感想、ここすき等ありがとうございます。
誤字も助かっております。
今回もよろしくお願いします!
「お前の本体は確かに閉じ込めたはずだ!! この場所についても、どうしてお前が!!」
カイザー理事は狼狽えていた。目の前にはマーケットにて巨大戦車を無傷で打倒した人型が立っている。
あの時閉じ込めておいた車椅子の人間が動かしているはずの目の前の体は本来は動かないはずで、あの車椅子の人間が意識を失えば自分にも連絡が来るはずだった。
だからこそ、それが目の前に現れた不意打ちと、それに対して周囲の大量の取り巻きが役に立たないことを理解しているからこそ、男は焦りを隠せない。
大きく声をあげた理事に、レイヴンは告げる。
「来られないようにするなら、殺しておくんだったな」
それ以外は自分がここに来られない理由になり得ないというように。
そうして、レイヴンは理事のそばで自分を唖然と見つめるホシノに目を向け、手を伸ばす。
「帰ろう、ホシノ。借金は、皆でまた話そう」
そう言う顔は普段の無表情など嘘のような穏やかな微笑みを浮かべていた。
ホシノの目に眩しくそれは映る。
「あ……うn────
ホシノは思わずその微笑みに頷きを返そうとした自分の口をふさいだ。
見捨てた筈の彼女が生きていてくれた、そのうえで助けに来てくれた。
その事実の嬉しさに乗せられて彼女は頷きそうになって、寸での所で自分のやらないといけないことを意識して停めた。
そも、今の自分に彼女の手を取れる資格など無いとも、思い直して。
「ホシノ?」
「ごめん、レイヴンちゃん。借金は私が返すよ。一週間での保証金三億円もある。
その後にもまだ9億円と利子も残ってる。今までだって頑張ってくれたみんなに、これからはもっと頑張ってくれなんて、おじさん言えないよ」
その言葉にレイヴンは手を下ろす。
それを見ていたカイザー理事が勢いづいたかのようにレイヴンに向けて言い放った。
「そうだ!! アビドスの今月からの利子は9130万! 保証金は三億! それをどうする!?
この小娘さえ我々に引き渡せば、借金のことは不問にするという今回の交渉はお前たちからすれば得難い────
ガンッ
理事の言葉は途中で区切られた。彼の頬をレイヴンのハンドガンによる銃撃がかすめていた。
「人の話には口を挟むなとママから教わらなかったか?」
カイザーは口を噤む。
カイザーに向けるレイヴンの顔には
それを見たから、ホシノはレイヴンを制止する。
「レイヴンちゃんだめだよ。ここはキヴォトスで君の居た場所じゃない。
元は私が分不相応に君のことを一人で抱えたからいけなかったんだ。先生や皆に、621の体のことを伝えて君のことをもっと守るべきだったんだ。
そうすれば、借金はもっと穏便に返せたはずなんだ、これ以外に方法なんてない」
ホシノは譲らないつもりだった。そして、ここでレイヴンについていったとしてどうしようもないことも理解していた。
最低でも、利息と保証金だけでも何とかできなければアビドスには道がない。
そして、レイヴンもそれは理解している。しているからこそ提案をする。
「ホシノ、できるよ───私なら、アビドスの借金を解決できる」
ホシノは不安だった。その方法は予想通りであれば最初の会議の時に却下したからだ。
「その方法は?」
「カイザーのトップを狙う」
ホシノは予想通りの話に首を振る。
あんな影を宿しながらも彼女は今まで見てきた彼女と変わらないと思って。
「それは前にダメって話したでしょ? 襲ったりしたらアビドスの立場が悪くなっちゃう」
ね、だから私にと言おうとして、レイヴンがそれに首を振った。
「いや、やるのは私だけだ」
そしてその笑顔にホシノは何か寒いものを覚えた。
前回、アビドスでカイザーのトップを人質にという話をした時にはなかった物をホシノは感じ取る。
「どういうこと?」
「私はシャーレに身分を保証してもらっているだけの無名の生徒、身分を隠してカイザーを潰せば、アビドスには迷惑は掛からない。
カイザーは正体不明のどこかの誰かに潰された、不幸な大企業ということになる」
そこまで聞いて、ホシノはレイヴンの言っていることを理解した。
彼女は語気を強める。
「ダメだよ。レイヴンちゃん、ここはキヴォトスなんだって。
君が昔のようなことをする必要はない。それに、私のためと言ってくれるのなら、私はそんなこと君にしてほしくない」
それはホシノの願いだった。
「キヴォトスに来て、レイヴンちゃんはやり直しできる。
その機会を私は奪えない……ここで行かせて、私はアビドスと一緒に君も守れるならそれでいい」
「やり直し……か」
レイヴンは過去を思い出していた。
惑星を焼いた時、浮上都市で戦った時、地下に潜った時、それまでの戦闘の時、自らが奪っていった物たちを思い出す。
「できないよホシノ、私がやってきた事は変わらないんだ。キヴォトスに来たからって私の過去が変わる訳ではない。私は変わらず人殺しだし、人を殺せる。これからの生き方が変わっただけで、今までが変わる訳じゃない」
事実として、レイヴンの過去はACの記録にも残っている。
そもそも、変えられない事実としてレイヴンの記憶に残っている。そして、レイヴンはそれを消すつもりもない。
「ウォルターは、望まないと思うよ」
「なら、ホシノがやってる仲間の為に身売りするのは普通なのか?」
ホシノは反論出来なかった。
九億の借金に全校生徒五人の学校など、普通からは程遠い。
今の行動も、まだ学生の子供が仲間の為にお金と変えられるなど、それは普通とは違うとレイヴンは考える。
でも、あの学校には自分の持てなかった普通もあるのだと理解していた。だからこそ、ホシノはアビドスにいるべきだと彼女は思う。
「ウォルターの望みは叶えたいと思ってる。私がカイザーを焼かなくても、他の方法でもいい。ホシノがここでカイザーに渡って、いい結果になるとは思えない」
レイヴンはもう一度ホシノに手を伸ばす。
「行こうホシノ、君が守る場所に君が居なくてどう守るんだ?」
ホシノはその手を見る。
彼女は揺らいでいた。自分の学校に居たくない訳がなかった。
けれど、その背後からまた声がかかった。
「いいのか? 今度は一人では無いかもしれんが」
「ッ!」
「口に油が良く乗ってるらしいな」
ボソリと告げられたその言葉の意味をホシノは正しく理解した。
そして、カイザー理事から出された言葉にもう一度銃を向けたレイヴンへ手を向けて制止する。
「待って、レイヴンちゃん」
「何を待つ必要がある」
「待って! わかってないの!?」
ホシノの大きく問われた問いかけに、レイヴンは事も無げに答える。
「今度はもっと攫うかもということだろう? 燃やす為の理由が増えただけだ。
ホシノ、わかってないのはお前の方だ。行こうと行くまいと、こいつらはやろうと思えば何時だってそれが出来る筈だ」
「だからって……わざわざ相手に攫われる理由を作る必要ないでしょ! 私が居なくなれば、そんな事起きなくなる」
攫われたのがお前か皆かの違いだけじゃないかとレイヴンは思った。ホシノとってのアビドスが、アビドスにとってのホシノということもあり得ると言うのに。
「お前が居ないと、寂しいよ」
「ごめんね。でも、先生も居る。後輩も皆頼りになる、私がそうだった時なんかよりずっと」
お前の変わりなどいないと言っても、無駄なのだろうなとレイヴンは思った。頼りになる後輩なら、今頼ればいいと言うのに。
「私は行く、レイヴンちゃんが行かせてくれないなら……」
ホシノは盾を構えた。できるだけ傷つけたくないと、銃は抜かずに、レイヴンを見る。
レイヴンはため息をついた。またこうなるのかと、仲の良い人と対峙するのにレイヴンはもううんざりだった。
初めて望んできたというのに、もっとうまく説得できると思ったのに、またこうなるのかと彼女は悪態をつきたい気分だった。
「分からず屋め。そこの輩をスクラップにでもすれば気づくか?」
レイヴンの銃がカイザー理事へ発砲される。
それをホシノが弾いたのが合図になった。
「下がってろ!!」
「おい、迎撃しろ!」
レイヴンを抑えたいホシノとホシノ以外を狙うレイヴン、そしてホシノがこちらに攻撃しないと見越したカイザーの取り巻きがレイヴンへ攻撃を開始する。
三つ巴にもならない泥沼の争いが始まる。
*****
私の携帯にレイヴンからの連絡が入ったのは夜も明け方になってからだった。
『今起きた、ホシノを迎えに行く、携帯で追って』
などと端的につづられた連絡を見て私は舌を打つ。
「起きたと思ったら挨拶もなしかよ!」
そうは言うが、レイヴンの頼みなので仕方がない。あいつができないところは私がやらないと。
そう思って私は皆へつながるインカムをつけた。
「あー、聞こえる?」
『聞こえてる、どうしたの?』
『何かありましたか~?』
『聞こえてるわ!』
『大丈夫です!』
対策委員会のメンバーの返答が聞こえて私は首をひねった?
「あれ、先生は?」
『……ごめんね。大丈夫だよ』
少し間を置いて聞こえた返事。何かあったのかと思いながらも私は皆へ連絡した。
「レイヴンが起きた。どういうことか知らんがホシノの居場所がわかるらしくて向かってるらしい」
『本当に!? 良かった……そしたらすぐに合流を───
先生がそう言って安堵の声を出すが、私は他の皆の反応が気になっていた。
まだせめて、良かったの一言でもあってほしかったと個人的には思ったが。
あの音声のことが皆はそれだけ気になっているということなのだろうか……でも、今はそれを気にかけてやる時間はない。
「それぞれの位置はわかってる、ルートは指定してやるから途中で合流して皆で向かうぞ。迷ったらアヤネか私に聞け」
そう言って全員へルートの情報を渡して、私はインカムを先生だけに絞った。
「先生」
『どうしたの?』
さっきの間、この人は気を張っていないとき、生徒を信頼しすぎて油断する癖がある……と思う。
「レイヴンの……車椅子の方、見つかっただろ?」
『……レイヴンと言い、敵わないなあ』
あんたがわかりやすいだけだろうとは言わないことにした。
いや、他の奴らも色々ありすぎるせいで見えなくなっているだけ。
良くも悪くも、私は新人なおかげでレイヴンのこと以外にあまり考えず俯瞰していられた。
「さっきの間からして、何かあったか?」
『それが……』
そうして伝えられた情報は私がこれはどうしようと唸るのに十分なものだった。
『レイヴンの車椅子が……壊れかけに見えるらしいんだ』
アビドス三章見る限り、ホシノはユメ先じゃないと説得ダメそうってのが私の中の定説です。