ポケモン廃人ではないが、知らん世界に現れた推しに全力を捧げる 作:なんちゃってアルゴン
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「イヌハギさんがヒャッキに帰ったぁ!?」
騒動から一夜明けた次の日。
公安が管理する宿泊施設で一夜を越した理央達が、特殊未確認生物対策課の一室に連れてこられて最初に聞いた内容がそれだった。
「ど、どどどう言う事ですかダンガンさん! なんでイヌハギさんがヒャッキに帰っちゃったんですか! それも1人で!」
「そ、そうだ! 同じテング団のあたしだって聞いてねぇぞ! どう言うこった!」
理央とウラギクが狼狽えながらもダンガンに詰め寄る。
一方、その反応は予め予想していたと言わんばかりにダンガンは溜め息をついた。
「……こうなるのがわかり切ってんだから、帰るならちゃんと説明してからにしろよって俺はあいつ言ったんだけどなぁ」
「昨日?! 私達、昨日はお夕飯から寝る前までは皆一緒にいましたよね?! つまりイヌハギさんは、その後に寝ないでヒャッキに帰っちゃったって事ですか?!」
「テメーこの野郎……イヌハギ様に関して何隠していやがる! さっさと吐きやがれ!」
あまりの衝撃からか、どんどんとヒートアップしていく2人。
どうしたものかと頭を抱える何故かゲッソリとしたダンガンと、やれやれと言った様子で何故かツヤツヤとしたフカ。
果たして昨夜はナニがあったのだろうか?
そんなコンビに助け船を出したのは、同じく宿泊していた田村部長だった。
「まあまあ2人共、その辺で抑えて。彼の事だ、おそらく急ぐ理由があったんだろう。ダンガンさんとフカさんは、何か話を聞いていませんか?」
「……えぇ、もちろん聞いています。理由の方も急いだ方が良さそうなものだったので、我々の方で許可を出しました」
「……一体、どんな理由だったんですか?」
「はい。あれは我々が就寝の為に、部屋に戻った後の事でした」
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ダンガンの部屋。
そこでは、扉の前で2人の男女の距離が0になっていた。
「──んん。ったく、部屋に入っていきなりかよ」
「当たり前です。私言いましたよね? 今夜は覚悟する様にって」
「はいはい悪かったよ、どうぞ好きにしてくれ」
「……では、お言葉に甘えて」
そう言うと、フカはそっとダンガンの胸元に顔を埋めた。
そして両手をそのまま前に出し、優しくダンガンの身体を抱きしめる。
それからしばらく、そんな時間が続いた。
「……おい、なんだよ。今夜はヤケに甘えたじゃねぇか」
「……先輩のばか」
「はぁ?」
「……ばーか。先輩のばーか」
その後何を聞いても、彼女から返ってくるのはそんな返事ばかりだ。
いい加減に引き離そうと両手を彼女の肩に置いた時に、ダンガンはやっと気付いた。
フカの身体はずっと震えていたのだ。
「お前……」
「──あんな時に『後は頼んだ』なんて言われたら、もうダメだって思っちゃうじゃないですか……あの時私が! どんな思いでいたと思ってるんですか!」
「……すまん」
「火に囲まれる貴方達を助けに行く事もできなくて! でも先輩に頼まれたから、そんな中でも避難の指示もしないといけなくて! 貴方達が氷になった火の海から帰ってくるまで、私がどんな気持ちでいたかわかりますか!!」
「……悪かった、本当に」
「……許しません。私にあんな思いをさせて不安にさせた事、絶対に許しませんから」
そう言って、彼女は抱きしめる力を強める。
一方彼の方は、胸元にある彼女の頭を優しく撫でる事しか出来ずにいた。
そんな事をしている間に時間が過ぎていき、手に疲れを感じ始めた時だった。
コンコン。
突然、扉をノックする音が響いた。
磁石が反発する様に、慌ててパッと離れる2人。
彼女がサッと部屋の奥に行ったのを確認してから、ダンガンは扉を開けた。
「──夜分遅くに失礼する」
そこにはイヌハギが、何やら真剣な面持ちで立っていた。
何かを察したダンガンは、念の為に周りに誰もいない事を確認してからそっと部屋へ招き入れる。
「イヌハギどうしたってんだ? こんな遅くによう」
「急ぎお前達に話しておくべき事が出来た故、こちらにきたのだが……邪魔をしてしまった様だ」
「え、お前……わかるのか?」
「ああ、気配や匂いでな。すまない、手短に済ませる」
そう言ってイヌハギは本題に入った。
「今夜ヒャッキに帰ろうと思ってる? そりゃまたなんで?」
「──某らは『赤い月』を探す為にテング団がこちらの世界に侵攻する為の先遣隊の役目も担っている。一度情報を持ち帰らないと、他の団員や三羽烏に不審がられてしまう」
「なるほどな。ちなみに、その情報って言うのは例えば?」
「『赤い月』に関する重要度の高いものから、地理や人、近辺の強力なポケモンと言った細々としたものだ。こちらの世界の混乱が向こうにわからない様に、上手く誤魔化しながら伝える」
「──了解だ。そこはアンタを信じる……んで? 他には何か帰る理由とやらはあるのかい?」
「大きく分けて2つある。1つは、こちらの世界に役に立つ物資をヒャッキから持って帰りたい。ポケモンを入れる瓢箪やその種、回復道具の素材などだな」
「おお! そいつはありがたい! モンスターボールなんて便利な物、俺達は開発なんて出来なくてな……」
「そして2つは、タマズサをただ放って置くと色々とまずいと言う理由だ。あやつは戦と暴力の為に生きている様な男だ。下手に放っておいたり、逆に刺激したりすればたちまち戦を巻き起こす」
「おお、そいつは怖いな……わかった、物資やタマズサの件は一旦そっちで頼む。例の時空の歪とやらまでは、ウチの職員に送らせる。こっちの世界に戻ってきた時の為に、連絡用の端末も手配するわ」
「……何から何まで、かたじけない」
「いいって。こう言うのはお互い様だ。ただ、帰るならアイツらにちゃんと説明してからにしろよ?」
「いや、今は時間が1分1秒でも惜しい。出来るのなら、今すぐにでもここを立ちたい」
「──わかった。なら、さっさと手配しちまおう」
そう言ってダンガンは各所へと連絡を入れ始めた。
そしてその後、数十分足らずで諸々の準備が完了した。
その完了の知らせを受けて、イヌハギはヒャッキへと帰っていった。
「ったく、慌ただしいもんだぜ。──おーい、もういいぞ」
部屋の奥へと引っ込んだフカに声を掛けるが、返事はない。
不審に思い、ダンガンは部屋の奥へと進む。
するとそこには、ベッドの中で何やらモゾモゾと動いている彼女の姿があった。
「……おい。お前、ナニやって……」
「あ、せんぱーい。なんだか、せんぱいのベッドの匂い嗅いでたらこんなになっちゃって……」
そこには顔を火照らせ、完全に出来上がってる1人の女がいた。
「──ふふ、せんぱい? せんぱいは、不安なままの気持ちのわたしを放っておくんですかぁ?」
「ッ!」
そうしてダンガンは、漢になった。
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「──とまぁ、経緯としてはそんな感じです」
「お前……そこまで話す事ねぇだろ……」
「え、えっと、えぇっと……!」
「あわ、あわわわわわわ……!」
「いやぁ、何と言うか……若いっていいねぇ……」
部屋の空気が、とんでもない事になっていた。
「とまぁそんな訳で、イヌハギさんはヒャッキの方に帰っています。また、ムカゴさんについても命に別状はない様ですが、一応検査入院をしてもらってます。なので残りの皆さんには、特殊未確認生物対策課としての仕事の手伝いをしていただきます」
そう言ってフカは続ける。
ポケモンが現実世界に現れてから数日、早くもトラブルの知らせは尽きずにいた。
そして、それらの事象に対してポケモンを操って対処出来るのは、理央達を含めた数人だけなのが現状だ。
だからこそ、手伝いとは言えその重要度は計り知れないものとなる。
一同に緊張が走る。
「わ、わかりました! 精一杯頑張ります!」
「応とも! あたしらに任せとけ!」
「……微力ではありますが、頑張らせていただきます」
こうして理央、ウラギク、田村部長での公安のポケモン関係に関する手伝いが始まった。
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「……何と言う事だ。オニの国をこんなに早く、それも実験の為に攻めるなどと……」
「──イヌハギ、こちらにいましたか」
「チャチャ様! ご無事で何よりです」
イヌハギは素早く傅く。
彼女こそイヌハギ達穏便派にとっての主君であり、未来への希望そのもの。
【テングの国 穏便派筆頭 チャチャ】
「キュウビの国に続いてオニの国にまで戦火が……最早、一刻の猶予もないのかもしれませんね……」
「……ひとまず、某と共に来ていただきませんか? 安全な場所──世界までお連れします」