いつもここすき感想ありがとうございます。
遅くなりました。
話していたキズナ編になります。
ストーリーにもある程度絡むかも、しれません。
基本はブルアカ側のキャラ視点になります。
また、キズナ編は祝勝会~エピローグ間の時系列順の予定です。
祝勝会から日の経たない日付。
月が明るい夜だった。
眠いのに満足に眠れない目を擦りながらアビドスの街をパトロールする。
何処か視界の端、私にと託されたはずのその表紙が目に映ればと願って。
「ないか……」
けれど、それは今夜も私の前には現れてくれる気配は無い。
私に宛てられて送られたもので、アビドスの砂漠に落ちた砂金ではないはずなのに。
「あれ……」
気がつけば、私は学校の正門まで来ていた。
沈んだ気分に乗せられてぼうっと歩いてしまったのだろう。
まっすぐ校庭を見れば月光の下、焦げた鉄の巨人が座る。
白かったであろう鳥のマークが煤けてなお月光に輝いて、良く見えた。
手帳を探していたあとだからか。
私の口からその疑問はするりと出ていた。
「ウォルターはどうしたのかな」
アヤネちゃん達の手に入れた記録媒体に、レイヴンちゃんのUSB、先生が持ってきてくれた本。
カイザーの一件の後、皆から聞いた情報を考えれば、これはウォルターの物じゃない。
私が思うのは別のものだ。
『再手術とその後の物資調達』
何時か聞いた声を私は考える。
健康な肉体、それを手に入れたレイヴンちゃんの為の人生を彼は作ろうとしていた。
『鍵は621が知っている』
医者にまでああやって肉声のメッセージを残すのに。
肉体の手入れと今後の物資調達だけ? そんなはずないなんて思う自分がどこかに居た。
知らない人の事をわかった風にとも思うけれど、そう思う。
そうしない人だったなら───
『私の拾い主』
『ウォルターの猟犬』
『ウォルターにだけ呼ばれたい』
あんな風に慕われないと思うから。
ただ、今のところ本当にあるかなんてわからない。
鍵についても、わからないまま。
ずっと記憶に残るであろう人が居てほしかったと思った人がいない今を、レイヴンちゃんはどう思ってるんだろう。
私以上に、別れを繰り返してきたレイヴンちゃんは─────────
いつかの教室で聞いた後に続くものを私は思考して、彼女の部屋の方を見る。
そして気づいた──────
「あれ?」
彼女の部屋の明かりがまだついてることに。
*****
(ううーん)
私は頭を抱えていた。
まさか自分が筆を扱う能力がこんなに無いなんて思わなかった。
キヴォトスに来て初めてペンを持ったと言っても過言ではないので仕方ない部分もある。
でも、とにかくヘロヘロなのが未だに直らないのだ。
真っすぐ書こうとしても途中でふにゃっとなってしまう。
文字はやっと最近マシになって来たのに、今の状況では文字なんか必要ない。
自分の食事以外で唯一ACに乗っているときからやっていたことなのだが、筆の実力が伴っていないのはどうしようもない。
……向こうは切り絵みたいなものだったし! と言い訳をしてみたいけれど、今はそんなことも関係ない。
(ううーーーーん!!!)
どうしたものか。
頭に焼き付いたそれは確実に細部まで思い描けるのに、私の手はそれを出力できない。
悔しいな、何とかならないかななんてぐるぐると頭を抱えていた時だった。
静かな夜だから、よくわかる。
何かの擦れるような音。
上手く隠されたその動きを追って、私の思考は二人だけで話した夜を思い出していた。
今日は示し合わせたわけではないけれど、話すのもいいだろう。
「ホシノ」
その思いのまま、目は向けずに呼びかけた。
「うへ~、気づかれちゃうんだ……」
振り向かずに問いかけた私の背中側、扉の向こうから驚いたような声がする。
開けていいよという私に応えて開けられた扉の向こうでは、いつもの盾とショットガンを持った彼女がそこにいた。
「どうしたの? こんな夜に」
夜も遅い時間の訪問に私は問いかける。
その問いに、何処か頭を搔くホシノは気まずそうにあははと笑う。
「いや~、日課のパトロールをちょっと。レイヴンちゃんは?」
パトロール……理由としては分からないでもない。
夜の警備は大事だ。私のように夜にやってきて財務担当の人を……みたいなやつもいる。
私はホシノの問いかけに答える代わりに手元のそれを掲げた。
「なあに~? お手紙でも……」
ホシノは首を伸ばして、それを覗き、止まった。
そうして、その紙に描いた私のヘロヘロの絵を見て私の方をまっすぐ見てくれる。
「ウォルターのマーク?」
すぐ理解してくれる察しの良い友人に私は頷く。
掲げた紙を手元に戻し、ウォルターのエンブレムを見ながらつぶやく。
「どうしても、仕事を始めるまでに描きたくて」
それは私のわがまま。
犬であることを誇りにし、忘れないため。
悲しそうな顔をするであろうあの人に、それでも居させてくださいと誇示するために。
そう思う私が、ホシノにはどう見えたのだろうか。
紙を見つめる私の頭の上から、声が降る。
「おじさんが、描くのやってみたりしてもいい?」
*****
レイヴンちゃんのどこか折れ曲がった腕と指、そして多分紐の絵と、口頭で伝え聞くウォルターのマークを描く。
私も絵心があるとは言えないけれど、正直……この絵よりはマシと言えるものができるだろう。
元の絵は何度も何度も書き直しされたであろう跡が見て取れた。
この夜に起きてはずっとチャレンジしていたんだと思う。
私の隣で変わらず自分でもチャレンジを続けるレイヴンちゃんを横目で見る。
真っすぐ紙を見つめ続ける目に、さっきの言葉を思い出した。
『どうしても、仕事を始めるまでに描きたくて』
どうしてなんて聞くまでもない。
絵を見ているのに、まるでその人自身を見るような顔だった。
私は、校庭の白い鳥を思い出す。彼女たちにとって、きっとそれは顔にも等しいものなんだろう。
だから、レイヴンちゃんにとっての証なんだ。このマークをそばに置くことが。
そう思えば、私の筆にも力が入る。
出来る限り上手に、彼女の記憶にある通りのそれを描いてあげたかった。
ウォルターのそれを見る。
下に向けた三角形の内に、紐の巻き付いた手が描かれている。
ハンドラーそう聞いたことを思い出す。そして、レイヴンちゃんが猟犬と呼ばれていたのも聞いた。
だから、きっとこれはリードなんだと思う。
五本のリードを手にするマーク。
いや、手にするではなく、手に縛り付けた、印。
それを見て、余計に校庭での思いを確かにする。
飼っていたのではなく、縛り付けるみたいな彼が、そのまま彼女を放り出すなんて、ありえないだろうと、そう思う。
「レイヴンちゃんはさ……」
だから、私は紙からは眼をそらさずに声を掛けた。
今は先生も、皆も居ない、二人だけ、あの時とおなじ二人だけだから、校庭で考えたことを、聞けるのは……今だ。
「どうしたの、ホシノ?」
けれど、その次の問いかけはなかなか口から出てくれなかった。
『レイヴンちゃんはウォルターのことどう思ってる?』
それだけの問いかけ。なのに、どうして─────?
何か引っかかるようなものが私の口から出そうと思った言葉を引き留める。
あの夜に聞いたことを、もっと詳しく問い直すだけじゃないか。
それなのに、私の口は開いているのに声を出してくれない。
しかし、かけてしまった声は戻せないから、ごまかす様に私はレイヴンちゃんに向けて笑いかけようとして──────
「眠れていない理由の話?」
気づかれていないと思ったことを問い返された。
口の回らない私は、答える代わりにと頷くしかできなかった。
レイヴンちゃんは「そっか」といつもの無表情のまま答えてくれる。
そうして、悩むように小首をひねり思案する。
何を考えているんだろうか、私が眠れていないから、よく寝れるように何か言ってくれるとか?
それならよかった、そこからさっきの声掛けもごまかして────
「ウォルターも、皆も死んだ。それだけ理解していればいい」
一足飛びにかけられた私の疑問の答えに、私はレイヴンちゃんを見た。
向けた視線の先で、あの、燃えるような何かを宿すまっすぐな瞳が私を見つめている。
私は、どうしてわかったのとは問い返せなかった。
私の思考を全部読まれてるような─────いや、そこはもう知っていると言わないばかりの断言に聞こえた。
私は思わず問い返した。
「気にならないの? レイヴンちゃんへのほら、メッセージとかあるかもしれないよ」
「気にならない」
そう言ってレイヴンちゃんは断言する。
どうして、そう思えるのだろう。
私はそう思えない。手帳に何があるのか知りたかった。
そこには全部、あるはずなんだ。私への言葉が、遺してくれた言葉が。
レイヴンちゃんだって、想像つくはずなんだ、あの人ならって、それなのに─────
惑う私の顔をどう思ったのだろうか。
レイヴンちゃんの顔がほころぶ。
「嘘、頭によぎることはある」
きっと、それは優しさだと思う。
レイヴンちゃんは気にしてないんだと、私はそう思う。
だって、その優しさは、その微笑みは、あの人が私を諭す時みたいな優しい顔だもの。
「あってもなくても、彼らは私の中にいる。それでいいんだ」
どうして、そう言えるんだろう。
あの傷も、過去の人も、私なんかよりレイヴンちゃんの方がずっと沢山大変だったはずなのに。
どうして──────
あの人みたいに優しく
「いてほしいと思うこともある。でも……いいんだ」
私の目を見る彼女の声が、心のどこかに刺さるような気がする。
ずるずると、あの人のことを引きずる私と彼女の違いを今見ているような気がする。
そうか、それで私は口に出せなかったんだ。
何処かで、私と彼女の違いを理解していたから。
私へかけてくれたレイヴンちゃんの言葉へ返すこともできず私は俯く。
手元の紙へと向いた視界は、描きかけのウォルターのマークを映す。
彼女の主の印、細部まで口頭で説明されたそれが彼女の中に生きる彼を証明するように見えて。
それを受けてなお、自分と違って前を向く彼女が酷く、眩しい。
レイヴンちゃんの声が、聞こえる。
「ホシノは……違うんだね?」
確信しているような問いかけ。
もう、ごまかしたって意味が無いように思えた。
部屋に入る時のことや、寝不足の言い当て、彼女は思っていたよりずっと、私の事を見てくれている。
そんな、確信のある言葉だったから、ポツリと私の口からそれは漏れたんだと思う。
「手帳を、探してるんだ」
ずっと探しているそれのことを、同じ無くした彼女にだから、伝えられる。
「私のわかる場所に、あるはずなんだ」
無くして、それを越えてる彼女にだから言える。
悔しさを込めて、不甲斐なさを込めて、言った私の手からパキリと持っていたペンのひび割れる音にも構わず、ゆがむ顔をそのままに。
「ユメ先輩……」
あの人の名前だけが俯く私の口からこぼれた。
呟いた私のことを、レイヴンちゃんのが見ているのがわかった。
頭を差し出す私を眺めるように。
そうして、しばらくの沈黙が経った頃、唐突に鳥の声が響いた。
「ホシノ、一緒に寝ようか」
「え?」
先ほどまでの会話の返答にしては随分と予想外の返答にわたしの思考は変な声と共に止まる。
思わず声をあげた私に、そうしようと頷く彼女の動きは速かった。
「よっ」
「え、ちょ、レイヴンちゃん!?」
私の隣まで驚くような速度で動いた彼女が私を椅子から持ち上げる。
驚きのまま、私はレイヴンちゃんに問いかける。
「うぉ、ウォルターのマークは?」
「エンブレムなら、また明日描けばいい」
起業の時期が遅れるだけとこともなげに答えたレイヴンちゃんは、私の顔を見ていつもの
その瞳だけはそのままに。
「友達は大事に。普通でしょ?」
「普通だけど、自分で移動でき……ひゃあ!」
流石に恥ずかしい抱っこをされていることに伝えようとするが、その時間もなく私の体は浮遊する。
空中を舞う私はそのままボスリとレイヴンちゃんのベットにダイブしていた。
慌てて起きようとする私を、レイヴンちゃんの手が肩へとかけられる。
「ホシノ、そのまま寝て」
「その前に、説明! 説明してほしいな!」
押し倒す様に肩にかけられた手を掴んで私は慌ててレイヴンちゃんへと目を向ける。
さっきまでのちょっと重かった空気は何だったのだろうか。
私の感情は何だったのだろうか。
突然の突拍子もないできごとが起こって慌てる私に、被さるレイヴンちゃんが動きを止める。
私をまっすぐ見つめる瞳を見返して、私はねっと声を掛ける。
見つめる瞳が悩むように少しだけ細められたのを私は見た。
数秒止まって、息を吐いたレイヴンちゃんは、私に言った。
「私には、ホシノがわからない」
それは私がレイヴンちゃんに感じていたことだった。
「私はずっと無くしてきたから」
そうレイヴンちゃんは言う。
車椅子の自分へと目を向けて、その真っすぐな目にどこかの遠い、彼女世界を見てそう言う。
「何時か二人で話した時、居て欲しいと思うと言った。あの願いは本当」
そばにいて欲しい、話してみたい、その人がいるならどういう風に思ったかな。そう思うことは多くあると私にレイヴンちゃんは言う。
私と同じように、先輩のように、任されたこのアビドスで、あの人みたいな先輩になりたくて、私なりの先輩をやろうとする私を理解していると言ってくれる。
けれどとレイヴンちゃんは言った────
「失った誰かの最後がどうなったのか、その人の言葉がどうなのか、欲する理由が、私にはわからない」
あの人達の最後なんて、それまで関わってきた間に比べれば一瞬なのだから。
「その一瞬で、彼らは変らない」
そう、レイヴンちゃんは断言する。
変わったように見えたなら、それはきっと最初から違っていただけなんだと。
「それを、君が分からないのなら」
そうレイヴンちゃんは続ける。
彼女の言うことを理解できない私に、あの喧嘩で、あの人の最後の言葉を求める私に、多く見送ってばかりだった彼女が優しく微笑む。
「なら、私に出来るのは一つだけ」
そう言ってレイヴンちゃんは私の隣へと体を寄せる。
「私は、最初の夜、君にいてもらえて寂しくなかった。
初めて会った君を頼って、その手を握ってもらえて、良かったから」
握られた手を、私は振りほどけなかった。
ぎゅっと握られた手を間に挟んで、私とレイヴンちゃんは顔を合わせる。
「いつでも握るよ。手帳も、一緒に探そう。友達……でしょう?」
そう言う彼女の手を私は握り返した。
首は、とても硬くて、頷けなかったから。
それに満足したのか、レイヴンちゃんは顔をまたほころばせる。
「私は二人いるから、もう一人も、お願いね」
そう言ってレイヴンちゃんはボスリとベットに体を預けて目を閉じる。
発言の意図はすぐに理解できた。
ウィーーーーーー
ベットの近くまで来たもう一人のレイヴンちゃんの、ベットからすれば少し高い位置に差し出されたその手をしっかりと握る。
黒服と話した夜のように。
この体制は、結構きついのだけれど……。
ただ、仕方がない。
頼れとある意味で彼女らしく伝えてくれているのだから。
「うへ~、両手を可愛い女の子とつなげるなんておじさんも役得だね~」
なんて、茶化していってみる。
その声が面白かったのか、包帯の向こうの瞳が少し、細められたのを見た。
ゆっくりと、目を閉じる。
部屋の明かりは、ついたままなのに、私自身の寝不足と、布団の気持ちよさに───────
いや、隣の誰かに握られた手の暖かさに引き込まれるように、私の意識はすぐ落ちた。
次の日の朝、目の覚めた私は地獄を見る。
レイヴンちゃんは意外にもぐっすりなタイプだったのだ。
そして、機械の体の方は当然、彼女が入っていなければ石のように動かない。
車椅子の方の体を無理に引きはがすなんてことも、当然できない。
役得と思った状況は、両手を握られて動けない最強の拘束となっていた。
私は右を見る、いつもの無表情のまま目を閉じた美人な顔が見える。
左を見る、包帯の隙間から、いつもの強さのない安らかに閉じられた目が見える。
私は、体が痛くなることを覚悟しながら決意する。
「起きたらストレッチでも手伝ってもらおうかな」
頼っていいと言われたのだし。
ホシノはレイヴンを頼れるよ! やったね! でも、アビドス三章は起きます。
これは絶対です。だってレイヴンじゃユメ先輩の代わりになれないし、レイヴンが言ってた通りホシノの苦しみは理解できないからね。仕方ないね。
そもそも、皆さんご存じレイヴンにはウォルターのあれがあるので絶対起きます。
地下Pもいるし仕方ないですね!
ホシノがレイヴンにかなり気安く皆よりもユメ先輩周りを語ってくれるのはエピソード内や過去話でも彼女自身が言ってるように、亡くした人がいるというのにシンパシーのようなものを感じている、アビドスが関係ない人(後輩でない)、大人でない、秘密の共有をしていた、車椅子により心理的な庇護欲的なものの複数バフにより成立しています。
凄いぞレイヴン!