今回もよろしくお願いします!
「まずは何から話そうかな」
車椅子とレイヴンちゃんを交互に見ながら私はそういう。
「肉体が二つあるけれど、私はあの夜の記憶を持ってる。
どういう要因かわからないけれど、私は肉体移動ができるはず」
「それは確かに、でも、実際どうやるんだろうね」
私が頷くのを確認して、レイヴンちゃんは私に考えてくれることを教えてくれた。
「黒服は、肉体は楔で意識は宿ってないって言ってたよね」
「うん。そうだね」
「だから。肉体はあくまで容器なんだと思う。
容器に私の意識っていう中身が入ってて、二つの肉体をACみたいに乗り換えできるんじゃないかと思う。
だから、肉体があの夜は入れ替わってたし、記憶をこの私も持ってる」
「ほえ~そんな難しいことおじさんイメージできないよう」
私は目を細めながら言った。
自分の体から意識が落ちる感覚は知っていても飛び出すイメージなんて持てなかった。
それに……
「でも、黒服の言ってることだし、私は信じていいのか疑ってる」
「ホシノは黒服をずいぶん警戒してるんだね。あの夜も」
レイヴンちゃんの言葉に頷く。
「昔から声をかけられてるんだ。アビドスの借金のことなんかで」
「なるほど……」
「だから、あの時の言葉もどこまでが真実かわかったものじゃない」
そう私が告げたのを聞いてレイヴンちゃんは少し考えるように俯いた。
でも、すぐに顔をあげて私に言う。
「あの時、要件の方で告げられた言葉が誰からなのか私は心当たりがあるんだ」
「そうなの?」
さっき聞いた大切な人の中にということだろうか。
私の問いかけに「確証はないから今は言わないけれど」とレイヴンちゃんは濁してから続ける。
「多分、あの時の要件については真実だと思う。それに、あいつは契約が大事だって言ってた」
「契約?」
そういえば、黒服は私をスカウトするときも交換条件を持ち出しての約束を結ぼうとして来ていたことを思い出す。
「そう、あいつは約束を破れないし、約束は必ず守らないといけない……らしい」
あの夜の、私の居なかった間にレイヴンちゃんとあいつでそういう会話があったらしい。
「約束なんて、破ろうと思えば破れるはずじゃない?」
私はそれでも疑念を拭えずレイヴンちゃんに再度問いかける。
それでも、レイヴンちゃんは目を逸らさなかった。
「確かに、でも、奴は私はそれができるけれど自分は違うって言ってた。
それに、もし本当に嘘で契約を逸脱した行動ができるなら、あの時素直に私への伝言だけするはずがないと思うんだ」
私に言い返せるだけの材料はなかった。
まっずぐ私を見つめるレイヴンちゃんに少し目を伏せてから頷いて、私は自分の座っていた椅子をレイヴンちゃんに渡す。
「そうだね。他に今は判断できるものもないし、試してみようか。
ごめんね、疑ってややこしくしちゃって」
「ううん。契約以外は手放しで信じるものではないと私も思ってるから」
そう言ってレイヴンちゃんは椅子に座った。
私は彼女の後ろに回りつつ肩をさわさわと揉んでいく。
「そしたら、肩は凝ってないかな~レイヴンちゃ~ん」
「今のところは大丈夫かな、何かあったら支えてね」
「うんうん、任せといて~」
そう言ってレイヴンちゃんは目を閉じる。
私は彼女の肩をさわさわしていた手を止めて、しっかりと肩を握って車椅子のレイヴンちゃんを見た。
少しの時が、流れる。
「あ……」
車椅子の体の指がピクリと動いたのが見えた。
私は車椅子のレイヴンちゃんに声をかけてみる。
「レイヴンちゃん? 移動……うまくいったかな?」
車椅子の体がわずかに頷いたのを確認して、私は良かったと胸をなでおろした。
それにしても、と車椅子の体を改めてみる。
包帯巻きの下は目も当てられないほどの手術痕だらけだった。
脳のデバイスにとレイヴンちゃんは言っていたけれど、感覚の拡張の文言からして、全身への改造もあったのだろう。
会話ができないのがひどくもどかしい。
「レイヴンちゃん、どうしようか、今のままだと話すのが難しいけれど……」
頷いた後、ぴったりと止まっているレイヴンちゃんに声をかけるが当然返事はない。
ううーんと悩んでいると突然車椅子から音声が響いていた。
『脳深部コーラル管理デバイスへの接続を確認』
突然鳴った音声に驚く私をよそに、車椅子が移動して私へ背を向ける。
車椅子の背もたれ部分、通常の車椅子より分厚いそれに、小さい円状のマークと縦長のバーがいくつか出ていることに気が付いた。
一つずつに見慣れた英語で何やら書いてあるのだけは見える。
「これは……さっき言ってた操作方法ってやつかな?」
「うん。その通りだよ。ホシノ」
「うひゃあ!!」
突然戻って来たレイヴンちゃんにまたも驚いて変な声が出た。
思わず後ずさりした私にレイヴンちゃんが振り向く。
「驚いてくれた」
「おじさんの心臓に悪いよ~」
私が肩を落としながらそう言うとレイヴンちゃんはしてやったとでもいうようにガッツポーズをする。
無表情なのは変わらないけれど、恰好から見るにずいぶん喜んでいるらしい。
「もう~ほどほどにね」
「ああ、そうする」
「とりあえず説明だ」そう言ってレイヴンちゃんは自分の車椅子へと歩いていく。
私もついていって現れたボタンなんかを見て一つ一つレイヴンちゃんが説明してくれる。
「文字を見ればわかると思うが、このゲージが残り電力、こっちが水分、栄養、補給時はここを押せば……開くはず」
レイヴンちゃんがボタンを押すと、車椅子の背中から駆動音がしたかと思えば何かを入れる口が出る。
「レイヴンちゃん、これ……口が一つしかないけど」
「ああ、とりあえず水と栄養バーでも砕いて適当に入れておけば大丈夫」
そんないい加減な補給でいいのかなと疑問は出るが、それでよいとのことなのでよいのだろう。
レイヴンちゃんがこんなだからそれでも大丈夫になってるとかではなく、技術力のおかげと思いたい。
「そっか……電力は?」
「入れられた栄養源や水から勝手に発電する」
とりあえず突っ込んだものから発電する……一石二鳥って機能のはずだ。
廃棄予定の強化人間だしとりあえず突っ込めば発電するようにしておけばいいだろうなんて思考からではないと思いたい。
「電源コードはこれ」
そう言ってレイヴンちゃんが差し出したのは見たこともないコネクタの電源コード。
直流なのか交流なのかもわからない状態だし、車椅子の発電を頼るしかない。
「その……レイヴンちゃん」
「ん?」
「ウォルターは……その」
言い出しにくそうに恩人の名前を言った私にレイヴンちゃんは言いたいことを察してくれたようで、
「仕方ないんだよ」と言いながら説明してくれた。
「前の職場は過酷でさ、装備は別として食べ物とかの物資はろくにって感じだからこっちのが都合がよかったんだ」
全部分けてできればいいけれど、そんな贅沢な機能をつける余裕はない。
なんて言いながらレイヴンちゃんはとりあえずといった様子でごそごそと取り出したペットボトルの水を車椅子の口に注ぐ。
私の方はこんな車椅子が必要な環境にレイヴンちゃんを放り込むが、その後の手筈も用意するウォルターの人物像を測りかねていた。
片方を見れば廃棄予定の子を酷使する悪の親玉なのに片方を見れば引き取って働き口を出して再出発させる聖人みたいな。
いつか……そこも詳しく聞ける日が来るのだろうか。
「よし、あとの言葉を考えよう」
水を注ぎ終わったレイヴンちゃんは立ち上がって私をもう一度見る。
私は一度ウォルターについては忘れようと考えながら頷く。
「あとは何だっけ、独立傭兵とか、ルビコンで…とかだったよね」
「うん」
あの物騒なあだ名の羅列、正直聞かされていないレイヴンちゃんの話からきているのは明白だ。
既に分かっているような内容を、それでも私は話されていないのだからと無視を決める。
「ACを駆るものって言ってたし、校庭のあれにのるとか?」
レイヴンちゃんは私の問いかけにしばらく考えてから返答を返してくれる。
「いや、あれはもう動かない。どう考えてもボロボロで私が生きてる方が不思議なくらい」
「まあ、確かに」
丸焦げの残骸を見た最初はもう動かないように私も見ていたし、
レイヴンちゃんを排出してからも動いていないことは確かだ。
だが、それなら黒服の言葉はどうなるのだろうと私は考える。
「じゃあ、この場合のACは別のものってことだね~」
「そう思う。でも、今のところそれに値するものを見てこなかった」
どこか別のところにそれは眠っているのだろうか。
そして、他の異名の数々。
「ACはそうとしてさ、他のって……どういうことだと思う?
言いにくいと思うからさ、答えられる範囲でいいんだけどさ」
私が聞けば、レイヴンちゃんは悩みながらも教えてくれる。
「全部、私を指すものだ。たぶん……並べられた名前が私が実現できることを指してるのかも」
「レイヴンちゃんができること?」
「そう、総評すれば、私は自分で生きたいように生きて、倒したいやつを倒せる……何でも」
「なんでもって……ずいぶん大きく出るね」
ともすれば自信過剰にも見えるような範囲だ。
私だって戦うことに自信はあるが、それでも何でもとまでは言い切れない。
なんでも……倒してしまいたいが。
「誇張じゃないよ、これでも大きいのを倒すのには実績があるからね」
どんな実績なのかは……まだ教えてくれないだろうなとそう思った。
「そうなんだ。今日のところはここまでって感じかな~?」
「そうだね。ありがとうホシノ」
私はここまで付き合ってくれたホシノにお礼を言った。
「いやいや、私のわがままでごめんね」
そう言いながら、ホシノは移動した私の車椅子をもとの位置に戻してくれる。
私たちは二人で並んで教室をでた。
「いや~長く話しましたなあ」
「そうだね。まだわからないことも多いけれど……そうだ」
私は伝えておいた方が良いだろうと思っていた一人を思い出す。
「もしも、車椅子に何かあった場合は、ミレニアムのウタハって人を呼んでほしい」
「ウタハ? レイヴンちゃんの知り合いなの?」
ホシノの問いかけに私は頷く。
「うん、エンジニア部の部長で医者と技術者両方できる人らしい。
彼女なら車椅子を見れるかもしれないと思って」
「その時は、あれが私ってことも伝えていい」とも付け加える。
「……そっか、何かの時は連絡してみるよ」
そう言って、ホシノは頷く。
二人で歩く足音だけがしばらく響いて、私の止まっている教室の近くまで来て立ち止まった。
「ここでおじさんはお暇しようかな」
「わかった。改めて、私をよろしく頼む」
私は手を差し出す。
ホシノはその手をしばらく見てからそっと握り返してくれた。
「もちろんだよ、レイヴンちゃん。よろしくね」
しばらく握手をしてお休みと言って別れたあと、私は握られた手を眺める。
いつか、エアやラスティに感じていたものと同じものを私はホシノに感じていた。
「ホシノのことも友人と呼んでもよいのでしょうか。ウォルター」
もういない飼い主にそう確認する。
私の再出発を用意してくれていたあなたは、今の殺し合いのない日々の私を喜んでくれるでしょうか。
コーラルを燃やした後、もう聞けていないあなたの声が懐かしい。
今度こそ、エアやラスティのように失わないように、ホシノを大事にしたいとそう思った。
※レイヴンはウタハが医者もできると思ってます。
ホシノが持っている情報や、レイヴンしか持ってないことや、
先生しか知らないことがあって、ややこしい状態になっていてすいません。
コンパクトに読めるようにしたいのですがすいません。
頑張って書いていきたいと思います!