ポケモン廃人ではないが、知らん世界に現れた推しに全力を捧げる   作:なんちゃってアルゴン

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お部屋にご招待

 

※※※

 

 立ち合いの結果、正式に協力関係として認められた理央とイヌハギ達ヒャッキ組は立ち話も何だからと言う理由で、理央の借りているワンルームアパートに身を寄せていた。

 

「ささっ、少し手狭なところですけど、ゆっくりしていってくださいな!」

「……世話をかける」

「おじゃまー!」

「失礼する」

 

 主な目的は協力者として理央の部屋をヒャッキ組の拠点とする事だが「腹が減っては戦はできぬ」の精神に乗っ取り、まずはスーパーで食料を大量に買い込んで帰ってきた。

 普段の生活に置いては中々に目立つ山伏の様な格好のテング団だが、今はポケモンが現れた事による混乱から多少目立つ格好など些事と言う事で、大きな騒ぎにはならずに済んだ事は幸運だった。

 

「すっげー! これがこの世界の人の部屋かー! なんか面白そうなのがいっぱいあるなー! お、リオ! これなんだ?!」

「ええい、騒ぐなウラギク! 他人様の住居で! ──すまないなリオ殿。食料はこちらで良いだろうか?」

「大丈夫ですよ、ありがとうございます。ムカゴ君も、ゆっくり寛いでくださいね。ウラギクちゃん、それはテレビって言うの。音と映像で、色んな情報が手に入るんだよ」

 

 そう言ってリモコンを操作すると、案の定ポケモン関連の混乱がニュースになって絶え間無く流れている。

 突然の映像と音声に驚いた2人だったが、すぐに興味深そうにニュースを観始めた。

 

「さてと、それじゃあ少し昼食には早いですが、食事の準備をしちゃいますね! イヌハギさんもお疲れでしょうから、好きに寛いでいて下さいね」

「……感謝する」

 

 そう言ってテレビの前の座布団にヒャッキ組がそれぞれ座った事を確認してから、理央は慣れた手つきで食料を冷蔵庫や戸棚に仕舞っていく。

 この様な状況だと言うのに気丈に振る舞ってみせる彼女の姿に、イヌハギは少なからず好感を持っていた。

 

 

 

(あっぶねぇ〜! たまたま最近部屋の掃除しておいてよかった〜! いや、そもそも創作の推しがリアルに現れて部屋にくるとか聞いてないんですけど〜!)

 

 

 

 気のせいだった。

 

 凍田理央、二十云歳。

 年齢=恋人いない歴。

 

 実はこの手の展開には、全く慣れていなかった。

 

(いやいやいや、だだだ大丈夫だ、臆するな凍田理央。円周率を数えるんだ。私は妄想では百戦錬磨のスーパーウーマンだ。これまで数々の修羅場を乗り越えてきたじゃないか。妄想で)

 

 そもそも架空の存在であるところのポケモンが現実世界に現れている時点で超絶な異常事態なのだが、彼女にとっては今の展開の方がよっぽど異常事態だった。

 彼らヒャッキ組に全てを話した時から、或いは協力を申し出た時から覚悟は決まっていたつもりだった。

 しかしそれはそれ、これはこれである。

 イケメンにしてイケボの推しに、推しカプ待ったなしの二人組。

 そんな彼ら彼女らに手料理を振る舞えると言う事実。

 同じ空間にいて正気を保っていられる今の状況が、奇跡と言っても差し支えなかった。

 

(ああ、空間を司るパルキア様。こんな幸せな空間を作り出してくれてありがとうございますっ!)

 

※パルキアは完全に無関係です。

 

 しかし、いつまでも幸せな空間に浸っている訳にはいかない。

 何故ならば、ヒャッキ地方の厳しい食料事情を考えた時、今この場にいる推し達に少しでも幸せな思いをしてほしいからだ。

 その事を思い出した理央はグッと気合いを入れると、食材の調理に取り掛かる。

 他ならぬ自分の料理で、彼ら彼女らを幸せにする為に。

 

 

 

「えっと……お味の方は、いかがでしょうか……?」

「もう、さいっこーにうまいぞ! こんな美味いメシ食った事ねぇよ! なぁ、ムカゴ?」

「ああ! 少し辛いが、これは本当に美味い! 初めて食べた物だ……何と言う食べ物なんだ?」

「カレーライスって料理です。──と言ってもあんまり凝った物ではないんですけど……」

「なぁに言ってんだよ! ヒャッキじゃこんな美味いの食えないって! イヌハギ様だってそう思いますよね?!」

「……そうだな」

「ほらっ! イヌハギ様だってこう言ってるんだから、もっと自信持てって!」

「──しかし、それだけではない」

「……へ?」

 

 それまで黙々とカレーを口に運んでいたイヌハギが、突然手を止めて理央を見つめた。

 それに釣られる様に、ウラギクとムカゴの食事の手もゆっくりと止まる。

 急に視線が集まり決まりが悪くなった理央は目線をあちこちに移すが、イヌハギの両の目は彼女から逸れる事はない。

 

「この料理にだけ限った話ではない。飲み物の準備、この部屋にある空気を調整する機械や日差しを調節する布、テレビとやらの音量に至るまで、此奴は気を張っていた。だが、それはこちらを恐れているからではない」

 

 食卓を沈黙が覆う。

 そんな沈黙を破る事に罪悪感を覚えながらも、理央は言葉を紡ぐ。

 

「いやぁ、まあ……そう、ですね。皆さんに少しでも気持ち良く食べてもらえたらって思ったからで……す、すみません! イヌハギさん的には差し出がましい事でしたか……?」

「──知っての通り、某は三羽烏の一角だ。恐れられる事も、それなりに経験してきたつもりだ」

 

 イヌハギは語る。

 弱者が虐げられ、強者が幅を効かせるヒャッキ地方に置いて、恐れられ恨まれるなど日常茶飯事だった。

 数少ない忠臣であるウラギクとムカゴを除いて彼の周りにいる人間は、自らに恐れを抱く者か自らを食い物にしようと企む者。

 食事の時も睡眠の時も、下手に気を緩める訳にはいかない。

 そんな日々だった。

 

 

 

「──初めてだったのだ、こんなにも心休まる食卓は。ありがとう、リオ」

「ッ……」

 

 

 

 その時の理央の心中は察するに余りある。

 ただ一つ言える事は、推しから感謝されて感涙しない人間はいないと言う事だ。

 

※※※

 

 色々あったものの、無事に昼食を取り終わった一同。

 腹が膨れた後は眠くなるものだが、生憎と惰眠を貪っている時間はテング団である彼らにはない。

 一刻も早くヒャッキ地方の平穏の為に、姿を消した豊穣の秘宝であるヒャッキルギアとヒャッキホウオウを確保しなければならない。

 だがその為には、この世界の──特にサイゴク地方とされた中国地方を調べる必要はある。

 

「そう言えば、どうして皆さんは関東のここに来られたんですか? 異界の扉を開ける技術を使ってサイゴク地方……じゃなくて、中国地方の方に行けばスムーズだったんじゃ……」

「某らもそのつもりだったのだがな。どう言う訳か、時空の歪みの繋がっている先がズレてしまった様なのだ。詳しい原因は我等にも分からん」

「ま、何とかなるでしょっ! それに、おかげでリオと出会えたんだし!」

「応とも。赤い月やその他の詳細な情報が手に入った事と、有能な協力者ができた事はヒャッキの民にとって大きな収穫だ」

 

 ここまでストレートに褒められると言うのは彼女にとっては久しぶりの事だったのか、少しくすぐったそうに笑う理央。

 だが、こんなもので満足していられない。

 満足するのはヒャッキルギアとヒャッキホウオウを確保して、ヒャッキ地方に安寧が訪れた時だ。

 

「皆さん、今日から私の部屋を活動の拠点にされるんですよね? なら寝具とか日用品を買いに行きたいので、手伝ってもらえませんか?」

「……すまないな。金銭などの返せる物は、いずれ何らかの形で返させてもらう」

「いやいや良いんですよっ! どうせ独身の貯金の使い道なんて、こう言う時ぐらいしかないんですし! それより皆さんがしっかり休める様に、ちゃんとした物を買いに行きましょう! 近くにホームセンターって言う便利な商店があるんです」

「いよっしゃあ! 買い物そのニだな! 腕が鳴るぜぇ!」

「頼むからはしゃいで迷子になるなよ」

 

 こうして一同はホームセンターを目指すのだった。

 全ては安眠の為! 

 

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