よろしくお願いします。
ユウカとウタハがいた。その奥にはヒビキとコトリもいる。
目を開いた私を見て、真剣そのものだった四人の顔が微笑むのを見た。
「おはよう、気分はどうかな? レイヴン……621の方がいいかい?」
そう聞く彼女に何とか返事をするために、私は目を閉じる。
「あ、あれ? 何かしら反応をしてくれると思ったんだが……」
ちょっと拍子抜けしたような声を出す彼女に私は言った。
「できればレイヴンがいいかな。621はそう呼んでほしい人がいるから」
ウォルターに出来れば呼んでほしいから、区別をする以外でならそう呼ばれたい。
隣で座っていたもう一人の私がいきなり声を出したことで、四人はびくりと肩を震わせる。
「いきなりだとわかっていてもビックリするね」
「本当ですよ! おはようございますレイヴンさん」
「上手くいったみたいでよかった」
そう言って喜んでくれるエンジニア部の三人。
ホシノもそうだけれど、みんな驚いてくれるから少し楽しい。
今の状態は……私が失敗して学校に戻ってというあたりか。
私はユウカに目を向ける。
「ユウカ、先生や皆は?」
「今は学校の防衛中よ。確かカイザーかららしいわ」
防衛? ホシノがいなくなったことでということか?
理屈が見えない……カイザーが攻めてくる可能性があるならホシノを手に入れるためのはずだ。
「どうしてカイザーが? ホシノがカイザーに渡ったならカイザーがアビドスを攻める理由は……」
私の問いにユウカは今の状況を教えてくれる。
「そのホシノさんだけど、アビドスの生徒会だったそうよ。
それから、アビドスの現在の部活、対策委員会には学校の主体組織としての公認と決裁権がない……」
それを聞いて私は合点がいった。ホシノ、私が言った通りだったじゃないか。
ただ出て行って、いい結果になんかならない。
「浮いたアビドスを力で攻略する気だな」
「そうみたいよ。私たちは先生の要請で助けに来たっていう体だけれど……」
学校という体裁の元であるホシノが現状のままだと、シャーレは実体のない学校に手を出すことになる。
他校の生徒であるユウカたちも実体のない学校への行動に表立っては協力をしにくくなっていく。
「わかった。とりあえずはホシノを取り戻す算段をつける。
防衛の途中と聞いたし、加勢に行くよ」
カイザー相手だ、再生産したMTやらもいておかしくない。
けれど、ウタハがそれを止めた。
「待つんだレイヴン、起き抜けだし、君の体もさっきまで生命維持が大変な状態だったんだ」
うんうんとエンジニア部の二人も含めて止めようとしてくれる。
「そうですよ! 先生曰く戦力的にも十分と言ってました!」
「まずは健康診断からだよ~ね?」
けれど、私が行けば早くに決着がつくし、その方が早くにホシノを助ける作戦が作れる。
私は譲らなかった。
「私の体は脳のコーラルデバイスでも管理されてる。医者のウタハたちに診てもらうのは後でも十分だよ」
そう言ったところで、ユウカが声を出す。
「ちょっと待って、医者ってどういうこと?」
その返答が気になった。
まるで、ウタハが医者であるということに疑問を持ったかのような言葉。
その言葉に私は確認のためにウタハの顔を見た。
けれど、私をまっすぐ見ていたはずのその顔は目だけが横にそらされていた。
「ウタハ……私の勘違いをたださなかったね?」
その問いかけに彼女は目を閉じて両手をあげて頷いた。
車椅子の修理も含めて、ウタハはエンジニアなのだろう……腕は確かだと思う、予想通りに。
だが、ならなぜ初めての検査の時にウタハたちが私の検査をしたか。
「この私は……人間じゃないな?」
確認したその言葉に、ユウカがえっと声を出す。
「ちょっと待ってください、そんな話は先生からも聞いてません!」
「それはそうだ、エンジニア部と先生での秘密だからね」
ユウカですら初耳だったその情報、ウタハが技術者であることが確定しているならおそらくは───
「この体のこと、どこまでわかった?」
一応聞いてみる。ウタハは首を横に振りながら答えた。
「正直、機械であること以外ほぼ何もと言って差し支えない。君の背中の翼もさっきまでついてなかったはずの犬耳もだ」
私は自分の頭に手をやる。確かに耳が生えていたし、触った感触も触られた感覚もある。
ウタハでも分からないとなれば本当に黒服の言うこと頼りになってしまうな。
私がACを駆るものとして一個体であるなら……だが今は───
「なら、この体の私が十分戦えると知っているよね。車椅子の方は好きに調べておいて」
「あ……ちょっと!」
そう言って駆けだす。ユウカが伸ばしかけた手をわざと無視して私は武器を取る。
目指すは、ホシノの所へ。皆を心配させたし……きっと私のことは怖いだろうから、少し心配だけれど。
「ごめん、また戻ったら話そう。行ってきます」
それだけ告げて私はまた廊下の窓から飛んだ。
みんなを助けて……その後どうしようと悩みながら。
******
戦闘は順調だった。
外に便利屋の皆が仕掛けてくれた罠はしっかり作動して、敵の大半を削れた。
レイヴン世界の兵器であるMTも爆弾を駆使して対応すれば何とかなったし、問題なく……見えていた。
「こいつ……固いわね!」
『四脚MT。罠もありましたしこれだけ攻撃したのに……まだ動くなんて』
アヤネさんがその丈夫さに驚く。罠を生き残った敵を掃討する中、生き残ってしまっていた四脚が最後の強敵のようになっていた。
便利屋の手持ちの爆薬はもう在庫が切れ気味とも聞いているし、先生が指示できるのは一度に五人までなのもあって連携で止めを刺しきれない。
優勢であることには変わりがないけれど、このままでは戦闘が長引く。
私よりも近くからMTを撃っていたハルカからの通信が聞こえる。
『す、す、すいません! 爆弾がもうないです! すいませんすいません! 死んだほうがいいですか!? いいですよね!?』
その通信に私は宥めるように声をかけた。
「だ、大丈夫よハルカ。きっと先生にも考えがあるわ!」
その声に反応する様に、先生が通信に入ってくれる。
『ハルカ、大丈夫だよ。なにか火力があれば……シロコ、ドローンどうかな?』
『ん、もう弾切れ』
『ん~』
先生がシロコさんからの返答に唸った。
火力と聞いて、私は頭によぎった想像に首を振った。
レイヴンは今ミレニアムの生徒が診てくれてると聞いた。
それでも、こんな短時間で動けるとまで私は確信が持てなかった。
その間にもMTの両手のガトリングが火を噴いて、ついでのように放たれたバズーカが乱れ打ちされる。
隠れていた場所が狙われ始めたので攻撃しながら移動するが、装甲の隙間を狙ってもあんまり有効打には見えない。
「ムツキも、爆弾もうないかしら?」
確認でした通信、それを聞いてくれていたムツキがうーんと唸ってからゴソゴソと爆弾入れの鞄を漁る。
「……おっと、これで最後かな☆」
そう言って、彼女が取り出した爆弾を掲げていたずらっぽく私の方を見て笑う。
それに頷いて、先生に呼び掛ける。
「最後だそうよ。先生」
『そしたらそれを有効に使わないとだね』
そう言って、先生からの通信が入れば、アヤネさんが再度四脚について教えてくれる。
『載せてある姿勢制御システムは爆弾等を使用することで効率的に乱せるそうです。
その後に総攻撃をすれば……というところですね』
『できるだけ装甲の薄いところに集中させたい。使用の指示するから、今は攪乱をお願い!』
「わかったわ!」
先生からの指示に頷いて、私は前方にいたムツキたちとは反対方向に走る。
ガトリングによる銃撃を、散開してできる限り的を分けながら間に銃撃を挟んでの牽制も入れつつ、先生の指示を待つ。
その時だった。
『先生! たぶん火力が確保できた!』
メットさんからの通信が入る。
私はあり得ないと思っていた可能性が現実になったのだと直感した。
レイヴンを信じて思わず言ったムツキへの指示が先生と重なる。
『「ムツキ、投げて!!」』
先生と被ったその指示に、ムツキはその顔をニンマリと笑顔にして、最後の爆弾を四脚へと投げ──
──────爆発。
四脚が姿勢を乱す。
そして──
「予行演習だ」
──────光の一閃。
四脚の前面装甲が両断され、ガクリと姿勢が落ちる。
そこに──
「泣きを入れたら…」
──────もう一度光の一閃が放たれた。
「もう一発!!」
二度の剣撃を受けたあんなに固かったはずの四脚は、目の前で無残な状態で動かなくなっていた。
空中で翼を広げていた彼女が、犬耳も生やした彼女が、私たちに背を向けるように着地した。
私は心の中で喝采した。
(やったわー!! 仲間を信じてのアシスト! これもアウトローよね!)
そして、そのまま余裕の表情で彼女の元へ向かう。
「レイヴン! 起きたんだね!」
私よりも後方にいた先生が着地したレイヴンへ駆け寄りながらその背中に声をかける。
後方にいた先生以外にも、他の皆も集まって、彼女の元に向かってきて集まっている。
でも……
「レイヴン?」
先生のもう一度の呼びかけにも彼女は振り返らなかった。
集まった私たちが不思議そうにする中。レイヴンは突然、自分の左手のブレードを地面へと落とした。
「レイヴン!?」
私も思わず素っ頓狂な声が出る。
それを無視する様にレイヴンは自分の服からボトボトと手りゅう弾を落としていき、最後には腰につけていた銃も弾まで抜いて、地面へ落とす。
全員が唖然とする前で全ての武装を捨てた彼女が両手を上げる。そして───
「こうしても……私は怖いでしょうか?」
いつも無表情と一緒に聞こえる平坦なものではない……丁寧な口調に少し震える声を乗せてそう言った。
次回は土日中に更新で頑張ります。
さあ、みんなと話して
流儀を叩きこみにいきましょーねー