ポケモン廃人ではないが、知らん世界に現れた推しに全力を捧げる   作:なんちゃってアルゴン

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異変発生

 

※※※

 

 イヌハギから新たに3匹のポケモンを託された理央は、その日のポケモン対策課としての仕事が終わったところでポケモン達と改めて対面していた。

 

「じゃあ改めてまして、君達のトレーナーになった凍田理央です。皆、これからよろしくね!」

 

「チチュンチチュン!」

「カカカッカカカッ」

「カジジジジジ……」

 

 それぞれのポケモン達は思い思いの反応を返してくれている。

 ちゃんと反応が返ってきた事から、どうやら彼女に対しての第一印象の方は悪くない様子だ。

 

(イヌハギさんに稽古をつけてもらう為にも、この子達にはうんと強くなって進化してもらわなくっちゃ!)

 

 強くなる為にイヌハギからの稽古を受けるには、彼らを進化させる事が条件だ。

 その為に必要な事は、ポケモンを戦わせる事で経験を積ませ、より強く育てる事である。

 理央は駆け出しのトレーナーとして、これ以上なく張り切っていた。

 

「まぁそれはそれとして、お腹空いたからとりあえず皆でごはんにしよっか!」

 

【特性:超マイペース】

 

 こんな時でも超マイペースな理央であった。

 だかしかし、今回はそれが功を奏した。

 

「チチュン! チチュン!」

「おーよしよし! オニスズメは人懐っこいな〜!」

「カカカッ! カカッ!」

「カジジ……」

「あ、こらコノハナ! カジッチュのごはんにイタズラしないの! カジッチュも、そう言う時は怒っていいんだよ?」

「カヌヌ……」

「アォン……」

「ん? ああ、大丈夫だよ! 2人の事もちゃんと忘れてないからね! ほら、一緒に食べよっ?」

 

 まずは手持ち達のポケモン達と食事を共にする事で、それまで初対面だったポケモン達と触れ合い知る事ができたからだ。

 ポケモンと一口に言っても、その性格や個性はそれぞれ違う。

 同じ性格や個性の人間が誰1人として存在しないのと同じ事だ。

 例えば理央が強くなる事に固執してポケモンを鍛える事に焦ってしまい、ポケモンの生き物としての面を知る事を疎かにしてしまっていたとしたら、強くなる道からは大きく遠ざかっていただろう。

 強さを求めるからこそ、強くなる事に縛られてはいけない。

 理央のトレーナーとしての、最初のファインプレーだった。

 

「ふぃ〜お腹いっぱい〜! この後は……あ、そうだ! ねぇ皆、君達の使える技を私に見せてくれない?」

 

 次に理央が提案したのは、ポケモン達の技を知る事だった。

 この世界には強さを見ると言ったコマンドや、ポケモンの技が確認できるポケモン図鑑なんて便利な物はない。

 今までは多少のゲーム知識とフィーリングで乗り切ってきたが、ここからはそうはいかない。

 これからトレーナーとしてポケモンに指示を出す為には、ポケモンが何ができるかを正しく知っておかなければならないからだ。

 

「よーし、それじゃあ張り切って行ってみよー! 皆、今夜は寝かさないぞー!」

 

※※※

 

「……で、寝坊してしまったと」

「大変申し訳ございませんでした」

 

 次の日、理央は平身低頭の姿勢でフカに謝り続けていた。

 寝坊の原因は明らかで、ポケモン達の使える技を確認してからどう育てるかが楽しみ過ぎて碌に眠れなかったからだ。

 そして、明け方になってようやくウトウトできたと思ったら目覚まし時計の音も聞こえないレベルで爆睡してしまい、最終的に1時間以上の大遅刻をかましてしまったのだ。

 

「本当にすみません……協力者どころか、私は社会人失格ですぅ……」

「ま、まぁ失敗は誰にでもありますよ。今後は気をつけてくださいね」

 

 そう言ってフカは話を切り上げにかかる。

 別にフカとしては小言の一つでも言ってもよかったのだが、下手に落ち込まれて今後の活動に支障が出るよりは何も言わない方が賢明だと判断したからだ。

 だが、それでも彼女は落ち込んでしまっている様に見受けられる。

 これはどうしたものかと考えて、ふと名案が浮かんだ。

 

「理央さん。もしよろしければなんですけど、買い出しをお願いできますか?」

「買い出しですか……? もちろん大丈夫ですけど、何を買ってくれば良いんですか?」

「軽食などのお腹を満たせる物をお願いしたいと思います。ご存知の通り対策課の皆さんは多忙なので、食事の時間も削りながら働いているのが現状です。なので、短い時間で食べられる様な物を、イヌハギさんと2人でお願いします」

「はい、わかりました……はぇ?! イヌハギさんと?!」

「? はい。今現在イヌハギさんは待機中なので、近くのスーパーまで一緒に買いに行ってきて下さい。お金は、後で経費で落とします」

 

「わかりました」と答えた理央の声は、明らかに震えていた。

 

(イヌハギさんと買い出し、イヌハギさんと買い物、イヌハギさんと……デート?!)

 

※ただの買い出しです。

 

(大変! 急いで支度しなきゃ! 部屋に戻って服とか化粧とかもちゃんとして……)

「──リオ。朝は姿を見せなかった様だが、何かあったのか?」

「時すでに遅し!」

 

 頭を抱えて勢いよく蹲るリオに困惑しながらも、フカから事情を伝えられるイヌハギ。

 こうして2人は、一緒に買い出しに行く事になったのだ。

 

※※※

 

「ゼリー飲料にシリアルバー、それにカップ麺にバランス栄養食と……うん、大体こんな感じかな?」

 

 理央が立ち直ってから徒歩で少々、2人はそれなりに近くのスーパーへと足を運んでいた。

 スーパーに着いてからは理央の主導の元、手軽に食べられそうな物をイヌハギと協力しながら買い物カゴいっぱいに入れていく。

 

「……いつ来ても、こちらの世界の商店には驚かされる。兵糧向けの食料が、これ程までに多種多様な上に大量に売られているとはな」

 

 その種類と品数の多さに、ヒャッキ出身のイヌハギは舌を巻いていた。

 そんな素直な反応をしてくれるイヌハギに気を良くしたリオは、もう少しスーパーを見て回ってみる事をこっそりと決めた。

 理央達が次に向かったのは、新鮮な野菜や果物が並べられている青果コーナーだ。

 彼女の狙い通り、陳列された商品の鮮度にイヌハギは驚きを隠せずにいた。

 瘴気によって汚染されているヒャッキ地方とこちらの世界とでは、食べ物の品質さえ大きく異なるのだ。

 そんなイヌハギの姿を見て、理央はヒャッキの瘴気を祓えるルギアとホウオウの確保を、改めて胸に誓うのだった。

 それはそれとして、理央は買い物の方に意識を戻す。

 

「うーん、やっぱり栄養バランス的にも果物とか買っていった方がいいのかな……? バナナとか、リンゴとか……」

「ん、リンゴか……時にリオ、もうカジッチュをどちらかに進化させるのか決めたのか?」

「どっちか? アップリューかタルップルにですか?」

 

 理央の言葉に「そうだ」とイヌハギは返す。

 イヌハギから受け取ったポケモンの中で、もっとも進化させやすいのがカジッチュだった。

 カジッチュと言うポケモンは、与えたリンゴによって進化先が変わる。

 そして、それはゴーストアップルとなってしまったヒャッキ地方のカジッチュも同じだ。

 ウラギクも使っている、酸っぱいリンゴによって進化するアップリュー。

 ムカゴも使っている、甘いリンゴによって進化するタルップル。

 どちらも、得意分野のはっきりと分かれたポケモンだ。

 

「それなんですけど、私はもう一つの進化先にしようかと思ってるんです」

 

 そう言って理央は、産地直送たっぷり蜜入りリンゴと宣伝されていたリンゴを手に取った。

 彼女の頭の中には、とあるポケモン達の姿が浮かび上がっている。

 しかし、その言葉にイヌハギは訝しむ様に頭を捻る。

 

「もう一つの進化先……? カジッチュの進化先は2通りの筈だが……」

「え? カミッチュって知りませんか? カジッチュが蜜入りのリンゴで進化する姿なんですけど……」

 

 それを聞いた事で、イヌハギは合点がいったとばかりに「なるほど」と頷いた。

 理央が不思議に思っていると、イヌハギはその疑問に答える様に話し始めた。

 

「これは某の推察だが、おそらくヒャッキの土地ではそのカミッチュとやらは生まれないのだ」

「えっと……それはどうしてですか?」

「瘴気に侵されたヒャッキの土壌では、蜜が入っているほどの美味いリンゴは実らないと言う事だろうよ。現に、ヒャッキでカジッチュはアップリューとタルップルにしか進化しない」

 

 そう言ってイヌハギは目線を伏せ、重苦しい空気が流れ出した。

 計らずも、自分達の土地の惨状をまざまざと再確認してしまう事になってしまったからだ。

 そんな下を向くイヌハギの様子を見た理央は、硬く握られていたイヌハギの拳をそっと両手で包み込んだ。

 それに驚いたイヌハギと視線がかち合うが、理央はそれを真正面から見つめ返した。

 

「──ヒャッキを、カミッチュが生まれる事のできる様な豊かな場所に、一緒にして見せましょう」

 

 自分の言葉にイヌハギが静かに頷いてくれたのを見て、理央はその後の雰囲気をカラッと変える為に声色を明るくする様勤めた。

 

「イヌハギさんイヌハギさん! やっぱり果物も買って行きましょうよ! 栄養バランスはもちろんですけど、生の食材を食べる事だってきっと大切な筈です!」

「──ああ、きっとそうだな」

「食べるの楽しみですよねー! あ、そうだ! イヌハギさんには、私特製のうさぎさんリンゴをぜひ召し上がってほしいです! 私こう見えて、けっこう得意なんですよ!」

「ほう? それは楽しみだ」

 

 そんな風に雑談を挟みながら、2人は会計を済ませてスーパーを出る。

 そんな時だった。

 

 ──ピピピッ! ピピピッ! 

 

 イヌハギの持つ通信端末に、着信が入った。

 2人の表情が一気に引き締まる。

 両手に持っていた内の片方の買い物袋を理央に預け、イヌハギは素早く応答した。

 

「イヌハギだ。どうした?」

「フカです! イヌハギさん、理央さんもそこにいますよね? お2人が買い物に行ったスーパーの方向に、多数の凶暴化したポケモンが向かっています! すぐに警官を向かわせますので、お2人は付近の市民の避難と凶暴化ポケモンの対応を至急お願いします!」

「わかった、すぐに対処する」

 

 そう言ってフカからの通信は切られる。

 スピーカーから漏れ出る音声で理央にも状況は伝わった為、2人は事態対処の為に迅速に行動に移る事ができた。

 まずはスーパーの中の人間及び周辺住民の避難だ。

 

「危険なポケモンが来ます! 今すぐ避難して下さーい!」

「急げ! 今すぐここから離れるんだ!」

 

 2人は出てきたスーパーに再度飛び込むと、大声で危険なポケモンが迫っている事を店員と客に伝え、すぐさま避難する様に訴えた。

 何事かとスーパーの責任者が出てくればポケモン対策課としての身分証を見せ、再度危険が迫っている事を訴えて避難を促す。

 連日のニュースやSNSなどの影響でポケモン対策課の名前は多くの一般人に知られていた為、スーパーの人達は比較的にパニックも少なくスーパーを出て避難を始める事ができた。

 そうしてここは一旦大丈夫だと2人は判断して、スーパー以外の所にも避難を促す為にと店外に出た時の事だった。

 

(うっ……何これ、気持ち悪い……!)

 

 突如として理央を襲ったのは、強烈な吐き気にも似た感覚だった。

 胃の奥で不快感が暴れている様な、そんな得も言われぬ様な感覚。

 更には酷い生理痛の時の様に、頭と腹の奥がひたすらに痛む。

 それらの嫌な感覚にいっぺんに襲われた事で、理央は思わずその場にへたり込んでしまう。

 そんな理央の様子に気付いたイヌハギは、すぐさま彼女の傍らへと駆け寄った。

 

「リオ、リオ! しっかりしろ! 気をしっかり持て!」

「イ、イヌハギさ、ん……すみません、私……急に気持ち悪くなって……」

「大丈夫だ。まずは落ち着いて、ゆっくりと呼吸をしろ」

 

 理央にそう声を掛けたその時、イヌハギは我が目を疑った。

 自分の視界に、この世界には絶対に有ってはならないものが入ったからだ。

 

「まさか……瘴気だと?! 何故こちらの世界にも瘴気が溢れている?!」

 

 周りを見渡せばいつの間にか瘴気がそこら中に蔓延しており、瘴気を吸い込んだ影響か近くにいた一般人が数名ほど動けなくなるほどに体調を崩してしまっていた。

 これはまずいと判断したイヌハギはリオを抱えながら急いでスーパーへと戻り、外に有毒な気体が溢れていると言う状況を避難誘導しているスーパーのスタッフ達に伝えた。

 そしてそれを受けたスタッフ達は、協力して外の体調不良者を店内に救出。

 避難がまだだった残りの人間と一緒に、店の奥へと避難するのだった。

 

※※※

 

「──状況はわかりました。今すぐ防護服を装備した警官隊と、救急隊をそちらに手配します」

「かたじけない。フカ、某はこれから瘴気によって凶暴化したであろうポケモンの制圧と、瘴気の原因を探る」

「いや、イヌハギさんも理央さんと一緒にスーパーで待機してて下さい。今お店の外に出る事は危険過ぎます」

「某はヒャッキの人間であるから、ある程度の瘴気ならば耐えられる。むしろ、被害がまだ少ない状態である今の内に手を打たねば、更に被害は増えていくぞ」

「……わかりました。くれぐれも、無理はしないで下さいね」

 

 そう言って通信は切れた。

 その後スーパーの責任者と2、3やり取りをしたイヌハギは、店の出入り口へと向かう。

 

「……イヌハギさん」

「──お主はしばし休んでいろ。大丈夫だ、某に任せろ」

 

 そう言って外に出たイヌハギは、手始めにスーパーに近づいてくる大量のポケモン達を相手取った。

 どのポケモンも瘴気の影響で目は赤々と輝き、我を忘れて凶暴化している。

 そんなポケモン達がスーパーの中に入ってこない様に、イヌハギは1匹ずつ確実に戦闘不能にしていく。

 そしてそれが片付けば今度は瘴気の原因を探る為に、凶暴化ポケモン達がきた方向へと足を進めていく。

 

「ルカリオ、無理をさせてすまない。せめて原因を突き止め、時間を稼ぐぞ」

「ガォン!」

 

 凶暴化したポケモン達を倒しながら、瘴気の原因を探るイヌハギとルカリオ。

 多くの暴れ狂うポケモン達を薙ぎ倒しルカリオも肩で息をし始めた頃、ようやくそれはイヌハギとルカリオの前に姿を見せた。

 

「ッ! 間違いない、あやつが凶暴化の中央だ!」

「ガルルルルゥ!」

 

 更に現れた凶暴化ポケモンの群れの後方にぷかぷかと陣取るのは、紫色の丸い風船の様な物が二つ連結した姿のポケモン。

 その身体に空いたあちこちの穴からは明らかに有害な見た目のガスが吹き出しているのはもちろん、瘴気もその身体から溢れ出させている。

 そして例に漏れず、瘴気によって凶暴化したポケモン達と同じ様に、その目は赤々と輝いていた。

 

「スモモモッグァー!」

 

【マタドガス どくガスポケモン タイプ:どく】

 

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