非常に励みになります。
よろしくお願いします。
「サポート?」
急に流れた女性の声に私は聞き返す。
声はよどみなく答えた。
『はい。あなたが目的としている手錠の開錠、アビドスへの進攻の妨害をお手伝いします』
怪しい、怪しすぎる。今このタイミングで、皆以外の人からの連絡なんて。
しかも、私が何の操作もしてないことからして一方的に私の端末に繋いできてる。
素直に信じられるわけがない。
「誰かな? 知らない人とお話しするほどおじさん暇じゃないんだけど……」
その問いかけに、携帯の声は少し黙ってから自分の言うことを確かめるようにゆっくり答えた。
『私は……レイヴンの過去の関係者……ということはお伝え出来ます』
怪しさが増した。レイヴンちゃんの過去の関係者が本当として、なぜ私に手助けを?
そもそも、接触するのがこのタイミングなのがおかしい、もっと前にレイヴンちゃんや私に接触があってもいいはずなのに。
そう考えて黙っている私を見透かすように声は答えてくれた。
『私という存在は彼女がキヴォトスで普通の生活を営む上での障害になりえます。
彼女への直接の接触はもちろん、間接的でも私の存在はできるだけ掴まれないようにしなければいけません』
「レイヴンちゃんの生活のため……ね」
普通の生活のため……この女の人がどういう人なのか知らないが、この人がいると普通に生活できないなら、レイヴンちゃんが手放しで仲間と呼べる相手ではなかったのは確定のように思える。
「今こうして連絡をくれたのは?」
『ここはカイザーの土地かつあなたは非武装、こうして話せるようにして連携するほうが良いと考えました。
私の目的からすれば接触はしないほうが良いですが……もうあの人に親しい誰かを失う想いはさせたくないのです』
友人、恩人、そう言ったものをなくしてきたと彼女がいつか言っていたのを思い出した。
どうする? と私は自問した。レイヴンちゃんへの想いが本当ならばいい。
でも、嘘だったら? ついさっき私はカイザーにいいように騙されたところだ。
「証明はできる?」
『……できません。あなたへの利益もサポートしか提示できません。
レイヴンへの想いを信じていただけるよう、願います』
期待した返答ではなかった。レイヴンちゃんとの詳しい関係とかはさっきの通り関係者としか答えないのであれば教えてもらえないだろう。
私は考える。このまま信じていいとは手放しで思えない。けれど、今頼れるならありがたいのはその通りだ。
それに、彼女の理由が嘘ならただ無言で私を妨害してもいいはずだ。
明確な利点がない。今まで、先生以外の大人に明示されてきた取引とは違う。
この声の相手が私を手助けする事で得られる対価は、彼女の言うとおり私がレイヴンちゃんたちの元に帰りやすくなる以外私には見えなかった。
だから、一つだけ確認する。
「レイヴンちゃんは君にとって何なの?」
『レイヴンは……手を取り、相対し、賽を投げた、私の唯一です。どこにいてどの様に歩んでいようとも。
この私はこれからの彼女の選択を全てにおいて尊重します』
それは強い言葉だった。愛する人へ向けた言葉のようにも聞こえるくらいに。
もっと、友人とか恩人とかかと思ったのに……思わず気恥ずかしくなる。
「いやあ~、レイヴンちゃんにこんなお熱い相手がいたなんてね」
思わずそう照れを隠すように言う。
それを聞いた彼女が少しだけ嬉しそうに話すのを聞いた。
『熱い……ですか。そのように見えるのですね。協力は受けていただけますか?』
私は頷く。
「いいよ。今は君を信じることにする」
そうして始まったカイザー基地の探索だったけれど、彼女は───
『この先の電子ロックは解除済みです。そのまま地下に入ってください、武器庫へ誘導します』
『敵部隊を発見しました。前方通路から二十秒後に現在地点を通過します。今のうちに隠れてください』
『広域の通信装置があれば外の部隊を何とかできるはずです。武器庫までの間にそれを取得しましょう』
手伝いやサポートというにはその手腕は過剰過ぎた。ハッキング、誘導、物の位置まで彼女に任せていれば私は敵にも出会わないで進んでこれたし、至れり尽くせりだった。
家のメットちゃんやアヤネちゃんの後方支援には何時も助けられたけど……正直ここまでくると無法が過ぎる。
「びっくりしたよ。ここまでスムーズなんて」
広域用の無線通信機を手に入れた私はそうつぶやいた。
私の手からは彼女がなんてことないように言った。
『この施設にはカメラや無線通信機が豊富にあったためです。レイヴンが知るよりも制約が多くあります』
「昔はもっといろいろできたんだ」
『以前レイヴンといた場所であれば、技術の差もありますから、私一人でアビドス襲撃は解決出来たでしょう』
その言葉に私は驚いた。カイザーなんていう巨大企業が、以前の状態ならこの電話の向こうのたった一人に敵わないなんて。
無法というさっきも心で思わずつぶやいた言葉が本当に過剰でない評価に思えた。
「そんなに? じゃあなんで今はできないの?」
さっき言っていた制約の中身が私には気になった。
レイヴンちゃんが以前いたという場所は何か特別な装置でもあったのだろうか。
『通信環境の違いです。以前は……あー、一つの惑星全域が私の個人の機器でアクセスできる通信領域になっていました』
少し気になる間はあったが、凄まじいということだけはわかった。恒星間文明とは個人でそんな事まで出来るのか。
彼女はそのまま続ける。
『今は無線機やネットワークケーブル等の物理的な装置を仲介しなければハッキングできません。
この基地で言えばこの通信機さえあれば……少し待っていてください』
そうして、声が途切れて少し、施設内での警報が鳴り出した。
そして、ついでのようにあちこちから爆発音と発砲音。
「うへ~、派手だなあ」
元々自分が想定していた通りの光景ではあるが、ハッキングというのでここまでやれるとは思っていなかった。
私は途切れた通信の相手をイメージする。あんな丁寧な口調なのに、ずいぶんと過激だ。
そして、その過激さに……レイヴンちゃんと似たものを見た。
さっきの告白まがいの言葉もあるし、すごく気になる。
「友人? にしては近そうな感じだし、なんだろう。元恋人とか? いや~そうだったら凄いなあ」
私の知らないレイヴンちゃんかと凄く気になる。
でも、恋人ではないかもとも思う。それならもっと直接的に愛してるとか言いそうなものだ。
なら友人? と言おうにもあの口ぶりはもっと近い人間の口ぶりにも思える。
レイヴンちゃんの過去は私も知らない部分が多い。
エアにウォルター、総長やラスティ、カーラなど名前だけ聞いて人物像までは知らない人がたくさんいる。
あの中に、今話している彼女もいるのだろうか。
そうして、あの熱い台詞を言っていた彼女のことを考える私に、戻った彼女からの声がした。
『ルビコンとは違い、通信装置から内部処理部分への接続が可能とは、手間が省けて助かりました。
お待たせしましたホシノ、相手の部隊に同士討ちを始めさせました。すでに出発した部隊もあるようですが、これでアビドスへの対応は良いでしょう。
レイヴンもいますから多少多かろうと問題はないでしょうが……どうかしましたか?』
「うえ!? なんでもないよ~」
言われて私は自分がレイヴンちゃんの過去の恋愛遍歴というか人間関係的なものを邪推して考え込んでいたのを自覚する。
適当に誤魔化そうとして私は彼女に問いかけた。
「そうそう、知り合いさんはなんて呼べば良いかな?
このまま知り合いさんとかっていうのもアレだし……」
慌ててごまかした私に、知り合いさんは少しだけため息をついて少し笑いながら言った。
『今は誤魔化されましょう……そうですね「ケイト」とお呼びください。くれぐれも私の事はレイヴンには内密に』
内密にと言われれば余計に気になってしまうのだけれど、さっき彼女も言っていた通り、彼女の平穏のためなら私にとっては願ってもない。
「わかった。よろしくね、ケイトさん」
レイヴンの普通の生活の為だものね。と私は彼女の願いがウォルターと同じである事も意識して頷いた。
私だってレイヴンちゃんにあれやこれやと悩んで欲しい訳じゃない。
「次はどうするの? 武器を手に入れても、私は拘束中だけど」
縛られた手首を意識してそう言った私に考えがありますと彼女は言った。
『アイビスを……砂漠の巨人をコピーするなら、ある筈と思っていたものが武器庫にあるのを確認しました。それを使えば外せるはずです』
「これかな、目的の物って?」
『はい、エネルギーを収束するオシレーターという銃撃斬撃どちらも可能な武装です』
武器庫に到着して探す必要もないほど、見た目としては巨大な筒のような武器がそこに置いてある。
あの時、砂漠にいた大きな機械の手に似たようなものがついていたのを私は記憶していた。
けれど、サイズがあの巨体を見た時と比べてかなり小さい。それに……あれの腕にあった筒は二つだったはずだ。
『歩兵用にサイズダウンを図って断念したのでしょう。銃身が減っているのも人が持つ場合の携行性を見てだと思います。
マーケットでレイヴン世界のコピー品が出ているという話をあなたもご存じなのでは?』
そう言えばと私は思い出す。ヒフミちゃんから聞いた噂を思い出した。
『何でも片手で持って撃つように設計されているライフルやショットガンが出ているそうで』……とか話してたっけ。
あれがレイヴンちゃんの世界の武装を歩兵用にしようとしたのは明確と私は考えていたけれど、まさかこれもそうなのか。
けれど、彼女の言う通り、歩く人が持つにはこの武装はかなり大きい。
「ブラックマーケットに出してないってことはそこに流してるのよりも出来が悪かったんだ」
『当然だと思います。あの機体はMTやACと比べても異質のものです。
キヴォトスでオリジナルが爆破された以上、元の装置を再現することはほぼ不可能でしょう。
レイヴンの誘拐も合わせて、カイザーはずいぶんと身に合わない事をしようとしたのですね』
ケイトさんは半ば鼻で笑うようにそう言った。その言い方に私はカイザーの理事と同じような相手を侮るような感情みる。
その相手を見透かしたようなものに言いにこの人の怖さのようなものを感じつつ、私は聞く。
「カイザー理事……ケイトさんも嫌いなんだ?」
『もちろんです。彼はレイヴンを危険に晒しました』
ケイトさんは即座に断言した。けれど、その理由としては私としても同意するところで、あいつがレイヴンちゃんに手を出したことは私もまだ許していない。
けれど、それよりもその後の言葉の方に私は彼女の真意があるように感じた。
『それに、私のレイヴンを対処するのがあの程度の計画とは……』
その後に続いた意味深な含み笑いは、その前の私のという発言も相まって、どれほど嫌いかを意識させるには十分だった。
彼女もまた……ある意味大人の側の人間のように私は少し感じた。
けれど、今はそれを話している場合でもない。私はもう一度武装に目を向ける。
確かに、元の技術がレイヴンちゃんの所の物ならこの手錠も切れるかもしれない。でも───
「エネルギーとかどうするの? 動力にはつながってないみたいだけど……」
そういう私にケイトさんは問題ないと答えてくれた。
『詳しくは話せませんが、特定条件下で私はこの武器を使用できます。
今でいえば、貴方の端末から半径二メートル範囲内にこれがあればしばらくはこのような武器を使用できるでしょう』
私の端末からということはさっきのハッキングのようなことをするということだろうが……電力の遠隔供給までできるのだろうか。
けれど、詳しく聞く時間も惜しい。
武装を足で倒して、座って押し当てられる位置まで持ってきてケイトさんに聞く。
「エネルギーはいいとしてさ、斬撃用の剣ってえっと、映画とかに出てくるビーム剣みたいのだよね。
当てるの大丈夫かな……あと、切るのってどれくらいかかりそう?」
私は一番気になる部分を詰めていく。大きく刃が出てくるならかなり危険だ。
皆と再開したら片腕が……という状況にはしたくないし、時間がかかりすぎるのも逃げてる中ではまずい。
『合金の種類にもよると思いますが……このブレードであれば上手くいけば即座に切れるでしょう。
出力は私が調整します。できるだけ細く出力し、座ったホシノの手錠に向けて私が伸ばしていくことになります』
そんなにすぐなんだと思うと同時に、当てるの自体はケイトさん任せという事実にちょっと腰が引ける。
失敗せずとも、手の周りに火傷は免れないんじゃないだろうか。
「うへぇ、ここまでやって来てなんだけど……結構怖いね」
『当然だと思います。別の方法が良ければ時間はかかるかもしれませんが探します。どうしますか?』
ケイトさんがそう気を使ってはくれるけれど……そう長々とやっていられるわけもないというのは承知していた。
あの理事を閉じ込めたのももうすぐ出てきているはずだ。武器はすぐにでも手に入れたい。
それに……私の頭には車椅子のレイヴンちゃんの姿があった。
なんだかんだお世話になりっぱなしのような気もするし、ここはいいところを見せておきたい。
「いや、今やる。この程度で受ける傷なんてほっとけば治るでしょ」
多少跡は残るかもだけど、とまでは言わなかった。
『わかりました。では準備をしましょう』
そう言われて、二人での共同作業を始める。
『最小出力限界ギリギリでこの程度ですね』
「確かに、これならうまく当てれば手錠だけスッパリいけそうだね」
オシレーターの出力確認や───
『もう少し右に……そう、そのあたりです』
携帯カメラを私とオシレーターが見える位置に置いて、座る位置の調整をしたり───
『出力は押さえますが、絶対に手は開かないでください。開いた拍子に指が飛ぶ可能性があります』
「うえ!? それは嫌だな~~」
注意事項の確認もした───
そして───
『それでは、行きます』
「うん、お願い」
私は背筋を伸ばしてオシレーターの前に座った。
*****
ガシャガシャと音を立ててカイザーの兵士たちは基地内を捜索していた。
カイザー理事から直接基地内の全兵士に向けて通信があり、大きな声で命令されたのだ。
『ピンク髪のアビドス生徒を見つけろ! 今すぐにだ!!』
曰く、その生徒が今基地内で起きてる異常警報や、機械の誤作動、新しいMTという兵器も暴走させたらしいと彼らは聞く。
当然、このままではこの後も騒動が続く、騒動の鎮圧に当たる人員以外は全てその捜索に回っているのだが────
「見つからねえなあ」
「しっ相手は結構実力があるらしいぞ、油断するな」
彼らはここ数十分探して全く見つけられないでいた。
管制室に聞いてもカメラには該当の生徒に見えるような人影を見つけられず、どこにいるか掴めないのだ。
ハッキングをどこかから受けてカメラの映像が加工され、何もわからないらしいと先ほどの通信で五回目の確認をしていたところだった。
「くそっ面倒な奴……おとなしく捕まっててくれりゃあいいのに」
「一応、武装はないらしいから、見つけたらすぐ発砲していいとは聞く、行くぞ」
そうして、手当たり次第に扉を開けて探すのだが……本当に彼らでは見つけられない。
「かくれんぼじゃねえんだぞ……ガキのくせに」
部隊の一人がそう愚痴った。
正直に言えば他の人員も気持ち自体は一緒だった。
けれど、理事がお怒り、事態収拾に仲間も動いている時分である。愚痴った一人に向けて部隊のメンバー無いから励ますように努めて明るい声がかけられた。
「そう言うな、他の部隊も捜索してる、根気よく探せば結構すぐ見つかるはずだ」
「そうそう、丸腰のちびっこ一人にビビるこたあないって」
そう言われて、愚痴って一人はため息をつきつつも気を取り直す。
「仕方ねえなあ、すぐ見つかるよな」
そう笑顔を周りにみせた時だった。
「そうだよ。きっとすぐ見つかるよ~」
不意に聞きなれない声がする。
慌てて声のした方を見れば────
「ほら、見つかったでしょ?」
そう笑顔で言うピンク髪の少女と宙を舞う……手りゅう弾。
何かを答えるよりも前に、彼らの意識は爆風に飲まれた。
「ふい~~~やっとこれで自由だね」
手錠の腕輪は変わらずついているが、左右の両手が自由となったホシノはそう言った。
爆風を武器庫にあった重歩兵用の盾で防ぎきり、なんてことないように伸びをして拝借したショットガンを持ち直した。
『この後は、救援のレイヴンが来るまでゲリラ戦法をという認識でよいでしょうか?』
胸ポケットに移動した携帯から、少女に向けて声が飛ぶ。
「うん、そのつもり。先生たちも戦力を整えるだろうし、短くても今日の夕方かな」
一応戻るという手も考えたが、追手が来たり、自分が逃げ出したことでの借金チャラの白紙化など、カイザー理事に約束を取り付けさせなければ安心できない事項がある以上、今は自分が戦力を減らしておいて理事を追い詰めたほうが良いと彼女は考えていた。
「理事の位置は把握できる?」
『はい、外部へ逃げるそぶりを見せたら妨害します。今回のような騒動を何度も起こし、それに合わせて襲撃すれば一日二日であれば逃げるのを防げるはずです』
考えていることが伝わっているかのように、二人で計画を立てていく。
時間を考えれば、明日のお昼が皆が来る時間として最有力だった。
「アイビスだっけ? あれは私一人はキツイかな……潜伏に屋外はなしだね」
『装甲から考えてレイヴンのパルスブレードは必須でしょう。屋内での潜伏場所をいくつか見繕います』
皆が来るときに一番の騒ぎが起こせるようにと二人は計画を立てていく。
まだ隠しているであろうMTなんかも含めて、対応できるようにと。
「よっし、じゃあ始めようか、ケイトさん」
『はい。誘導、その他お任せください』
急拵えだが強力なツーマンセル。暁のホルスと烏の隣人はそうして戦闘開始を宣言した。
AC6を見返していましたが無法ですね本当に。
衛星砲奪うとか何やってんすか……
しかもそれで呼び出してやるのが戦い(愛の告白)ってレイヴン好きすぎる気がしますね。