今回もよろしくお願いします。
「先生、これ」
ホシノの隠し事を探る為の作業の休憩時間。
私は先生に先輩の退部届けを渡した。
「これは……隠し事と関係がありそうだね」
先生は受け取って、一瞬驚いたような顔をしたけれど、今までの動きからすれば不思議はないというように頷いた。
レイヴンはシャーレから来ている。私はもしかしたらレイヴンとホシノ先輩の秘密のヒントを持っていると考えていた。
二人がお互いに知っていることを内容を把握しているかは別として。
私は思い切って先生にも問いかける。
「先生は……レイヴンのこと、何か秘密にするべきこと知らない?」
そう言われて先生は難しい顔をした。
私はそれが先生も私たちに言ってないレイヴンのことがあるということだと気づく。
また、私たちは何も知らない。
そうして、私が苦く思ったのが顔に出たのだろうか、先生は一つ頷いて私を呼ぶ。
「シロコ、今から言うのはそう考えれば一部説明ができるってこと以外証拠が何もないってことを頭に入れてね」
先生の目を見返す。先生が考えていたこと、知りたかったことを教えてもらえる。
それだけで私は気がはやるように何度も頷いた。
「ん、約束する」
「ありがとう。私は……621さんはレイヴンじゃないかと思ってるんだ」
驚いた。なんてものではなかった。
生きてる二人が……車椅子の621さんとレイヴンが同一人物?
「ちょっと待って先生。そんな分身みたいなこと」
そう言った私に先生は分身ではないんだ。と答えてくれた。
「レイヴンの体は機械で出来てる。ロボットとして外部から操作をしている可能性があるんだ」
機械? レイヴンが?
私は頭の中にある機械のイメージとレイヴンのイメージが全くつながらなかった。
確かに表情は硬いけれど、彼女は食事のときなんか楽しそうに笑うし、一緒に話したりするときは確かに体温を感じた。
あれが……あれがそんな機械だなんてたやすく思えない。
そんな信じきれない私を見て、先生はもう一度私の名前を呼ぶ。
顔をあげて、先生を見ると私をまっすぐ見る彼は良く聞いてねと言った。
「この話には穴があるんだ。操作と言っても、アビドスからシャーレは距離がある。
その距離を時間のズレなく操作するなんて技術はキヴォトスには無い」
「でも、621さんはすごい技術を持ってる。それに元々校庭の乗り物にも乗ってた。時間差なしで操作する技術だって」
そこまで言って気づいた。証拠がないのだ。621さんの世界の技術ならできるなんて誰も知らない。
けれど、これさえ事実なら─
──レイヴンが倒れたのは621さんが攫われて、操作できないか、向こうで何かしてるから。
──ホシノ先輩の秘密は621さんがレイヴンって事とその過去についてで、話せないのは何か理由があるから。
先生の言う通り一部に説明が付けられる。
残るのは、なぜそれを秘密にしてるかと、退部届を持ってた理由だけ。
なら、証拠はやはり今やってる作業からとるしかない。
証拠を取って、今回の推理を皆に話して、そしてそれを元に先輩を問い詰める。
「わかった。作業頑張る。退部届は……先生が持ってて」
「うん、私もできる限り協力するよ、退部届けも……私からもホシノに聞くようにする」
そう言って頷きあって、教室へ歩いていく。
そこで私はふと気になって、先生へ聞いた。
「そう言えば、レイヴンはどうして機械の体を秘密にしてるの?」
それを聞い、今度は先生が難しい顔をした。
「実は……体が機械であることを知らないと思うんだ」
また私は驚いた。外から操作しているのに知らないなんて。
「レイヴンが機械の体だってことはミレニアムで検査してもらったんだ。
彼女は……そこの技術者のことを医者と勘違いしているように見えた」
「つまり、レイヴンが621さんなら二つ生身の肉体を動かせると思ってる?」
私のその答えに先生は頷く。
「秘密にしていてごめんね。さっき言った通り確証がないから、せめても確認出来てからと思ってたんだ」
「ううん、話してくれて嬉しい。ありがとう」
偽りない本心だった。ここまで秘密が多かったから、こうして信じて話してもらえたのが嬉しい。
私は先生に問いかける。
「今日の作業を終えたら、皆にも話していい?」
先生は少し迷って、それでも了承してくれた。
「分かった。皆に話して、みんなで確認しよう」
そうして
メットからその連絡が届いたのは夕方に入り始めたころだった。
もうあと一時間もすれば先輩も帰ってくるかもというところで、聞いた提案。
『レイヴンの持ち物で見てないのがあった。一緒に見ないか』
その提案に行き詰っていた私たちはすぐ乗って、レイヴンの教室を訪れる。
待っていた彼女はこいつを覚えてるかと一つの記憶媒体を見せた。
「それ、地下でレイヴンが持ってきたっていうやつ」
「本当ですね。他の資料とか、借金とか、先輩のことで忘れてしまってました」
そう答える私たちに得意げな彼女はPCへと差し込みながら言った。
「秘密っていやあこれっきゃないだろ」
そう言って開いた記憶媒体の中身、一つしかない音声ファイルを彼女は開く。
『ミレニアム、電子機器研究部公式購買、商品番号……』
聞こえてきたのは男の声の合成音声だった。
ミレニアムの電子機器研究部の商品番号を羅列している。
「商品番号をずっと話していますね」
「なんだこりゃ……」
意味不明な羅列に一緒に眺めていた。メットとノノミから突っ込みが入る。
確かに、ミレニアムの購買の電子部品確かに無関係ではないだろうが……よくわからない。
そうして皆が困惑する中でセリカが言った。
「すこし進めてみます?」
それにみんなで頷いてマウスを操作する。
『技術書、P87。物品番号、AKBS-RED-CD-348代替……』
そして改めて読み上げられる物品を聞いて、大きく動いたのはアヤネだった。
「p87、AKBS……348……ってことは、これで……商品名……これで……これ、技術書の物品の代替品を指示してます! メットさん、PCください!」
そう言ってPCをがしっとつかんだアヤネに気圧されたようにメットはPCを手放す。
そこからのアヤネの行動は早かった。どこから取り出したか、持ってきていた技術書の番号と、読み上げられていく商品名をあれよあれよと探し出してメモしていく。
「性能は本物には劣るかもしれないけど、これなら……」
そう言って熱心にメモしていくアヤネを見て、驚いたようにメットは言った。
「な、なあ……あのぼそぼそした音で、みんな聞こえたのか?」
それを聞いて疑問に思う。あんなにはっきり聞こえていたのに。
そう思った私を代弁する様にセリカは言ってくれた。
「聞こえたも何も、結構しっかり音声なってたわよ? ねえシロコ先輩?」
「ん、男の人の合成音声だった」
その答えに困惑する様にメットは言う。
「嘘だろ……ノイズ交じりのぼそぼそ音声だったが。先生は?」
一応と聞いたメットの言葉で皆の目が先生へ向く。
その問いかけに先生は困惑したように答えた。
「……ごめん、私には何の音も聞こえないみたい」
今も合成音声の流れるPCを見て私は本当なのかと疑いたくなった。
ただ、二人がここでうそを言うとも思えなくて。
「これ、レイヴンはどう聞こえたんだろう」
そして、当然同じものを聞いたレイヴンに興味が行く。
私たちは聞こえて、メットはあんまりで先生は全くで、その違いは……ヘイローの有無。
なら、ヘイローが時々しかないレイヴンなら……どうだったんだろうか。
それにメットと先生が返答する前に、アヤネがまた大きく言った。
「できました!! 今から作ります!!!」
そう言って彼女は駆けていく。
その背を見つめて私たちは顔を見合わせた。
「いったん声の話は後だな」
そのメットの言葉に私たちも頷いて、再生時間のまだ残るそれを止めて後を追うしかなかった。