猟犬烏の青春   作:面無し

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いつも感想ありがとうございます。

今回もよろしくお願いします。


2-42 良い知らせ

 

悪い知らせと、いい知らせと、もっといい知らせ。

何時かの映画で見たようなセリフにアルは少し興奮気味に、けれど格好をつけて答えた。

 

「そうね。じゃあ悪いのから聞こうかしら」

(くぅー! 言ってみたかったのよ、こういうの!)

 

それを内心わかってか、メットは少し笑いつつもじゃあといって答えた。

 

『カイザーの連中が来た。レイヴンとこの劣化コピーが……確認できるだけでMTと四脚がいる』

 

確かにそれは悪い知らせだとその場のだれもが思った。

もちろん、当初の予定からすればずいぶんと猶予のある襲撃であることは確かだが、レイヴンの世界の兵器が劣化とはいえあることを考えればある程度不利であることは避けられないからだ。

 

けれど───

 

「それじゃあ、いい知らせっていうのは?」

 

カヨコからされた問いかけ、その声にはアヤネが答えた。

 

『敵の数が当初想定していたよりかなり少ないです』

 

具体的には、三分の一以下というアヤネの報告を聞いてかなりの驚きを通信を聞いていたメンバーは隠せなかった。

本当はもっと大群の兵器がすぐ押し寄せて、じり貧覚悟でやっていくつもりだったのだ。

 

「いいじゃーん! これで戦いやすくなるね☆」

 

「そうですね! 十分撃退できる可能性が高いです」

 

そう言ってノノミとムツキが歓声を上げる。

そして、レイヴンのACコクピットから出てきた先生が、校庭の皆へ手を振りながら問いかける。

 

「そしたら、最後のもっといい知らせって?」

 

最後の知らせ、相手が少ないより、どんないい知らせなんだろうと皆が期待して通信に耳を傾けた時だった。

 

 

 

バラバラバラバラバラ

 

 

何かが羽の羽ばばたくような音がする。

 

「何よこの音?」

 

セリカがそうつぶやいて皆が空に目を向ければ────ヘリが一機。

アビドスへまっすぐ向かってくるそのヘリを見ていた皆の通信機に、ヘリから通信が入った。

 

 

 

『久しぶりだね先生』

 

 

 

その声を聞いて先生は驚きのまま彼女の名を返す。

 

「ウタハ!?」

 

その声にサプライズが成功したと、楽し気にヘリの彼女は答えた。

 

『ヒビキとコトリも一緒だよ』

 

『どうも~先生』『お世話になってます! 先生』

 

ウタハの声の後ろからウタハの後輩二人の声もする。

 

そして───

 

『先生! 返事できなくてすいません、私もです!!』

 

「ユウカまで!?」

 

キヴォトスにおいて最も力のある三大校の一つであり、最先端の技術を持つ学園『ミレニアムサイエンススクール』。

その中でも『マイスター』と呼ばれる機械製作と修理の専門が所属する『エンジニア部』。

その部長こと白石ウタハと後輩部員二人、猫塚ヒビキと豊見コトリ。

そして、ミレニアムの生徒会『セミナー』の会計、早瀬ユウカ。

 

合計四名の援軍がアビドスの空へやって来ていた。

 

まあ、なんだ……と通信越しのメットから補足のが入る。

 

『強力な助っ人参戦って……もっといい知らせだろ?』

 

「ええ、これ以上ないわ!」

 

アルがご満悦の内心が漏れてしまっているにやけ顔で返したそのキメ台詞に、揶揄いや異を唱える者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘の準備をしよう」

 

空のヘリを見ながら先生はアビドスと便利屋の皆に言った。

 

「レイヴンはウタハたちに任せる。相手は何故か少なくなってるし、上手くいけば余力も残して勝利できるはず」

 

その言葉に皆が頷くのを確認してから、先生は降りてきたウタハたちへと走って向かう。

先ほどコクピットで得たあの本を見せるために。

 

「ウタハ!」

 

「先生、久しいね。レイヴン……車椅子のレイヴンは?」

 

先生の呼びかけに、空での自信があったような声からは少し落ち着いて、緊張の入った声でウタハはそう言った。

その問いかけに彼女がそれを知っていることに驚きながらも先生は首を横に振る。

 

「とらわれてた時に無茶をしたらしい、大方の見分はアビドスの子たちが済ませてくれてる」

 

「わかった。一応生命維持用の機器を医療系の部活から幾らか借りてきはしたが……車椅子のヒントはないと思っていいかな?」

 

それを待っていたとばかりに先生は本を取り出す。

これを見てと差し出して、開いた先生には白紙に見えるページを見て、ウタハは唸った。

 

「これは……設計図だな」

 

パラパラとめくって本を見ていく彼女の手を横からエンジニア部の後輩二人も覗く。

 

「武器……弾薬類……ミサイル……これはロボットの腕? 確か車椅子でしたよね」

 

「ああ、ここにあるのはほとんど武器関連に見えるが……」

 

武器と聞いて、先生は自分の見つけたそれは外れだったのだろうかと苦い顔をする。

しかし、めくっていく彼女たちの手が一か所で止まった。

 

「これは……」

 

「ここからは武器じゃないですね……発電機なんかが載ってるみたいです」

 

その言葉に通信機越しのアヤネが反応した。

 

『レイヴンさんの車椅子は電源の故障が主原因だとわかっています。そのページが役に立ちます!』

 

それで解決と言う声だったが、しかしとウタハは一度止める。

 

「待ってくれ。確かに設計図だが、見たことない部品だ。設備と資材はある程度あるが、一から再現するのは骨だぞ」

 

見てくれと解説だけで作れるほどものと言うのは甘くない。

細かい仕様なども合わせてそれらはできている。間違えれば全ておじゃんと言うことも有り得る。

しかし、それにも安心しろとメットは返した。

 

『ミレニアムの電子部品と互換する物品を教えてくれる音声ってやつがある。

データケーブルしか今のところ確認してないが、その設計図がアイツのための物なら音声の中に互換物品の情報があるはずだ』

 

ウタハはそれを聞いて顎に手を当てる。

少し思案して、確認する様にメットに投げかける。

 

「ミレニアムの電子部品との互換だったんだね?」

 

『現状確認したのはな』

 

「分かった。ミレニアムの物販で売ってるものなら私たちで全て把握出来ている。

ある程度物品が分かれば残りは私達の知識で埋め合わせして……うん。この設計図も合わせて車椅子の機能回復については大丈夫だろう、任せて欲しい」

 

「うん。お願い」

 

そうして、足早に校舎へと設備やらをもって走っていくエンジニア部を見る先生にユウカが声をかけた。

 

「先生、レイヴンさんが車椅子っていうのは、本当なんですか?」

 

その言葉に先生が頷く。そして、彼女たちがここに来た理由、返信がなかった理由を聞く。

ユウカはホシノさんがミレニアムに尋ねて来たんですと答えて、経緯を話し始めた。

 

「レイヴンさん自身について、何かあればウタハさんを頼るようにと二人で話していたようです。

それが昨日の日中の話で、最初は半信半疑という部分もありましたが、レイヴンさんについて詳しいこと、先生がアビドスへ出張中とのことだったので、協力を承諾したんです」

 

「そうだったんだ。でも、学校間での移動によく許可が出たんだね。大丈夫だったの?」

 

先生の疑問はもっともの話。ミレニアムは三大と言われる大きな学校である。

その生徒会の役職持ちと技術職トップのエンジニア部が他校に行くとなれば場合によっては以前のゲヘナよろしく外交問題になりかねない。

通常は先生の依頼を受けて先生と共にというシャーレの依頼でという形式でもなければ学校間でそういった事は難しいはずなのだ。

それに関してと、ユウカは眉間にしわを寄せながら言う。

 

「確かに下手に動かすとダメなんです。先生からの連絡はホシノさんが来られた時にはなかったので。

ただ、幸い私もエンジニア部の三人もシャーレに登録のある生徒です」

 

そこまで聞いて、先生は合点が言ったように頷いた。

 

「私がホシノを通じてミレニアムのシャーレ所属生徒を呼び出したことにしたんだね」

 

「そうです。ただ、そうなると後から来た先生の連絡に私が対応してしまうと、ホシノさんを通じての話に整合がつかなくなるのでという事になるので……さっきまで連絡は届かないようにしてたんです」

 

返事できなくてごめんなさい。とユウカは先生に頭を下げた。

良いんだよと先生は言う。

 

「来てくれて本当に良かった。この後は私は防衛線の指揮をしてくる。

ユウカはウタハたちの方をお願いしていいかな?」

 

「はい! もちろんです」

 

そう先生とユウカは示し合わせて、別れた。

先生は、準備をしてきた生徒達へ合流しながら、遠くにいるホシノへと思いを向ける。

 

(ホシノ、君はやっぱりアビドスに必要だよ。レイヴンのことを、君が救ってくれた)

 

力のない自分に出来たのはヒントを渡すくらいだと先生は改めて思う。

けれど、そのヒントを得られたのは自分が踏み込んだからだとも、先生は理解していた。

 

(君を迎えに行くよ。レイヴンと一緒に)

 

そう強く決意しつつ。先生は皆へと声をかける。

 

 

「皆! 準備はいいかな?」

 

その声に、合わさった皆の声が重なる。

 

『はい!』

 

「じゃあ、行こう!」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

車椅子のレイヴンを見た。

あの日、軽い気持ちでカードキーを渡した時に見た、黒髪の姿を横に座らせて、包帯巻きの君がいる。

寂しがる君へ思わず世話を焼いて、手を貸したいと思ったのは本心だったが、まさかこんな形とは思わなかった。

 

アビドスの一年生のアヤネさんとメットさんに大方の見分は聞いた。

我々に比べて詳しくないとは言っていたが、それは当然我々はそれを専門にやってきたのだから。

それよりも、分からないなりに、下手に手出しせず、中を見やすいように、清掃して出来る限り情報を集めてくれていたのが助かった。

おかげてすぐに作業ができる。

 

「よし、始めよう」

 

「了解ー」「はい!」

 

最初は念のために持ってきた医療器具をヒビキとコトリに任せて、アビドスの二人が言っていた音声を飛ばし飛ばしで聞いて、物を見つつ、設計図を私の知る物品で改めて設計し直していく。

本来こういうのは時間をかけたほうがいいが、事前の見分で非常用電源の可能性が示唆されている、急ぐほかない。

 

(これでも部長を張らせてもらっているのでね……急ごしらえでも、しっかり動作は保証できるものにするさ)

 

そうでなければ私がここに来た意味がない。多少の話はホシノさんから聞いたよ、レイヴン。

五感がほぼないんだって? しかも、ずいぶん酷いところに居たらしいじゃないか。

星間飛行もできるような人類が、人を使い捨てにするように技術を使うなど……なんと情けないことか。

 

別世界のことではあるが、ロマンを求める者、技術屋として、寂しがりの君に贖罪したい。

まずは手始めに……君の命から救って見せよう。

 

「二人とも、設計図ができた。首尾はどうだい?」

 

「うん。内臓代替装置『内臓ないぞう』設置完了だよ。最悪腰の接続部分を弄って繋げれば大丈夫だと思う」

 

「こちらの生体管理システム『人体まっぱー』も起動完了しました! ないぞう君と連携して生命維持準備完了です!」

 

二人の返事に頷いて私は号令する。つい先ほど出来上がった水と炭水化物から電気を生成する新発電装置。

元々の装置とは違って何を入れてもエネルギーにとはいかないが……命名しよう!

 

「始めようか! 『ごはんちゃん第一号』の作成、および車椅子への接続を開始する!」

 

「了解!」「はい!」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

────沈んだ意識の中で昔々の忘れていた景色の夢を見た。

 

 

 

ボロボロの街並みに、薄汚れたボロを着てそこを歩いていた。

お腹はもう空腹も感じないほど空いていて、とぼとぼと歩きながら私は当てもなく進む。

 

今日は上手く食べ物を盗めなかったから、いくらか打たれて、さっき目が覚めた。

あんなにいっぱいあるのだから一つくらいくれてもいいのになと思う。

 

寝床に戻るにはまだ時間は早いから、その間に何か食べるものが欲しかった。

けれど、ここでは恵んでくれるような人はいないし、子供は皆食べるものを競争するから。

落ちてるものはないし、誰かから盗みでもしないと食べられない。

 

でも、市場はさっきの失敗で目をつけられたから今日はもういけない。

どうしようかなと私は悩む。

 

最近は子供の行方不明事件が多いと噂が出ていた、日が暮れるまでには戻りたい。

最近知り合ったあの子も追いかけないといけないし……

 

「あれ? あの子って、誰だっけ……」

 

私は不思議に思うけれど、お腹がまずは先決だ。

どうしようかな。確か、最近市場外れの料理店の裏側に出入口が新しくできたとか聞いたっけ。

 

「そこに行ってみようかな」

 

料理店に入りさえできれば残飯あたりを盗めるはずだ。

外れにあるから私も警戒はまだされないはず。

 

決めたら早くいこうと私は歩く。

市場までは遠くない、お店にもすぐつけるはず……

 

 

 

 

「おい」

 

背中から誰かの声がする。

振り向くと、いかつそうな顔をした男が立って私を見下ろしていた。

 

「生意気な面しやがって……」

 

知らない男が立っている。

生意気なんて失礼な奴だ。言い返そうと思うけれど、私の口は動かなかった。

男は私の顔を見て忌々しそうにしかめた後、私の顔に指をさす。

 

「さっさと起きろ。綺麗にくたばろうとなんざしてんじゃねえ。

お前のくだらない昔の話になんざ俺は興味はねえんだ」

 

意味が分からない。私は今日までこの……この街で生きて? なんて街だっけ?

 

「あのふにゃふにゃ声の、まっピンククソちび女を追いかけるんだろうが、なんで俺がお前のお守りなんか……」

 

ホシノをクソちびとは何を言うのか。ちんまりして可愛いじゃないか……あれ?

そうか、ホシノを追いかけないとだったんだっけ?

あれ? でも私……

 

 

私の動かない口に男は何をバカをと言いたそうに返事をした。

 

「お前の口なんざもうないだろ。芋虫みてえな体しやがって」

 

そうだ、私は……もう何もできないじゃないか、あの車椅子がないと。

何もできないただの芋虫の人間だ。ウォルターがいないと意味もないただの廃棄物。

 

「さっさと起きろ、ここにはお前の求める物なんざねえ」

 

私はこの男の声を思い出した。

毎回噛みつくように私に生意気を言ってくる。この声を私は知っている。

 

「迎えに行くんだろ」

 

なんだか、今日は少しだけこの男が私にやさしく思える。

声のことを思い出せば、街並みは崩れるように消え去っていた。

そう、ホシノを迎えに行くと私は決めたから。

 

『行ってくるよ、ありがとう』

 

私は動かない口で彼にそうお礼する。

彼は信じられないものを見たような顔をしてシッシッと私を払った。

 

「なんだ気持ち悪ぃ、行け」

 

その言葉に頷いて目を閉じる。

夢が覚めるような浮かぶような感覚と一緒に、聞きなれた声がする。

 

『脳深部コーラル管理デバイスを起動、強化人間C4-621、起動』

 

そして、もう聞けない救いの声が頭の中でリフレインする。

 

 

 

 

「621、お前に意味を与えてやる」

 

 

 

はい、もちろんです。我が主よ。

貴方の下さった意味(人生)に従って、貴方の遺志(願いに)に従います。

 

 

 

「仕事の時間だ」

 

『任務了解』

 

 

目を、開いた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

あいつが消えたことでまた霧散する意識の中、あの犬から受けた礼に眉間にシワが寄る。

気に食わない、本当に気に食わない。変わらないイラつきに軽い舌打ちをして、俺はまた意識を消した。

 





さて、これからは攻めるだけですね。
ホシノサイドは市街地戦後の予定です。

今後ともよろしくお願いします。
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