猟犬烏の青春   作:面無し

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いつも感想誤字報告ありがとございます。
よろしくお願いします。

ということで遅くなりました。申し訳ないです。

書いてたら9000字を越えていたのは初めてです。
そして気づきました。私に大人数は扱えねえ!


2-55 祝勝会

 

 

 

 

 

 

「うっ……ふぐっ……うぅ」

 

 

レイヴンが喜びの涙を流す声に、かのゲヘナの風紀委員長の目が丸くなるのを見ました。

 

ああ、でもそんなことは私にはどうでもよく。

体を小刻みに揺らし、普段のクールで無表情な目元はどこかへ追いやって。

滝のごとく涙を流してしまうレイヴンの顔をよく見ていたかった。

 

ああ、流石です大将。

よく噛んで、味わってください、レイヴン。喉を詰めてはいけませんから。

そして、この涙も今まで食べられなかったことを思えば当然でしょう。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

レイヴンの隣に座る風紀委員長は突如涙を流し始めたレイヴンに慌てたようで、右に左に揺れながら彼女の顔をうかがう。

彼女も負けず劣らず表情の機微の少ない方だと思っていましたが、こう見る限り、素直になれないだけなのでしょうと思います。

 

彼女は涙を流すレイヴンを見て振り返り、同じ組織の仲間たちへと視線を送りますが、当然レイヴンの事情は彼らも車椅子であったことしか知らなければ、何が何だかと首を振る。

ミレニアムへも顔を向けてみるが、涙を流すレイヴンに顔を向けたままニコニコ顔のユウカさん以外のエンジニア部は首を横に振る。

 

その首振りにその白髪が揺れる。

どうしようと悩むように小さく聞こえたうーんという唸りと、レイヴンの食事を知るアビドスと便利屋がフォローのために声を出すのは彼女がの白髪が少しだけ垂れたように見えだしたときでした。

 

「いや~よかったね。レイヴンちゃん」

 

「本当ね。まさか泣くとは思ってなかったけど……」

 

その微笑ましいと言葉を使わずともわかる表情をするアル社長とホシノの反応を見て、風紀委員長が二人の方を向く。

どうしたのかと問いかけようとする彼女の表情を見て、私は思う。

 

 

見ていればきっとわかりますよ。

そして、その私の想いを肯定する様に、レイヴンは大きく、その鋼鉄の翼を広げ、蒼炎まで軽く吹いて魂からの叫びを夕方の空へと打ち上げていました。

 

 

 

「うまい!!!!」

 

 

 

「え……」

 

 

端的な感想でした。

ですが、彼女の目の前にあるもの─────祝勝会のメイン料理であるラーメンの感想であることは明白な言葉。

アビドスと便利屋、そして先生が我慢できずに笑うのと、風紀委員長と、他のどうしたのだろうと慌てていたメンバーの眼が丸くなるのは同時でした。

 

高らかに響いた声に周りがそれぞれの反応をする中、声の届いた面倒見のいい店主の元気のよい返事が響く。

 

 

「おう! たくさん食べな!!」

 

 

おかわりもたくさん食べてくださいと、彼女の美味しさに震える顔を見て私も思いました。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「そうだったの……」

 

レイヴンの食事事情を聞いた私はほっと息をつく。

まだまだ事情も知らないことが多くあり、今の機械の体のこともわからない相手。

一応は聞いていた車椅子という見慣れない体の事も、食事事情まで知ってしまえば彼女の過去に暗いものが山ほどあるなんて想像に難くない。

彼女のキラキラとした顔は今まで彼女が得られなかったものなのだと理解して見れば、アビドスのメンバーと同じく、その顔はとても微笑ましく思えて────

 

「美味しい?」

 

先程も大声で聞いたその感想を私はまたレイヴンへと確かめていた。

レイヴンは私の声にチラリと目を向けて、その頭から出た耳をピコピコと揺らしてく答えてくれる。

 

「ふんふん!」

 

そのまま口に物を入れて何か話そうとするのを駄目よと制して私は思う。

やっぱり協力することを決めて良かった。

 

先生という大人が他の誰かのために、レイヴンという一生徒が友達のために。

そう言うことができる人のために動けたという今回は、今のこと祝勝会も含めてすごく満足で、普段のゲヘナの治安維持という面倒で面倒な仕事も、きっとこういう子がゲヘナにもいるはずだからと私は思う。

 

それにしても……美味しいのは本当だから、今度キララたちにお出かけするときに言ってみようかと少し思う。

ああでも、オシャレとは違うし、カロリーがと彼女たちは言うだろうか。

 

そして、そんな風に思いながらレイヴンを見ていた私にの視界にふわりと揺れるピンクの髪。

 

「おっ? 風紀委員長ちゃんもレイヴンちゃんの可愛さに気づいちゃった?」

 

小鳥遊ホシノがニヤニヤ笑いながら待ってましたとばかりに手を振る。

私の顔を見ながら、どうどう? とアピールする様にレイヴンのことを話し始める。

 

「いい子なんだよ~手を握ったら絶対にぎにぎしてくれるし」

 

などに始まり─────

 

「実は寝る時は横向きで丸まって寝るんだよ~」

 

なんてまさかノゾキでもしたのかと思うようなことまで。

そうして、話し始めればいつの間にか他のアビドスの生徒も私に向けて話していて

 

「普段はクールなのに、こういう食べてたりする時に見せるのがかわいいですよね☆」

 

「羽や耳を見てると結構ピコピコ動いてて素直なんだなって思います」

 

「ん、実は今度私の計画の手伝いをしてくれる」

 

「今みたいに美味しそうに食べてくれてるのを見てると安心するわ」

 

そんな風に彼女の良いところを教えてくれる彼女たちの口につられて、私の仕事に協力してくれる彼女を想像する。

そうして、

 

「今度一緒に働くのが楽しみよ」

 

素直な笑顔で彼女たちにそう答えていた。

 

 

 

ああでも、

 

 

「ちょっと待って?」

 

 

横やりが入るとは思っていなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

(言っちゃったー!?)

 

私はポロリと出てしまった内心に驚いていた。

そして、当然に向けられたヒナの視線は私を突き刺すわけで……

 

「どうしたの?」

 

(あ、あわ、あわわ、気になっても後で聞けばよかったじゃない私!!!)

 

涼しげな表情のまま突き刺すような瞳に見られて、私は自分への突っ込みを自分で入れる。

気になっていたのは事実とは言え、後でならいくらでも聞けたのにと思ってしまう。

 

頭をフル回転させて、何とか穏当な話にしようと私は繋がる言葉を考える。

 

(『レイヴンからは別の予定で聞いていたから……』これよ!!)

 

そして、何とか思いついたそれを固くなりそうな笑顔に乗せようとして───

 

「レイ───「レイヴンさんは私たちとお仕事に行くってメットさんともお約束しました!!」

 

良かれと思って行ってくれたであろうハルカの主張に上書きされていた。

ただ、その主張はヒナからの視線を避けたい今の私にとっては逆効果で─────

 

(ハルカ、今はそうなんだけどそうじゃないのよーーー!!)

 

私は心の中で叫んでいた。

私は恐る恐るという気持ちでヒナと視線を合わせる。

いつもの涼しげな表情。私をまっすぐ見つめる紫の瞳。

私は生唾をのむ。

 

数舜の後、その目が不意に少し微笑んだような気がして私は自分の気が抜けたような気がした。

その顔があまりにもいつもの彼女からかけ離れていたからか、冷やした肝のことなんか忘れて私は目を何度か瞬かせる。

 

「いいわ、なら────

 

ヒナがレイヴンを見る。最後のスープを無心で飲み込む彼女の姿を見て何かを言おうとする。

まさか譲ってくれるとか? なんて私がそう言う想像をした時に。

 

「聞き捨てなりませんね」

 

別方向からの口出しに今度はヒナの方が横を向いて驚いているのが見えた。

そして、ヒナの隣、今の今までラーメンを食べていた行政官がいいですかと指を立てて私たちに向けて話し出していた。

 

「あなた方は規則違反者です。先日の一件でも申し上げました。

委員長の手前見逃しましたが、そんな相手にレイヴンさんは任せるなんて許せるとお思いですか?」

 

それは、言い分としては最もなものだった。

メットさんと一緒に話したときの通り、レイヴンはまっとうに行きたいと言っている。

だから、そもそも私たちの立場そのものを言われてしまえば納得できる。

 

でも、それはそれ、約束は約束、このままはいそうですかなんて言うのは私がダメだと思ってしまう。

私はヒナが開いて出ないことで余裕のできた頭で行政官に言い返す。

 

「そんなの関係ないわ。私たちは自由に生きるアウトロー、レイヴンは貰っていくわ」

 

「そうです。や、約束は……約束だと思います!」

 

ただ、そんな言葉も何とやら、行政官は涼しげな表情で私たちに言う。

 

「そうですか。私たちも約束しましたよ。

これからレイヴンさんは毎日ゲヘナの不良生徒を追いかけまわしてもらって、ヒナ委員長の手となり足となり頑張ってもらうんですから」

 

「え、そんな交渉させたのかい先───

 

「レイヴンさんは『何でも』してくださるそうですよ。三回廻ってワンでも、首輪遊びでも、お散歩プレイでもなんでもです!」

 

 

響いた言葉の内容に思考が止まる。

三回廻るレイヴン、首輪をつけるレイヴン、お散歩するレイヴン。

なぜだろう、包帯巻きの大型犬のイメージがポヤポヤと湧いて、消えていく。

 

 

 

「アコ? なんでそれを知ってるの?」

 

「私じゃないぞ、委員長!!」

 

「あっ……すいません。私かと」

 

「……そう」

 

 

 

「レイヴンちゃん結構大胆な交渉したんだねー☆」

 

「確かにね、まあお散歩プレイは想定してなさそうだけど」

 

「口出す?」

 

「いいでしょ、ヒナもいるし後から解決するでしょ」

 

「だよねー☆ 今は眺めちゃおー☆」

 

 

 

くるくると回るワンちゃんのレイヴン。

なぜだか途中からは黒い羽根まで生やして楽しくふわふわと飛ぶ犬。

そして、想像の中のまるっきり犬の姿のレイヴンがワンと一声鳴いたのを皮切りに戻った思考に乗せて、私は大きく叫んでいた。

 

「な、なんですってーーー!?」

 

「何でもなんですから私たちの方を優先していただくのは当然!

レイヴンさんには明日からなんでも、な・ん・で・も聞いていただきます!」

 

ふふんと行政官が鼻を鳴らすのが見える。

 

「どどど、どうしましょう! け、消します! レイヴンさんのために! 私が!!!」

 

隣のハルカがっ私の袖をつかんで揺れていた。

私も突然出てきたとんでもない条件に内心で真っ白になりながらも、必死で隣のハルカの肩を掴む。

 

「お、落ち着くのよハルカ! こういうのはレイヴンの気持ちも大事なんだから」

 

そう、こういうのはレイヴン気持ちが一番。

私とハルカは席を立ち、私はスープも飲み干してご満悦顔のレイヴンへと目を向けて駆けだす。

 

「レイヴン!!」

「レイヴンさん!!」

 

「ん? アル社長? ハルカさん?」

 

そして、幸せそうな彼女の肩を掴んで。

その目をまっすぐ見つめて、問いかけた。

 

「風紀委員に協力するのに何でもするって言ったの!?」

「ワンちゃんみたいに何でもするって言ったんですか!?」

 

私の肩を掴んでの問いかけに、珍しく驚いたのかレイヴンが目をぱちぱちと瞬きする。

私とハルカはぐっと息を飲み込み、彼女が首を横に振ってそこまでするとは言ってないと言ってくれると期待して。

 

 

「うん。協力するのに何でもするって言ったよ」

 

 

いつもの真っすぐな目で頷かれたことに見事に私の頭は真っ白になって。

 

 

「うそでしょーーー!?」

 

 

そんな心の叫びが空に響いてしまっていた。

 

 

 

*****

 

 

 

「ほら! 聞きましたか! これで決まりですね!」

 

 

アコは勝ち誇ったように胸を張った。

その目の前にはレイヴンの一言で思考を引き抜かれたアルとハルカがレイヴンの前で立ち尽くしていた。

ほれ見たことかと言いたそうなアコは彼女たちの手からガバリとレイヴンを奪い去りもう放さないぞとでもいうように主張する。

 

 

「さあ、レイヴンさん。あなたには明日からヒナ委員長の負担軽減のために粉骨砕身して頑張って───

 

 

ただ、アコは色々とこのやり取りで無視をし過ぎていた。

一つ目に、ヒナはそもそも先約があるのならそちらとの調整をしつつだと考えていたこと。

 

『いいわ、なら便利屋の仕事と兼任だろうし、手伝ってほしい仕事のスケジュールをメットさんに送ればいいかしら?』

 

二つ目に、ここにいるのはゲヘナだけでなく、アビドスもいれば三大校の一つであるミレニアム、ある程度事情を知っているユウカとウタハたちエンジニア部がいること。

 

『え、そんな交渉させたのかい先生、さすがにそれは見過ごせないよ』

 

三つ目に、思考の停止したのはアルだけで、この場にいる中でレイヴンに次いで最悪許せないなら消せば解決できるという思考に走れる人物をそのままにしていること。

 

「このままだとレイヴンさんがワンちゃんに……ワンちゃんに……」

 

そして最後に、この話を進めれば当然出てくるレイヴンの話よりも大きなネタになりそうなものを放置していたこと。

 

 

「??……先生みたいに足を舐めるお礼の方が良かったって話?」

 

 

 

レイヴンのから口に出された言葉、彼女にとってはラーメンを堪能したら何でもするだのなんだのと自分がゲヘナで約束したお礼の話をしていたために、やっぱりその方がよかったのかと、極めて、本当に極めて純粋な気持ちから出されたその問いかけ。

 

普段であれば問題にはなるだろうが皆レイヴンの今までの経歴から彼女なりの何らかの誤解があるのだろうと考えるその話題は、舐められた当事者生徒がいる、そもそもこの場で二人しかいない男性の一人、レイヴンは誤解はするが嘘をつかないであろうという信頼、そんなことが絡んだ結果。

 

 

「レイヴン、その話は───「先生が足を舐めたってどういうことですか?」

 

 

その場の全員からレイヴンのお礼の話などというものを奪い去った。

 

 

ぴしり

 

 

音に例えるならそんな音を立てて、場の空気が凍る。

叫んだアルと口の開いたハルカを愉快そうに眺めていた便利屋の残り二人も、今までなんだか騒ぎ始めたと最後にはなんだかんだ先生がうまく収めてくれると思っていたアビドスも、一応は別学園の話だし今は無礼講だからと思っていたミレニアムのメンバーも、この場で思考の停止している二人と、何が問題なのかをわかっていないレイヴン、周りが有名どころ過ぎて話についていけてない元メットの彼女、最後に唯一の良心的大人である大将を除いて、全員の眼が先生へと向いていた。

 

 

そして、アコが問い返した疑問へレイヴンの素直な答えが返される。

 

 

「ゲヘナでお願いをするときに足を舐めろってイオリに言われた」

 

 

それは、その場の全員の頭を『先生の足舐め』という話題で埋めるには十分で……

 

 

 

 

「イオリ……あなた」

 

「違う! 違う! 先生が勝手に実行しただけで私は何にも……」

 

「ということは先生に舐められたのは事実なんですね」

 

 

 

 

「先生~? レイヴンちゃんの前でそんなことしたんですね~☆」

 

「え!? いや、イオリに舐めろって言われたし! 緊急だったし!」

 

「緊急事態となれば先生はセクハラをすると」

 

「ウタハ!? 誤解だよ!」

 

「なっ誤解じゃないだろ!! 私は舐めろなんて言ってないぞ!!」

 

「って言ってるけど? 先生、やっぱり変態なんじゃん!!」

 

 

 

 

「先生? ちょっとお時間いただきたいんですが?」

 

「ユウカ!? 目が怖いよ!?」

 

「せ~~んせ☆ ムツキちゃんも聞きたいな~?」

「そうだね。ちょっと気になるかも」

 

 

「君たちもなの!?」

 

 

 

「あ、逃げた!」

 

 

 

「追って! 追ってください!」

 

「ん、逃がさない」

 

「ドローン発進します!!」

 

 

 

 

「アコ、貴方にも話があるわ……」

 

「委員長!? どうしたんですか!? 今回私は何もって……ちょ、貴方どうして私に武器を向けてるんですか!?」

 

「消えてください! 消えてください! 消えてください! アル様のために!!!」

 

 

 

そして──────

 

 

 

 

 

「はっ」

 

思考の戻ったアルが見たものは、

 

「おっ、社長戻ったか……ほら口ついてるぞ」

 

「……ん、ありがと」

 

「あっ、メットちゃんおじさんに一口チョーだい」

 

「え、仕方ないなあ」

 

デザートのソフトクリームを頬張ってご満悦なレイヴンとそれを囲むアビドスの最年長と新人の二人。

 

 

 

「とりあえず、帰ったら反省文の免除は取り消しよ。アコ」

 

「ううー。そんなぁ」

 

「撃ちます。今なら消せます!」

 

「はーい、ハルカちゃん、どうどう」

 

「今やると後から面倒ごとになりそうだし」

 

チリチリになった頭部をそのままに、反省中の立札を駆けられ正座するアコとその傍でため息をつくヒナ。

爆弾を片手に目をむくハルカと、それを止める便利屋二人。

 

 

最後に────

 

 

「さあ! 洗いざらい吐いて貰いますよ!!」

 

「最近尋問用に開発したうそ発見器があるんだ。

レイヴンに何でもの件も含めて、洗いざらい教えてもらおうか!」

 

「あ!? それも聞かれるの!?」

 

「ん、隠し事は許さない」

 

「嘘ついてない! ついてないから!!」

 

その他全員に取り囲まれて簀巻きにされた先生の姿だった。

 

 

 

 

自分の頭が呆けた間に何があったのか。

それはアルの知るところではない。

だが、この状況で冷静に冷静にと頭で考えて何も叫ばずにいられるような彼女であるならば、既に彼女はレイヴンの知る恩人に近い感覚なわけで。

当然、彼女の口からは心の声が、凝縮して、先ほどよりも大きく、レイヴンの叫びと同じ熱量を伴って、空へと響いていた。

 

 

「な、な、な、なによこれーーーーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、なんでMTの基地なんてわかったの?」

 

アイスを頬張る二人の私を挟んで、ホシノはアル社長に問いかけていた。

一回叫んだあと、長い溜息をついてから包帯巻きの私の隣に座ったアル社長は、やっと、やっと話せるのねと目元に涙を光らせていた。

 

「よく聞いてくれたわホシノさん……この時、この時を待ってたのよ!」

 

そう言いながらぐっと握りこぶしを胸の前で握る社長は「いーい?」と指を立てて説明を続ける。

 

「メットさん、レイヴン、あの時私たちが襲った施設は地下があったわよね?」

 

「ああ、そうだな」

 

その通りだ。よく覚えている。

カタフラクトに乗って、ハルカさんと一緒に慌てふためくアル社長を助けてカイザーの兵士をなぎ倒したのは記憶に新しい。

 

「レイヴンが捕まってた施設。結局私たちは見つけてなかったでしょ?」

 

その発言にメットはそう言えばと応答して、何かに気づいたのか声を出す。

 

「まさか、レイヴンが捕まってた施設を探り当てて地下があるか調べたのか!?」

 

なるほど。私は気づかなかったが、あの施設にも地下があったのであると言われればその可能性は確かにある。

そこからつながる箇所に爆弾を仕掛けたりしたというのであれば、私が到着する少し前にあったというMT爆破の逆転劇にも納得がいく。

けれど、楽しそうなアル社長のそれは違うわという答えと、ホシノのそれだけじゃないなあという指摘も聞こえる。

 

「地下の施設は一度レイヴンちゃんたちが壊してるわけだし、もう一か所だけってことはないだろうし」

 

「あ、そっか」

 

その指摘に私もそうかと頷く。

重要な施設は分散しておくべきという指摘はもっともだ。

一か所であればそれさえ潰せば済むが、複数あれば全部を相手しないといけない。

バスキュラープラントが何本もたっている光景を思い浮かべるとうまく想像ができて……最悪の光景だとわかる。

 

「そっちは地下施設が他にもあるかもって気になった理由の方ね。本当にあった時はは驚いたけど」

 

そう言って、アル社長は懐から携帯を取り出し……「あ、壊れてる方だったわ」と一度戻して、今度は地図を出してメットに見せた。

 

「大きい団体が動いたら記録や跡が残るって教えてくれたのはメットさんだったはずよ?」

 

「これ……アビドスにアイツらが来た時の進攻ルートか!!」

 

メットから見せてもらったそれには一本の大きい矢印がアビドスに向かっていて、その根元は今回カイザー理事がいたあの基地になっていた。

そして、そのカイザー理事の基地に集中する様に黒い矢印が複数本。

アル社長は「進行から調査までに時間がかかってなかったこと、砂嵐がなかったことが良かったわ」と微笑む。

 

「慣れてない分、多少追いかけるのは難しかったけれど……うちの社員は頼りになるでしょ?」

 

と、そこまで聞いて気が付く。この根元にはあの時爆発したハッチの位置にはつながらない。

ここまでの説明でわかった分だけではまだちょっと足りない。そう思って私がアル社長の顔を見たのに合わせて、アル社長は今こそとでも言いただ気に唱えた。

 

「『不測の事態を予測しろ』よレイヴン。このハッチの位置以外もまだあるなんて予想済み。

だから、各施設の位置関係と、後は……アビドスの土地が欲しいって話を聞いていたからアビドスの元あった校舎の位置関係ね。

土地関係を調べていたアヤネさんから地図を貰って、重要そうな施設の名前を見つけて行くと、いくつかが元のアビドス本校舎の周辺に集中してたわ。

とりあえず、その周辺が怪しそうってことで、ハッチのありそうな場所を集中して調べたの……そしたら当たってたわ」

 

もう一つ、アル社長は地図を取り出す。

そこには元の地図にあった黒丸の位置とは別に、紅いペンでいくつかの範囲が絞って描かれてあった。

 

「社長……あんたこんなことできたのか」

 

「これでも社長だもの! ……なんて、実際はカヨコとムツキにかなり相談したわ」

 

結局爆破しなかったハッチもあるから、無駄になったトラップも多かったしとアル社長は肩をすくめた。

それでも、最後の一押しに貢献したことは事実で、彼女たちの爆撃がなければ皆と一緒にひと暴れ私はしないといけなかっただろう。

本当に、大助かりだった。

 

そして、私と同じことを思ったのか、ホシノはそんなことないよと首を振る。

 

「今回は助かっちゃったよ……ありがとうね」

 

「いいのよ」

 

そう言って、アル社長はこれで説明終わりというように手を叩いた。

 

「もしかしたらに備えて出来るだけあらゆる場面を想定する。

昔のレイヴンの場合は装備で、今回の私たちはトラップだったけど……教えの通りよ」

 

アル社長が私に向けてにっこり笑う。

その笑顔はなんだかとても頼もしく見えて、私は頷く。

 

「最高に、アウトローな作戦でした」

 

「そうでしょー! やったわー!」

 

素直に喜ぶ彼女は今日一番に輝いていたと私は素直にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「あーすっきりしたっ」

 

そんな風にアル社長の声が響く。

確かにと社長の言葉に私は頷いていた。

 

 

 

私は校庭を眺める。

 

ちょっと遠くではユウカやウタハ、アビドスの皆に囲まれる先生。

もう少しこっち側にはヒナとアコ、それから便利屋の三人。

近くにはメットとホシノ、それからアル社長。

私の後ろにはそんな全員を眺めている大将。

 

私のお腹は大将のラーメンでしっかり膨れて。

車椅子の私も、ウタハから君もしっかり食べるんだよなんて補給をしてもらっている。

 

 

本当に満ち足りて、すっきりとしたいい気分だった。

 

だからだろうか。

私の視界、ブースト残量や、APの表記までついた見慣れた視界に映したものを全て、例外なく全てなぎ倒し、殺してきた視界に皆がいることを。

確かに生きている皆がそこにいることの実感が私の中にじわじわと湧いてきたのは。

 

湧きたつ胸に手を添えて。今度こそと私は思う。

 

 

キヴォトスで出会った新たな友人も、知り合いも、恩人も、誰も死んでない。

誰も……欠けてない。

 

総長や、戦友、カーラや、チャティ……そしてエアとウォルターのようにだれも私は亡くしていない。

 

 

夜の空を見上げた。

いつか、選択をした時と同じ星の綺麗な空の下、私の胸は満ちていて。

 

 

『621……仕事は終わったな』

 

 

いつか聞こえたあの人の声が頭の中でこだました。

 

きっとこれはあの人の願いをかなえられたと思った私の自己満足。

あの人に今も従う私が縋る、あの人の幻影。

 

それでもと私は思う。

貴方の願った私の望みを、私は守ったとそう尾を振らせてください。

この景色が、この充実が貴方の普通(願い)であるならば。

 

 

『よくやった。621』

 

 

労いの言葉が聞こえる。今となっては懐かしいあの声が。

帰った私にくれる言葉が、良く休めと私を気遣う彼の優しい声。

幻聴でも、何でも良いと思える、私にとっての救いの声が確かに聞こえる。

 

そんな彼に伝えたいそんな気持ちは私の口からポロリと落ちて─────

 

「ありがとうございます。ウォルター」

 

合わせるように四つの目からは熱があふれた。





両方の体でさめざめ泣くレイヴンはしっかりとアルちゃんたちが慰めました。


次回でやっとエピローグです!
メットちゃんとレイヴン回の予定です。


その後はおまけで先生は間に合いませんでしたIFと
レイヴンのプロフィール的なフレーバーのやつと、
レイヴンと先生のキズナエピ1と各キャラとレイヴンのキズナエピが入る予定です。
ミレニアム編?……頑張って書く予定です。
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