今回もよろしくお願いします。
ミレニアムの電子機器部品の品番を羅列していたが、ノノミが事前に大量に物を購入していたために部品の欠損なく組み上げることができていた。
「じゃあ、行きます!!」
そう言って、読み上げパーツに記録媒体を差し込めば、緑のランプの点灯とともに読み上げが始まる。
並ぶファイルはどれも音声ファイルだった。並ぶ名称にはそれぞれ名前が付けられている。
最初のファイル名は
──『密航』
画面に映るファイル名とそれを眺めていた全員が驚いていた。
最初から犯罪そのものの名前が出てきたためもあるが、他にも並ぶ名前が物騒だったからだ。
──『輸送ヘリ破壊』、『テスターAC撃破』
「621さんの居たところの……わかってはいたけど物騒な名前ばっかり」
セリカの問いかけにノノミが頷く。
「そうですね。でも、これさえ開けば、621さんの居た場所のこと、621さんのことがわかるはずです」
「再生しよう」
そう言ってシロコが手を伸ばそうとした時、その手を掴んだのは先生だった。
シロコが振り向く。
「先生?」
「皆、わかってると思うけれどもう一度だけ。
これは私みたいな人しかいない戦場かもしれない。それでも……見る?」
それは確認だった。人が死ぬのを聞く覚悟はあるかというキヴォトスではめったに起こらない。
そして忌避される事柄を自分から見に行くかという最後の確認。
「ん、私は見る」
シロコはよどみなく答えた。その可能性は先生との会話などでも覚悟していたこと、そしてそれは他の三人も同様だった。
「私は見ます」
アヤネは宣言する。シロコと先生のいない間ですでに三人で話していたことだ。
「私も見るわ。ホシノ先輩のことも621さんのこともはっきりさせて、今回のことをみんなで解決するんだから」
「そうですね、私も見させてもらいます」
その宣言を聞いて先生は手を放す。
もう一度だけ忠告をつけて。
「わかった。気をつけてね」
再生ボタンを押す。
再生されて最初の音声はあの記録媒体で聞いた声と男の会話だった。
『ルビコンが近い、そいつを起こしてくれ』
『了解です。ハンドラー・ウォルター』
*****
『脳深部コーラル管理デバイス起動、強化人間C4-621起動しました』
『621仕事の時間だ────突入ポッドの電源を切る。合図を待て』
そうウォルターと呼ばれた声が響く。
ガタガタと揺れるような音と暴風の中にいるかのような風切り音がする。
突入ポッド──それに乗ってどこかを駆け抜けているような音がする。
『今だ、起動しろ』
そしてその言葉が聞こえて、ガコンと何かの動く音がする。
続く風切り音と振動音の中、それは起こった。
バシュッ
射出するような音、そして──爆発音。
大きく揺れる音が一段と大きくなる。しばらくそれが続いた後、もう一度射出するような音がして──
ガガガがガガガ、ガウンッ!!!
大きな破壊音と共に着地をしたのがわかった。
しばらく止まった621さんだったが、今の現在位置からカタパルトを使えというウォルターの指示が届いて、ガシャガシャと駆動音がする。
移動を始めたらしい。私は今この音を発しているのがあの校庭の乗り物なのだと思った。
そうしてしばらく移動が続いた後だった。
突然大きな銃撃音が響く。
『ガードメカは排除しろ』
そうウォルターの冷静な指示の声がする。
当然というように、銃撃に当たれば死ぬ621さんにそれを言う。
便利屋が言っていた冷酷な人物……たしかに、こういう人なら冷酷と言えるのだろうか。
これが彼女が目指しているものなのだろうか。
こんな命を捨てるような酷い指示をする人が。
けれど、ホシノ先輩から聞いていたはずの彼は621さんの面倒を見てほしいという話をしていたはずだ。
だからきっと優しい人という印象もあった人がなぜ621さんを送ったのかがわからなかった。
───けれど、それはすぐわかった。
『行くぞ、621』
別の場所にいるであろう621さんに彼はわざわざ行くぞと声をかける。
そして、カタパルトから射出される621さんへの言葉で彼が621さんを送った理由を知った。
『この惑星でコーラルを手にすれば、お前のような……脳を焼かれた独立傭兵でも人生を買い戻せるだけの大金を得られるはずだ』
621さんのあの体を健康にするための戦い。
この学校にさえ621さんが来なければきっとそのまま健康な体となっていたのだろう。
二人の事情が分かった気がした。
きっと、あの状態の621さんができるのはあの機械を動かすことだけで、ウォルターはあの状態の彼を直すためのお金を用意するために戦場へ621さんを送るしかなかったのだ。
だから、治せるめどが立った621さんをそのまま送り出して治す手筈まで整えた。
『仕事を続けるぞ』
次に聞いたその声は冷酷でも、ひどく優しいものに聞こえた。
カタパルトから射出された621さんは、密航の関係上身分証をACというものの残骸から取ろうとしているみたいだった。
けど、ちょっと進んだと思ったら、また戦闘の音がし始めて。
またガードメカなのだろうかと思った私の予想に反して、ウォルターは言った。
『解放戦線の反政府ゲリラか』
ゲリラ……メカではない。つまり、今621さんは人と戦っている。
621さんみたいな銃撃で死ぬ、普通の人同士で。
『排除しろ』
また、当たり前のように言われたウォルターからの指示。
そして、複数の爆発音。
戦闘は驚くほどあっさりと、時間にして十数秒もなく終わって。
また何もなかったように621さんの移動する音が聞こえる。
さっき感じた優しさはなんだったのだろうかと思ってしまう。
私は呆気なく吹き飛んだ命があったことにぞっとした。
覚悟していたことだけれど、この通信が確かにあったことを想像すれば。
今の十数秒だけで先生のような、621さんのような人が複数人死んだ。
まるで、排除の言葉の通り、目の前に物があったから片付けるように、何かの物語みたいなものがあったわけもなく。
───ただ、簡単に人が死んだ。
621さんの移動は続く。
そして、また戦闘が始まる。
爆発が響いて、人がまた死んだ音がした。
621さんは移動中で何度も敵と遭遇していた。
そのたびに爆発音が複数して、何度も何度も621さんは人を殺して行った。
聞こえる戦闘によどみなんかないように見えて、なんてこともないように621さんは人を殺していく。
メットと話したことを思い出す。
『いっぱい人を殺してきた殺人鬼で、今でも必要なら殺すの自体は何とも思ってない奴だったらお前はどうする?』
それは目の前で現実になったと思った。
あの、光を宿した目が私を獲物のように見る獣の目のように記憶から塗り替わる。
そして、さっきの話を踏まえれば、これがレイヴンかもしれない?
続く621さんの移動と戦闘の音を聞く中で、映像がないからか私はイメージしてしまう。
『あ、シロコ先輩。おはようございます』
そう言って血にまみれたレイヴンが、いつものクールなはずの顔がなんてことないように振り向くところを。
イメージは音声に後押しされるようにハッキリしていて。
私は助けると言った自分の覚悟が甘く、足元が揺らぐような気分がした。
──戦闘の音声は続く。
621さんは自分の名義となる傭兵を見繕っていく。
人を殺しながら。
『企業所属では足がつく、避けるぞ』
爆発音のたびに頭の中のレイヴンと621さんのが血にまみれていくように感じた。
一度、戦闘の音が止まったところで私はハッとする。
やっと終わったのだろうか。
『621もう一つ反応を見つけた』
けれど、それはまだだったらしい。また移動する音が聞こえる。
最後の名義を621さんがウォルターから聞こうとした時だった。
ヘリのようなプロペラ音がして、大きい戦闘が始まる。
いつか聞いたマーケットでの光の剣の音もして。複数の爆発音が響いて621さんは戦っていた。
音声からは621さんが被弾するような大きな音はしなかった。
無傷で迷いなく相手を屠るために戦っていた。
───マーケットでのレイヴンのように。
ウォルターもそれが当然というように指示を出す。
迷いなく、人を殺して指示を実行しろというように。
621さんが戦うのは自分の身を救うためだとわかっている。
それのために仕方なく血に濡れているのかもしれない。
ウォルターも優しい人だと思っている。
一蓮托生で621さんをサポートする献身的な人なのかもしれない。
けれど、それでも、ためらいなく人を殺す二人が冷酷で非道な血濡れの恐ろしいなにかに感じる。
あの車椅子の弱弱しい姿がまるで偽りのように思えた。
────大きい大きい爆発音がして、戦闘音が終わる。
『621今日の仕事は終わりだ』
そして、ウォルターが621さんの名義を呼んだ。
────『「レイヴン」これがお前のルビコンでの名義だ』
先生の推理の通り。621さんはレイヴンだった。
血に濡れたレイヴンと包帯のあの姿が私の中で重なる。
車椅子の血濡れたあの人がレイヴンに変わる。
───私は今まで、彼女の何を見ていたのだろうか。
*****
誰も、何も言いませんでした。
いいえ、何も言えませんでした。
キヴォトスの人は強く銃で撃たれても死にません。
それでも撃たれることは痛いですし、怖さもあります。
だから……それがもし私の命を刈り取れるなら?
今後、レイヴンちゃんの目を見る時、621さんの目を見る時、私は同じように見れるでしょうか。
そして、それに気を取られたから、私は私たちは気づかなかった。
ガラリと開いた委員会室の扉と、帰って来たホシノ先輩に。
「いやあ~みんなごめんね。お土産買ってきたから──
「621さんはレイヴンちゃん……なんですか」
────知られちゃったんだね」
口をついてでた言葉に反応されて振り返る。
私の周りにいた皆も大きく振り向いてその小柄な先輩を見た。
彼女は悔しそうに目を細めながらも少しだけ微笑んで───
「話すよ、レイヴンちゃんから聞いたこと」
片手に持ったお土産の袋を掲げて先輩はそう言った。
覚悟はしてても実はしてたつもりだったって時があると思ってます。
特に彼女たちは学生なので……生徒絶対助けるマンの先生とはガンギマリ度合いが絶対違うと思うんですよね。