猟犬烏の青春   作:面無し

36 / 67
誤字報告等いつもありがとうございます。

よろしくお願いします。


2-32 契約

 

 

 

包帯のレイヴンちゃんが居なくなった。

それを聞いて、あの時から変わってない自分に辟易した。

短絡的に動いて、それをずっと後悔する。どれだけ先輩としてふるまおうと、しっかりしようと気合を入れようと。

 

───私はバカな私のままだ。

 

アイツは私がアビドスを大切なのを知っているから。

アビドスを見捨てられないのを知っているから。

 

だから……

 

『レイヴンさんが強化人間C4-621である事実を秘匿してください』

 

そんな契約を私に持ち掛けたんだ。

 

『報酬としてアビドスの抱える借金、そのすべてを私で肩代わりいたします』

 

ずいぶんと甘い条件だと思った。私の身柄をずっと確保したがっていたのに。

 

『期間は一週間です』

 

しかも期限まである。

たった一週間、一週間レイヴンちゃんのことに口を噤めば、借金は解決する。

その後はもし皆にバレたらレイヴンちゃんにも相談して正直に話してもいい。

 

私にもわかっている。現状のアビドスは火の車で、車椅子のレイヴンちゃんのことへの対応は難しい。

私のわがままで面倒を見ている以上、皆に負担はこれ以上かけたくない。

 

先生の手伝いの依頼をこなせば他の大きな学校との伝手もできる。

借金を解決して、先生の依頼もこなせばアビドスの金銭的な復興に手が出せる。

大きな学校の伝手はそのままレイヴンちゃんへの治療にもつながる。

残る問題は砂嵐と人を戻すことだけ。

 

『今までと内容が違う……どういう魂胆?』

 

もちろん最初は疑った。どう考えたって怪しい取引だ。

レイヴンちゃんにとって621さんが弱点なのは私もわかっている。

私が秘密にしている間に何かあればと考えるのは当然だった。

 

『事情が変わったのです。それが一番得をすると判断しました』

 

『得だと? 詳細を話せ。このまま乗る気はない』

 

今までと話が変わるなら、今までのアビドスから変わったところ、レイヴンちゃんか先生しか該当しない。

二人に何かあるなら、それは避けたい。

 

『承知しました。変わった事情というのはレイヴンになります』

 

やっぱりだと思った。こいつはレイヴンちゃんの何かを狙ってる。

黒服は続けた。

 

『私は彼女に協力を依頼したいと考えています。あらゆるを焼き尽くすルビコンの災禍、そして策謀を破壊するイレギュラーとして』

 

『それを信じてやる根拠は?』

 

『レイヴンさん本人にお聞きください。彼女の名として十分なのかと』

 

言っていることが正しいなら、621さんを守れば利益は大きい。

でも、今の状態からでは車椅子の体の防備も固めてからにしたい。

今この場での決断に私は手が出せないでいた。

 

『ご安心ください、この契約の期間中、私がレイヴンと強化人間C4-621に接触することはないとお約束しましょう』

 

私の内心を読んだような提案もする。都合が良すぎる。

けれど、事実でさえあれば、レイヴンちゃんの見立て通りならこいつは契約を破れない。

私が秘密を破らなければ、皆に感知さえされなければ、何とかなる。

 

『それに、これを』

 

そして、黒服が出した資料が決め手になった。

『地籍図』土地の所有権を記した地図……アビドス砂漠から、今のアビドスの周辺、大部分がカイザーのものになっていた。

カイザーの今までのやり口、マッチポンプなんかを考えれば、これのまずさがわからないわけがなかった。

 

『まさか……これなら』

 

『そう、アビドス周辺は彼らの土地です。その土地での行動がどのような結果になるか、あなたには想像がつくのでは?』

 

クックと黒服は笑った。

私の中に、出てくる想像なんてこいつもわかっているだろうに。

このカイザーの土地の中で起こったトラブル、当然みんな解決に動くだろう。

それがそのまま命取りになる。

 

どうとでも理由をつけて金利をあげたり保証金でもつければ、私たちに反論はできない。

そもそもが、金利で火の車なのがアビドスの状態なのだ。

 

しかも……

 

『そういえば、ゲヘナの風紀委員が今アビドスにいるそうです』

 

黒服が端末を取り出す。そこには監視カメラ越しで戦うレイヴンちゃんとゲヘナの風紀委員たちがいた。

受ける以外の選択肢はなくなってしまった。これを放置すれば、アビドスは……どうしようもなくなってしまう。

 

『……わかった』

 

私は契約を放り出せなかった。

 

『クックック、ご懸命な判断です。我々としてもレイヴンとは良い関係でいたいのですよ』

 

そう言って出された契約書に名前を書く。私そのまま急いでアビドスに帰った。

風紀委員の人たちを撤退させて、皆でアビドスに帰れば、あとはレイヴンちゃんをずっと守る。

 

たった一週間、一週間だけ、皆に黙っていればそれでいい。

アビドスではレイヴンちゃんの世界の技術を扱えるだけの知識はない。

黙ってさえいれば、一週間くらい秘密にできるはず。

 

 

───そう、思っていたのに。

 

 

 

『621さんが……攫われました』

 

それは起こってしまった。

私は思った黒服は契約を破れないはずじゃないのかと。

ここで私は気づいたんだ。カイザーが黒服と手を組んでるだけの別組織という可能性に。

 

黒服の契約でできることは黒服の管轄のことだけだ。

あくまで手を貸しているカイザーが何かをするなら黒服に止めることなんて出来ないのだ。

 

きっと、カイザーはレイヴンちゃんを黒服に引き渡すだろう。

黒服がレイヴンちゃんとの協力を望んでるのか本当なら、あいつらは車椅子のレイヴンちゃんを黒服とのカードに使う。

 

マーケットで手に入れたマッチポンプだけでは借金の解決はできない。

状況は最悪だった。

 

カイザーから告げられた恐れていた利子の高騰も合わせて、私は誰にもレイヴンちゃんのことを話せなくなった。

アビドスを救うなら、私が皆のために今できるのはレイヴンちゃんのことを黙るだけ。

 

『どうして、どうして教えてくれないんですか!?』

 

私に詰め寄ったセリカちゃんがそう言った。

泣きそうな顔をして、私に懇願するような目をして、でも私は答えられない。

 

皆の視線が痛かった。私が隠していることが苦しかった。

だってレイヴンちゃんと車椅子のレイヴンちゃんが一緒なんて情報くらい、びっくりされるけれどもっと前にレイヴンちゃんと話してみんなに言ってもよかったかもしれない話だ。

 

でも、私は話さなかった。

どうして秘密にするのと訴えかける皆の目に心の中で謝罪を繰り返す。

そして罪悪感で痛む胸を押さえながら私は家に帰って。

ベットで倒れ、先輩の写真に目をやった。

 

『ユメ先輩……どうしよう。私……レイヴンちゃんを……あ』

 

そこまで言って気づいた。

一つだけ、レイヴンちゃんもアビドスも救える方法が。

 

 

 

───私なら、救える。

 

 

 

*****

 

 

 

アビドス対策委員会のみんなへ

 

 

まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。

みんなには、ずっと話してなかったことがあって。

実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。

カイザーに所属して、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする、そういう話でね。

 

中々良い条件だと思わない? おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ。

つまり、私にはアビドスの借金とおんなじくらいの価値があるってこと。

これを使えば、きっと621さんも帰ってこられる、そういう約束を取り付けたんだ。

 

レイヴンちゃんのことも秘密にしててごめんね。

秘密にしないといけない理由があって、その秘密を守ってれば借金を全部肩代わりしてくれるって話だったんだ。

621さんが返って来て借金が解決したら、対策委員会も少しは楽になるはず。

アビドス高校からも、キヴォトスからも離れることになったけど、私のことは気にしないで。

 

勝手なことをしてごめんね。

でもこれは全部、私が責任を取るべきこと。

私は、アビドスでの最後の生徒会だから。

だから、ここでお別れ。

 

よろしく。じゃあね。

 

 

 

便利屋の皆へ

 

621さんのこと皆に探しに行かせてごめんね。

私たちがマーケットに行く間、砂漠のことを調べてくれたり、レイヴンちゃんやメットちゃんと仲良くしてくれたり、一杯お世話になった。

依頼だからってみんな言うと思うけれど、言わせてほしいんだありがとう。

レイヴンちゃんのこと、皆はすごく気にかけてくれてるみたいだから、良かったら今後も助けてあげてほしい。

うちのメットちゃんもその時は一緒にいるかもしれないから、一緒に仲良くしてあげてほしい。

お礼を出せなくて申し訳ないけれど、お願いします。

 

 

先生へ

 

実は私、大人が嫌いだった。あんまり信じてなかった。

シロコちゃんに先生が連れられてきた時だって「頼りなさそうな大人が来た」って思ったくらいだし?

でも、先生みたいな大人と最後に出会えて、私は……いや、照れ臭い言葉はもういいよね。

 

先生。

最後に我がままを言って悪いんだけど、お願い。シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で。

悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげてほしい。

先生なら、きっと大丈夫だと思うから。

 

約束だよ、先生。

 

 

メットちゃんへ

 

最後の手紙もメットちゃん呼びででごめんね。

君にとって、アビドスへの入学はすごく大事なことだと思うから。

学生証の受け取りをしっかりして、いつか聞いたやりたいこと成功させてほしいな。

それで、君がアビドスを君の帰る場所だって思ってくれたら私は嬉しい。

 

皆と、レイヴンちゃんと仲良くしてね。

 

 

 

レイヴンちゃんへ

 

勝手にいなくなってごめんね。私がやらせてほしいなんて言ってたのに、破っちゃった。

皆に秘密にしてたことレイヴンちゃんならわかると思う。もしよかったら、話してあげてほしい。

君との秘密、もし話してくれたならきっとみんな力になってくれると思う。みんないい子だから。

君がいて、大切なものを共有できてよかった。

ありがとう。

 

 

シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。

 

最後にお願い、私たちの学校を守ってほしい。

砂だらけのこんな場所だけど……私に残された、唯一意味のある場所だから。

それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対することになったら。

その時は、私のヘイローを『壊して』。

 

 

 

封筒にあった手紙を読み上げたメットが便箋を机に置く。

ホシノの失踪後、レイヴンを隣の部屋にわざわざ運んでまで対策委員会室に彼女は来ていた。

最初の開口はアヤネだった。

 

「これ……621さんを自分と交換するって内容ですよね」

 

皆の沈黙は校庭の意味だった。

 

「じゃあ、私たちが秘密を暴いちゃったら……ホシノ先輩はまさか」

 

セリカの言葉にシロコが頷く。

 

「助けに行かないと」

 

「待ってください、先ずはプランを練らないと……」

 

そういう全員を止めたのはメットだった。

 

「待て、救出よりも先にやることがある」

 

「なに? 今の状況でホシノ先輩を追いかける以外なんて」

 

「見ろ、ここを! ホシノは最後の生徒会。学校は生徒会の管理、生徒会がいなければそいつは宙に浮く!」

 

その意図を補足する様に先生が言う。

 

「カイザーが隙をついて攻めてくる可能性がある……だね?」

 

「そうだ。学校の防備が先だ。守れって手紙にもあったろ」

 

その言葉に対策委員会はお互いの顔を見る。

反論をしたのはセリカだった。

 

「待ってメット、アビドスには対策委員会がある。生徒会がなくたって……」

 

「この状況が狙って行われたなら対策委員会はあってもなくても意味ないって可能性がある。

先生……連邦生徒会に知り合いがいるはずだな。連絡して確認してくれ」

 

メットの指摘に先生は頷いて携帯を取り出す。

その間にシロコが言う。

 

「便利屋を連れ戻そう、メットと便利屋でアビドス防衛をお願いして、他の皆でホシノ先輩を追いかければ」

 

けれど、その話を聞いたことでノノミは便利屋が探していた人物に気が行く。

 

「まってください、でも、それじゃあレイヴンちゃんが」

 

そこで対策委員会のメンバーは気づいた。

このままホシノを助けに行くなら621は探せない。

ホシノと交換だった621は借金の返済になるはずだ。

 

メットは頷く。

 

「そうだ。レイヴンの捜索は打ち切ることになる……見捨てることになるな」

 

セリカは声をあげた。

 

「ちょ、ちょっと、そんなことできるわけないでしょ!

レイヴンだってアビドスに来てくれた仲間なんだから……」

 

「殺人鬼でもか?」

 

その問いかけにセリカはすぐに答えられなかった。

音声で感じた戦場を、そこにいたレイヴンを、思い出して彼女は口ごもる。

キヴォトスにおいて死は遠く、それゆえに忌避されるものであった。

 

「メットはどうしたいの?」

 

「……私は」

 

威勢よくセリカに言ったメット自身もこのことについては決めあぐねていた。

そうして皆が口を開かなくなるなか、確認を終えた先生が皆へ伝えた。

 

「確認ができたよ、確かに対策委員会はアビドスでの正式な委員会じゃない」

 

これにより、カイザーからの進攻は確実になった。

今、アビドスの生徒は決めなくてはいけなくなった。

 

ホシノか……レイヴンか……誰も、口を開けなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。