猟犬烏の青春   作:面無し

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2-40 問いかけ 

 

 

 

 

「意外だな……」

 

車椅子の制御用の口と思われる場所を開いて私はそう言った。

 

「何がですか?」

 

扉を開けたはいいが、車椅子におずおずと近づくアヤネが聞いてきた。

 

「アヤネならわかると思うぞ……ほら」

 

そうして私は車椅子の中身を指さす。私より知識のあって、私以前にも一回見てるアヤネなら分かるはずだ

開いた車椅子のごつい口、おっかなびっくりみたいに覗くのがすごく気になる。

砂漠での一件が相当にショックだったのはわかる。

だけど、今はそんなことを気にしてやれる余裕はない。

私はアヤネの後ろから口を出した。

 

「明らかに損傷の少ない奴があるだろ」

 

機能ごとでかはわからないが機械ごとに箱詰めしてブロック分けされている車椅子の中身。

そのうち私の数え間違いでなければ四ブロックの内三つは無事だった、というより無傷と言っていい。

 

「たしかに、そうですね……」

 

覇気のない返事が返ってくる。私は無視して続けた。

 

「おそらく、レイヴンの背中の部分においてあるのが生命維持装置、脊椎との接続もやってるはずだ」

 

このブロック分けされていることと、一つを除いて無傷なことは良い情報だった。

無傷な奴の中身に影響がなければ、明らかに壊れている一つを何とかできればいいからだ。

車椅子の中身の区分けは主に三つ、たぶんレイヴン自身につなが奴、たぶん車椅子を動かす奴、たぶんACとかいうやつにつながる奴。

最後に……なんかよくわからない奴。

 

私が見た限りで無事な三つのうち一つ、おそらく、生命維持と621との接続をしている奴は、非常電源か知らないが駆動音があるからまだ動いてる。じゃなきゃすでにレイヴンはお陀仏だ。

これもいい情報。

 

ただ、レイヴンが元気になるまでとはいかないっぽいというのが難しいところだ。

私はアヤネに声をかける。

 

「車椅子の車輪部分と椅子の下部にあるブロックの損傷が激しい」

 

「そうですね……下部に置くということは重いでしょうし、発電機でしょうか」

 

帰って来た返事に私は頷く、今回の損傷……おそらくはこの動力が原因だ。

 

「多分便利屋に見つけてもらうまでに無茶をしたんだろう。車輪周りと合わせて黒焦げだ」

 

「発電機からの電力をモータに長時間大きく流したのかもしれません。過電流でのショート……合わせての発火が原因だと思います」

 

すこしずつ、アヤネの返答が明確になっていく気がする。

 

「そうだ、箱は無理矢理開けないようにする。何かあっても私達じゃどうにもならん。

発電機がダメになったって事なら、各電源線を何とかすればいいはずだ」

 

発電だけならアビドスのガソリン発電機がある。

最悪モーターで発電できるから私が自転車でもなんでも漕げばいい。

問題は各装置への接続をどうするかになる。ただ、ここからがアビドスの問題だ。

 

「データ送信用のケーブルは先日のデータ読み出しの一件のものでありますが……」

 

「うん。レイヴン世界基準の電源用のケーブルなんてない。発電はいいが、直流交流も調べないといけない。でも、パッと見どっちかなんかわからないし、発電方法が水と食い物からだろ? アビドスの設備じゃどうにもできない。

そもそも、元の機能から言えば身体接続部分とAC接続部分の接続もお釈迦のはず。

あの自由に動かせるほうの体を動かすのにAC操作部分への接続が必須なら、あいつはこのまま車椅子生活だ」

 

「……そうですね」

 

アヤネがそれを聞いてとどこか安心したように息を吐いたのを見た。けれど、すぐに驚いたような顔になって、眉間にしわが寄っていく。

私は自分も気を吐いた。見分はここまでだと、緊張をほぐすために。

この先は、私たちの知識では何ともできない。

 

だから、私は大事なことを優先する。これはきっと、私にも必要なことだから。

 

「なあ、アヤネ」

 

「何ですか……」

 

さっきの一瞬で何を言われるのか不安なのか、怖がるような目つきをする彼女へ私は問いかける。

 

 

 

 

「レイヴンが怖いか?」

 

 

 

私も感じていた、気持ちを。

 

 

*****

 

 

彼女の殺意の恐ろしさを感じた。

私に向けられたものではないはずなのに、身がすくんで思わず何歩も下がってしまっていた。

あの音声で聞いた彼女が私の中で一致してしまって、あの殺意が本当は自分に向く想像をしてしまって怖かった。

 

そして未来への困惑がのしかかる感じがした。

ホシノ先輩が行ってしまった。帰ってこれるようにと先生はしてくれるかもしれないけれど、それが難しいことだとは理解している。

過去がない私に今をくれた、彼女が消えてしまう。彼女の居ない未来を、死という最近感じたものに重ねて、想像するのが怖かった。

 

最後に、今の自分への不安で足のおぼつかないような感じがした。

あの時見た人型の機械に、地下にあったというレイヴン世界の兵器からアビドスを守らないといけないというのに。

レイヴンという怖さを感じたことで、あの怖い世界にいたやつを相手にしないといけないという事実を理解して、不安になっていた。

砂漠で精一杯張った虚勢なんて、後になればなるほど尻すぼみして……あれともう一度会うかもしれないのが怖かった。

 

 

けれど、アビドスは私の大切な場所だから。

必至に自分を律して罠を張る。

 

学校の防衛用の罠を張る作業……作業をしてる間は無理矢理集中して忘れられるのが良かった。

手を止めて、止まってしまったら、頭が動いてしまうから。

 

「ん………しょ」

 

建物にできるだけ爆風の範囲に入らない形で校門の周りに爆薬を設置する。

最初に計画した部分は既に置ききってしまった。

 

「もっと……置いた方がいいかな」

 

なんて自分に言い聞かせる。

そう、きっともっと置いた方がいい、攻めてくるなら準備はし過ぎなくらいでいいはず。

けれど、そうして校舎へ目を向けるとどうしても目に入ってしまうものがあった。

 

レイヴンの……ACという兵器。

音声で聞いた、人の命を奪うために使われた機械。彼女が生きるために乗って来た機械。

意識して視線を逸らす。あの砂漠で見た彼女の視線を思い出してしまいそうだった。

 

「罠……しかけなきゃ」

 

私はわざと独り言を口にする。

用意しなきゃ。レイヴンのことは後にしよう。

そうするしかない。きっと、あとからいくらでも考えられる。

 

そう思って私はどこに仕掛けようかと歩こうとする。

ただ、皆考えるのは一緒なのだろう。ばったりと、ノノミとセリカと合ってしまった。

 

「あ……二人とも、罠は?」

 

「最初に予定してたのは終わりました……ただ」

 

俯きがちにそう言ったセリカにノノミも続く。

 

「もう少しだけおいた方がいいかな~なんて……」

 

ニッコリとノノミがいつも通りの調子の声で笑いかけてくれるが、どこか表情はぎこちなく見えた。

多分二人もそうなんだろう。砂漠での恐怖がチラつくのだろう。

だから、私もノノミに続く。

 

「ん、わたしもその方がいいと思う」

 

「そ、そうですよね!」

 

肯定してくれたセリカも合わせて、どこに仕掛けようかなんて話そうとしたところで、私たちの後ろに彼女は立った。

 

「罠はもう必要ないわ」

 

振り向く。

便利屋の社長と、その社員たちがいた。

 

「外に一杯仕掛けてきたからね~!」

 

「はい! 足りなければ後で私がどこでも仕掛けさせていただきますので!

私なんかで良ければいくらでもお手伝いしますので!!」

 

「そう。だから……ほら、社長言って」

 

そう言って社員たちを後ろにして、彼女は胸を張る。

 

「聞かせてもらうわ。レイヴンのこと、そしてあなた達が見たものを」

 

 

 

*****

 

 

 

ACのコクピット部分に入って、先生はアロナに声をかけた。

レイヴンの車椅子のヒントを得るため、いつかのレイヴンに送られた自分には聞こえなかったあの音声以外の何かがないかと求めて。

 

「接続できるかな?」

 

「はい! もちろんです!」

 

そうして、むむむとアロナはシッテムの箱からコクピットへと接続を試みる。

電源の落ちたレイヴンのAC、LOADER4の非常用電源を彼女は探す。

 

「ありました! AC、機体名LOADER4、コクピットブロックを起動します!」

 

そのアロナの声と共に、コクピット内の明かりがついた。

COMの男性の声が響く。

 

『メインシステム通常モード起動────登録パイロット、強化人間C4-621の不在を確認、外部からの不正アクセスを確認、データ削除プロセスを実kk』

 

「えい!!」

 

当然のごとく告げられたシステムの初期化を『シッテムの箱』常駐のOSであるアロナは止めた。

彼女にかかれば星間飛行可能な世界のシステムであろうと、掌握に難しさはなかった。

コクピットのCOMから新たに音声が流れる。

 

『新規ユーザーの登録を確認、ユーザー名『先生』にて登録……入力を待機』

 

「先生、お待たせしました! これで先生の問いかけに応えてくれるはずですよ」

 

そう言ってアロナは先生へとずびしっと敬礼した。

そんな頼れる生徒に、先生はお礼を言って、画面に映る彼女を撫でる。

 

「えへ、えへへへ」

 

そう言って喜ぶアロナを少しだけ眺めてから、彼はコクピットへと向き直った。

 

「データの参照をしたい」

 

『データ参照……モニターを表……』

 

声が途切れる。

問題なく進んでいたはずの処理が途切れたことに先生の背筋に嫌な予感が走り───

 

 

『不正アクセスを確認』

 

 

──現実になる。

 

 

「「え!?」」

 

 

突然の声に先生とアロナが驚く。

そして、アロナが大きく言った。

 

「先生! ここに次元の揺れが発生しています!」

 

突然、以前聞いた報告と同じことをアロナが言う。

そして、コクピットの電源がダウンと共に扉が閉まった。

 

「閉まった!? アロナ、開けられる!?」

 

「はい、すぐに!! ってあれ? あれ!?」

 

以前のアビドスのみんなから聞いた状況と同じもの。

アロナの慌てた声が響く。

 

「私とは別の誰かがここにアクセスしてます!」

 

不正アクセスの原因がその外部の誰かだということを察して先生は唸る。

 

「今すぐ支配権の取返しを……」

 

そうアロナが言いかけたのと同時にまた二人に衝撃が走る。

 

「「えぇ!?」」

 

 

 

────ただし、違う理由で。

 

 

 

「明かりがついた!?」

「あなた誰ですか!?」

 

 

 

先生が声を上げたアロナに反応して画面をのぞき込む前に、シッテムの箱は暗転した。

そして、暗闇の向こう、青空の下の教室の下でOSの彼女は見た。

 

 

 

白く、長い髪に、赤い瞳をした少女の姿を。

 

 

───そして少女が、教室の机に一冊の本を置いて消え去る姿を。

 






シッテムの箱は無法なのでね……簡単にアーカイブやらデータは見れないんですねぇ、先生!
※グラマトンで見る限りシッテムの箱の乗っ取りは難しそうなので乗っ取りとは別の予定です。
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