いつも感想ここすきありがとうございます。
今回はシロコのEPです。
彼女は多分、強くなると言ったなら……
私は考えていた。
あの日、彼女に言った事をどうしたら守れるか。
強くなると言った、だから、強くならなきゃいけない。
目標としている先輩を超える為にと、もう一つ理由ができてしまった。
こういうのは、有言実行が大事とそう思ってる。
なのでとりあえず──────
「レイヴン、私と勝負して」
私は勝負を挑むことにした。
あの日、砂漠でしり込みした自分を見返す為、そして、これで怖くないかと聞いた彼女との約束を果たすために。
決意のまま勢い良く開けた扉の向こう、現れた私を見て、ホシノ先輩が分かってたとでも言いたげに笑うのが見えた。
肝心の方はレイヴンはホシノ先輩としていたであろう何かの書き物のペンを持ったまま私を見て固まっている。
「なになに~シロコちゃん、おじさんもお役御免かな?」
何処か見透かしたような顔、私がレイヴンにこの行動をとることは、先輩なら多分お見通しだったんだろう。
だから、予想の内の行動を取った私を揶揄う先輩に、私は首を横に振る。
「ホシノ先輩もいつか倒す。でも今日は、レイヴンとも勝負する」
笑うホシノ先輩にそう言って、もう一度レイヴンに目を向けた。
私の答えにニッコリ笑うホシノ先輩の隣、私の言葉を聞いたレイヴンは、やっと頭が追いついたのか私の言葉を聞き返す様に首をひねる。
「勝負?」
珍しく理解できないとでもいうように聞き返された言葉、本気で言ってるのかとでも言いたげなその顔に、私は一歩二歩と近づいて、レイヴンの目の前でもう一度伝える。
「ん、レイヴン勝負しよう」
強く頷く。
ある意味で詰め寄るように近づいて、私はその顔を見つめる。
その私の視線の前で、珍しく、レイヴンは迷うような顔をした。
「いいの?」
いつもと違うちょっと弱気な言葉。
そこに私は銃を手渡したあの日のレイヴンを思い出す。
私はもう一回近づく。
「いい、大丈夫だから」
強く肯定する。
その反応も、まだ予定の範囲内。
場合によってはすぐ断ってくるかもと思ってた。
だから、この反応はむしろ良い。
ぐっと近づいて、一歩下がりそうにするレイヴンの手を掴む。
「お願い、勝負しよう」
「う……」
顔をすれすれまで近づけて言った要求に、小さく、レイヴンの珍しいうめくような声が聞こえた。
いつもと違う、ちょっと弱気な彼女に私は勝機を見出す。
(……押せば行ける)
何となく、そう感じた。
車椅子だったから、こうやって詰め寄られるなんてなかったんだろうと気づいたのはちょっとしてからだったけれど。
この時は、その勢いに任せれば上手く乗せられると私は踏んだ。
「お願い」
「えっと……その……」
ギュッと握った手を前に少し上体を逸らしたレイヴンの目が隣のホシノ先輩をちらりと見るのが見えた。
助けを求めるように、どうしよういいのかなと多分今一番仲が良いであろう先輩に向けられた視線。
その先で、嬉しそうなホシノ先輩はレイヴンの背中を押した。
「行っておいで、レイヴンちゃん」
変わらないニッコリ笑顔のまま、大丈夫だよというように。
レイヴンオ背に手を添えて、安心しなよというように告げる。
「シロコちゃんは強いよ~」
その後押しをレイヴンは聞いていた。
私の目を状態を逸らしてたじろいだ姿勢のまま見返してくれる。
ちょっぴり迷うような時間の後、レイヴンは頷いてくれた。
「一回だけなら」
そう受け入れてくれた彼女に、私は自信を持って答えた。
「うん、絶対大丈夫だから」
それは、私の自信への戒めとも思って。
*****
校庭で、シロコ先輩と相対する。
まさか、自分がぐいぐい迫られると困るタイプだとは思ってなかった。
声を出しての会話経験が少ないのもあるだろうが、多分私の関わってきた人のせいもあるのだろう。
今までの会話は私の声が出ないこともあって、一方通行だったこと以上に、皆大人だったから。
私が声を出せたにしろ、きっとあんな風に勢いの会話はなかったはずだ。
カーラが見ていたら、気の引けて上体を逸らすさっきの私はさぞ爆笑物だっただろう。
『押しに弱いなんて、可愛いじゃないか』
こんなふうに言ってニヤニヤしてたはずだ。
そして、私は恥ずかしくて口を尖らせる、みたいな感じ。
ちょっと気恥しい。
「準備はいい? レイヴン」
「うん、いつでもいい」
目の前で銃を構えるシロコ先輩を見据えて、私もショットガンを手に取る。
開始の合図にと示された空の薬莢が空中に舞うのを見ながら思考した。
この勝負、シロコ先輩はどうして挑んでくれたんだろうか。
私の強さも知っているだろうに。
『強くなる』
そう言ってくれたのを信じてはいる。
怖くないと言ってくれたのも信じている。
けれど、それでもいいのかと一応の確認をしたくなってしまったのだ。
ただ、ホシノにも言われたとおりだ。
シロコ先輩は強いとは思う、きっと……もっと戦闘も強くなる。強く、なってくれる。
本人の約束の通りに。
息を吐く、ある意味信じ切れていない私の方が不誠実なのかもしれない。
落ちる薬莢を見ながら、私はしっかりとシロコ先輩を見つめた。
見据える彼女の私を追いかけるその目を見ると──────
『より高く飛ぶのは……』
どこか、君の言葉を思い出す。
約束が本当なら───────
どこまで彼女は飛んでくれるのだろうか。
薬莢の音が、響いた。
*****
レイヴンについて、今までの風紀委員戦や、あのアイビスや、ジャガーノートを相手していたのを知っている。
あの砂漠でのことを知っている、ルビコンって惑星でのこともちょっとだけ知ってる。
だから、全部全部知ったうえで作戦は建てたつもり。
レイヴンとの打ち合いをしながら、仕掛けた罠は視認されにくいセンサーのものにした。
ドローンを駆使して設置した感知式の仕込み銃だって回避しにくいように複数通すようにした。
ジャンプをよくするから空中にだって射線を通してた。
物量を防ぐのは難しいと踏んで罠は散弾なんかの回避が難しいものを選んだ。
武装からも接近戦は分があるのはわかっているからいつも以上にドローンでの牽制も意識してる。
レイヴンを真似して着地したりする場所を手りゅう弾で迎撃したりもしてみたり。
今回のこの布陣はホシノ先輩だって苦戦させた最新作。
レイヴンにもちょっとは通じるかもと思っていた。
ただ────────
「そこだね」
「見つけた」
「当たらない」
ホシノ先輩同様、全部対処されることになるという一番現実的で考えたくない予想が当たってしまったのは、ちょっと悔しかった。
いや、ホシノ先輩は盾で受けていたから、躱すレイヴンは予知でもしてるんじゃないかと思ってしまう。
流石はというべきなんだろう、私の聞いた音声の通りなら、ルビコンという場所では一撃受ければ死んでいたのだろうから。
私達のように、当たっても大丈夫なんて価値観なんてなかっただろうから。
「シロコ先輩、終わりですか?」
息を整える私の前で、息も上げないレイヴンの声が響いた。
最初に建てた作戦は、早々に音を立てて崩れてしまっていた。
真っすぐ私を見据える瞳を見つめ返す。
罠はなく、策もなく、本当に一対一しか残ってない。
悔しいけれど、この状況もまだ、私にとっては──────
「ん、終わってない。予定通り」
そもそもが、これで仕留められるなら彼女はここに居ない筈だから。
私は駆ける。
アヤネがとメットが記録してた映像は見せてもらって、動きの癖をできるだけ把握した。
ステップの後、ホシノ先輩にはない溜めみたいな動作があるのがわかってる。
多分、あれはアーマードコアに乗ってた時の癖。
それ以外で捕まるなら、ここまでの罠で抑えられる。
レイヴンにそれは通じない、レイヴンの強さばかりが私の目に映る。
でも、隙があるならそこを狙う。私が狙えるのがそこなら、徹底的に。
私ならやれるはず。
もっと私は強くなれるはず。
だから─────
私の銃撃を躱して接近するレイヴンを迎え撃つ。
レイヴンに分があるとわかっている接近戦、近づくのを最優先にするなんてわかっていた。
それでも、ステップの隙に差し込むのなら、罠が使えなくなった以上、この方法しか私は思いつかなかった。
懐に入れたレイヴンのショットガンの銃撃を避け、合わせて振られた彼女の拳も何とか避ける。
組み伏せられないように対応しながら、短く撃った銃撃を躱す彼女の着地に差し込むように、格闘を挑んで、いなされるのを繰り返す。
良く動いて、まるで私の動きを読んでるかのような彼女の動きを必死に追って、横に移動する彼女の一瞬を一瞬だけを全力で追いかける。
「絶対当てる!」
もっと、もっと、もっと、何度も躱す彼女に追いつくように、高い高い彼女に届くように、私は何度も地面を蹴る。
ショットガンというどうやっても距離的に不利な武器を使う彼女にそれでもと食らいつく。
私を見据える彼女のその余裕の眼に、私は証明する。
私は貴方に追いつける。
何度も、何度も、挑戦する。
躱して、躱されて、追いかけて、追いかけて、何度目かわからない挑戦の内に─────
着地した彼女が撃った散弾をすんでで躱して、私はレイヴンの服を掴み、引き落とした。
痛む体なんかどうでもいい、腹部の銃口もどうでもいい。
私は彼女の胸に銃口を向ける。
当てろ!
頭から自分の体へ流れるその指令のままに、私は引き金を引こうとして。
「ははっ」
私は、心底嬉しそうな彼女の笑い声を聞いた。
彼女のイメージからかけ離れた、明るい、明るい笑いだった。
その一瞬に、私の銃口が弾かれる。
急加速したレイヴンの姿が目前から消えた。
私の掴んだその白い制服を、引きちぎって。
ガツンッ
目の前が明滅する衝撃が私の頭を打ち抜いた。
「あっッ!!」
ぐらりと揺れる視界の端、私は確かに彼女の微笑みを見る。
「ありがとう、シロコ先輩」
その満足そうな微笑みに、悔しさと、少しの達成感を覚える。
ただ、それも一瞬で、自分に向いた銃口を見ながら、私の意識は落ちた。
「悔しい」
私は口をへの字にする。
そんな臍を曲げたような私に、レイヴンは胸の前で握りこぶしを作りながら言った。
「もう少しで当たるところだったし、流石だと思う」
「ん! 全然だった!」
全然届いてないのに言わないでほしいと思いながら私は声を出した。
流石も何もないというのは私が一番よくわかっていた。
珍しく、豊かな表情のままの彼女が苦笑する。
「本当に、いつ当たるかと思ったよ」
少しだけ赤く染まった頬をそのままに、レイヴンは柔らかく言う。
嘘はつかれていないのだろうけれど、でも、違う。
最後の一瞬私は全く彼女を追えなかったのだ。
土壇場の一瞬、追い詰めた一瞬、あの瞬間、彼女は確かに強くなった。
確かに追いつけたのだ、追いついて、引き離された。
手の中に残った彼女の制服だった布切れを掴みながら私は渋い顔をした。
私とレイヴン二人の間の同じだけど違うこと。
彼女もまた、成長中、それもリアルタイムで。
ホシノ先輩やあの風紀委員長なんか目じゃない。
「ん、次はもっと強くなる」
だから、それを今度こそ抜かせるようにと私はレイヴンを見上げて宣言をする。
私だってもっと成長するのだと、あの約束の通り、レイヴンのことなんかもう二度と怖がらないと改めていうように。
「はい、次はもっと」
そう、にこやかに微笑むレイヴンの、珍しい表情を引き出せたので、今のところは良いと思うことにした。
彼女の方にも、私のことは伝わったと思うから。
でも、次こそは勝つ。
ふうっと息を吐いて立ち上がる。
自分の制服の砂を払って、もう一度手の布切れを見て、やっとそこに思考が向けられた。
背中の大きく開いたワンピース型の連邦生徒会の制服。
ほぼ一張羅に等しいという替えの少ないその服の端だったものを見て、レイヴンを見る。
目に映るレイヴンの肌、白く滑らかなそれを見て、不味いという言葉が私の頭に流れた。
「レイヴン!」
「え、シロコ先輩、今度はなに……え!?」
首をかしげる彼女は、肩から胸スレスレまでが顕になっていたのだ。
恥ずかしげもなく、もう見えかけのそれを隠そうともしない彼女に、慌てて覆い被さるように抱き着く。
「どうしたの? 今度は何かまた別の何かを」
「違う、服!」
押しに弱い、羞恥心も無い、ちょっとこれは大丈夫なのだろうか。
ん、怖いより心配になるかもしれない。
慌てたホシノ先輩の声を遠くに聞きながら、よくわからずにぎゅっと抱き返してくれる彼女を感じながら私はそう思った。
シロコはホシノより強くなるって言われてるのが良いですね!
ちょっと盛って書いていいという安心感がありました。
まあ相手がレイヴンなのであれですけど。
ちなみに、シロコが良い勝負出来たのは一瞬の隙を着くことに全力を注いだからで、普通にやると普通に負けるって感じのバランスです。
あと、原作描写を見る限り羞恥心を持ってるあたりがシロコのヒロイン性を感じますね。
レイヴンは……書いてある通り肉体的な羞恥心なんてないです。
生き様に関係ないですからね! 闘争なんて一糸まとわなくても拳でできますもんね!