猟犬烏の青春   作:面無し

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2-31 秘匿の明けに夜が来る

 

 

 

「何からがいいかな……」

 

ホシノは皆に微笑みを浮かべながら、ゆっくりと椅子へ座った。

 

「皆座らないの~? おじさん今日は歩き疲れちゃったよ~」

 

そうして皆にもう一度笑顔を向けるも、誰もそれに返答を返せなかった。

先生を除いて。

 

「ホシノ、おかえり。レイヴンの昔の事からお願いしてもいいかな?」

 

彼はそうホシノへ問いかけた。この場で唯一の大人はあの音声を聞いたからこそ、レイヴンのことを知れる機会があるならば逃してはならないと考えていた。

ホシノはそれに頷く。

 

「そうだね。といっても過去のことはあんまりかな」

 

彼女は一息ついて遠くを見ながら言った。

 

「五感を強化する手術を受けたらしいよ……『強化人間』って言うんだってさ」

 

『強化人間』その単語に今まで何も口を出せていなかったアヤネが反応した。

 

「待ってください。621さんは五感の強化どころか……」

 

「そうだね。実際手術としては上手くいってなかったらしいよ。

彼女に残ったのは、あの時アビドスの皆で聞いた質問の通り、ほぼ死にかけの五感と肉体だけ」

 

そう言って彼女は自分の手を見て言った。

 

「レイヴンちゃんの車椅子の体は手術の跡ばっかりだったよ。皆で最初にあの子の状態を調べようとした時に見たよね」

 

そう言ってホシノは委員会室のメンバーを見渡す。先生以外のメンバーは目を下げてしまっていた。

 

「その手術は……誰が?」

 

「ウォルターでないことは確かだよ。レイヴンちゃん、在庫処分されるとこだったんだって」

 

────在庫処分。

おおよそ人に使うべきでない言葉に先ほどの強化人間の下りから、苦い顔をしていた先生は今度は握る手に力が籠ってしまっていた。

その顔を見てホシノは続ける。

 

「先生の気分、よくわかるよ。人に対してそんなの信じられないよね。

あの子の世界はさ、すごく厳しいみたい。車椅子はとりあえず水と食べ物を入れておけば大丈夫にしないといけないくらいね」

 

「とりあえず入れるなんて……そんな」

 

音声の先にあった世界、その無慈悲さが容易に想像できる情報だった。

先生は握った手を緩めることができないでいた。想像すればするほど、あの少女に降りかかった理不尽に対する怒りが止まなかった。

ホシノはそんな震える先生に続けた。

 

「前に芋虫を食べたって話があったでしょ? あれは、あの車椅子に入れたかもって事みたい」

 

びっくりだよねなどと、ホシノは微笑む。

 

「すごい技術で……ひどいよね」

 

けれど、微笑みながらもあの時聞いたことの重さを改めて彼女は感じて目は笑っていなかった。

 

「あとは……あの校庭の機械の話をしなきゃね」

 

そう言ってホシノは机に放置されたレイヴン世界の技術書に手を伸ばす。

ACとC兵器を除く、嘗てレイヴンがいた世界の兵器たちについて書かれた資料を眺めて、やっぱり載ってなかったよねと確認してホシノは言った。

 

「あれはね……『アーマード・コア』って言うんだって」

 

嘗て紹介された照会文の一部を変えて彼女は伝える。

 

「人型をメインの形にして、四肢と頭部、胴体を交換可能な───汎用兵器」

 

音声の再生されていたPCを指さしてホシノは続ける。

 

「みんな聞いたと思うけど、レイヴンちゃんは多分操縦者としてもすごく強かったんだと思う。それこそ、あの普通に動く体になって、慣れない戦闘でもあんなに強いくらい」

 

そこまで言ってから、ホシノは先生に目を向けて言った。

 

「レイヴンちゃんの体は二つある。片方は車椅子、もう片方は自由に動く方……片方は機械だよね」

 

「ホシノ知ってたの……まさかレイヴンも」

 

先生は先程シロコに伝えた事をホシノも知っていたのかと声を上げる。だが、ホシノはそれに首を横に振った。

 

「本当にそうなんだね」

 

鎌をかけられたのかと先生は固まる。

聞かされていなかったアビドスの三人が一斉に先生を見た。

 

「先生、どういう事、レイヴンが機械って」

 

セリカが初耳の情報について先生に問いかける。

その目には、自分が知らない何かがこんなにも多く、それが先生にもあった事に対する憤慨があった。

 

「ん、待ってセリカ、先生にも事情がある」

 

そう言って彼女と先生の間に入ったのはシロコだった。

先程聞かされた彼女は先生にも事情があることを弁明する。しかし、

 

「シロコ先輩も知ってたんですか」

 

それに反応して今度はアヤネもシロコに向けて言った。

二人は秘密にされている事を知りたくてここまでやって来た。

レイヴンの機械の体については今が初耳で、シロコが見つけたホシノの退部届けもまだ二人は知らない。

彼女たちは知らない事が多い今への怒りがあった。

 

「待ってください、アヤネちゃん、セリカちゃん」

 

けれど、そんな二人を止めたのはノノミだった。

彼女は先輩で、シロコの同級生であり、先輩のホシノとの付き合いも長い。

二人が話せない理由もそれが二人が話せるなら話していることを理解していた。そして、その二人と同じく、大人の責任という大きなものを持つ先生の立場も。

彼女は三人に向けて静かに言った。

 

「理由を教えてください」

 

そのノノミの言葉に先生は頷いた。

 

「レイヴン自身も知らないかもしれないから、皆を迷わせたくなかったんだ」

 

「ん、今回のことが終わったら私のと一緒に皆に話す約束をしてた」

 

「レイヴンちゃんが知らなかったのは本当だよ。おじさんもレイヴンちゃんから聞いたからね」

 

そう言う三人にいったん二人は黙る。

ノノミは続けて問いかけた。

 

「詳しく、教えてください。レイヴンちゃんが機械っていうのはどういうことなんですか?」

 

「レイヴンのあの体は621さんの体から遠隔で操ってるロボットらしい」

 

その言葉に補足をするようにホシノも続ける。

 

「二つ目の体は……レイヴンちゃんが元の世界から来るときにできたみたい。

詳しくは知らないけど、621の体の方が本体なんだと思う」

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「それで……レイヴンさんは倒れたんですね、621さんが居なくなって、体の移動ができないから」

 

アヤネが理解ができたそう言って、もう一度ホシノを見た。

 

「ホシノ先輩、教えてください。まだありますよね?」

 

全員の視線がホシノへ向く。ここまで秘密にしたのだから何か621の居場所の手掛かりがあると全員が考えていた。

 

 

──しかし、ホシノは俯きながら首を横に振った。

 

「ごめんね。これ以上はおじさんは本当に教えてもらってない」

 

期待していた情報は全くなかった。それを隠されていたことに皆がどうしてと思う中。

その言葉に先ほど二人をなだめていたノノミが唇を震わせていた。

 

「……じゃあ何のために秘密にしてたんですか? ホシノ先輩が借金を何とかするって言ってたのに関係があるんですか?」

 

問いかけにホシノの返答の間が開く。

ノノミはもう一度念を押すように言った。

 

「答えてください」

 

「……レイヴンちゃんが、621さんだってことを昨日から数えて一週間秘匿すること。それで借金の肩代わりを打診されたんだ」

 

俯くまま、ホシノは答えた。

 

「誰からですか」

 

「前から知ってるやつで、黒服って呼んでる……大人がいるんだ。

レイヴンちゃんの二つの体で移動できることは、そいつから教えてもらったのを、二人で確かめたんだ」

 

ホシノがいなかった風紀委員会との戦闘の間にあった不在に説明がついた。

そして、その間に起こった621の誘拐事件にまで、その情報があれば説明ができた。

 

「そんな都合のいい話……罠でしかないじゃないですか!?」

 

二人を止めて我慢していたからこそ、ノノミはもう我慢できなかった。

 

 

「ここまで秘密にして借金を返すって、バレなかったらホシノ先輩はレイヴンちゃんを見捨てるつもりだったんですか!?」

 

 

───その言葉をホシノは俯いたまま聞いている。

 

 

「先輩にとってアビドスが大事なのは知ってます! でも、それのために先輩はレイヴンちゃんを犠牲にしていいんですか!?」

 

 

 

───ホシノは答えない。

 

 

 

「答えてください!!」

 

 

 

 

「ノノミ」

 

声をかけたのは先生だった。

自分の頭に血が上っていたことを悟ってノノミは口を噤んだ。

 

「ホシノ教えてほしい。この後はどうするつもりだったんだい? 私に、私たちにできることをさせてほしいんだ」

 

彼は自分の胸ポケットにしまった退部届に意識を向けていた。

ホシノは、少し間おいて、立ち上がる。

 

「レイヴンちゃんを助ける算段はつけてたんだ」

 

彼女は自分の鞄へと近づいて中から一つの封筒を取り出した。

皆の視線がそれに集まる。

 

「でも……ダメみたい。私のことは……恨んでいいから」

 

差し出された封筒に皆の目が行き、ホシノの言葉にシロコが問いかけようとする。

 

「ホシノ先輩……それはどういう───

 

ゴトッ

 

──え」

 

何かが落ちる音と共に、委員会室は煙に包まれた。

全員が怯む間に、ドアの開く音がする。

シロコは思わず叫んでいた。

 

「先輩! 待って!!」

 

手探りで部屋を出る。

廊下まで湧き出た煙で視界が塞がれて、シロコはホシノを追えなかった。

彼女は新しく入り、今まで黙っていたもう一人を呼ぶ。

 

「メット!!」

 

『分かってる!』

 

彼女は答えた。しかし……

 

『ダメだ……アヤネと私がいることをわかってて、電源切ってやがる!』

 

メットの返事にシロコは苦い顔をしながら窓を探って外へと飛び降りる。

校庭へ走り出て見渡しても、ホシノはどこにもいなかった。

一度見失えば……校舎であればホシノはどこからでも、窓からでも出ても良い。

メットとアヤネの追跡が対策された時点で、終える手段はもうなかった。

 

「ホシノ先輩……」

 

シロコの呼びかけは暗くなった校庭へ消えていった。

 

 

 

 







レイヴンのルビコンでやってたこともわかったしホシノも出て行ってしまいましたね。
アビドスではここからの話が書きたかったところがありますからね。
頑張っていきたいと思います。

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