丈夫。先輩に聞いてレイヴンを起こす。

そう、私は改めて決意した。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

ぼんやりと薄暗い部屋で目が覚める。ずいぶんと懐かしい感覚だった。

以前は捕まって入れられた矯正局だったか教育センターだったかを脱出したときか。

でも、この感じ、今がちょうど捕まっているところになるだろう。

 

また私はあの『クソ中間管理職(スネイル)』にしてやられた時のような状態らしい。

あの時との違いは車椅子がちゃんとあって、這って移動しなくていいくらいか。

 

「目覚めたか」

 

誰かが私に声をかけている。目を向ければ随分と大きい奴が立っていた。

声自体は違うのに、あの嫌な奴と同じ声色に感じる。

誰だ、この中間管理職二号は。

 

「そう言えば、口がきけないのだったか」

 

男は私を見てそう言う。

私のことはしっかり把握してくれているらしい。ありがたいことだ。

本当のところ今すぐにでもその脳天に一発ぶち込んでやりたいが。

 

「では、こちらの用件だけ話そう」

 

そうして中間管理職二号はぺらぺらと戯言を喋り出す。

 

「君のことは黒服から聞いている、レイヴンとかいうこと、そして、今目の前にいるこのズタボロの君が本体ということもな。

アイツはお前のことをずいぶんと恐れていたようだが……何のことはないこうして弱弱しい本体さえ押さえてしまえばというものだ。なぁ、レイヴン?」

 

……中間管理職二号からクソ中間管理職二号(スネイル・ツー)にしてやる。

なるほど、黒服の関係者らしい。だが、口ぶりからして完全な仲間とも言い難そうだ。

 

「君にはしばらくおとなしくしてもらう。どういう理屈か知らないが、君の意識がなくなると向こうの体が目覚めるというのも把握しているからな、しっかり起きていてくれよ。死にたくなければな」

 

続ける男はずいぶんを私を見くびってくれているらしい。

だが、確かに今の私は大きく抵抗することはできないだろう。どうしたものか。

そう思う間にもペラペラとよく回る口は私に情報をよこしてくれる。

 

「あのホシノとか言うのも連絡をもうすぐよこすだろう」

 

見くびられているのも、喋れないというのもある意味都合がよかったらしい。

ホシノに何かしらこの男は持ちかけたということか。

風紀委員との戦闘前に聞いた黒服とホシノの会話を思い出す。

『あなたに拒めないであろう提案を』だったか。ホシノの事だ学校関連だとは想像が着く。

 

黒服もこいつもホシノ、ホシノとは……ホシノにはずいぶんとこいつらがご執心する理由があるらしい。

 

だが、大体わかった。今のところの話で出ているのはカイザーくらいだし、こいつもどうせその関連だろう。

黒服にも改めて問いただしてやる必要がある。このクソ中間管理職二号の様な感じは、無かったのだが。

 

まあいい、仲良くなったホシノにまで手を出そうなんて……前の世界からこういう声色の奴は私の逆鱗に触れるのが余程得意らしい。

 

「痛い目を見たくなければおとなしくしていることだな。では、良い一日を」

 

やけに頭に響くうざったい笑い声をあげながら男は去っていった。

ぼやけた視界は薄い暗闇だけになった。私は考える。

 

さっき男が出た扉は電子ロックの自動扉だった。

エアがいるならまだしも、物理錠でない限りは私では出られない。

だが、それで無理と諦められるなら私はウォルターに飼われてない。

地下での開錠を思い出す。同じことがこの体でもできれば解決するはずだ。

私は車椅子を電子扉の前にもっていく。

 

扉の上の方についた小窓から漏れる光はしっかりとしていて、この向こうはちゃんと管理された施設らしい。

 

『開けゴマでも唱えてみるか?』

 

ユウカからもらった絵本にそれで開く扉があったはずだ。

物理的に体当たりすれば開いたりするだろうか。

 

私は扉に近づきぼやけた視界を凝らして電子系統の何かに触れないか見ていく。

諦めることはできない、紅の炎に捨てた命は生き残ってしまったから。

だから、ウォルターの言う人生を私は生きなければいけない。

 

私は電子制御には当然何もできなさそうなことを確認して、覚悟を決める。

あの地下の様に都合よく開いてくれたら楽だったのだが。

 

扉の前に誰かがいるような音はもうない。私を本当に侮ってくれているらしい。

 

車椅子を扉から離して180度向きを回転させる。

この車椅子はルビコンのあの土地で動くし戦闘でも乗っていた。多少ぶつかったって壊れない……はず。

 

深呼吸をして、弱い握力でできるだけ手すりを持って、思いっきり車椅子をバックさせる。

 

ガアン!!

 

ぶつかった反動で体が投げ出されるかというような衝撃を受ける。

操縦席兼用ゆえに、車椅子にベルトがあって助かった。私の両腕は案の定自分の体を止める役割はしてくれなかった。

 

もう一度扉から車椅子を離す。車椅子が倒れたら……何とか起き上がらせればいい。

こいつは前回の脱出時にカーラが、ルビコンでの恩人の一人が用意してくれた奴だ。起き上がり機能をつけてくれてたら楽でいい。

倒れてもひとりでに起き上がる……便利だし動きが笑えるだろう? なんて彼女なら言ってくれそうだから。

 

ガアン!!

 

ガクリと頭が激しく揺られる。だが、この程度は問題ない。

AC戦闘での加速時に感じる負荷や、被弾時に感じるであろう衝撃はこの程度ではない。被弾はほぼしたことないから知らないが。

私に自由を与えてくれた飼い主(ウォルター)は、私の首輪の先はもう誰もいないのだから。

この自由は私が守らなければならない。私を拾って生かしてくれた彼のために。

彼の与えてくれた意味のある人生を彼のために。

 

ガアン!!

 

三度……四度……五度……六度。

何度も試す。何度も失敗する。それでも試す。

彼女を殺してそれでも生きたのだから。

この程度であきらめては総長にも根性なしと言われてしまう。

 

ガアン!!

 

バチバチッ

 

何度も何度も繰り返して今までと違う弾けるような音がする。

諦めないに限る。そう、たった三桁届かない程度の挑戦でこうも成果が出始めるのだから。

 

ACでもなんでもそうだ、壊せば全て通り道になる。

 

表情の死んでいるはずの私の頬が確かに吊り上がるのを感じた。




書いてて思いましたがスネイルやカイザーに対してレイヴン本当に口が悪いですね。

でもスネイルには皆してやられたしこの野郎って思うと思うんですよね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。