ポケモン廃人ではないが、知らん世界に現れた推しに全力を捧げる 作:なんちゃってアルゴン
「ルカリオ! "はどうだん"でマタドガスを狙撃しろ!」
イヌハギの指示でまずはマタドガスを撃ち落とすべく、ルカリオは両手に波動の力を溜めて撃ち出す。
"はどうだん"はマタドガスに向かって真っ直ぐに飛んでいくが、マタドガスもそう簡単に当たってはくれない。
口からヘドロでできた爆発物を吐き出し、"はどうだん"を迎撃する。
【野生のマタドガスの ヘドロばくだん!】
"はどうだん"と"ヘドロばくだん"がぶつかり合い、大きな爆発を引き起こした。
それによって発生した爆風からルカリオとイヌハギは己を庇うが、凶暴化しているポケモン達はそんな事は意にも介さずにルカリオ達に迫ってくる。
「ルカリオ! "こごえるはどう"だ! 奴らの足を止めろ!」
イヌハギはルカリオの凍てつく冷気の波動によってポケモン達の足を止める事を狙うが、瘴気によって暴れ狂うポケモン達には効果が薄い。
しかも、今回群れとして向かってきているポケモン達は、氷/格闘タイプのヒャッキルカリオにとっては相手取るのに苦戦するであろう曲者揃いだった。
【ロコン きつねポケモン タイプ:ほのお】
【アイアント てつアリポケモン タイプ:むし/はがね】
【ピジョン とりポケモン タイプ:ノーマル/ひこう】
【マリル みずねずみポケモン タイプ:みず/フェアリー】
【ユンゲラー ねんりきポケモン タイプ:エスパー】
【ワンリキー かいりきポケモン タイプ:かくとう】
炎・鋼・飛行・フェアリー・エスパー・格闘。
これら全てのタイプのポケモンが、運の悪い事にヒャッキルカリオの苦手とするタイプなのだ。
ただ不幸中の幸いだったのは、マタドガスを除いたポケモン達のレベルがそれほど高くない事だった。
しかし、瘴気による凶暴化と数の暴力によって、状況は足し引きゼロの状態となってしまっている。
そしてそれを相手取るルカリオの体力も、ここにくるまで多数の凶暴化したポケモン達を連続で相手にしてきた事から、あまり余裕はない。
だが、この程度の戦力差と逆境で倒れるほど、テング団三羽烏のイヌハギと言う名は安くない。
「数が多いのなら、それぞれ各個撃破して行けば良いだけの事! まずはピジョンからだ! "こおりのつぶて"で狙撃しろ!」
イヌハギの指示に従い放たれたルカリオの"こおりのつぶて"が、寸分違わずピジョンを撃ち抜く。
しかし、ピジョンの方もしぶとく耐えて反撃に出る。
【野生のピジョンの かぜおこし!】
「"こごえるはどう"で相殺しろ!」
ピジョンの起こした風とルカリオの放った冷たい波動がぶつかり合い、なんと拮抗する。
それほどまでにルカリオは弱っていたのだ。
イヌハギは何とかしてピジョンを倒そうとルカリオに指示を飛ばすが、連戦に次ぐ連戦の影響で疲労の溜まってしまっているルカリオは効果抜群の技を防ぐのに手一杯で、その場から動けずにいる。
そしてそんな隙を見逃してくれるほど、凶暴化したポケモン達は優しくない。
【野生のアイアントの メタルクロー!】
【野生のマリルの じゃれつく!】
【野生のワンリキーの ローキック!】
身動きの取れない中、効果抜群の技をそれぞれ受けてしまい大きく後ろに吹き飛ばされるルカリオ。
そんなルカリオの苦戦する様子に、奥の手であるギガオーライズを切る事も考えるイヌハギだったが、結局それは叶わなかった。
【野生のロコンの じんつうりき!】
【野生のユンゲラーの ねんりき!】
「うぐ、うあああぁぁぁ!!」
ルカリオではなく、トレーナーであるイヌハギを直接狙った攻撃だ。
イヌハギの身体は念力によって拘束され、そこに容赦なくサイコパワーが流された。
脳や身体の中身が不思議な力でシェイクされる様な、耐えがたい感覚。
彼がヒャッキ出身の頑丈な身体を持っていなかったら、今頃生命が危うかっただろう。
そして、不利な状況はまだ続く。
【野生のマタドガスは 瘴気を撒き散らした!】
【野生のポケモン達の ステータスが上がった!】
瘴気の発生原であるマタドガスから瘴気が撒き散らされた事で、更にポケモン達は凶暴化して手が付けられなくなっていく。
そして問題はそれだけではなく、瘴気の濃度が上がった事で人体への悪影響がより強く出てしまう事だ。
それはヒャッキ出身のイヌハギと言えども例外ではない。
現にイヌハギは、自分に向けられていたサイコパワーが解かれても、その場に膝をついたまま動く事が出来ずにいた。
(……ここまでか)
その場から一歩も身動きが取れないイヌハギとルカリオにトドメを刺そうと、ポケモン達が目を赤々と光らせながら近寄ってくる。
万事休すとは、この事だった。
(……申し訳ありません、チャチャ様。……ウラギク・ムカゴ、情けない上役ですまない)
最早意識を失い倒れる寸前の状態の中、イヌハギが大切に思っていた者達の事が頭に浮かび上がってくる。
そして最後にイヌハギの脳裏を過ぎったのは、ここにはいない彼女の事だった。
(……ああ、そうだ。あやつに稽古を、つけてやりたかった……)
「──コノハナ! "バークアウト"! リオル! "こおりのつぶて"!」
その時、イヌハギの後ろから放たれた技が、迫り来るポケモン達を薙ぎ払った。
放心していたイヌハギが我に帰り慌てて後ろを向くと、そこに立っていたのは最後に脳裏を過ぎった彼女だった。
「……リ、オ?」
「はい、理央です! 遅くなって本当にすみません。イヌハギさん、私も一緒に戦います!」
そう訴えてくる瞳は力強く、さっきまで倒れていた彼女と同一人物とは思えないほどだ。
「お主、瘴気にやられていたのではなかったのか……? 何故、その様に立っていられる……?」
「……イヌハギさんが凶暴化したポケモン達をスーパーの中に入らない様に皆倒してくれて時間を稼いでくれたおかげです。おかげでゆっくりと休めました」
「しかし、休めたと言っても僅かな時間の筈だ! そんな状態から、一体どうやって……」
「どうやってもないですよ」
「……なに?」
イヌハギの疑問に答える様に、理央は声を張り上げる。
「気合い・根性・痩せ我慢! それで何とかここまで来ました! こんなの痛みが酷過ぎて鎮痛薬の効かなかった時の生理痛ほどじゃない!」
「な、何と……」
「それに、今の私にはヒャッキを平和にしてイヌハギさん達に幸せになってもらうって目標があるんです! こんな大事な場面で、寝込んでる場合じゃないんです!」
理央の覚悟がイヌハギに十二分に伝わってくる。
しかし残念ながら、覚悟だけではどうにもならない事も、この世界にはあるのだ。
【野生のマタドガスは 瘴気を撒き散らした!】
「まずい……! 逃げろ、リオ! あんな高濃度の瘴気をお前が受けてしまえば、今度こそ命に関わるぞ!」
「──逃げませんよ。私は今、逃げてる場合じゃないんです! それに、無策でここまできた訳じゃない!」
そう言って理央は、新たに瓢箪からポケモンを繰り出す。
「瘴気が気体だと言うのなら、より強い風で吹き飛ばしてしまえばいいんです! カヌチャン! "ようせいのかぜ"! コノハナ! "かぜおこし"! カミッチュ! "こごえるかぜ"!」
「カヌヌ!」
「カカカッ!」
「ミチュラララ!」
マタドガスの撒き散らした瘴気とイヌハギと理央の周囲に滞留していた瘴気が、理央のポケモン達が巻き起こした風によって押し流されていく。
その様子に驚くイヌハギだったが理央のポケモンに視線が移った時に、更に驚く事になった。
「そのポケモンはカジッチュ……ではないな。しかし、アップリューでもタルップルでもない……まさか!」
「はい、この子がカミッチュです! ここにくる前に、蜜入りリンゴで進化させてきました!」
「ミチュラララ!」
【カミッチュ(ヒャッキのすがた) おばけりんごポケモン タイプ:こおり/ゴースト】
【ヒャッキのカジッチュが栄養豊富なリンゴによって進化した姿。空っぽの中身にエネルギーを溜め込み、次なる進化に備える】
これで瘴気による問題はクリアされた。
そして凶暴化したポケモン達についても、マタドガスから出た瘴気を追加で浴びなければステータスが更に上昇する事はない。
理央はこの一手で自分達の安全の確保と、相手の更なるパワーアップを封じて見せたのだ。
しかし、イヌハギはまだ安心する事はできずにいた。
「ロコンとユンゲラーに気をつけろ……! 奴らは、サイコパワーでこちらを直接狙ってくるぞ!」
「わかりました! じゃあ、まずはその2匹から倒します! オニスズメ! ロコンを狙って!」
オニスズメ? とイヌハギは疑問符を浮かべる。
何故なら、ここに来てから彼女はオニスズメを瓢箪から出していないからだ。
空を見上げてもオニスズメが飛んでいる様子は見えない。
──その時だった。
【オニスズメの あなをほる!】
【効果は 抜群だ!】
突如としてロコンの足元が盛り上がったと思うと、そこからオニスズメが飛び出しロコンに強力な一撃を見舞った。
理央は予めオニスズメに"あなをほる"を指示して、地中に潜伏させていたのだ。
そのまま吹き飛ばされ気を失うロコンに驚いたユンゲラーは、すぐに下手人であるオニスズメを倒そうと念動力を発動させる。
しかし、そうは問屋が下さない。
【オニスズメの すなかけ!】
【野生のユンゲラーの 命中率が下がった!】
突然自分の目に砂をかけられたユンゲラーは、視界を潰された事で明後日の方向に技を撃ってしまう。
そして、そんな格好の隙を見逃す様な彼女ではない。
「オニスズメは"あなをほる"で離脱して! コノハナ! "バークアウト"!」
理央の指示を受けて素早く地中に潜るオニスズメと入れ替わる様に、コノハナの"バークアウト"がユンゲラーを大きく吹き飛ばした。
効果抜群の技を受けた事で大ダメージを受けたユンゲラーだったが、まだかろうじて動ける様で何とか立ちあがろうとする。
しかし、そんなユンゲラーでは地中からの追撃には対応できない。
再び飛び出してきたオニスズメの一撃を受けて、ユンゲラーは今度こそ沈黙するのだった。
「よっし! これで残り5匹! 偉いよオニスズメ! コノハナ!」
「チチュン! チチュン!」
「カカカッ! カカッ!」
「よしよし、えらいえらいねー! じゃあ、この後も油断せずに行くよ! 皆、お願いね!」
そうポケモン達を満面の笑みで労う理央に、イヌハギは驚きを隠せずにいた。
自分の知る彼女はポケモンに指示を飛ばして操る事こそできていたが、それでも所詮は素人に毛が生えた程度のものだった筈だ。
だが、それが今はどうだ。
ヒャッキのオニスズメの地中に適応したと言う習性を活用し、あっという間に2匹の野生ポケモンを制圧してみせた。
おまけに、ポケモンに対する指示の出し方も澱みない。
ウラギクやムカゴなどのテング団員達と比べても、遜色ないレベルだった。
「リオ、一体何があった? 何故そこまでポケモン達を無駄なく操れる? それもカヌチャンやリオルならともかく、オニスズメやコノハナは某がたった昨日与えたばかりのポケモンの筈だ」
「イメージトレーニングの成果です」
「……なに?」
「昨日、自分の部屋に戻ってからこの子達が何ができるのか、何をさせてあげられるのかをずっとイメージし続けてましたから」
「そのせいで今朝は遅れちゃいましたけど」と彼女は恥ずかしそうに笑う。
そこでイヌハギは、彼女が珍しく寝坊して遅刻した事をフカから聞いたのを思い出した。
彼女はずっとポケモン達の事を考えていたのだ。
それこそ寝る間も惜しんで、責任感の強い彼女がそれが元で朝を寝過ごしてしまうほどに。
「でも、そのおかげでこうしてイヌハギさんを助ける事ができました! イヌハギさん、後は任せて休んでて下さい!」
「……某のルカリオの攻撃を受けて、ピジョンは手負いだ。叩くなら奴からだ」
「わかりました! 情報感謝です!」
そう言って理央は、再び野生のポケモン達に向き直る。
イヌハギはその背中を頼もしいと思う反面、動けずに守られるだけの自分自身が恨めしかった。
そんなイヌハギの考えなど露知らずに、理央はポケモン達に指示を飛ばしていく。
「さあ、皆行くよ! この街を、イヌハギさんを守るんだ!」