ハンドレッド4人衆(もどき)はワールドトリガーの世界で何を成すか 作:ドレットルーパー佰式
―――あの日の光景を、今でも鮮明に覚えている。
「三門市」。人口28万人のこの都市は、ある日突如として戦場と化した。
何の変哲もない普通の日常。ごくごく平凡な街で、学校に通い、学校で授業を受けて、友達と何気ない会話をして。そんな当たり前で、普遍的な日常は、突然にして崩壊した。
空に黒い穴が空き、そこから現れたのは異形の怪物達。
「
自衛隊も抵抗したが、こちらの世界の兵器の効果は薄く、足止めすらままならないままに敗退。
多くの人が死に、多くの人が未だに行方不明。都市は破壊され、恐怖と混沌が支配していた。
誰もが壊滅は時間の問題かと思われたその時、突如現れた謎の一団が、近界民を撃退しこう言った。
「こいつらのことは任せてほしい。我々はこの日のためにずっと備えてきた」
彼らは近界民の技術を独自に研究し、こちら側の世界を守るため戦う組織。
―――界境防衛機関「ボーダー」
彼らはごくわずかな期間で巨大な基地を作り上げ、近界民に対する防衛体制を整えた。
それから4年。門は依然開かれているにも関わらず、三門市を出ていく市民は驚くほど少なく、それは馴染みの土地を離れられないという気持ちと、ボーダーによる防衛体制を信頼していることの表れでもあった。
脅威は去り、ボーダーの名は一般化し、惨状の爪痕は残りつつも、以前と少しだけ違う、「ボーダーのいる日常」を三門市は取り戻しつつあった。
「よう秀次、今日は防衛任務入ってねえけど、どうする?俺は本部でランク戦してくっけど」
「…米屋か。いや、俺はいい」
――――青年、三輪秀次は中学1年生の時、大規模侵攻の被害を受けた人間だった。
そして知った異世界の侵略者の脅威と、日常を破壊され、こちらの世界を搾取し、大切な場所を蹂躙した近界民への怒りと憎しみは、彼を「ボーダー」に志願させる理由としては真っ当なものだろう。
幸いと言うべきか、秀次には才能があった。
奴らに対抗する術、「トリガー」を扱う才と、その中でも優れた戦闘能力が。
お陰で、今に至っては総計600名の戦闘員の内、上位5%しかなれないA級隊員であり、一つの部隊を率いている程だ。
「ちぇ、つれねーの。そんなんじゃいつか愛想尽かされるぜ?」
「はぁ…。何度目だそれは。そもそもお前がやりたいだけだろう。義務でもないし、付き合う道理がないと言っているんだ。……姉の誕生日くらい、普通に祝わせてくれ」
「あー、そっか。お前の姉ちゃん、誕生日今日か」
「ああ、もうケーキも買ってる」
「じゃあしゃーねえか。誰かA級がやってればいいんだけどなー」
米屋のからかいを軽くいなす秀次。いつも通りのことなのか、互いに真剣みはなく、何度となく繰り返されたやり取りであろうことが伺える。
「………」
三輪秀次にとって、家族は何よりも大切な者だ。
無愛想な自分にも優しく、厳しく接してくれる家族が好きだ。その思いは、あの大規模侵攻以降更に強まっていた。
大規模侵攻の発生は、白昼堂々と行われた。
当時中学生であった秀次は学校におり、家族と離れ離れの状態にあった。
今のボーダーの戦闘員は600名。まだまだ人手が足りずスカウトや募集は絶えない。
―――当然、表に出なかった当時のボーダーなど、それよりも遥かに少なかった。
今でこそ門誘導装置や民衆の理解、そして緊急時の対処が知れ渡っているが、認知すらしていない当時の防衛は今よりもずっと困難なものだった。
ボーダーを知らないから、逃げ場も対抗手段も分からない。門誘導装置などないから、各地に現れる近界民が広範囲に渡って侵略してくる。
そして、絶対数の少ないボーダーが、各地に現れる近界民全てに対応することなど不可能だった。
あちらを立てればこちらが立たず。必然と手の回らない地域が出てくる。
秀次の家は、そんな地域の中に建っていた。
ビルが破壊され、家屋が潰され、戦時中もかくやという騒動に紛れて、秀次は制服から着替えることなく市街地を疾走した。
人々の悲鳴と、爆発音、喧騒が絶え間なく続く地獄。見知った街並みが塵屑のように壊され、瓦礫の山と化しながらも、秀次は走り続けた。
全ては、家にいるはずの姉の安否を確認するために。
「はっ、はっ、はぁっ…!はっ……!」
瓦礫に足を取られながら、いつ襲いかかるとも知れない近界民に怯えながら、よく知る通学路
建物が破壊され、見通しがよくなっていたのだろう。私有地に入ることすら悪いとも思わずに、家だったものを乗り越えて最短ルートで自宅を目指す。
そして、視界に入ったのは既に破壊し尽くされ、周囲の瓦礫と共に混じって分からなくなった自分の家だった。
「あ」
秀次の顔が絶望に染まる。
それでも、何とか逃げていてくれると信じた。瓦礫を退かし、玄関だった残骸を漁る。
家族の靴は覚えている。父と母と姉と自分。趣味の同じ靴はなく、どれか外出用のものがなくなっていればそれは避難していることに他ならないのだから。
「…ない」
そして、玄関を漁って直ぐに、最近履いていた姉の靴がないことに気がついた。
ならば、避難しているはずだ。
希望を見た秀次は、ここから最も近い避難所目掛けて、道を辿っていく。
どうか生きていてほしいと、避難して、無事に生き残って、父と母と共にまた一緒に住むのだと。
そう切に願って震える足で駆ける。
次の瞬間、遠くで男の悲鳴が届いた。
「っ!」
この先だ。一瞬逃げるべきかとも思ったが、仮に姉がいた場合は手を取って逃げなければいけない。
そして、追いついた。
秀次が見たのは、怪物に襲われる市民たちと、その中に混ざる姉の姿だった。
「―――姉さんっ!!!」
「秀…」
届かない。背後から絶叫しながら手を伸ばすも、ようやく振り返った姉の胸を、化け物の触手が貫く―――
――――かに思われた。
「え…」
突如として、目の前に灰色の幕が浮かび上がる。
発生地点は、姉の真正面。
その幕が現れたからなのか、驚いた姉が身を跳ねさせる。そのお陰か、本来は胸に直進していた筈の触手の狙いがそれ、足に突き刺さる。
「痛っ……!!!」
「っ姉さん!!」
足を貫かれ、道に倒れ伏す姉を、銀幕を乗り越えて何とか抱き寄せる。
抱き寄せた姿勢のまま、その幕を見る。
思わず飛び出してしまったが、一体これは何なのか。これのお陰で致命的なことにならなかったのは確かだが、こんかわけの分からない状況で、新しい事が起こっても冷静な判断など出来ようもない。
しかし、状況は待ってくれない。
突然現れた謎の幕に警戒もせずに――或いは同じ勢力のものかもしれなかった――、再び化け物は動く。
姉は足を貫かれたままで動けず、それを抱えてこの場から逃げられるほど自分の身体能力は優れていない。
「っああああああ!!!!」
「っ、姉さん!姉さんっ!!」
そして、突き刺さったままの触手が、姉を引き寄せる。
実はこれはトリオン兵が人間を捕獲した際に連れ帰るほどのトリオンの持ち主で無かった場合、この臓器を抜いて保管するためのもので、ただ機能に従った結果の巻き取りなのだが、刺さった部位が足なので、体を引きずられる。
痛みに苦悶の声を上げる姉を、連れて行かせまいと抵抗する秀次だが、所詮は中学生。巨躯の化け物には叶わない。それでも何とか抵抗しようと踏ん張るが、その綱引きに耐えかねて姉の足が血を噴き出す。
「ああっ…!ごめん、ごめん姉さん……!」
「秀次……!あなただけでも、逃げてっ……!!」
半泣きの酷い面のまま、嫌々と首を振って抵抗する。が、全力を振り絞ってもまるで手応えがなく、秀次諸共引かれていく。
「あ…」
「そう、それで……」
つるん、終わりは呆気なかった。引っ張り合いの末、姉の流した血で秀次の足が滑ったのだ。
秀次の胸中に浮かんだ感情は後悔、絶望、殺意、弱さへ憎悪。全てがないまぜになって、それでもと手を伸ばす。
「姉さ―――」
が、またしても届かない。引き摺り込まれていく姉の指先に触れ、そして気づいたら己も前に出すぎていた。
怪物の、射程内だ。
近づき過ぎた秀次は、攻撃対象と見做されたのだ。扁平な形の虫のような化け物が、尖そうな足を突き出した。
秀次に見えたのは動き出す瞬間まで。ただ、それが己を一撃で殺してあまりある一撃であろうことは感覚で理解できた。
(死ぬのか。姉さんも助けられず、無様に、このまま―――)
秀次は決して目を逸らさなかった。最後の最後まで、憎悪すべき化け物を睨み返すように。己の弱さを直視するように。
一瞬後には、秀次の頭は鋭利なブレードにより貫通し、頭のない死体が出来上がることだろう。避けることま不可能。
このまま、秀次の短い生涯は終わりを告げる。
「はあっ!」
「ふっ…!」
瞬間、目の前の死が遠ざかる。
秀次に迫っていた硬質なブレードは半ばからへし折れ宙を舞い、姉に繋がっていた触手は両断され、姉が解放される。
「え…」
眼前に、二つの影が現れた。
それは、これまでの侵略者たちと異なり、ヒト型をしていた。だが、その姿はまた方向の異なる異質さを持っていた。
方や、赤と黒のボディを持ち、蝙蝠のような形の頭部をした人物と、真っ白なボディに黒いマントを靡かせる、黄色い複眼を持ち合わせたナイフを持ちの人物。
ともすれば、よりヒロイックな見た目の鎧を纏ったそれが、三輪姉弟を窮地から救ったのであった。
「姉さん!」
そして、助かったのだと実感した瞬間、秀次は姉の体を抱き上げた。
「何だ…!?ガッチャードの世界ではないのか…!」
「ふむ、ですがよくない状況にあるのは確か。ここに私たちが現れたのもまた、運命…」
「既に被害が出ている……即座に対処すべき」
「まずは現状の把握と市民の救助から、ということだな」
そして、4人の声が届いた。
既に現れていた蝙蝠面の人物と、白に黒マントの人物に加えて、内二つは背後から。
背後を見ると、黒のボディに赤と紫の映える鎧と、黄金の時計のような顔に堂々と「ライダー」と記された鎧を身に着けた奇妙な男だ。
「大丈夫か?坊主」
そして、そんな奇妙で怪しい人物であっても、秀次は頼る他なかった。
姉は謎の触手が刺さったまま。深く突き刺さり、何度も抉られたために走ることは不可能だ。
「助けて!!」
「分かっている。奴らは…」
「姉さんを助けて!」
ようやく気づいたのだろう。秀次に抱えられたことで、足を貫通している触手が見えなかったのだ。
何にせよ、深い傷だ。秀次達が助かるには、この謎の集団に頼るしかないのだ。
「足を貫かれているのか」
「お願いします!姉さんを…、姉さんを助けて…!」
その必死の嘆願に、白いボディの男が近づいた。
「ええ、いいでしょう。私たちがここに訪れた。これもまた運命。……ゲンゲツ、頼みます」
「ふん」
「ライダー」と記された仮面の彼が姉の傷口に手を向けると、先ほどと同じ銀色の幕が現れ、姉の傷口を覆う。
姉の足を潜ったと思えば、足に刺さった触手のみがどこかへ消えていた。
痛みを与えて引き抜くでもなく、いつの間にかを消えていた。
すると当然、触手がなくなった分の傷口から血が垂れるが、白の鎧の男が何かを腰元で動かした。
「幸いにも、前例は同じもので示されている。それも、運命」
『ユニコーン!マキシマムドライブ!!』
男の声でそう鳴ると、白い男がナイフに緑のエネルギーを纏わせてこちらに振るう。
「っ!」
咄嗟に姉を庇うが、予想していた痛みは来ない。それどころか、体が楽になっていく感覚があった。
顔を上げれば、自分と姉。いや、それだけじゃない。死にかけていた人たちや怪我をしていた市民にも緑色の粒子のようなものが降り掛かって、その傷を癒していた。
「これは…」
「聖獣ユニコーンのメモリ。角による強力な刺突だけでなく、浄化や治癒などの力をも司る。メモリの真価は応用力…。その記憶をどこまで活かせるか、ですが、既にマジェードが行っているので、解釈は容易でした」
はっきり言って、何を言っているのかはわからなかった。でも、はっきりとした意思をもって、彼らがこちらを助けてくれた。
「秀次…、これって…」
「っ姉さん」
足の傷が癒えていく姉さんが、不思議そうに体を見つめている。
そして、今の今まで大人しくしていた化け物達が忘れるなと言わんばかりに動き出す。
最大の危機を脱し、冷静さを取り戻してきた秀次が、背を向けた彼らに注意を促そうと口を開く間もなく、振り返った彼らによってそれは破壊された。
蝙蝠の鎧は荒々しい一撃で装甲ごと怪物を引き裂き、白い鎧は一瞬で目から真っ二つに両断する。
時計の鎧はいつの間にか取り出した剣で敵の防御を意に介せずバターのように貫通し、黒地に赤紫のそれは、優雅な徒手空拳で怪物を蹴散らす。
「ふんっ、こんな雑魚どもは、即刻スクラップだ」
「ええ、すぐにでも終わらせましょう」
「自体は一刻を争う……俊足で動くべき」
「そこの市民たち、逃げたほうがいい。やつらの崩壊に巻き込まれたくなければな」
口々に言い放ち、それぞれ人に近い怪物から庇うように飛び出しては、これまでとは裏腹に、怪物側が蹂躙されていく。
分厚い装甲ごと切り裂かれ、蹴り飛ばしで複数を巻き込みながら壊れ、舞うような動きで瞬く間に殲滅されていく。
「はあっ…!」
蝙蝠面の男が力を込めて腕を突き出すと、漆黒の蝙蝠型の何かが飛び出し、眼前の化け物共を一掃する。
「…道は開けたぞ。早く行くといい。他の区画にもいかなければならん」
今の攻撃で道を塞いでいた化け物の死骸や瓦礫までが吹き飛ばされている。
窮地を救ってもらい、傷まで癒された市民は言う通り、口々に感謝の言葉を告げて避難所を目指していく。
だが、秀次は思わず訪ねた。
途中で見かけた、化け物を倒す武器を持った人とも違う。
あれは少なくとも人の姿のまま、ごく普通の容姿と服装のまま武器で戦っていた。
決して、眼前の鎧の戦士たちのようなものではない。
だから、なのであろう。
「あなた達は、一体……」
「俺達か?……そうだな。俺たちは―――」
律儀に振り返った蝙蝠面の男が、その疑問に答えた。
「―――通りすがりの、仮面ライダーだ」
マジェード・サンユニコーンが治癒してるし、色んな記憶含めて能力化してるガイアメモリなら、治癒の力も使えるかなって思いました。