ポケモン廃人ではないが、知らん世界に現れた推しに全力を捧げる 作:なんちゃってアルゴン
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正式に公安管轄の特殊未確認生物対策課に協力者として参加する事となった理央の朝は早い。
公安の管理する宿泊施設の一部屋で文字通り朝日と共に起きた彼女は、手早く身支度を済ませてすぐに自分のポケモン達の世話に移る。
例えば、毎日の健康チェックやそれぞれのポケモンの好みや栄養バランスを考えた食事の用意などなど、やる事は多い。
そして、そのどれか1つとしても手を抜く事は許されない。
何故ならそれが、仲間として共に戦ってくれる彼らへの最大限の礼儀だからだ。
そしてそれらが済み次第自分の食事を摂り、特殊未確認生物対策課に向かう。
それがここ数日の彼女の朝のルーティンだ。
今日もそんなルーティンをこなした後、特殊未確認生物対策課がある一室へと向かう途中で理央は、同じく協力者の田村と出くわした。
「あ、おはようございます部長!」
「おはよう凍田さん、今日も朝から元気だね。……でも、我々は今は休職中だからね。役職以外の呼び方だと嬉しいかな」
「あ、そうでした……すみません、田村さん。改めて、おはようございます。──ムチュールもおはよう、今日も可愛いね!」
「はは、よかったねムチュール」
「むちゅちゅー!」
彼女達が出くわした国道暴走ポケモン事件の後、そのまま田村に懐いてしまったムチュール。
野生に帰すべきかと紆余曲折あったものの、今では田村の頼れる相棒として瓢箪の中にもあまり入らず、彼にべったりと甘えている。
そして余談だが、理央と田村の2人は今現在本来の勤め先である会社を休職している。
理由は明白で、現在の世間のポケモンに対する混乱に対してポケモンをもって対応に入れる数少ない人材だからだ。
その為、公安が間に入った事で超特例措置として、休職しながらも公安の協力者としての立場を保証されている状態に2人はある。
「それと、昨日の事件の時はサポートありがとうございました。大量に集まっちゃった鳥ポケモン達の対処に、ムチュールちゃん大活躍でしたもんね!」
「むちゅー!」
「えーと、ひこうタイプにこおりタイプは強い……だっけ? 君のリオルと一緒にお役に立てて、本当によかったよ」
この様に現在理央達は、主にポケモンが起こす事件などのトラブルをポケモンの力を借りながら解決して回っている。
しかし、起きるトラブルに対して解決に当たる人手が圧倒的に足りていない為、日々予断を許さない状況が続いているのが現状だ。
目的地までの道すがら、最近対処したトラブルについてお互い話しながら歩いていると、前から大急ぎで駆け寄ってくる人影が見えた。
ヒャッキ組のウラギクとムカゴだ。
「あれ? ウラギクちゃんにムカゴ君、どうしたの? そんなに慌てて……て言うか、ムカゴ君は退院したばかりでそんなに走って大丈夫なの?」
「ああ、俺は問題ない。そんな事よりも重要な事柄が、今はある」
「──何があったんだい?」
「リオ、タムラ! 大変なんだ! あたしらが対策課に顔出した時に、イヌハギ様からこっちに帰ってきたって連絡がきて……」
「えっホントに?! イヌハギさんが帰ってきたの?! 今どこ?!」
「凍田さん、一旦抑えて。それで大変って、イヌハギ君に何かあったのかい?」
「いや、イヌハギ様はご無事な様だ。時空の歪からこちらに帰ってきたところで、今公安職員が迎えに行っているところらしい。むしろ、大変なのはこれからの状況の方だ」
「……何か、あったんだね?」
「ああ。それ故に、イヌハギ様がここに戻り次第すぐに情報共有の為の緊急会議を開くそうだ。俺達にも出席してほしいと、ダンガン達が言っていた」
「わかった、教えてくれてありがとう。じゃあ僕達もすぐに対策課に向かおう」
そう言って彼女達は、特殊未確認生物対策課の本部へと急いだ。
※※※
連絡から数時間が経過した頃、公安職員に連れられたイヌハギが対策課にようやく姿を見せた。
そのまま部屋の中へと入ってくるが、それと共に見慣れない人物もイヌハギに続いて入ってきた。
それを見つけて不思議に思った理央だったが、それはそれとして真っ先にイヌハギへと駆け寄る。
「イヌハギさん、おかえりなさいです!」
「ああ、今戻った。何も言わずにヒャッキに戻ってしまってすまなかったな、リオ」
「いいえ、気にしてないので大丈夫ですよ! ところで……そちらのお2人は?」
「──あら、貴女がリオさん? イヌハギから聞いていた通り、とても愛らしい方なのですね」
(え? 誰だろう、この可愛い人達。赤い髪色とか青白い肌色的に、イヌハギさん達と同じヒャッキの人みたいだけど……)
そう言って柔和な笑みを浮かべる彼女に、初対面の理央は少し困惑してしまう。
「あ、ありがとうございます……あの、イヌハギさんイヌハギさん、こちらの方は……?」
「このお方こそ、我ら穏便派が仕えるチャチャ様だ」
「──え?」
それを聞いて、理央の頭は真っ白になった。
その名前は彼女の大好きな「ポケモン廃人、知らん地方に転移した」通称「廃知らシリーズ」に出てくる名前だったからだ。
本来なら、こんな場所でこんな風に自分と会う筈のない人物だ。
理央は混乱する頭の中で、いよいよ自分の知る「廃知らシリーズ」の展開から現実がかけ離れ始めている事を悟った。
チャチャの名前が出た事で、ヒャッキのポケモンやヒャッキ地方を調べる上で「廃知らシリーズ」に行きついたであろう数人から騒めきが起きるが、それをダンガンとフカが制した。
「おらおらぁ! くっちゃべってる暇はねえぞ! これから緊急会議を大至急始める! 手が空いてる奴は隣の会議室にこいや!」
「ポケモンについて調べていた方はもちろん、ヒャッキについて調べていた方についても、できるだけ参加をお願いします」
そう言って一同は会議室へと移っていく。
そこから会議の為の準備は着々と進められ、あっという間に20人前後が参加できる様な会議スペースが整えられた。
全員が席に着いたのを確認してすぐ、会議は執り行われる。
進行役は、ダンガンとフカの2人だ。
「あー、まずは知っての通り我々特殊未確認生物対策課は、ポケモンが現実世界に現れた事やそれによって起こる社会の混乱に対して対策を行ってきている訳だが、それと同時にもう一つ対策を取らねばならない事柄がある──フカ、スクリーンに出せ」
「はい、先輩」
そう言ってノートPCを操作して会議室のスクリーンに映し出される。
それは、とある小説投稿サイトに投稿されたポケモンの人気作品の一つ「ポケモン廃人、知らん地方に転移した」だ。
「ご覧のサイトに投稿されているのはポケモンの二次創作……つまり、ポケモンと言う作品のファンが作成した、ポケモンの派生作品の様なものです。この作品の特徴の一つとして、原典のポケモンの中には登場していない登場人物や異世界、特殊なポケモンが現れる事が挙げられます。──そして皆さんもご存知の通り、それもまたこの世界に現れています」
「ま、ただのフィクションの中の存在でしかなかったポケモン達が現実に出てくる様になったんだ。今更フィクションの中のフィクションな奴らが現実にどれだけ現れても、今更驚かねえよ」
そう言ってダンガンは、イヌハギ達ヒャッキ組の方に視線を向け、顎をしゃくる。
その意図に気付いたイヌハギは、スッと立ち上がり会議室全体に届く様に声を上げた。
「──フィクションの中のフィクションの異世界より参ったイヌハギと申す。此度、我らヒャッキの民の存在を受け入れてもらえた事、特殊未確認生物対策課の方々には誠に感謝している」
そう言ってイヌハギは頭を下げる。
会議室にいる人間の中でイヌハギ達の素性を知らなかった人達が、驚いた様にイヌハギに視線を集めた。
「つー訳で、彼らには公安の協力者として特殊未確認生物対策課……長ぇな、ポケモン対策課に所属してもらっている。ポケモンと一緒にポケモンと戦える貴重な人材達だ、くれぐれも失礼のない様に頼むぞ」
「では、そんな協力者の皆さんにここ数日対応していただいたポケモンに関するトラブルや事件についてまとめた物の確認から入りたいと思います。スクリーンをご覧下さい」
そうしてさまざまなポケモン関係のトラブルや事件の内容が、スクリーンに映し出されていく。
現れたポケモンに不用意に近づいた為に襲われ怪我を負ってしまったと言うもの、不思議な力を持つポケモン達の影響でインフラに多大な影響が出てしまったと言うもの、突如として暴れ回るポケモンが現れて市民の生活に影響が出てしまったと言うものまで、さまざまな例が次々と報告された。
そしてこれでも一部抜粋しているに過ぎないと言う現実に、胸を痛める一同。
理央達協力者組が今まで対応してきたトラブルなど、ほんの一部の中の一部でしかなかったのだ。
「──以上が、昨日までの報告だ。これらの異常事態はこの先日本中、世界中で相当な期間起こる事が予想される。これからもそれぞれ、気を引き締めて職務に当たるようによろしく頼むぞ」
「では次に、もう一つの我々が対応しなければならない事案である、ヒャッキのテング団についてです。イヌハギさん、それに対して詳しい説明をお願いします」
「……わかった。だがその前に、ここにいる人間がテング団やヒャッキの事についてどれだけ知っているかを確認させてほしい」
「それでしたら、以前私と先輩に話してもらった内容を職員達に共有してあるので問題ないと思います」
「念の為、共有した内容をスクリーンに映し出して読み上げます」とフカがノートPCを操作すると、ヒャッキについて箇条書きにされた内容が映し出された。
・ヒャッキ地方とは時空の歪によってこの世界と繋がっている異世界。
・ヒャッキ地方にはテングの国、キュウビの国、オニの国がある。
・彼らの出身国テングの国には、テング団と言う軍ないし警察に相当する組織がある。
テング団にはイヌハギらの属する穏便派と、タマズサ、アルネと言う危険人物が属する過激派がある。
現在テング団及びテングの国を支配しているのが過激派タマズサ。
・タマズサの主導でテングの国は他二ヵ国に戦争を仕掛けている。
・テング団の目的は秘宝「赤い月」を手に入れる事。
・「赤い月」の正体とは、ヒャッキ地方固有の姿のルギア&ホウオウの事である。
・テング団は「赤い月」を手に入れる為に、世界を超えて侵攻してくる可能性が高い。
「……感謝する。そして今回某がヒャッキに戻った時には、状況はさらに状況は悪化していた」
そう言うとイヌハギは、懐から何かの生き物の一部の様な物を取り出した。
会議室にいた多くの者はそれが何なのか分からずにいたが、イヌハギがこのタイミングで取り出したと言う事実にピンときた理央だけは、その正体に気付いてしまった──イヌハギの元にそれがあると言う、残酷な意味にも。
「イヌハギさん……それって、まさかオーパーツ!? じゃあ、もうオニの国は……」
「……ああ、そう言う事だ」
「──すみません、申し訳ないのですが至急状況の説明をお願いします。理央さんは、それが何か知っているのですか?」
「は、はい……知っています。でもこれは、ここにあったらいけない物なんです! それも、今は世界がこんな状況なのに……! このままじゃ大変なんです!」
理央の尋常ならざる様子に、一気に会議室に騒めきが広がる。
フカも何が何だか分からずに困惑していると、ドンッと言う音が会議室中に響き渡った。
ダンガンが拳で机を力強く叩いたのだ。
「テメーら静かにしねぇか! 今は大事な会議中だろうが! ──理央、とりあえずお前はまず落ち着け。そんで深呼吸しろ。落ち着いたら、どう言う事なのか俺らに教えてくれ」
「わ、わかりました……」
その言葉を受けて理央は、自らの胸に手を当てて深呼吸を始める。
一回、二回、三回、四回──。
そんな風に何度か繰り返している内に、理央は何とか落ち着きを取り戻す事ができた。
「……すみません、皆さんお騒がせしました。えぇっと、まずは結論からですかね?」
「ああ、それで良い。落ち着いて頼む」
ダンガンに促され、理央は言葉を続ける。
「ヒャッキ地方でテングの国の戦力が整ってしまいました。いつテング団がこの世界に攻めてきても、不思議じゃありません」
「──なに?」
理央の言葉にまた騒めきが起こるが、今度はダンガンの咳払い一つでそれは止まった。
そのタイミングで、イヌハギから理央の言葉に補足が入る。
「だが、安心してほしい。某が可能な限り侵攻を遅らせる為の工作をしてきた。今すぐにどうこうなる様な事にはならない筈だ」
「あ、そうなんですね。よかったです……」
「……すみません。やっぱり順を追っての説明をお願いできますか? そのイヌハギさんの手にある物とテング団の侵攻について、一体何の関係があるんですか?」
フカの問いかけに応じる様に、理央は話始める。
「まずはテング団……と言うか、ヒャッキ地方で使われるオーライズと言うものについての説明です。オーライズとは、強力なポケモンのオーラ──生命力を別のポケモンに纏わせて強化する技術の事です。タイプ・特性・オオワザ──必殺技みたいなものを、一時的に上書きする事ができる様になります。そしてこれには、オージュエルとオーパーツが必要となります」
「オージュエルとは、ヒャッキ地方で発掘される特殊な宝石の事だ。このオージュエルでオーパーツのオーラを解き放ち、ポケモンに纏わせる事でオーライズは叶う」
「オーパーツ……先程も理央さんが口にしていましたね。イヌハギさんが持っている物がオーパーツなのですか?」
フカの問いかけを、イヌハギは肯定する。
「そもそもオーパーツとは、所謂ヌシと呼ばれるレベルまでに至った強力なポケモンのオーラが籠ったアイテムの事なんです。例えばポケモンの身体の一部とか、オーラそのものが宿った物とか……イヌハギさんが持っているオーパーツは、多分前者だと思います」
「なるほど……では、先程の質問に戻ります。理央さんは、それが何か知っているのですか?」
「……はい」
おそらくですけど……と前置きして、理央は続けた。
「ウガツキジンのオーパーツ……ですよね? イヌハギさん」
「……ああ、そうだ」
「やっぱり……じゃあ、もう三羽烏全員がギガオーライズできてしまう状況なんですね……」
「ウガツキジン? ポケモンが現れてからポケモンの種類や名前について調べていましたけど、そんなポケモンいましたっけ? それとギガオーライズってなんですか?」
「ウガツキジンとは、ヒャッキ地方に伝わる三大妖怪──強力なポケモンの名称だ。そして某の持つヒャッキのルカリオの先祖だと言われている。ギガオーライズとは、その先祖のオーラを重ねることで先祖返りを起こした強力なオーライズの事だ」
「なるほど……では、さっき理央さんがオニの国がどうこうと言っていたのはどう言う意味ですか?」
その質問に、理央は目を伏せる。
出来る事なら外れていてほしかった事だからだ。
テングの国にあるヒャッキアーマーガアの先祖・マガツカガミのオーパーツ。
キュウビの国にあるヒャッキフーディンの先祖・ワカツミタマのオーパーツ。
そしてオニの国にあるヒャッキルカリオの先祖・ウガツキジンのオーパーツ。
それぞれの国に安置してある筈のこれらのオーパーツをテング団が所持していると言う事は、それはつまり──。
「キュウビの国、そしてオニの国はテング団によって攻め落とされた。今はもう、テングの国の一強状態だ」
「……なるほど、そう言う事でしたか」
「今は外国との戦争状態が終わってしまった影響で、次はこちらの世界に攻め込む準備を進めているところだ。某の工作があるとは言え、それがどこまで時間を稼いでくれるか……」
「なるほどな……情報ありがとうな理央、イヌハギ」
そう言うとダンガンは全員に向かって話し出す。
「さて、情報共有は以上だ。聞いての通り相手は強大、こちらは戦力的にもポケモンについてもそれ以外でも大きく遅れをとっている」
会議室が静まり返る中、ダンガンは「だからこそ」と続ける。
「遅れているのなら、追いつくしかない。我々には市民を守る義務がある、この国を守る責任がある! ここで下を向いて、打ちのめされている時間は1秒だってない!」
会議室中に響くダンガンのその言葉に、その場にいる全員の胸が震える。
そんな全員の強い視線を受け止めたダンガンは、最後にニカッと笑って締め括った。
「じゃあ、全員で今日も頑張ろうぜ! 以上、解散!」
※※※
「イヌハギさん、私……強くなりたいんです。私を鍛えてください」
緊急会議が終わった後、理央はすぐにイヌハギを捕まえて強い瞳で願い出ていた。
これから先、この世界の治安を守るにしてもテング団と戦うにしても、強くなる事はマストだ。
強くなければ、世界も守れない。市民も守れない。自分も守れない。推しの幸せも守れない。
そんな理央の真っ直ぐな視線を間近で受け止めて、イヌハギは少し笑みを浮かべた。
「……お主なら、きっとそう言ってくると思っていた」
「えっ?」
「外に出るぞ。お主に渡したいものがある」
そう言って、理央とイヌハギは連れ立って建物の外に出た。
「まずはこれだ。ポケモンを入れる瓢箪に回復道具。この後対策課にこれらの材料となる種を渡すから、直に量産ができる様になるだろう」
「は、はい! ありがとうございます」
【理央はイヌハギから 瓢箪と キズぐすりを もらった!】
「そして後は……これだ」
そう言ったイヌハギは新しく3つの瓢箪を取り出し、栓を開けた。
そうして飛び出してきたのは、理央の良く知るヒャッキのポケモン達だった。
【オニスズメ(ヒャッキのすがた) ことりポケモン タイプ:じめん/ひこう】
【コノハナ(ヒャッキのすがた) あくどうポケモン タイプ:はがね/あく】
【カジッチュ(ヒャッキのすがた) おばけりんごポケモン タイプ:こおり/ゴースト】
「え、あの……イヌハギさん、これは……」
「……お主なら、もっと強くなりたいと言うと思ってな。捕まえてきておいた」
そう言ってイヌハギは理央に向き直る。
「此奴らを含めたお主のポケモン達を使いこなし鍛えあげ、進化させて見せよ。そうしたら稽古をつけてやる」
「──は、はい!」