猟犬烏の青春   作:面無し

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また長くなりました。

いつも感想ここすきありがとうございます。

この後の色々予定している話も頑張ります。


2-56 エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

「レイヴン、違和感ないかい? ほら、手の感覚が違うとか、平衡感覚がおかしいとか」

 

「大丈夫だよウタハ。何かあった?」

 

シャーレの私室、定期健診と称して行われた検査の後、何度も何度も問いかけてくれるウタハに聞いた。

ここに来てからもうすでにその質問は十数回目、どうしてそう何度も聞くのかどうしても気になるところだった。

 

私はウタハの目を見る。見つめ返すウタハは私の目を見て一瞬悩み「いや、そうではないんだよ」と言って首を振る。

目をそらしたウタハはごまかす様に車椅子の私の方へも目を向けて。

 

「じゃあこっちの車椅子の方も、感覚が鈍いとか……視界がチカチカするとか」

 

「そっちの私は元から死人もどきだよ?」

 

その返答にウタハは何か難しそうな顔をする。

先日のアビドスの一件以降頻繁にシャーレに来ては何かと世話を焼いてくれるのは良い。

けれど、あの一件から何度も聞かれる質問はなんとかならないのかと私は思う。

私のことが気になるのはそうだろうし、気にかけてくれるのは嬉しいのだけれど。

 

心配性な先輩を横目に、私は近くにあった鏡に移動して自分を見る。

 

ブースター表記もAP表記も、計器類の表示の無いまっさらな視界の中、ヘイロー含め、背中の彼の翼も、犬の証も消えてしまった私が立っていた。

そう、祝勝会で泣いて最終は皆に何かと甘やかしてもらった後ひと眠りの後はこの状態だったのだ。

再度接続しようにも『認証に失敗』なんて言われた時はコーラルデバイスの異常かと思ったが……車椅子への接続はデバイス由来だし、死んでない以上何か別の理由しかない。

 

随分と平凡な見た目になってしまった体を見ながら私は思考を巡らせる。

おそらく優しいウタハの事だ、こんなに生えたり無くなったりして体調が大丈夫なのかきっと心配してくれてるんだろう。

アビドスの皆もそうだが、本当に優しい人が多くて……敵わない。

 

うん、とひとつ頷いて思考に区切りをつける。

こういう時ははっきり言うほうがいいだろう。せっかく動く口があるのだから。

 

「ウタハ」

 

「何だいレイヴン?」

 

振り向いて問いかけた先、私をまた見つめていたウタハが首をかしげる。

そんな彼女に、できる限り胸を張りながら私は答えた。

 

「平衡感覚や何かくらいでどうにかなるなら既に死んでるから、大丈夫だよ」

 

最大限の自慢。バルテウスや今までの戦場、ふらつきくらいで死ねるなら何度死んだかわからない。

それで死んでないから私はここにいるのだと、私は精一杯主張する。

 

ウタハを見る。私の返答に少し視線を巡らせた彼女は、少し苦笑する様に笑って、そうだねと頷いてくれた。

 

「気を遣わせてしまった。ありがとう」

 

その微笑みに、私は自分の返答が間違ってなかったとホッとする。

その胸をなでおろす私を少し見つめて、気分を変えるようにウタハは手を打った。

 

「今日は大事な日だったね?」

 

確認する様に私を覗きこんで問いかける声に、私は大きく頷く。

そう、絶対に外せない大きなイベントがあるのだ。

 

「頼んであったのはできてる?」

 

私はウタハに確認しながら車椅子の私を撫でる。

せっかく二つの体を行き来できるのだ、活用しなければ。

 

ウタハは頷いて答えてくれた。

 

「ああ、調整はばっちり、飛ばせば十分間に合うよ」

 

それが聞けて良かった。

いきなり頼んで申し訳ないというのもあったのだ。

けれど、これで私は今日の予定を外さずに行けそうだ。

 

「予定は大丈夫かい?」

 

問いかけるウタハに私は親指を立てる。

準備は万全にだ。なんてったって今日は─────

 

 

「良い専属オペレーターを雇ってくるよ」

 

 

新しい同僚を迎える日だからね。

 

 

 

 

 

***** 

 

 

 

 

「なあ、ちゃんと着れてる? 変じゃないか?」

 

私は初めて袖を通したその服を見ながら隣のセリカに目を向けた。

着なれない服は何度見ても着こなすというより着せられているような見た目に見える。

 

ただ、そんな不安に思って問いかける私を安心させるようにセリカは私の背中を叩く。

 

「大丈夫、背筋伸ばしなさい。背も高くて格好いいんだから」

 

「そ、そうかな?」

 

姿勢を正す私に、セリカはいいかんじと言うように親指を立てる。

その姿にありがとうとお礼を言って、息を整えながら私は扉へ手をかける。

 

ぐっと力を込め、開かれた扉の先、広い体育館で残りのみんなが待っていた。

開けた視界、広がる体育館にBGMが響く中、私は前に進む。

 

 

『もちろんですよ~、せっかく在校生が増えるんですから盛大にやらないと』

『ん、うれしいイベントは何回でもするべき』

『そうそう、何回あってもいいんだよ~』

 

そんな風に押し切られたのはアビドスの一件が落ちついた翌日だったか。

舞台は高すぎるからと木の箱を壇にして待つ先生の上に、準備のされた式の名前が大きく掲げられている。

 

 

 

 

──────入学式

 

 

 

 

 

そう、入学式。

学籍を失った私のための、私のためだけの入学式だ。

 

並ぶ皆が、拍手で私を迎えてくれる。

私の後ろにいたセリカの拍手も聞こえる。

 

ゆっくりと歩く中で、これまでのことを思い出す。

学籍を失った昔々の最初の学園のことを。

 

 

 

 

 

 

私のいた学園はアビドスよりは大きいけれど弱小って呼べるくらいの学校だった。

工業系の学校で、工作なんかを勉強したくて入学したのを覚えてる。

 

そう言えば最初は『電子工学部』って部活に入ったんだっけ。

コンピューターにも強くなれるなんてうたい文句に憧れて、パソコンをカタカタやってる部長が妙に大人に見えた。

 

今に思えば、あの先輩は見栄を張ってコマンド画面でパソコンのデータ一覧を出しただけだったのだけれど。

それでも、憧れて入った。私の初めての部活はとても、とても楽しかった。

 

普通の学園生活だった。

朝起きて、登校して、勉強して、お昼食って、勉強して、部活を楽しんで、家に帰って、夕飯食べて、寝る。

当たり前の楽しい人生だって、今も思う。今も思える。

 

 

─────いつだったか。

 

 

『学園のお金がやばいらしい』

 

 

そんなうわさが流れ始めた。

実際の所それは噂ではなく本当のことだったのだけれど、私は最初はなんてことないと思ってた。

部活もしばらくいつも通りだったし、先輩たちもいつも通り過ごしてた。

 

いつも通りアイデアを出して、工作したり、パソコン弄って過ごしてた。

ただ……変化は急に訪れる。

 

『この部活は続けられない』

 

呑気に部活に出てきた私に告げられたのはそんな一言だった。

部活に誘ってくれた見栄っ張りの先輩の申し訳なさそうな顔を今でも覚えてる。

 

学校からの活動費が少なくなる中、自分のバイト代を活動費に充ててごまかしてたらしい。

見栄っ張りな先輩は一年の私や他の後輩に心配をかけまいとしていたらしい。

 

本当に見栄を張る人だ。

けれど、そんな無茶が通るわけもない。

私の部活は、その日を境に終わった。

 

 

 

学園の治安はその日を境に日に日に悪いところが目立つようになった。

いや、私の眼につくようになった、が正しいのか。

 

不良って呼ばれるような生徒がよく出入りするようになったし、生徒の中でやらかす奴も増えるようになった。

小さくても綺麗だった校舎はだんだん汚れるようになって、仲の良かった子たちも段々学校に来なくなるようになった。

 

私はそれでも大丈夫と頑張ることにした。

 

授業も頑張って聞いて勉強した。

学校の掃除をして出来るだけ綺麗になるようにした。

生徒会の雑用なんかがあるって聞いたからそれも手伝うようにした。

学校の備品も盗まれないように鍵をつけれるようにした。

 

でも、授業はなくなった。

でも、掃除した傍から、綺麗なところにはごみが捨てられた。

でも、雑用をやった生徒会は途中から責任の必要な仕事もしなくなった。

でも、私の作った工作品はぶっ壊されてまで中身を盗まれた。

 

虚しかった。頑張ったけど、虚しかった。

頑張ったけど、上手くいかなくて、頑張ってもどうしようもなくて。

 

 

──────だから、出来心を持った。

 

 

仕事をしない生徒会の奴に脅かしをかけるようになった。

盗んでるやつへの仕返しに罠を張るようにした。

ごみを捨てる奴は私が叩きのめすようにした。

 

悪いことを初めて、悪い奴らを『暴れることでストレス発散だ』なんて徒党を組んだ。

 

 

成果はすぐに出た。

 

 

備品は盗まれなくなった。

生徒会の奴らは曲がりなりにも仕事をするようになった。

学園のごみは少なくなった。

 

そうして悪いことを初めて、悪いことをした方が楽だと学んで。

無くなってしまったものをこれ以上無くさないように暴れまわった。

 

バカだったんだ。

そんなことをして意味なんてない。

殴って収まるならすでに解決してるはずなんだ。

 

転入でもすればよかった。

ホシノみたいに生徒会に入っても良かった。

もっとできる方法はいろいろあった。

 

あったはずなんだ。

 

でも、私はバカだったから。

子供で、ガキだったから、そんな答えに気づきもせず、好き勝手やって。

何も権限なんかないのに、道理を踏まずに力を振りかざして───

 

 

『下記の者を退学処分とする』

 

 

──────学籍まで失った。

 

 

 

 

先生の前に立つ。

これは私が再出発するための入学式だ。

 

学籍さえ失ってしまえば、自分を証明できるような能力なんか何一つなかった私のための式だ。

徒党を組んでたやつらと、一緒にヘルメット団に合流して下っ端だけやってた私がもう一回きちんとした地位を得るためのもの。

 

背筋を伸ばす。

微笑みを向ける先生の顔を見つめて私も少しだけ微笑みを返す。

あの作戦を考えて、レイヴンを頼って本当に良かった。

 

ただ、そのレイヴンの顔を思い浮かべたところまで来て私は違和感に気づいた。

そういえば、肝心のアイツ、私の生徒証運び係の任を受けて無表情で万歳していたあいつはどこだ?

 

 

 

私はハッとしてホシノの方を向く。

レイヴンの最初の仕事の話をどうしようかと考えてる時だ。

私がアイツのサポートをしようとしているのを知っているのはこいつだけ。

ピンク髪の先輩がニヤッと後ろからもう一つ横断幕を取り出して、ガバリと開くのを見た。

 

 

───入社式

 

 

絶対あの社長の入れ知恵だろう。

サプライズは多い方がいいなんて言ったんだ絶対。

そうだな、サポートするとか、臨時社員にするとかなんとか、全部口約束だったもんな。

 

 

 

ブオン

 

 

 

遠くからエンジンの唸るような音が聞こえる。

走るバイクの音を響かせて、それがどんどん近づいて。

セリカが開いた体育館の扉からそれは来た。

 

 

 

 

ブォォォォォォォォォン

 

 

 

 

大きな覆いで運転席を囲んだ黒塗りの三輪バイクだった。

前後二人乗りにはずいぶん大きい図体のそれは、左右に着けた砲台を見せつけるように体育館に突っ込んで、大回りする様に体育館を半周して、先生の後ろに止まった。

 

 

派手が過ぎると思う。

跡になったタイヤ痕はどうするのだろうか。

アヤネのメガネが視界の端で割れてたような気がするのだが大丈夫なのだろうか。

 

 

そんな私の思考を置いて、バシュっと空気の抜ける音がしてバイクの覆いが開いていく。

包帯巻きと、いつもの無表情の……一人。

 

遅れてきたそいつは、なぜか私と同じ服を────アビドスの制服を着て私の方へと歩いてくる。

そして、先生の隣で止まったそいつは胸ポケットから大事そうに二枚のカードを取り出して、片方を先生へ渡す。

 

 

運び係、運び係か……正しくこいつは私の生徒証を運んで来たらしい。

そしてもう一つの私のための証も。

 

「あれなんだよ?」

 

私はいたずらっぽく聞いてみる?

レイヴンはこともなげに答えた。

 

「私の足、君が乗る」

 

その確定事項と言った言葉に私は目を見開く。

私が乗る!?

 

そんな私に先生が私へ向かって微笑みながら言う。

 

「そう、君たち二人で始める仕事の乗り物だよ」

 

私たち、二人の……そんなまだ頭の追っつかない私に、ここからが本番というように、彼は私の目を見て話し出す。

 

「連邦生徒会所属、連邦捜査部シャーレ顧問先生が、貴方を本学園、アビドス高等学校の生徒として認めるとともに」

 

差し出された生徒証、それを横目に、隣のレイヴンも合わせるように言葉を紡ぐ。

 

「シャーレ認定、便利屋68臨時社員、兼、ゲヘナ風紀委員外部協力員、兼、アビドス対策委員会名誉会員、兼────

 

いつそんな長い名前の肩書がついたんだ。

そんな私の想いをよそに、レイヴンは続きを言っていく。

 

「ミレニアムサイエンススクール、エンジニア部外部協力員、兼────

 

おーおーもう好きなだけ言ってくれ。

あの一件の間に随分といろんなところと仲良くなったらしい友人に私は思う。

でも、そう思った私の心と裏腹に、目の前の少女の顔が少し伏せられ、一瞬だけ言葉が詰まる。

 

ぴたりと止まった一瞬に彼女の顔を見た私を、目つきの変わった彼女の視線が私を貫いた。

 

「……ウォルターの最後の猟犬、強化人間C4-621が、あなたを専属オペレーターに雇いたい」

 

 

周囲の皆も、先生も全員がレイヴンの顔を見ていた。

あの音声で出ていたこいつの飼い主も、こいつの包帯巻きとしての名前も、その名前がこいつにとってどれだけ大事なのかみんなわかっていた。

めったに口に出されないから、ぼかしてしか過去をこいつは教えてくれないから、『あの人にだけ呼ばれたい』というから。

それだけ重要で、持って居たくて、大事なんだってわかってた。

それを出してまで、こいつは私に告げる。

 

 

「自己紹介をしてくれないか」

 

 

私は息をのむ。

皆の視線が私に向くのを感じた。

でも、そんな視線も、さっきまでの緊張も、感慨深さとかそんなものどうでもよくなっていた。

こいつの中の新しい登場人物みたいになることの重さをその目線から悟ってしまったから。

 

私みたいな木っ端がこいつの専属ですなんて、そのウォルターが聞いて認めてくれるのだろうか。

こいつが言ってた流儀を教えてくれたところの奴らが認めてくれるのだろうか。

 

真っすぐみられる視線をそらさずに、私は考える。

ああ、でも、あの過去を思い出したからだろうか。

失敗して、今こうやってここまで来れたって思ったからだろうか。

無意識に近く、私の口からは軽く、軽く、その言葉は出ていた。

 

「ああ、もちろん」

 

そうして、そこまで言ってしまえば、私の口はしっかりと動いてくれて。

私は自分の名前を意識して、自分の今の立場を意識して、先生の差し出す生徒証を取って、レイヴンに手を差し出す。

 

 

 

「私は────

 

 

 

 

───────アビドス高等学校一年、浮街(うきまち)フネ……今日から、あんたのオペレーターだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

今日、ゲヘナは空前のお知らせに沸き立っていた。

なんと、あの風紀委員長のお休みが大々的にリークされたのである。

どんな手を使ったか、万魔殿の嫌がらせの仕事もなく、本日は完全オフとのことである。

 

 

 

「ハーッハッハッハ!!! 今日こそ、キヴォトス温泉化計画成就の時!!!」

 

当然、普段からゲヘナの治安を好き勝手にしている生徒たちが沸き立つのも無理はなく、温泉部員たちはその筆頭とも言えた。

温泉開発部の部長である鬼怒川(きぬがわ)カスミの号令に従って今日も彼女達は温泉を掘る。

 

そして、別の所でも。

 

「さあフウカさん! 本日はフウカさんにぜひ料理してほしい食材がございまして!!」

 

黒舘(くろだて)ハルナを美食研究会の面々が目的の食材を手に入れたはいいものの、お昼で食べた店が気に入らなかったと爆破騒ぎを起こした挙句に給食部の部長を拉致していた。

 

基本ゲヘナの治安はキヴォトスでもかなり悪い。

上記にあった筆頭となる問題生徒以外での騒動もあり、問題が多い学園である。

そんな中その治安を維持する治安部隊である風紀委員の苦労は計り知れず、戦力の半分とまで言われるヒナの労働はかなりの者である。

 

 

つまり、今回のヒナの完全オフによるやりたい放題が何を意味するか────

 

 

 

 

ゲヘナ学園崩壊(やりたいほうだいびより)になるのである。

 

 

 

 

しかし、今回のリークは一点重要な点がリークされ損ねていた。

とある新生気鋭のなんでも屋、シャーレからの委託まで受けているという生徒への依頼がされたという点をリークし損ねていた。

 

「おい! あいつまだ来ないの!?」

 

『もう少しです! イオリさんは美食の方へ向かってください!』

 

「銀鏡隊長! 本当に今回の助っ人って本当にあの噂の人なんですか!?」

 

そんなやり取りが温泉開発部との戦闘場所では流れる。

風紀委員たちはいつぞやのアビドスに行った生徒から伝え聞いたその生徒の話を半信半疑に思っていた。

 

曰く───

 

『ヒナ委員長と互角』

 

『カイザーの超兵器相手に大立ち回りした』

 

『普段は荷運びとかみたいな平和な依頼しかしてくれない』

 

『バックにあの便利屋68がいる』

 

『シャーレの先生もよく利用する』

 

『ミレニアムのエンジニア部から技術提供まで受けてる』

 

『そいつに不義理をしたら砂漠の学校から報復される』

 

────などなど、上記に留まらない噂が流れているのである。

信じろというほうが難しいというものである。特にヒナと互角というあたりが。

 

 

 

けれど、その本人を見たイオリは頷く。

その銀髪のツインテールをなびかせて、遠くに聞こえだしたエンジン音を耳に入れながら強く言う。

 

 

「そうだよ! 後任せた、頑張って!!」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「前方、約700m、見えるなレイヴン」

 

「うん、規模は?」

 

「アビドスの時の半分以下、風紀委員の味方が同程度の人数いる」

 

新しいパートナーの声が後ろから聞こえ、私はその声に返事をした。

前中後、合わせて三人で乗れるようにまで頼んだ特注の三輪バイクはやはり使い心地が良かった。

最悪、車椅子の私だけでも動かせる当たりがかなり便利だ。

ACとの接続は変わらずできないが、それの機構をできるだけ再現したというあたり、本当にウタハには頭が上がらない。

 

「装備整える。運転任せた」

 

「オッケー、私は基本後方で偵察予定だから、何かあったら呼べよ」

 

「了解……多分大丈夫」

 

黒のシャツにホットパンツの上から少し濃灰色のコートを羽織る。

カイザーの一件で変えろと言われたのでノノミと買いに行き、コートはひたすら使い古していくつもりでヒビキにお願いした服。

背中に私のACに着けていた烏のマークまで入れてもらったそれを羽織って、私は後ろのパートナーへ目を向ける。

 

「準備できた」

 

「よし、じゃあハッチ開けるぞ」

 

その声に合わせて目の前のハッチが上がっていく。

頬を撫でる風がとても気持ち良い。

 

 

胸のハンドガンをもう一度しまいなおし、ショットガンを握って息を吸う。

戦闘というのに、気乗りがするというのは不思議な感覚だった。

 

久々の戦闘をメインにした依頼。

私の、独立傭兵としての経験を使える依頼。

 

 

 

胸が、高鳴る。

 

 

 

ウォルターはどう思うだろうか。

やはり戦わせてしまうのかと残念がるだろうか。

 

エアはどう思うだろうか。

貴方にはやはり戦いがそばにあるのですねとでも言うだろうか。

 

戦友はどう思うだろうか。

飛び立つ姿も君らしいといつものように気障に決めるのだろうか。

 

総長はどう思うだろうか。

今日も役立たずなりに役に立って見せろと激を飛ばしてくれるだろうか。

 

 

 

過去の人たちを思い浮かべて、消していく。

 

 

 

今伝えるなら、ウォルターだけでよいだろう。

きっとこれは貴方の望みではないでしょうから。

 

でも、許してほしいとも思います。

ここはキヴォトスで、人死にはなく、ルビコンなんかに比べればはるかに平和だから。

貴方はきっと、私のような子供が銃を持つ時点で心を痛めそうですが。

 

それでも許してください。

始めた事業の依頼は予定していた通り戦闘があまりないもののみ。

荷運びに始まり、もの探しに機械の修理、ペットの捜索もしました。

勉強も頑張っています。今は中学生のテキストをやっています。

 

貴方の普通の人生を歩んでいます。

貴方の普通の楽しみを味わっています。

 

貴方の望みに沿って生きることができています。

だから、このわがままは許してください。

 

 

 

キヴォトスは銃で人の死なない世界。

これは、私が望んで得た。普通の一部なのですから。

 

 

 

「フネ、行ってきます」

 

短く唱えて私は飛び立つ。

消えた背中の羽の代わりに羽織った彼をイメージしたコートをなびかせて。

 

「始めよう、レイヴン」

『621仕事の時間だ』

『行きましょう、レイヴン』

 

私の大事な二人の声に重なる新しい友人の声を頭に響かせる。

目を閉じて、空中を舞い、地面に並ぶ風紀委員たちを飛び越え最前列へと着地する。

 

 

「……? 君は誰だい?」

 

筆頭なのだろうか、紅いシャツを着た女の子の問いかけに私は答えた。

 

 

「……独立傭兵レイヴン、任務を開始する」

 

 

 






あ、もちろんレイヴンによって美食は捕まって温泉は凹されました。

……読み返しましたがメットちゃんの分量多いな。
メットちゃん……浮街フネちゃんです。機械工作系の裏方予定です。
レイヴンの専属オペレーターです。よろしくお願いします。


次回は先生が間に合わなかったIFの予定です。
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