猟犬烏の青春   作:面無し

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2-46 反撃計画

 

 

「なぜだ!! なぜあんな小娘一人に手こずっているんだ!?

元は武装すらしていなかったんだそ!! なのに、装備まで取られて!!

今度はアビドスの部隊も全滅だと!? そんなふざけた報告をしに来たのか!!」

 

カイザー理事は現場の指揮をしている部下に対してそう怒鳴り散らしていた。

彼の中では、ホシノをこのアビドス砂漠のど真ん中の基地につれてきた時点で勝ったも同然のはずだったのだ。

 

閉じ込めた後は悠々と部下たちとあのアイビスという超兵器を引き連れてアビドスを奪って終わり。

晴れて、黒服との契約通り実験場もこの砂漠に作り、砂漠に埋まっているというもう一つのお宝も含めて自分の将来は安泰というはずだったのだ。

 

それなのに……である。

 

閉じ込めようとした瞬間に自分が逆に閉じ込められ、いざ急いで出たら外に待機させていた部隊はほぼ全滅。

基地内での事態収拾を図る間にも基地内の人員はホシノの襲撃を受けた。

極めつけは少なくなれどもアビドスに向かった部隊の全滅報告である。

レイヴン世界の兵器まで出してやったのにと苛立ちのまま怒鳴りつけた彼は正に怒髪天だった。

 

「行けっ!!」

 

しかも、現状自分が基地から出て仕切りなおそうにも隔壁の誤作動だの、乗ろうとした車が先回りして破壊されているなど阻まれること数回。

今度は自分が基地という檻に閉じ込められていた。

 

部屋から出て行った部下の背を見てふんっと荒く鼻を鳴らして男は自分用に設置した豪勢な椅子へと腰を強く降ろした。

高いこの椅子の深く沈む座り心地が、今の気分では不快にしか感じられなかった。

 

「黒服へのカードまで失って……」

 

その今の状態も、元々の計画からすれば失敗を通り越して自分の首を絞めている状態である。

レイヴンにホシノという二つの手札を黒服に先んじて手に入れられるはずだった全てが今手元にない。

日和ってホシノへ借金の肩代わりを提案し恩を売る方向へシフトしようとする黒服を出し抜くため、黒服経由で得た車椅子のレイヴンを誘拐し、それを人質にホシノを誘拐、生徒会がなくなったことを理由に黒服の取引関係なくアビドスを手に入れる。

 

実験場を作ってやれば当初の契約は履行できる。

レイヴン、ホシノ、という黒服にも強く出るカードを持ち今後の契約は有利に進むはずという計画だった。

レイヴンの脱出もホシノの反乱もすべては彼の計画から外れたもの。

 

「クソっ!!!」

 

ガンッと大きな音を立てて、カイザー理事は机に手を叩きつけた。

今の状態では黒服に何か話して手助けを乞うなどというのはプライドからも、立場からも許されない。

 

「何か手は……」

 

彼は今の自分で切る逆転方法を探していた……その時だった。

 

「やぁやぁ、今空いてる?」

 

そんな気の抜けた声がして、彼の部屋の扉が勝手に開いた。

鍵を勝手に開錠され開けられた扉、そこにはにっくきピンク髪の少女が立っている。

ホシノは先ほどまで自分を拘束していた理事に微笑みを向ける。笑っていない目での牽制も添えて。

 

「空いてるよね? 出られないし」

 

「貴様……」

 

自分を睨みつける理事の目を涼しげに受け止めて、ホシノは言った。

 

「警備は来ないよ」

 

そう言って、彼女はカイザーの前へと歩み寄る。

カイザーは自分手が押していた緊急呼び出しのボタンを反応がないことに内心舌打ちをしながらホシノへ問うた。

 

「何の用だ……」

 

「一応聞いておこうと思ってね。アビドスを諦めてくれないかなあ?

あとは……私は逃げちゃったけど、ついでに借金も無しにしてくれたら嬉しいな、なんて……どう?」

 

その金と青の双眸は爛々と輝いていた。これが決裂すれば酷いことになるというのを隠そうともしない。

だが、ここまでめちゃめちゃにされて引き下がれるようなら、すでに彼は手を引いていただろう。

 

「断る!! こちらにはアイビスもある。お前たちがいくら戦力を連れてこようと、戦力はいくらでも追加すればいい!

レイヴンとかいう小娘がいくら強く、武装があったとして、所詮は兵器乗り! アイビスに敵うはずもないからな!」

 

噛みつくようにそう言った男を見て呆れたようにホシノはため息をついた。

 

「そう、じゃあ私は皆が来るまで適当にやってようかな」

 

じゃあね、なんてにこやかにホシノは手を振る。そして───

 

「はい、あげる」

 

ついでのように手りゅう弾を放り投げた。

 

「なっ!!!」

 

思わず理事は机の下に伏せる。

しかし……しばらくたっても爆発は起きなかった。

起き上がった彼の部屋には中身のくりぬかれた手りゅう弾とメモ紙。

 

『びっくりした?』

 

今度こそ、彼は思いっきり地団太を踏んで逃げて行ったホシノにめがけるように置いて行かれた中身のない手りゅう弾を扉に向かって放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「予想通りだったね、ケイトさん」

 

何度目かの敵部隊襲撃を成功させて、潜伏場所へ来たホシノは電話の向こうの相手へと話しかけた。

上手くいけば手間が省けると思って行った理事への接触だったが、結果は案の定というところだった。

 

『はい。当然ではありますが仕方ありません。予定通りレイヴンやアビドスの方々を待ちましょう』

 

通信越しの彼女は若干のため息をつきながらそう言った。

見繕ってもらった潜伏場所は配管の入り組んだこじんまりとしたようなスペースだった。

ホシノ自身が小柄なのも相まって、ここならしばらく見つからないとした場所。

 

戦闘を開始してから暫く、基地内を攪乱して潜伏場所を変えながら彼女たちはMTなどの格納場所を探していた。

目的はカイザー理事も言っていたアイビスと呼ばれたレイヴン世界の兵器だった。

レイヴンの武装もあるとはいえ、あれが破壊できればかなり戦闘は有利になる。

救援を待つ間に破壊できれば良いとして二人で探し続けているが、あまり結果は芳しくない。

 

ホシノがカイザーに伝えた通り、芳しくない状況から、一応ということでカイザー理事に交渉を持ちかけたというのが先ほどの状況だった。

 

「そういえばさ」

 

ホシノが自分の電話へと声をかけた。

攪乱やアイビスを見つける算段は二人で建てたが、ホシノには引っかかっていることがあった。

 

「対アイビスの作戦は立てなくていいの?」

 

一番の障害であるアイビスがこのまま見つからなかった場合の作戦が未定なのだ。

けれど、その問いに彼女は簡潔に答えた。

 

『レイヴンであれば、最悪一人でもこの基地は十分です』

 

そこまで言い切れる理由がホシノにはわからなかった。

風紀委員長との戦闘は知っていたけれど、それでも互角、あの兵器に敵うどころかすべて彼女でというイメージがホシノにはない。

そう思うホシノの気持ちを分かりつつも、問題は無いだろうと、電話越しの彼女はとある男に御守を任せた嘗てのパートナーを思い浮かべて言った。

 

『ホシノもすぐわかりますよ。どれほど強力な兵器が出てこようとも、彼女こそが……『最強』なのですから』

 

それは確信と共に放たれた言葉だった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

アビドス高校にて───

 

 

やっと、一息吐けたような気がする。

カイザーの施設の脱出から、砂漠での喧嘩、さっきの襲撃対応まで。

本当に、本当に色々あったと思う。

 

私は自分用の教室で長く、長く息を吐いた。

 

そうして、空中を眺めながら今の状況を私は整理する。

まず、アビドスに帰って来て最初にしたのは今の状況整理と今後の方針確認だった。

 

ホシノが囚われている場所の探索と、戦力の増強が主な目的。

 

相手の場所については、メットとアヤネが、戦力については先生と他のアビドスのみんなが目星をつけてくれた。

 

『ホシノの引き渡した砂漠の位置と去った方向からして、アビドス砂漠のど真ん中へ行こうとしてる。

アビドス砂漠に進行を妨害するようなものはない、曲がったりなんだりするのは不合理だ』

 

そう言ってアビドスの地図に示されたライン。

そこを、便利屋の皆が探索するということになった。

 

アル社長曰く────

 

『確証がないけれど、気になっていることもあるから、一緒に調べてくるわ』

 

と言っていた。気になるの詳細は確証がないからと言っていたが。

 

『不測の事態のためよ。ウォルターさんの教えに則ってね』

 

 

それだけ教えてくれた。きっと、カイザーについて何かあると彼女なりに考えたのだろう。

ウォルターの教えが彼女の為になっているようで、私としては嬉しかった。

 

次は戦力についての話をした。

 

『ゲヘナに行って協力を打診しようと思ってる』

 

とは先生が言っていたことだ。

そして、アビドスのみんなはマーケットでいたヒフミという女の子を頼ると聞いた。

 

『トリニティっていう大きな学校の生徒さんらしいわ』

『ん、お願いしてみる……チャレンジ』

『できる限りで、お願いをできるところには声をかけてみましょう☆』

 

と対策委員会の三人はそう言ってくれていた。

四人の事は信頼している。けれど、特にゲヘナは応じてくれるだろうかというのが私の不安だ。

 

理由は簡単で、風紀委員との一件で委員長と一戦交えた手前私がいるから嫌だと言われかねないと思ったからだ。

 

先生にお願いして私もお詫びに行くつもりだが……後で考えよう。

 

 

そして最後に───

 

「私はアイビスの相手か……」

 

私の役割を呟いた。

パルスブレードを持つ私が抜擢されるのは必然だった。

 

嘗て相手をしたエアの搭乗していた機体。

あの劣化コピーのガラクタを考えれば相手が飛ぼうが何だろうが負けるつもりはない。

そもそも、今回は黒服の情報が正しければと予想して、余計に私の相手では無いと思う部分もある。

ただ、それはそれとして……あれともう一度戦うことに私は感傷のようなものを感じていた。

 

 

「まさか三度も破壊することになるとはな……」

 

 

そう思う。ある意味で、エアの体とも言えたものでもある。

砂漠での血の登った頭では忘れられていた壊してしまうことの悲しさのようなものが、此処に帰ってきてしまってはふつふつと湧き出てしまう。

 

私はため息をついた。

躊躇をすることはあり得ない、以前地下で話した通り覚悟は既に終わっている。

けれど、それはそれとして……三度も私は彼女の体を壊す(殺す)という事実が残念でならなかった。

 

本当は私の手元に置いておけるなら、いつまでだって置いておきたい。

けれど、あれは兵器という特性上キヴォトスにあってはいけないものだ。

私の元に置いておけるものでは無い。

 

わかってはいる。分かってはいるけれど、どうしてもあれを思い出すと、私はありもしない物を思い浮かべてしまう。

 

「エア、違う未来を選んだなら。君を大切にできる世界も……」

 

そんな意味のない問い掛けを途中で意識して消した。

ウォルターに殉じると決めた時点で、彼女との敵対は決定したのだ。

だから、そんな未来は考えたところで意味がない。彼女を殺した私に考える資格はない。

 

重くのしかかるような気分を変えようと私は伸びをする。

マーケットではすぐ消えた犬耳は今も健在で、翼も背中に生えたままだ。

跳んでいるときはあんなに軽いのに、こうして立っていると随分と重く感じる。

多分、頭には普段ないはずのヘイローもついているだろう。

 

随分と変化の多い体だと思いながら私は呟く。

 

「今からどうしようか……」

 

ゲヘナヘ行くまでは時間がある。

その間の手持ち無沙汰をどうしようかとそうつぶやいた時だった。

 

「レイヴン? 今いいかしら」

 

「私もいる、話せるかい?」

 

人が二人、入り口を叩く音がした。

ちょうどよかったと私は二人に返す。

 

「もちろん」

 

キヴォトスで最初に会った二人の恩人に、私は急いで扉を開けた。

 

 





反撃作戦ですね。
ここからはしばらくアビドスのターンです。
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