◇◇◇
「解呪成功!ファー眠い」
「ゴ…ゴリラの中から…おかんが出てきたあっ」
花沢は開いた口が塞がらなかった。先程まで鬼の形相で殺そうとしてきた宿敵の中から自分を死ぬまで愛してくれていた母親が出てきたのだから。花沢が唖然としている間に九十九は一方的に喋り続ける。
「いやーっ 本当に久しぶりだねキーちゃん!ママはこっちだぜ さぁおいで」
九十九はそう言いながら近づきペタペタと花沢の身体中を触り続けてコミュニケーションを取るも、花沢からの返事は未だに帰ってこない。頭の中が情報量が多すぎて思考を一時停止しているのだ。
〜〜〜〜〜〜
「うーっ うーっ うーっ うーっ 何で呪霊?怨霊?になってるのか教えてくれよ なんで上層部に生活の支援されてなかったのか教えてくれよ なんでワシや真希達を襲ったのか教えてくれよ うーっ うーっ 色々聞きたいことが多すぎて頭が混乱してるよおかん 頭がおかしくなりそうだ」
「あっ そうなの!? ごめんねキーちゃん!じゃっ!順を追って説明していくね!」パソ
数分経ってやっと頭が回り初めて九十九に一通り質問すると、合いの手を鳴らしながら軽快に説明していく。
自分が上層部の術師であること。喜一の父親である甚爾の暗殺を請け負い、失敗して上層部から追放されたこと。頼れる親戚や両親はおらず、姉とは仲違いを起こして絶縁状態かつ、各地を転々としていたので連絡出来ず、結局女手一つで喜一を育つことになったこと。そして喜一を置いて死んでしまったこと。一通り自身について紹介した後に質問に答えた。
・どうして呪霊?怨霊?になったの?
「まぁ…幾ら呪術師の私でも働きすぎて…それで心臓病患っちゃたのかな?まぁとにかく呪術に関係ない要因で死んで、それでキーちゃんをどうしても置いて行きたくなくて……
その結果!自分で言うのも恥ずかしいけど…キーちゃんへの愛がこの世への未練となって呪霊化しちゃったみたいなの!まぁ呪霊化した時にはキーちゃんを近所の人が孤児院に引き取らせたみたいだからバランスは取れてるんだけどねっ」
「ふぅん…愛ほど歪んだ呪いはないというわけか」
・どうして上層部に生活を支援されなかったの?
「え───っと〜〜ね………あれは……まぁ……その…甚爾を私が彼の子を身籠った状態になって警戒を解かして暗殺しようとしたんだけどね……あれさ……はっきり言ってアドリブだったんだよね……。そして肝心の甚爾は暗殺できなかったし!術師殺しの子供を孕んだもんだから上層部からは追放されるしで散々だったな〜〜〜!!まっ 自分の過ちだから上層部を恨んじゃいないんだけどねブヘヘヘヘ!」
「上層部…クs……妥t………糞………!糞…!糞…!!!」
・どうして自分や真希達を襲ったの?本当にどうして?
「私の墓で呪霊化したんだけどね……!まぁ…凶暴化しちゃったみたい!!初めてキーちゃんに会った時もつい、昂っちゃって…バキィッって…ね……真希さん?達も『わーいキーちゃんのお友達だー!!』って…同様の理由で……まぁ細かい事は気にしないで!キーちゃんや真希さん達以外は殺してないし!なんか気配を感知したところ真希さんたち生き返ったみたいだし!!マイ・ペンライでしょ!?ねっ!ねっ!!」
「確かに生き返ったからマイ・ペンライやけど…生き返らなかった場合は大丈夫か?」
「(生き返ったんやし)まあええやろ」
「な…舐m……メスゴリr…………」
(おかん……おとんから聞いています……"兎に角過去を顧みずに未来しか見ていない異常な程に前向きな女"であると…………しかし……
幾ら何でも過去の顧みなさに限度があるだろうがよ えーっ?!)
花沢は九十九が幾ら自身のせいではないとはいえ、全く罪悪感を抱いていない様子で面接の受け答えの様に淡々と自分の質問に答えていく。
(許せなかった……ワシのおかんがこんなにも無責任な人だったなんて…確かに無責任……だけど話聞くにつまりおかんはワシを呪霊になる程愛してくれていたってこのなのかな…まぁそれはそれとして無責任なひとではあるけど…ん?あれ?でも無責任な人間だったらワシを育てようなんか思わないよな?)
花沢は九十九の多面性?に翻弄されて再度思考を停止する。そんな花沢を九十九はじっと見つめる。
ムギュウッ……
「な なにっ……?」ポロポロ……
九十九は唐突に花沢に抱きついてきた。その瞬間花沢の脳内に母と過ごした貧しくも決して辛く無かったあの日々の情景がフラッシュ・バックし、感極まってボロボロと蒼い雫が滴る。
「キーちゃん……私は貴方にどんな形であれ愛してるって伝えられたから元の姿に戻れたの………ずっと不安だった……キーちゃんを置いて死んで一人ぼっちにさせた私を……貴方は呪ってるんじゃないかって……あぁでも今思い返してみたら、あの呪霊への『愛してやる』だから形が違いすぎるかもだけd『ガシッ』えっ?」
九十九が全て言い切る前に花沢が彼女を抱きしめ返す。
「何を言ってるこのおかんは? ワシがおかんを呪う訳無いじゃないですか……むしろおかんがワシを見捨てずに育ててくれたからこそ今のワシがあるんだ。これは欺瞞ではない事実だ。色んな場所で戦友が出来て一人ぼっちでもなかったしなっ ヌ ッ それだけじゃない…ワシ…おかんに山程言いたいことがあるんです……!」
「……………」
花沢の言葉で九十九は嬉しそうな顔で目から流れ星の様に透き通った雫が頬を伝う。
「ワシを産んでくれて…
ワシを養ってくれて…
ワシを見捨てずにいてくれて…
ワシにタフ・シリーズを出会わせてくれて…
そして何よりもあんたが母親でいてくれた事に感謝するよおかん!
ワシは心からあんたが好きです!ワシを置いて死んでようが母親には変わりはないんです!!あんたを愛しているんです!!!ワシの気持ち分かってください!!!!」
「…………!!」
花沢の九十九への心の底からの告白で、目を拭いながら満面の笑みが浮かび上がる。
「ムフフフ…とっても嬉しいわ!キーちゃんがこんなに立派に成長してくれてるんだからね!!」
スゥーーーーーー…
直後、九十九の身体が足から透けていく。解呪された為この世を去ってしまうのだ。
「あぁ〜…そろそろお別れの時間みたいね………じゃあねキーちゃん…最期にあなたと一緒に話せて本当に良かった……でもこれで終わりじゃないわ……ここから始まるの………キーちゃん……あなたが来る……待ってるわ……! あっ でもなるべく遅く帰ってくるのよ! じゃっ!消えるっ!!」
フッ………
母との長い対話が終了した時既に猿空間はいつの間にか解除されていたらしく、九十九は完全にこの世から成仏した。
「…………………はぁ〜〜〜〜〜〜っ」
花沢は溜め息を吐いた。歓喜、達成感、呆れ、疲労、爽快感、安堵、…それら全ての感情が花沢の体内から吐き出されr
ボッ
「なっ なにっ なんだあっ?!」
猿空間には致命的な弱点がある。
猿展開で矛盾を引き起こし、無かったことにされた設定、事象などは猿空間に送られる言わば"猿空間送り"にされるのだが、猿空間を展開する際、"猿空間送り"にされた事象や設定が稀にフラッシュ・バックしてしまうことがある。猿空間送りにされた"呪術高専で折本里香に挑み、絶命した"という事象が、花沢に今舞い戻ってきた。
プシャシャァァァァ───ッッッ
全身から折本里香の攻撃が還元され、反転術式を発動する間もなく、瀕死状態にさせられる。
(ふざけんなよボケがボケボケボケボケボケボケボケボケボk……あっ)
「タフく〜〜〜〜〜ん!!!」
余りの理不尽に全身ボロボロで声を上げることが出来ずに心の中で憎悪を募らせていたら乙骨がやってきた。
「うわぁっ?!タフ君が…タフ君がボロボロだあっ 待ってて今すぐ反転z『憂太!ワシの術式をコピーするn はうっ!!』 タ…タフ君が…死んでるッ!」
◇◇◇
「ばあーーーっ おとんまた来てやったぜ!さぁ殺り合こうぜ!」
「それはダメだろ(ガッ」
花沢は再びあの世に舞い降り、甚爾は唖然としていた。
「まぁ細かいことは気にしないで 直ぐにまたこの世に帰r『スゥーーーー』しゃあっ!!」
花沢は乙骨に自分の術式"猿展開"をコピーさせる様死ぬ間際に指示し、乙骨にコピーした猿展開を発動させることによって、蘇生する事に成功した。因みに乙骨は折本が解呪して成仏したが、折本は自身の分身"リカ"を式神として託したらしい。
折本がいなくなって無条件で術式のコピーが出来なくなり、対象の身体の部位を"リカ"に摂取させることによってコピーするようにナーフされた為、花沢は"リカ"に小指を食い千切られ、猿展開をコピーされた。"絶対に生き残れ"と乙骨と指切りで約束し、それを破ったがまさか本当に自分の指がまさか本当に
「なぁ…喜一……」
「えっ なんスか?」
「俺は父親としてお前のことを誇りn………いや………辞めた!今お前に送るべきはそんなしょうもない言葉じゃないだろうしな!ホレッ!」
スッ…
甚爾が花沢に近づき渡した布に包まれたものを花沢が受け取り開いてみると、中には呪具が入っていた。しかしながらそれはただの呪具ではない。"対象の術式を強制的に解除する"術式有している特級呪具"天逆鉾"である。因み他の呪具は甚爾が生活費とギャンブルの為に売っぱらった。
「喜一……これあげる……呪具ピョンと一緒にいれば寂しくないよ 因みにそれ売ったら5億は下らないから お前壊すなよ」
「えっ 貰っていいんスか?」
「いいんだ。"
「あざーっス!」
「…………今度こそさよならだな…喜一…元気でな!」スッ
「消えるっ」スッ
ガシッ
フッ
握手を交わし、花沢との正真正銘の別れを行ったものの、甚爾はいつもの様にニヒルな笑みを浮かべる。
「もっと強くなれ喜一……お前が恵を強き者にするんだ……!!
フーッ さぁて、
「えっ…甚爾君?!」
甚爾がラーメン屋を出ようとした瞬間、恵の母と偶然鉢合わせする。
「ほ…本当に甚爾君なの……?よ…良かった〜〜…!何年もずっと探してt『おーっ 甚爾じゃん! 元気してる?』」
「「なにっ?!」」
更にそこに九十九が乱入する。彼女を見るや否や甚爾は滝の様な汗を掻き、恵の母の視線は殺気を帯びて険しくなってくる。
「や…やばt『甚爾君この人だあれ?』あっ いやそれはそn『甚爾君この人だあれ?』えっ? あっ!やめろやめてくr『聞いてよ甚爾!実は君と私の子のキーちゃんがさ〜〜!!』その発言はやめろーーーt『あっ 甚爾君浮気したっマジ殺す』ぼうっ」
そして甚爾はボコボコにされた。
花沢喜一さん……あなたの噂を聞きました…人を愛し、愛されることを快楽とする…
異
常
愛
愛
者