猟犬烏の青春   作:面無し

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2-44 あなたを知るために

 

四脚を倒してすこし落ち着く。

空でも思い悩んだことを冷えた頭で考えた。

 

後ろから皆の足音が聞こえたから余計に頭の中での悩みがぐるぐると回る。

私にはわかる、どれが先生で、どれがアビドスで、どれが便利屋か。

 

ルビコンでの経験が相手の音と動きでの観察方法を与えてくれる。

 

だから、足音の中でアビドスの皆だけ少しゆっくりで、私を怖がっているのがよくわかった。

 

砂漠で倒れていた時にわかっている。

隠していた事がバレたのだ。

 

私のルビコンでの事を皆は知っているだろう。

カイザーを睨む私に気圧されていたのだろう。

 

だから、あんなに怖がった顔をした。

だから、あんなに怯えていた。

 

どうしようかと考える。

せっかく仲良くなれたのにと思うところがあった。

 

ホシノのように、皆とも仲良くしたいと思っていた。

けれど、怖がられてはどうしようもないのだろうか。

 

ただ、それは嫌だった。

ルビコンで良くしてくれた人を沢山無くしたから。

ホシノのような新しい友人を見つけられたから。

 

出来たら皆とも仲良くしたい。

 

あのカイザー理事は殺したいほど憎いけど。

それだけしか出来ない奴だとは思われたくなかった。

 

けれど、私はそれだけしかやって来なかったから、それしか出来ないことを自覚していた。

 

ウォルター教えてください。普通とは、私が普通の人であるということはどう証明すればよいのでしょう。

総長、カーラ、部下の大勢いた貴方たちならわかるでしょうか。私がどうすれば皆に好かれるか。

 

そう聞きたかった。そう聞きたかったけれど、皆はもういない。

全てあの惑星と共に灰になっただろうから。

 

私は、自分でやらないといけないから、考える。

考えて、私はその自分が出来ることを手放して見せることで証明する事にした。

 

ホシノを助けるためにもう一度手には取るかもしれないけれど、今この時、この証明のために、私は私の力を皆に全て手放すと示すことにした。

 

 

 

────武器を手放す。

 

 

 

ルビコンでは弾切れのそれを手放す以外では自殺行為でしかないそれをする。

 

久々に夢であった君には、武器を手放すなんざ臆病と言われるだろうか。

でも、その通りで、私は臆病なんだ、だってこれは初めての人生だから。

 

これを手放すことが……これからの未来(普通の人生)になるならば。

まずは……彼から貰い、私の愛用したこのブレードから。

 

ガタリと音を立てて左腕が軽くなる。

地面に落ちたそれを見て、彼のものを手放してしまえばあとはすんなり手放せる。

 

便利屋から貰った爆弾を、エンジニア部から貰った銃を。

私ができる戦う為のものを捨てて、手を上げる。

私は何もしないと主張する。

 

血濡れの私自身はどうしようもなくとも、今この時、皆にそれは向かないと証明する為に。

震える声で問う。

 

「私は怖いでしょうか?」

 

口調が人のイメージになる事をルビコンで私は知っているから。

出来るだけ丁寧な口調にする。

 

ウォルターもカーラもラスティも総長もエアも声と口調がみんな違って、それがみんなの印象になった。

だから、丁寧に話せば、皆は私を怖がらない。ラーメン屋で、便利屋の皆に近づいた時みたいに。

 

 

─────皆は黙っていた。

 

 

黙っていたから、不足だろうかと私は思う。

 

「武器は皆の許可がなければ今後は取らないと約束します。先生の管理にしてください」

 

膝を着いてみた。

頭でも下げてみればいいだろうか。

 

「私はコーラルデバイスで起動と休眠ができます。エンジニア部に頼んで操作できるものを作ってもらってもいいでしょう」

 

まだみんなは黙っている。

私は私の自殺スイッチのようなものであるコーラルデバイス以上に差し出せるものを知らなかった。

 

 

────口はもう動いてくれなかった。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

私は知ってる。

 

音声を聞いて、彼女のしてきたことを。

彼女が隠してたってことは私たちに知られたくなかったってことも。

 

私はそれでも知ってしまったから。

 

『セリカおはよう』

 

最近彼女へ感じていた、同い年の親近感みたいなものも────

 

『セリカ、今日もラーメンおいしい』

 

彼女が大将のラーメンを食べて見せてくれていた笑顔も────

 

『排除しろ』

 

あのウォルターさんっていう人の声と一緒に、全部、全部、血に濡らされたような気がした。

私が見てきたもの全部嘘のように感じたの。

 

レイヴンが別の人みたいに感じて、私に見せてくれてた裏に、いつでも私なんか殺せると思ってたんじゃないかって考えた。

いつも引っかかってしまう詐欺みたいに、実は私が何かあればスッパリ行かれるんじゃないかって。

 

でも────

 

『普通の人生を生きたいと言ったわ』便利屋の社長さんも教えてくれた。

 

621さんの音声を聞いて知ってる。

 

レイヴンは初めてラーメンを食べたって。

車椅子を見て知ってる、まともに生活なんかできたことないって。

 

だから、あの音声にあったのは本当に人生を取り戻すためだったんだってわかってる。

むやみに人を殺さないなんて、今までのヘルメット団との戦闘を見ても知ってるはずなの。

 

初めて食べたラーメンで美味しいって言ってくれたあの表情に嘘はないはずで。

私に向けてくれた挨拶も本当なのに。

 

私に見せてくれた必死さも何もかも私たちと同じものなのに。

それを私は考えずに、レイヴンの過去ばっかり見たの。

 

それで恐れてしまったから、怖がったから、今レイヴンは膝をついている。

全部私はわかってる。理解してる。

 

 

なら、私はどうする?

 

 

 

*****

 

 

 

私は安心しました。

 

レイヴンちゃんが起き上がったという連絡を受けた時? いいえ、砂漠で先生の防壁に彼女が弾かれた時に。

ホシノ先輩がレイヴンちゃんを止めてくれた時? いいえ、止められた彼女が力なく倒れた時に。

 

防がれたことで、ああ、あの剣にも限界があるんだって─────

力なく倒れてくれたことに、ああ、これで安全だって────

 

酷いですよね。

 

『ノノミ、アイドル……ってなに?』

 

あんなに素直に私に聞いてきてくれたあなたを────

 

『ああゆう手合いは得意でね、任せてもらえるかな?』

 

マーケットであんなに格好良く助けてくれたあなたを────

 

まるで凶器を持った殺人鬼みたいに思った自分を、なんて酷いんだと思いました。

 

 

 

────社長さんから教えてもらいました。

 

『自分の父親が行っていた危険な遺物を消すために活動していたらしいわ』

 

家族の遺したものを清算しようとしていたあなたの恩人さん、凄い方だったんですね。

 

『彼の遺した危険なものをすべて消して、その後にキヴォトスに来た』

 

それを全部終わらせたなんて、レイヴンちゃんもなんて凄いんでしょう。

先輩の秘密になだめたりして、我慢して、爆発して怒鳴って……私なんかよりずっと───

 

だから、今の状況に胸を痛めているのはお門違いなんです。

あなたが武器を捨てて、声を震わせるのに、そんなことしなくていいなんて私は言えない。

そうさせたのは私だって理解しているから。

 

私たちを見てあなたはそうしている。なら────

 

私はあなたに何が出来る?

 

 

*****

 

 

私は後悔した。

 

音声を聞かなければよかったと、自分の覚悟を否定するような後悔を何度かした。

あの時イメージした血濡れのあなたが頭から離れなくて、もっと別の方法をとるべきだったんだと後悔した。

 

もう遅いのに。引き返せないと理解しているのに───

 

『レイヴンも621さんも実はいっぱい人を殺してきた殺人鬼で、今でも必要なら殺すの自体は何とも思ってない奴だったらお前はどうする?』

 

あの問いかけに助けると軽々しく即答した私を後悔した。

あの時別人の過去のように感じたそれは、今は確かにレイヴンの過去で、貴方の強い瞳に感じていたものはその過去から来るものだったのだといまならわかる。

 

何を見ていたんだ───

 

本当にそう思う。あんなにも私はメットからも教えてもらっていたのに。

レイヴンの過去にとらわれて、足をすくめて、ホシノ先輩を追いかけるあなたの必死さに気圧されて。

 

二度もあなたを見誤る。

 

『仕事の後は彼女をねぎらい、褒め、体調の心配もし、休むようにも言う。最後には『お前の意思に従え』と彼女の自由すら認めたわ』

 

レイヴン、あなたにもそんな人がいたんだ。

あの音声の人はあなたにとってそんな人だったんだ。

 

音声のことばかりにとらわれて、行いばかり見て、私は……私は本当に何を見ていたのだろう。

 

そんなことに目を向けているから───

 

 

「これで、怖くないでしょうか」

 

 

そんなことを言わせる。

言わせて良いはずがないなのに。

 

『シロコ先輩』

 

そう慕ってくれるあなたなのに。

そんな私は今のあなたに何を伝えないといけないんだろう。

 

 

 

 

*****

 

 

 

「レイヴ……」

 

膝をついたレイヴンに思わず駆けだしそうになったアルの腕を、先生がつかんだ。

振り向いたアルに先生は首を横に振る。

 

「今は、見ていてあげて。これは三人に必要だとおもうんだ」

 

それを聞いてアルはもう一度レイヴンとアビドスの三人を見た。

そしてもう一度先生を見て、自分が彼女たちに伝えたことを思い出して頷いた。

 

「そうね、これはあの子たちが自分で行かないといけないことだわ」

 

「ありがとう。もしもの時は、私が間に入るよ」

 

その答えにアルは自分の言葉を聞いたときの彼女たちを思い出して胸を張った。

 

「大丈夫よ先生、あの子たちはきっと」

 

自分の言ったことはきっと伝わっている。そう思ってアルは便利屋の皆の背中も眺めて自信をもって先生に笑顔を向けた。

その笑顔に先生は少し驚いて……それでも生徒を信じる彼はしっかりと頷く。

 

「そうだね。私も信じてる」

 

 

 

 

*****

 

 

 

時が止まったのかと思った。

冷や汗が落ちるという感覚を初めて知った。

 

今まで選ぶ苦しさや戦うことの苦しさばかりで、危機というものを明確に感じなかった私が初めて感じた恐怖だった。

見捨てられただろうかという不安は、ウォルターやカーラのような優しい人たちばかりの中で温く育った私が初めて知るものだった。

 

ごくりと喉が鳴った。

 

誰かを私は待っている。

砂漠で懇願した許しのように、迎えてくれる誰かを待っている。

その声はまだ来ない。

 

まだ────

 

 

「「レイヴン」」

「レイヴンちゃん」

 

思考が声を聞いて止まる。

わたしはびくりと背筋を伸ばして、その声を聞いた。

 

「立って、こっちを……向いてください」

 

そう、ノノミから告げられた声に、私は逡巡する。

顔を見るのがどこか恐ろしかった。

 

「向いて、レイヴン」

 

もう一度促されて、私は一度立ち上がる。

少し俯きながら振り返って三人の顔を見た。そらされていないまっすぐ私を見る目を見た。

そして……

 

『ごめんなさい』

 

しっかりと頭を下げられた。

私は面食らった、きっとじゃあこうして等と条件を付けられると思ったのに。

そして頭を下げた三人が近づいて私の武器を拾い上げた。

 

「これ、持って。大丈夫だから」

 

そうしてセリカは私にエンジニア部の銃を差し出した。

 

「で、でも」

 

それを持っていれば、あなた達は怖いだろうと思う。

けれど、私の前まで来た彼女はそれをもう一度ずいと差し出した。

 

「いいの。もう、怖くなんかないから」

 

そう言って差し出したまま教えてくれる。

 

「私……バカなこと考えてた。レイヴンのこと過去のことにばっかり引っ張られて、今のレイヴンのことも知ってるのに。

さっき現れてくれた時、格好良かったの。颯爽と出てきて、敵を倒して、凄いな、格好いいなって私は感じたの」

 

今度はノノミが私の落とした爆弾を抱えて、少し悲し気に微笑んだ。

 

「レイヴンちゃん、私たち勝手にあなたのことを知って、怖がってしまいました。

あんなに仲良くしてくれたのに、酷いことをことをいっぱい思いました」

 

そうして、最後にパルスブレードを持ち上げたシロコが言った。

 

「だから、ごめんなさい。もう、こんなことさせない」

 

そして、宣言してくれる。

 

「私は強くなる。だから、レイヴンも怖くない」

 

「もっと、レイヴンちゃんのこと教えてください。もう、私の勝手で見たりしません」

 

「これからも、一緒に居て、仲良くしてよ」

 

掲げられた武器を見た。

少し悩んで、セリカの銃をとる。

腰に下げて、ノノミの爆弾をまた腰回りに取り付けていく。

 

そうしてつけていく私を三人はしっかり見ていた。

 

そして───

 

「ありがとう」

 

お礼と共に、私は導きの剣を左手に取り付けた。

大きく翼を広げて、皆に微笑む。

 

「一緒にホシノの所に行こう」

 

頷く新しい友達と手を取り合って、そうしようと私は言った。

 

 

 

 

*****

 

 

 

~~襲撃前~~

 

 

 

「はぁ……はぁ……やった、上手くいった!!」

 

私は物陰に隠れてそう小さくも強く呟いた。

私用に設置されたであろう重苦しい扉、ゆっくり開閉するそれが閉じる際、ニヤニヤ見物していたカイザー理事へ飛んで蹴り飛ばし、閉じ込めてやったのだ。

 

丸腰の私への応戦も、砂漠で少なくなっていた取り巻きだったこともあって、自分の硬さに任せた捨て身と締め上げで何とか対応して逃げること数分。

 

 

「これでしばらくは私の対応に余裕が出るはず」

 

 

そう言って周りをまた見渡す。

何処かで手錠を外すのと外に居た部隊を何とか無力化するのが今の目標だ。

ここで暴れて私に集中させるのが手っ取り早いが……

 

私を探すやつも居るだろうからと警戒しながらも施設内を歩く。

途中で見えた部屋をあさって、溶断用の用具でも見つかれば良いがと考える───その前に思い出した。

 

 

「私の携帯、電源つけなきゃ」

 

 

私の居場所を知らせるシグナルになると思って私はポケットを見る。

ジャンプしたりで出てくるだろうか。

 

「ふんっ……よっ」

 

格闘すること少し、頭の出てきた端末を地面に落として、私はいそいそと後ろ手に頑張って掴んだ。

 

「電源、電源……っと」

 

そうして何とか電源の着いた携帯を、もう一度しまうのをどうしようかと考えていた時だった。

 

 

ザッ……ザザ

 

 

携帯からノイズ音がした。

 

「え」

 

もしや皆からの通信? こんなに早く? と思った私の耳に届いたのは女の人の声。

 

 

『初めまして、小鳥遊ホシノ。あなたの抵抗を……サポートさせてください』

 

 

 





怖さを受け入れたのがメットとアヤネ、怖さを感じないのが先生と便利屋、怖さより自分の見てきたものが越えたのが三人ってイメージです。

個人的イメージですがノノミは明るいようですが一人の時とか内面はジトっとしてそうっていうのが刺さるのでその解釈です。

次回はホシノ編の予定
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