ポケモン廃人ではないが、知らん世界に現れた推しに全力を捧げる   作:なんちゃってアルゴン

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目立ち過ぎに御用心

 

※※※

 

「本当にありがとうございました! あなた方のおかげで、お客様もウチのスタッフも大きな怪我を負わずにすみました!」

 

 深々と4人に対して頭を下げる「店長」と印字された名札をつけた恰幅の良い男性。

 その後ろにも数人のスタッフが控えており、揃って頭を下げている。

 野生ポケモン達が店内にいないのを確認して、買い物に戻ろうとした時の事であった。

 そんなこんなで店中の視線が、理央達に向かって次々と突き刺さっている。

 

「い、いえいえいえ! 私達は人として、ととと当然の事をしただけですからぁ! ねえ、皆さん……?」

(ひ、ひぇ〜! まさか私みたいなのでも、他人様から頭を下げられる日がくるなんて〜!)

 

 緊張からか、イシツブテの様にガチガチになってしまっている理央。

 彼女には最低限度のコミュ力はあっても、大勢の人間に注目される事には慣れていなかったのだ。

 

「……如何にも。我らには、我らの目的があったに過ぎない」

 

 理央の感情をいち早く察したイヌハギが、スッと彼女を庇う様に立ち位置を入れ替えた。

 その動作は、僅かなぎこちなさも無く洗練されている。

 そしてその瞬間、理央の乙女心にズキュンとしたのはご愛嬌だ。

 

「──そーゆー事! 気にしないで良いぞ、おっさん!」

「ああ。重傷者も出さずに済み、尚且つこの店が無事で何よりだ」

 

 それにウラギクとムカゴも続く。

 彼らはヒャッキ地方テングの国を支えるテング団。

 矢面に立つ事には慣れていた。

 

 するとホームセンターに残っていた人達から、パラパラと拍手が巻き起こった。

 それは少しずつ大きくなっていき、やがて大きな歓声へと変わっていった。

 

「ありがとー! すごかったぞー!」

「かっこ良かったぞー! お兄さんにお姉さーん!」

「よっ、凄腕ポケモントレーナー!」

「助けてくれてありがとー!」

 

 今回の功労者である4人と5匹のポケモン達を、温かい言葉と拍手が包み込む。

 その歓声に気を良くしたウラギクが、一歩前に進み出て拳を掲げ声を張り上げる。

 

「アーッハッハッハー! 我ら、ヒャッキ渦巻くテングの国のテング団! あの程度のモンスターの襲撃など、痛くも痒くもないわー!」

 

 その力強い言葉に、再び「うおおおー!!」と湧く周囲の人々。

 ムカゴからは「調子に乗るな馬鹿者」と頭を小突かれるウラギクだったが──。

 

「パラララララララララッ!!」

 

 突然の鳴き声に思わず振り返るのだった。

 

「え……? オニドリル……?」

 

 ウラギクのオニドリルが鳴いていた。

 それも翼を大きく広げて見せ、心なしか嬉しそうに。

 しかも、それだけではない。

 イヌハギのルカリオも、ムカゴのダーテングも、同じ様に鳴き声を上げていた。

 もちろん理央のカヌチャンとリオルも。

 まるで、歓声に応える様に。

 それを受けて周囲の歓声も更に大きくなるが、ヒャッキの3人はそれどころではないらしい。

 

(あ、あれ? 何だかヒャッキの皆、戸惑ってる……? どうして?)

 

 理央は疑問に思うが、それはヒャッキの3人からすれば無理のない事だった。

 本来、ヒャッキにおけるポケモンとは「モンスター」と呼ばれ戦争の兵器として用いられている。

 つまり、3人にとってはルカリオもオニドリルもダーテングも、戦いの為の道具でしかなかったのだ。

 言う事を聞かせ屈服させた筈の道具である生き物達が、歓声を受けて嬉しそうな反応を見せている。

 これは、明らかな異常事態だった。

 

「……ルカリオ?」

「──ガォン」

 

 試しにイヌハギがルカリオに話しかけてみるが、キチンと反応は返ってくる。

 忠誠が失われた訳ではない、イヌハギに従順な証だ。

 ウラギクとムカゴも同じ様に試してみるが、オニドリルからもダーテングからも同じ様な反応が返ってきた。

 

 ──これには、歴とした理由がある。

 

 ルカリオもオニドリルもダーテングも、自らが収まっていた瓢箪の中から主人達の様子を見ていたのだ。

 1人の女との出会いで変わった、普段から冷静で冷酷な様子でいた筈の主人達の心の変化を。

 その間、たったの数時間。

 ほんの僅かな時でしかなかったが、確かに変化をもたらした。

 ならば、自分達も変わって良いと考えた。

 ただの兵器としてしか見られていなかった過去に蹴りをつけ、彼らのしもべとして尽くそうと考えたのだ。

 

「えっと……とりあえず、褒めてあげたら良いんじゃないでしょうか?」

 

 そんな理央の言葉に、3人は我に帰る。

 そして言い出しっぺの理央が、自らのポケモン達を労った。

 

「──ありがとう、カヌチャン、リオル。君達のおかげだよ」

「カヌヌ!」

「アォン!」

 

 その言葉に嬉しそうに身を寄せる2匹。

 それに応える様に、彼女もまた2匹を撫でる。

 

「──ほら、皆さんも」

「う、うむ……」

「よ、よっし!」

「やってみるか……」

 

 そう言って、各々ポケモン達を労っていく。

 最初こそぎこちない様子だったが、ポケモン達からの反応が良くなってきた事で少しずつお互い自然体になってきた。

 そんな時だった。

 1人の女の子が、トコトコと理央達の元へ近寄ってきた。

 

「あのね、おねえちゃん。わたしもポケモンほめてもいーい?」

「えっと……もちろん良いよ! その代わり、うんと優しくしてあげてね?」

「うん! わかったっ!」

 

 ポケモンに襲われた後だと言うのに、好奇心の方が勝ったのだろうか。

 目をキラキラとさせて理央達のポケモンを食い入る様に見ていた女の子は、まずはリオルの白い毛並みをゆっくりと撫でた。

 

「……アォン」

「うわぁ、ふわふわだぁ! かわいい! おとーさん、おかーさん! リオルすごいよー!」

 

 その声を聞いて両親と思われる2人が、慌てて近寄ってきた。

 

「こ、こら! 勝手に離れたらダメでしょう? ──す、すみません、うちの子が……」

「いいんですよ、うちの子も喜んでるみたいですし」

 

「ねー?」と同意を求めると「アォン!」と元気な返事が返ってくる。

 カヌチャンに至っては「次はわたし!」と言わんばかりに、女の子の足元に近寄っていた。

 

「……なんて言うか、この子達って本当に実在してるんですね」

「そうだね、まるであの子の観てるアニメの世界から飛び出してきたみたいだ……」

「びっくりしますよねー。私も、この子達とは今日仲良くなったところなんですよ。ゲームやアニメの中の存在だったこの子達と会えた事だって、正直まだまだ受け入れきれてないかもです」

 

 うんうんと同意する2人。

 しかし「でも……」と彼女は続ける。

 その視線の先には、リオルもカヌチャンも撫でながら幸せそうにしている女の子の姿があった。

 

「楽しいですよ、ポケモンと一緒にいるの」

 

 その後、周囲の人も含めてポケモンを労う事に夢中になっていた一同は、目的の買い物の事をすっかりと忘れてしまっていた。

 その事に気がつくのは、更に後の事だった。

 

※※※

 

「お、終わった……とりあえずひと区切りだ、べらんめぇこんちくしょう」

「……こっちはまだかかりそうです。先輩、のど乾いたのでコーヒー淹れて下さい」

「コーヒーくれぇ自分で淹れりゃあいいじゃねぇかよ……先輩をパシるんじゃねえよ、こんちくしょうが……」

「今は手が離せないんです。なので、手が空いた先輩にお願いしました。さっさとして下さい」

 

 男は「けっ、先輩使いの荒いこって……」と口にしながらも、部下の女と自分の分のコーヒーを入れるべく自分のデスクから立ち上がった。

 

 ここは、日本国警察庁公安部の管轄である所のとある一室。

 現在は、突然現実に現れたポケモンこと「特殊未確認生物」に対応する為の対策課本部として、複数の人間が忙しなく働いていた。

 

「しっかし、どうなってんだよこりゃあよぅ。俺達ゃ、フィクションの世界に迷いこんじまったってか?」

「……どちらかと言えば、フィクションが現実世界に迷いこんできた感じですね。まさか、日本のゲームやアニメに登場する生き物が、実際に現れるなんて……」

「傍迷惑なこった。その所為で俺達ゃ朝から晩まで働き通しだぜ。べらんめぇこんちくしょう!」

 

【公安警察 特殊未確認生物対策課本部 弾塚丸示 コードネーム"ダンガン"】

 

【公安警察 特殊未確認生物対策課本部 鮫島風香 コードネーム"フカ"】

 

「──ダンガンさん! フカさん! SNSのトレンド欄を大至急見て下さい! とんでもない投稿が多数挙がってます!」

 

「何ぃ?! まぁたポケモン関連か! 一体今日で何回目だ、こんちくしょう!」

「……先輩、驚くのはいいから早く確認して下さい。後、コーヒー淹れてくれたなら早く下さい」

 

 そう言ってデスクトップのPCから、メジャーなSNSを閲覧していく2人。

 

「──なんじゃ、こりゃあ……」

「……これは」

 

 そこには、どこかの店に入りこんだ大量の野生ポケモン達を相手取り、同じくポケモンを操り大立ち回りをする男女の4人組が写っていた。

 

※※※

 

 次の日の朝。

 

 理央は今まで生きてきた中で、かつてないほどにスッキリとした目覚めを迎えていた。

 普段寝ているベッドの両脇には、相棒となってくれたカヌチャンとリオルの姿があった。

 いわゆる「小」の字で眠っていたのだ。

 

(……そっか、夢じゃなかったんだ)

 

 2匹を起こさない様にそっと身体を起こせば、目に入ってくるのは3人の寝相。

 かっこいい推しのイヌハギ、男勝りで何だか憎めないウラギク、真面目で頼りになるムカゴ。

 起きている時のキリッとした雰囲気は睡眠中の為無く、無防備な姿を見せてくれている。

 それを1人じめにできるなんて……こんなに眼福な時間が他にあるのだろうか? 

 彼女はまだ見ぬディアルガに感謝を捧げていた。

 

(ああ、時間を司るディアルガ様。こんな幸せな時間を現実に作り出してくれて、本当にありがとうございますっ!)

 

※ディアルガは本当に無関係です。

 

(はぁ〜昨日は幸せだったな〜! ポケモンに会えてびっくりはしたけど、二次創作の中にしかいなかった推しにも会えたしな〜! イヌハギさんからサインも貰えたし! イヌハギさんやウラギクちゃんやムカゴ君の為、そしてヒャッキの為に頑張るぞー! おー!)

 

 その時だった。

 

 ──プルルル、プルルル。

 

 理央のスマホの着信音が鳴り響いた。

 

(ヤバッ! マナーモードにするの忘れてた!)

 

 まだ寝ている皆を起こさない様に、素早くスマホを手に取って通話アイコンをタッチする。

 着信元は、またしても部長だ。

 

「──もしもし、凍田です。部長、おはようございます」

「もしもし、凍田さん?! 今どこにいる?!」

「うぇっ?! なんですか急に? 普通にまだ自宅にいますけど……今日は出勤ですかね?」

「それどころじゃないよっ! 凍田さん、今から言う事をよく聞いてね。まずは、絶対にその場から動かずに自宅から出ない事っ!」

「ぜ、絶対ですか……?」

「そう絶対っ! 勝手だけど凍田さんのアパートまで車で迎えに行くから、外に出られる準備だけはしておいて!」

「え、えぇ?! なんでまたそんな事を?」

「……詳しくはテレビかSNSとかで検索すればすぐに分かる筈だから、調べてみて。とにかく時間がないから、僕が行くまでそこから動かない様に! できれば、カーテンとかも開けない事! わかった?!」

「わ、わかりました……」

 

 そして一方的に通話は途切れてしまった。

 一体全体何事だろうと思い、まずは某有名SNSを開いてみるとそこには──。

 

 

 

 トレンド

 

 世界の終わり? 

 ホームセンター

 ポケモン

 黒い任天堂の陰謀? 

 ポケットモンスター

 ポケモントレーナー

 テング団? 

 #ポケモントレーナーのお兄さんお姉さん

 

 

 

 身体から血の気が引く様な感覚とはこう言う事か、と理解した。

 慌ててテレビのリモコンを掴み電源を入れると──そこには自分達がいた。

 

 

 

『「今だよリオル! 全力全開──"アイススピナー"!!」』

 

『「──えー、今ご覧頂いているこちらの映像は、CGや創作物の類いではありません。昨日から世界中で起こっている事と同じ様に、実際の現実に起こった事なのです」』

 

『「アーッハッハッハー! 我ら、ヒャッキ渦巻くテングの国のテング団! あの程度のモンスターの襲撃など、痛くも痒くもないわー!」』

 

『「彼ら彼女らは一体何者なのか? モンスター……ポケモンとは一体なんなのか、コメンテーターの皆さんと一緒に観ていきたいと思います」』

 

 

 

 もはや慌てるとか、焦るとか言う次元ではなくなってしまった。

 

「──リオ? 朝からどうした?」

「うーん、うるさいなぁ……なんだよぉ」

「リオ殿? いかがされた?」

「み……みなさん……」

 

 声を震わせて、理央は続けた。

 

「私達……大バズりしちゃってます……!!」

 

「「「ば、ばず……???」」」

 

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