よろしくお願いします。
アビドス高校の生徒から自己紹介を終えてすぐ。
「とりあえず、持ってきた物資を確認してもらってもいいかな?」
そう言いながらレイヴンと一緒に背負っていたバッグを下ろした。
「おー、やったあ。それじゃあ確認するね~」
ホシノの声掛けに他のみんなもわいのわいのと荷物を囲む。
「よかった~これがあればしばらく安泰……」
「後続の支援物資の書類も先ほどいただきましたし、装備の不足はしばらく考えなくてよさそうですね!」
持ってきたのは私とレイヴンの鞄二つ分の弾薬その他物資。
移動中の荷物を抜けば多くはない、後続の物資もあるとはいえ、今の分でも彼女たちにとってはこれで一安心という風で。
本当にピンチだったんだなとそう思う。
全生徒は五人、物資の不足、砂漠化、襲撃。
原因不明の砂漠化の対応は重機などがあって使ったとしても、人員は必須。
五人での対応は難しいだろう。けれど物資の不足はまた別の話。
金銭の問題もあるのだろうかと思考を巡らせる。
五人で構成されたアビドス廃坑対策委員会は学校自体への砂の除去などもこなしつつ、
さらに襲撃も追い打ちをかけるような状況、先生としてできるだけ力になりたいとそう思う。
そう思いながら皆が物資を確認して沸き立つ見ていると、空気を割く銃声がした。
「襲撃!?」
窓の外を確認すれば、ヘルメットを被った生徒が複数校門から入ってくるのが見えた。
「武装集団を確認! カタカタヘルメット団です!」
「あいつら! また来たのね!」
「ん、物資も貰ったしすぐ迎撃できる」
アヤネの声にみんなが銃を取り出す。
そうしてみんなが迎撃をしようと準備をする中ですでに一人だけ窓へ足をかけているのが見えた。
「え、レイヴン!?」
「行ってきます」
窓枠を蹴ってレイヴンが空中へ飛ぶ。
何かに打ち出されるような速度へ空中を舞う彼女は名前さながらの鳥に見えた。
****
銃は手に入れたが、結局キヴォトスに来てから戦闘することがなかったレイヴンは、
かつての経験がやっと活用できることに少し高揚して思わず飛び出していた。
穏やかな日常の中で彼女は新たな経験は悪くない、
しかし、
戦うことがない日々に彼女は無意識に燻っていた。
そんな中で出会った初戦闘、嘗ての記憶を思い出し、
短い出立の声だけ出して置いてきた先生のことなど忘れて彼女はかつての飼い主と友を夢想する。
『行くぞ、621』
『行きましょう、レイヴン』
ああ、二人の声が聞こえる気がする。
夢想のなかそう思う彼女は眼下にいる敵を確認する。
「攻撃! 攻撃だ!! 奴らの弾薬の補給は絶たれている!! 襲撃せよ!」
リーダー格だろうか。叫ぶ赤いメットを後方に確認した。
目立つメットを最終目標にしつつウタハの言葉を彼女は思い出す。
『キヴォトスでは銃弾でめったなことがなければ痛いで済む』
よかった、なら私はここでは命を奪わず戦える。
今の体はACではないけれど、ウタハの説明通りなら嘗ての己の半身ともいえる機体に乗り込んだように生身の肉体でも私は戦える。
安心して彼女は落下先の敵一人を踏み潰した。
「へぶっ!」
「あん? どうし……」
隣に並んでいた一人が仲間の声顔を向けた先にはショットガンの銃口が既にあり、
数発撃ちこんで黙らせて、彼女は確認していた他のメットの下へ駆ける。
「な、こいつ空から!」
「撃て、撃て!!」
空からの襲撃者に一瞬ひるみつつもヘルメット団はレイヴンに向けて銃を発射する。
まとめて向けられた銃口からの弾丸を円を描くように回避しつつ、前方へ大きく跳ぶ。
跳びかかって前方にいた相手にショットガンを打ち込み、再度近くの敵へ銃弾を回避しながら跳びかかる。
「くそっ、なんで当たらねえ!!」
赤いメットを目指しつつ、他をなぎ倒しながら近づくレイヴンに、赤メットからの叫びが届く。
「一人に何やってる!! 相手は物資がもうないはずだろ! 数で押せ!!」
「もうやってるよ!! 当たらないんだ…・・ぎゃ!」
赤メットに周りのメットからの反論と叫びが聞こえる。
近づくレイヴンに赤メットは銃を向けた。
乱射される銃撃にかすりもせずにレイヴンは向かってくる。
最初の跳躍で近づかれるとわかる距離まで来た時、
自分の持つ銃の弾が切れたのを確認した赤メットは自分に近づくレイヴンに思わず持っていた武器を投げた。
「うわあ!!」
「おっと」
武器はパージして落とすものと認識していたレイヴンは思わず投げられた銃に身をかわすが、ショットガンを弾かれる。
「やった!」
赤メットがそう声をあげるも、構わずレイヴンは赤メットに跳びかかる。
そのまま跳びかかったレイヴンの手にはコートに仕込んだハンドガンを持っていて。
「あ」
すでに銃を手放していた赤メットの目がレイヴンの顔を見る。
「ひっ」
ひきつった赤メットのバイザーにレイヴンの笑顔が映る。
それをたたき割るように、弾丸は容赦なく撃ち込まれた。
****
独壇場だった。
レイヴンが飛び込んだのを見て、みんなが加勢しようと窓から降りて行った時には既に前線の敵はほぼなぎ倒されていて、
彼女の通った跡の残党はこちらが出てきたのを見た瞬間抵抗もなく退散を始めていた。
退散していくヘルメット団を見て、アヤネと一緒に外へ出る。
「皆さん、お疲れ様です」
「怪我はない?」
「ん、戦闘もなかったし大丈夫」
「レイヴンちゃん強いね~おじさん楽させてもらっちゃったよ~」
皆で戦闘の終わりに一息つく中、セリカがそういえばと言葉を出す。
「肝心のレイヴンはどうしたの?」
「そういえば……見当たりませんね」
「レイヴンを見つけに行くよ」
「あ、ちょっと先生!!」
セリカの声を背にして、一人で突っ込んでいったレイヴンを探す。
しばらく戦場跡を進めば、校庭の真ん中に置いてあった黒こげの塊を眺めているのが見えた。
「レイヴン?」
声をかけながら近づけば塊と思ったそれは何かの機械のようで、
振り返るレイヴンの顔に私はキヴォトスで初めて彼女の微笑みの表情を見た。
「ああ、先生。お疲れ様です」
「ああ、うん。お疲れ様、怪我はない?」
「はい、何も当たっていません、ショットガンが飛ばされましたが、それも回収できました」
そう言ってレイヴンはウタハからもらったショットガンを持ち上げる。
笑っている彼女が見ていた機械に目を向ける。
「この機械、レイヴンは知っているの?」
「……はい、私が前にいた戦場に似たようなのがいました。懐かしくて」
言葉の少しの間に隠されていることを自覚する。けれど、懐かしいというのは本当に見えた。
彼女は強い、それを今回の短い戦闘だけで確信する。
それは以前の戦場で培ったものなのだろうか。
ただ、圧倒して一人で突き進む強さはどこまでも飛んでいってしまいそうな危うさにも感じた。
「レイヴン」
「はい、先生」
「怪我はない?」
「はい」
「怪我がなくてよかった。でも、一人で戦っていたし心配した。
君が強いのはわかったけれど、皆もいるし頼ってほしいな」
引き留める選択肢を彼女に伝える。
「……そうですね。戦闘に参加するのは一人というのが多くて忘れていました」
そう言って、レイヴンはもう一度機械を見た。
一人の戦場、彼女は以前の戦場で一人で何と戦っていたのだろうか。
「レイヴンは以前はどういう理由で戦っていたのかな?」
「理由ですか……」
彼女は悩む様に顔を俯ける。
普段の彼女の無表情ぶりからは考えられないほど、過去のことに考えを巡らせる彼女は表情が豊かに見える。
嘗ての戦場はそれだけ彼女を揺さぶるものが多かったのだろうか。
「恩人のために戦っていました」
「恩人?」
「はい、私を拾ってくれた人がいたんです、その人の意思を引き継いで戦っていました」
その人はと問いかけようとして、後ろから声がかかる。
「二人ともー!! 大丈夫ー!?」
セリカの声に振り向いて手をあげる。
「ごめん、レイヴン」
「いえ、行きましょう先生」
そう言って、レイヴンはいつもの無表情のまま歩き出す。
ユウカから預かったメモの名前を思い出す。
あの中にその恩人がいるのだろうか。
私はもう一度黒こげの機械に目を向けて、みんなの方へ向かった。
****
「いや~レイヴンちゃんお疲れ様~」
先生をみんなと一緒に追いかけた先でレイヴンちゃんとも合流する。
黒こげの隣にいたことからもあのレイヴンちゃんだとは思う。
あの夜のこと……どこかで確認したいけど。
自分が保護している車椅子の方の体のことも含めて確認したいことは山ほどある。
しかし、今まで自分たちの高校に何の手も出してこなかった連邦生徒会の組織であり、
大人の先生がいる前でうかつに色々話したくないというのが本音だ。
それに、今はさっき襲撃してきたヘルメット団のこともある。
また襲撃されるのは日付の問題だし、今のうちに対処しておきたい。
レイヴンちゃんも今私に話してこないってことは隠してるかタイミングを見てるってことだもんね。
そう自分の思考を結論付けて私は計画していたヘルメット団の前線基地の攻撃計画を皆に話した。
「えっホシノ先輩が!?」
「うそっ」
意外のような反応をされたのはちょっと傷ついたけれど、
今は大人もいて、物資には余裕があるし、レイヴンちゃんのあの戦闘能力は正直百人力と言って余りある。
今のタイミングを逃す手はない。
皆で出撃準備を整えつつ、私はレイヴンちゃんに声をかける。
「レイヴンちゃん、さっきは戦闘ありがとうね」
レイヴンちゃんは私をまっすぐ見つめて首を横に振る。
「戦うのが今のところ一番得意だか……ですから」
「いいよ~口調気にしないで、しばらくいるんでしょ、戻ったら案内とかさせてほしいな」
「……わかった。よろしく」
そんな風に約束を取り付けて学校から出発する。
朝から襲撃、昼は攻撃、夕方からはレイヴンちゃんの案内。
うへえ~おじさん大変な一日になりそうだなあ
とそんな愚痴を考えた。