便利屋とエンジニア部、先生のキズナが終わればミレニアム編の予定です。
おそらくミレニアム終わってからのが風紀は良いと思いましたので。
というわけでよろしくお願いします。
私は悩んでいた。
「大将────ばんは」
「おっレイ─────しゃい」
ホシノ先輩を取り戻しに行く少し前、レイヴンが膝をついた時に思ってたこと。
私に何が出来るか、あの子がこの世界で私を慕ってくれたみたいに、何が私に出来るんだろうって。
『これからも、一緒に居て、仲良くしてよ』
あの時、そう言ったのは本当で、仲良くしたいと思っている。
一回手を取ってそれで終わりなんてしたらそれこそ嘘になってしまう。
だから、何かこう……遊びに行ったりって思ってる。
「セリ─────リカ……?」
「ん? あれ───お昼時は──────」
じゃあ、そう思ったとして、今度はどこに行ったりしようという話になると思う。
レイヴンの知らないところに一緒に行ったりしてって最初は思ってた。
今までたくさん大変だったんだろうなって思うから、キヴォトスで楽しく生活してほしいもの。
私たちが当たり前みたいに知ってるところでも、レイヴンにはきっと初めての所。
ただ、私が連れていけるところって全部先輩たちとか、アヤネちゃんとか……便利屋の人とか、他の人でも行けちゃうなって、最初に思い付いたカラオケを調べてる時に思ったのが始まり。
「何かなや─────」
「みたいだが───どうした───」
───あれ、私のアビドスでの個性って………?
アヤネちゃんなら、インフラとかの知識をレイヴンに教えたりできる。
でも、私にはそんな知識はない。
ノノミ先輩はお金持ち……レイヴンをお買い物に連れてってあげられる。
でも、私にそんなにいっぱいのお金なんてない。
ホシノ先輩はそもそもなんだかレイヴンと一番に仲良くなってる。
でも、私にそんな通じ合うところなんてない。
シロコ先輩……あの人はそもそもレイヴンになにもできなくても突っ込んでいく人だと思う。
でも、私にはそんな度胸ないし、そもそもあの人ほど強くない。
……バイトをいっぱいしてるくらいしか思いつかなかった。
それだって便利屋さんの所にレイヴンが行くならあんまり役立てない。
そうなると思い浮かぶのは一つの考え、私……もしかしてレイヴンにあげられるもの……ない?
そこまで考えてしまうと、最初所に戻ってくる。何が私に出来るんだろうって。
お昼の時の忙しいときは良かったけれど、お客さんの少ない夕方にはそ頭に浮かぶ悩みは当然再燃する。
悶々とした答えのない悩みは私の頭の中をぐるぐると回って、私は空中を眺める。
「なにか──────」
「そうさな─────このままも─────きいて───」
気にする必要はないとレイヴンは言うと思う。
一緒にお話してくれたら嬉しいみたいなことを言ってくれると思う。
ただ、それはレイヴンが言ってくれると言うだけだから。
せっかく一緒にって言ったからには『私と過ごして』楽しいなって思ってほしい。
でも……
「悩んでるね、セリカちゃん?」
「はっ」
聞こえた声にハッとする。
顔を向ければ、麺をゆでながら面白いものを見るような顔の大将の顔が見える。
思わずふけってしまっていたのだろう事実に気づいて、私は大将に頭を下げる。
「ご、ごめんなさい大将、バイト中に……」
全然集中できてないじゃない! なんて普段の私なら言いそうな状況。
何をしてるんだろうと自分でも思う。
ただ、それでもじゃあそれでレイヴンに何かできるかと言われるとそうではないわけで。
失敗までして、何も出来ることの浮かばない自分にため息が出る。
ただ、そんな私を気遣うように、大将は微笑んで問いかけてくれる。
「何かあったかい?」
迷いなくいつものラーメンを作りながら聞こえる問いかけ。
そんな風に優しく言うその顔に、私は自分の足元を見ながらこぼした。
「レイヴンと仲良くなりたいんです。でも、私ができることって他の人でもできるから……」
「セリカちゃんだけの方法が欲しいわけか……」
私のこぼす声に、なるほどなあなんて大将の遠くを見つめるような声が返ってくる。
やっぱり大将でも答えに困るよねなんて思いながらどうしようと私は俯く。
そんな時だった。
「セリカが話してくれるだけでいいよ」
私の耳に、そんなもう考えた話が入って来たのは。
私はため息をついて声に答える。
「お話なんてみんな出来るじゃない。
それで私だけなんてレイヴンに申し訳がないわよ……」
レイヴンなら確かにそう言ってくれそうだけれど、それだと私は納得できない。
あの、膝をつく光景が浮かぶ、あんなことさせたのに、と思ってしまう。
あの車椅子の姿が頭に浮かんで、こんな私の話でいいのかなって思う。
「私、バイトくらいしかしてないし……」
「? バイトの話じゃダメなの?」
変わらずわかってないという声が聞こえて、私は何を言うのかと思う。
「いい? それなら便利屋さんだってできるはずでしょ。私じゃなくても……
ムスッとした顔をしてたと思う。
想像通りの優しい言葉にそれじゃ嫌と反論を言おうとする。
いや────言いかけて、止まる。
私の顔をじっと見つめるまっすぐな目を見つめて私は瞬きを数度する。
止まった思考、それを何とか動かして、絞り出すような声で私は目の前のその顔に問いかける。
「レイヴン?」
「うん、どうしたのセリカ?」
何時もの、私の顔を見つめる真っ直ぐな目が見える。
────しまった。
ため息一つ。
そうか、大将の遠くを見るようなあの声はレイヴンが居るのをわかって言っていたのね。
なるほど、なるほどなるほど。
「忘れて?」
「どうして?」
傾げるその子の素直な問いかけに私は返せない。
恥ずかしさで叫びそうになるのを何とか、何とか、こらえた。
*****
そうか、セリカは悩んでいたのか。
大将の作ってくれたラーメンを頬張りながら私は心の中で頷いた。
ノノミに買ってもらった服を着て、早めの夜ご飯に来たら顔を難しい顔でコロコロ変えるセリカが居たので何かと思った。
悩みの内容も、セリカは私と仲良くなりたいって思っていてくれたなんて、あの言葉通りの事実を再確認できたことが私には何よりうれしい。
「ううー、ううー」
さっきから何故か渋い顔で唸るセリカを見ながら私は口を動かす。
今日もラーメンは最高に美味しい。
それにしても、セリカにしかできない事かと私は考える。
誰か個人にしか実現不可能なことなんて、あるのだろうか。
結果だけを見るなら、どんなことだって誰にだって、代わりはできるはずなのだ。
ルビコンで、私の断った任務にラスティが赴き、完遂したように。
そう、現実としてはそうなのだけれど、それはそれとして、セリカの想いも私にはわかる。
目を閉じれば聞こえる、全て思い起こせる彼の声、いつかのアイビスと戦った時のこと。
『やはり、この仕事をやり遂げられるのは、お前だけだ』
彼にそう言って貰えた私の仕事を、誰にでもできる事だったなんて思いたくは無い。
友人を殺す選択が、誰にでも容易く出来たなんて思いたくは無い。
だから、セリカにしか出来ない事はきっとある。
アビドスでのセリカの立ち位置が、セリカにしかできない事がある。
ただ、それを私が知るには私はセリカに詳しくなくて、それを伝えるには私は力不足だ。
でも、それはそれとして、私にとってのセリカの特別は確かにある。
彼女にしてもらえる特別が私の中には確かにある。
他の誰かでもできるかもしれない、私の仕事を彼が特別を思ってくれたように。
セリカが納得するかはまた別で、セリカは迷い続けるかもしれないけれど。
「セリカ」
悶える彼女に目を向けて呼びかける。
ただ──────
「この後時間空いてる?」
「へ?」
私の思う君の特別を君に話したいなと、そう思う。
「二人きりで話そう」
*****
バイトの終わりに夜のアビドスを歩く。
隣を見ればいつもの無表情のレイヴン。
人口の少ないここは当然ながら今の時間帯に人なんて一人も居ない。
それもあってか、砂を踏む足の音は私の耳によく耳には響いて、今の状況を否が応でも意識させられる。
二人きり、二人きりである。
そんな状況に私は──────
(何よこの状況!?)
彼女の意図が読めず慌てて居た。
時間があるかと言われて、バイト終わりに一緒に帰ろうと言ったのは良かった。
それはいい、けど……そうなんだけど!
(どうして黙ってるの!?)
誘ったくせに何も話してくれない。
『送っていく、二人きりで話そう』
そんな風に言って誘ったのなら、話してほしい。
そのせいで余計に意識をしてしまう。
アヤネちゃんと二人、みたいなのとは絶対に違う空気。
張り詰めたみたいな、何か言いだすに言い出せないようなそんな雰囲気。
バイト中に私が悩んでいることを話してしまったのもあるとは思う。
それは理解してる。きっと、レイヴンは私を想って誘ってくれたんだと思う。
でも、でも私に話せることなんか何もないしと思ってしまう。
レイヴンの今までを思えば、平凡すぎる自分の今までは酷く薄いものに感じられて、自分の口がきゅっと締められていくのがわかった。
張り詰めたような空気に、少しずつ足が遅くなっていく。
縮んでいく歩幅に、合わせるように、自分の目線も下がっていく。
私の隣を歩くレイヴンに目を向ける余裕もなく、立ち止まる一歩手前の私にその声は聞こえた。
「セリカ」
名前を呼ばれる。
張り詰めた空気が切れるような感覚がした。
顔をあげる。
何を言われるんだろう。
私を慕ってくれてるとしか知らない彼女。
私の知らない、いろんなつらい経験をしてきた彼女。
そんな彼女が私の悩みにどんな答えをかけてくれるのか。
私は息をのむ。
けど────
「ラーメン以外のバイトは何をしているの?」
「え?」
それは私の悩みとは無関係に見える質問だった。
いつもの真面目な顔で、なんてことない質問に私の口からは間の抜けた声がする。
その私の声が聞き逃したようにでも聞こえたのだろうか、レイヴンはもう一度問いかけを続けてくれた。
「バイト何やってるのかなって」
私の悩みの話は聞いていたのだろうか。
そんな普通の質問をするレイヴンに私は返答に遅れる。
普通のありふれた話でいいのかというのが気になって仕方がない。
きっと、私の話なんか便利屋さんでもできるのに。
「どうして?」
だから、私の返答はレイヴンの問いかけを無視したものになった。
レイヴンの顔に向けて、私は続ける。
「私の話はきっと、便利屋さんもできると思うし」
速く回る口が、レイヴンの返答を待たずに自分の言葉を続ける。
「何か難しいお仕事をしてるとかもないし」
私を見つめる目も見ずに、口だけが回る。
「それがレイヴンのためにって言えることではないと思うし」
何度も考えたことをぺらぺらと。
「もっと、レイヴンがよかったって思えることがしたいの」
貴方のために何かしたいと、何かをしたいと思った相手に。
自分勝手なそれが流れていく。
「レイヴンの今後に役立つような、何かがしたいの」
ただの───
「そうでないと私は納得できないの………」
我がままだ。
そう思う。
「ごめんなさい」
まくし立てた勢いのまま、私は駆けだそうとする。
恥ずかしかった、どう考えたって二人で帰ろうと誘ってくれた友達に逆ギレしてまくし立てたようにしか見えない。
レイヴンは私の悩みを聞いたから話をしようとしてくれたのかもしれないのに。
でも、私のことなんか多分本当にお見通しだったんだと思う。
あの目は本当に私の全部を見てたんだと思う。
きゅっと逃がさないとでもいうように握られた右手に私の足は止められた。
振り向く先に、彼女の逸らされない瞳が見える。
「セリカのバイトの話が、特別なんだ」
言葉が聞こえる。
「特別でないっていうセリカの普通の話が聞きたい」
彼女の手がぎゅっと締められる。
「私の普通と違う、セリカの普通が知りたい」
私を見る目が燃えるように輝いて見える。
「便利屋みたいな会社の話じゃない、他の誰かのする知識の話じゃない」
引き寄せられる。星明かりの下の彼女の表情は少しだけ微笑んで見える。
「普通の人ってどんなことをしてるのかっていう特別な話を教えてほしい」
その顔は、まるで月明りに咲く花みたいで。
この人が、人を殺してきたなんて忘れてしまうくらいに……
綺麗だと、そう思った。
思わず、顔を逸らす。
そして、ため息をついた。
さっきの悩みは何だったのか、チョロいのかなぁ……私。
「わかったわ。全部、全部、教えてあげるわ」
私の言葉にレイヴンが頷く。
その目は子供の用に煌めいて見えて。
「うん、時間はある。二人きりだからゆっくり行こう」
その微笑みにつられるように、私の頬も緩む気がした。
「……それで、いつまで握ってるの?」
「帰る間……ダメ?」
「…………いいわよ」
「ありがとう」
セリカはレイヴン相手だとヒロインムーブしか思いつきませんでした。
女の子同士でいっちゃいっちゃしてるのも好きなのでどんどんやる予定です。