もう一人の少女のお話。はじまります。
ではどうぞ。
――その戦いは、大方の予想を裏切り彼の国に敗北をもたらし、そしてある国を大国へと押し上げた。
海が燃えている。大きな帆船が見るも無惨にあちらこちらでボロボロになって燃えている。
海には沢山の残骸や夥しい数の人が浮いていた。
『見よ、我等の勝利だ!!』
『女王と我等※※艦隊に栄光あれ!!』
『万歳!!万歳!!』
『流石は※※※※副司令官だ。無敵艦隊をこうも大敗させるとは!!』
周りの人達も口々に勝利の叫びを上げてる。そんな中で一人、燃えゆく敵船を眺める――格好からして恐らく指揮官だろうか?――その人に私は目を向ける。
『悪魔め。』
『※※※※※めが、海賊風情が太陽を落とすか。』
『栄えある我等の戦いかたではないわ。』
そんな声が聞こえた。敵から、そして味方からも。
『どうして!?』
敵ならばともかく味方からも悪口を言われなくちゃならないのか。
その人達を見ると嫉妬や恐怖そんな目をあの人に向けていました。まるで人ではないものを見るような――――
怖い。どうして、味方にそんな目を向けられるのか。
怖くなってあの人を見て、私は目を疑った。
『どうしてですか?』
敵から悪魔と呼ばれ怨念を受け。
味方からも蔑まれ、疎まれているのに。
『どうして、あなたは――笑っていられるの?』
私の声が聞こえたのか、その人はこちらを向いて――――
「――――ゆめ?」
朝日が眩しくて目を覚ます。まだボーッとする頭で周りを見回す。携帯電話の時刻は朝の6:48 何時もより早く目覚めてしまったみたい。
「・・・取り敢えず着替えよう。」
パジャマを脱いで制服姿になると私は庭の方に出る。まだ、肌寒いけれど今日は天気がいいし朝早くて清々しい空気だ。
だけど、私の中ではモヤモヤしたものが渦巻いていました。
今朝の変な夢が私の中で納得できないから、それに――
「もし私が、あの二人に…」
決して、私にとってあの夢は他人事じゃない。もしも、私の友人達にあんな目を――を見る目を向けられたら私は…
「おや、何だい?今日は随分早いじゃないかお嬢ちゃん。こりゃ今日は雨かねぇ。」
・・・そんな私の気分を壊してくれる人の声が聞こえ、私は溜め息をつく。いったい誰のせいだと思って。
「ん?朝からしけた顔してるねぇ…スズカ?」
「誰のせいだと思ってるんですか。ライダー。」
振り向くとそこにはエンジ色の服を身に纏った顔にキズがある――さっきの夢に出てきた副司令官。
私、月村すずかと契約した英霊――サーヴァント・ライダーがそこに立っていました。
それは偶然。ある日慌ただしく帰ってきたお姉ちゃんが、倉庫から色んな物を引っ張り出していたときでした。
色んながらくたを触ったりしながらあれでもないこれでもないと探し回る姿に引いてしまい。部屋に戻ろうとしたとき、偶然一冊の古い本に目が止まりました。
その上に載っていたがらくた(最初に脱皮した蛇の脱け殻の化石とか人造人間の設計図や何か有名な人のナイフのレプリカ・・・何でこんなのが家にあるんだろう?)を退けて、騒ぐお姉ちゃんを後に部屋に持ち帰りました。
部屋にあった色んな辞書を使って読もうとすると突然左胸にピリッと痛みが走り、驚いて見ると何かの模様のようなものが付いていて、私は怖くなって本を放り出してベッドに潜り込んだのです。
何かの本で見た、悪魔の契約か何かかと思い震えながら眠るとその日、不思議な夢を見ました。
ここではない遠いどこかで、大海原にのりだし財宝を見付ける。そんな冒険の夢を。
目が覚めて、左胸の模様が消えてないことを見て、落ち込みながらも放り出した本の正体を探るべく少しずつ読んでみました。
「物語じゃない。日記?違う、これ、航海日誌だ。」
所々掠れていたり読めないところもあったけど、どうやらこの日誌の持ち主が、世界一周を為し遂げるまでの日々が綴られていて、時に笑ったり時にワクワクしながら私は夢中になっていたのです。
だって、大海原で自分達だけの力で世界を一周するそんな大冒険なら誰だって憧れてしまいます。それに何故か、まるで実体験しているかのようにその冒険の夢を見るのが面白くって、この不思議な航海日誌を読んでいて気が付けば二週間も過ぎていました。
「いいなぁ。」
その日、日誌を読み終えた時、自分の部屋から見える月を眺めながら、私は呟きました。
沢山命の危険もあったけど、多くの出逢いと別れを繰り返しながらも世界一周を成し遂げた大英雄の航海。その英雄の生き様に私は憧れてしまっていました。
私は、実は普通の人間ではなく「夜の一族」と呼ばれる吸血鬼のような、特殊な体質を持った一族なのです。
だから、私はそんな夜の一族なんて柵から私を連れ出してくれる人を――――こんな普通じゃない私を、仲間だって認めてくれる人を望んでいたのかもしれません。
「何処か遠くに、私も連れていって欲しい――」
そう、呟いた時でした。
「まったく、弱虫と泣き虫はアタシの船には要らないんだがね。」
そんな声が聞こえたと同時に部屋の真ん中にステンドグラスのような物が現れたのは。
「まぁ、こうして喚ばれた以上は仕事だし?どんな上官でもきちんと副官として、給料分の働きはさせてもらうさね。」
ステンドグラスが砕けると共に現れたのは、とても派手なエンジ色の海賊のような格好をした大人の女の人。同じく派手な赤い髪に、大きく胸元を見せてるけど何より目立つのがその美貌に斜めに走る傷痕。普通ならマイナスになりそうな傷もその魅力の一つにしてしまっている独特な雰囲気を持つ――しかし、その身に内包している力の渦は明らかに人ではない。そんな人が私の前に立つと、
「ん?聖杯戦争に喚ばれたにしちゃおかしいけど・・・パスは通ってるね。魔力の質も量も良し。こりゃ当りだったかね。」
そんな、よくわからない事を呟いた後に
「さて、サーヴァント・ライダー。召喚に応じて参上した。」
そのまま私を見据えて、
「問おう、お嬢ちゃんがアタシのマスターかい?」
そう、笑ったのだった。
「お酒くさいよライダー。また朝まで飲んでたの?」
「あん?そもそもアタシは船乗りだよ?飲まない船乗りなんてブリテンの飯がうまいってくらい有り得ないだろ?」
「下戸の船乗りさんとブリテンの人に謝りなよ…」
カラカラと笑うライダーと一緒に朝ごはんを食べる。私と比べて何倍もある量を豪快に、けれど不作法に見えないように食べるから不思議だ。
「まぁ前にも言ったけど、アタシらは基本的には食事も睡眠も必要ないけど暇なんだよ。スズカの警護つっても滅多にやること無いし、聖杯戦争が起こってるわけでもない。」
召喚した後、お姉ちゃん達とライダーが話し合い、ライダーは家の警備と私の警護をすることになりました。その時にライダーの事は秘密にすることとライダーに給与を与えることが決まりました。もっとも学校に行くときは私からお願いして着いてきてはいません。
「でも、キャスターのサーヴァントは居たよ?」
そう、入学式のあの日にアリサちゃんに取り上げられた私のカチューシャを取り返してくれた女の人。
とても派手な印象のその人をなのはちゃんは、キャスターさんと呼んでいたのだ。その事を伝えるとライダーは、呆れたように口を開いた。
「そもそも本来、陣地に罠張り巡らせて迎撃ってのがスタンスのキャスタークラスのサーヴァントが、派手な格好で出歩いて、普通に家政婦やってるってのが有り得ないだろ…」
「う~ん…」
確かに話をしてみるととても明るくて、やさしい家政婦さんて感じだったな。なのはちゃんが絡むと物凄く残念だけど。でも、なのはちゃんも満更じゃ無さそうだし良いのかな。
「ま、頭使うキャスターが、大して陰謀張り巡らしてないってことはやっぱり今のところ、聖杯戦争は起こってないんじゃないかね?恐らくはアタシもソイツも偶然呼び出された、って所じゃないかい?とはいっても用心するに越したことはないがね。」
「・・・そうだね。」
――聖杯――ありとあらゆる願いを叶えるモノ
・・・もし手に入れば私のこの体も――
でも、やっぱり戦うのは嫌だな。
「アタシは、休暇と割り切って現界ライフを楽しむけどさ。スズカは何か願いは無いのかい?」
「あるよ。でも、誰かと戦ってまで欲しくはないかな。」
「――ふぅん。」
笑いながらワインの瓶を煽る・・・朝から!?
「お姉ちゃん達がまた怒るよ?」
「良いじゃないか。ちゃんと普段はシノブから貰ってる給金以上の働きはしてんだしさ。」
「むぅ。私がライダーと契約してるのに。お姉ちゃんばっかり。」
「ハッハッハ!!まぁ、お嬢ちゃんが自力でアタシを雇えたらちゃんと上官命令は聞いてあげるさね。アタシに払ってる金はシノブから出てんだ。払えるもの払ってこその一人前だよ?スズカ?」
タダ働きは御免だよ。と言いながら酒瓶片手に席を立つライダー。
「そろそろバスの時間じゃないかい?遅れるよ。」
「わ、わかってます!!」
本当に、なのはちゃんの所はどうやって言うこと聞いて貰ってるんだろう?
「キャスターさん?初めてあったときからあんな感じだよ?」
「そ、そうなんだ。」
「え、初対面からあんなだったの?」
昼休み、天気がいいので私達は屋上でお昼ごはんを食べています。他愛ない話をしながら、然り気無くなのはちゃんにキャスターさんの事を聞いてみました。
「うん。昔、誘拐されたときにね。助けてくれたの。」
「え?誘拐されたことあるの!?て言うか助けた!?」
「つ、強いんだね。キャスターさん。」
「うん。その時に『貴女が私の御主人様ですか?』ってそれからずっと家の事助けてくれてるの。」
・・・うん。成る程、なのはちゃんはその時にキャスターさんを召喚したんだね…と言うかもう少し隠したりしようよ…なのはちゃんがマスターで確定だよこれ。
「あ、怪しいわ。何で見ず知らずのなのはを助けてそのままなのはの所に住んでんのよ…」
そうだよね。普通ならそう思うよね。
「そもそも『キャスター』って何よ?魔術師って事?明らかに偽名じゃない。」
「え?え~とそ、そうかも…」
「何であんたが知らないのよ~!!」
「い、いひゃい!?いひゃいよ!?」
なのはちゃんのほっぺをグニグニ引っ張るアリサちゃん。なのはちゃんの頬っぺた柔らかいな~。
「アリサちゃん落ち着いて。」
「まったくもう。決めたわ!!次にあの人に会ったら問い質してやるんだから!!」
「う~痛かったの・・・」
そう言いながらお弁当をつつくなのはちゃん。そのお弁当のご飯の上に『愛ラブなのは様』とか書かれてるのを最早疑問にも思ってない辺り、大分あの人に毒されてるんだなぁと思う。
でも、キャスターさんは最初からなのはちゃんに従順なんだなぁ。
「でも、どうしたのよすずか?キャスターさんの事を気にするなんて。」
「うん。なのはちゃんとキャスターさん仲が良いからどうやって仲良くなったのかなって気になったから。」
「何よ。誰かと喧嘩でもしたの?」
「ううん。喧嘩はしてないよ。ただ上手くいかないなってことがあってね。」
どうしたものかなと伝えた所、
「プレゼントとかは?」
「あ、それいいね!」
「うーん…」
ライダーにプレゼントか…喜びそうなのは、
「お酒とか…金貨?」
「・・・それは無理なの…」
「何処の海賊よ…」
英国の海賊です。と心のなかで突っ込みを入れておく。
「キャスターさんならなのはをリボンで縛り上げて渡せば済むけど、お酒は難しいわね。」
「そうだね。キャスターさんならそれで済むけど金貨も難しいよね。」
「あれ?二人ともおかしいよね…あ、電話。」
『なのは様!?何か今素敵なお話をさr・・・』
「・・・間違いだったの。」
「・・・そうなんだ。」
何とも言えないような空気の中、食べ終わって三人で空を見上げる。暫くしてアリサちゃんが、我に返ると、
「っとそうだった。私購買でシャーペンの芯買わなきゃ。」
「購買?」
「私も初めて行くんだけどどうする?」
「「行く(の)。」」
こうして、私達は屋上を後にしました。
聖祥の購買部は、昇降口を入ってすぐの所にあります。私達は一旦、教室にお弁当箱を置いて行くことにしました。
「あ、あった。」
「へぇ、結構色々有るわね。」
「本当だね。カレーパンにやきそばパンに・・・プレミアムロールケーキ?」
「制服も売ってるの。校章にハチマキも」
「エーテル?エリクサー?何よこれ?」
「香木に・・・え、刀?」
「クダヨケ…根性棒…」
「フレイムアイズ?スノーホワイト?」
「非売品『カレイドな杖』?」
「ここ、何なの!?」
確かに文房具も置いてあったのですが明らかに変な品揃えに私達が注目していた時でした。
「――――いらっしゃいませ。」
顔を上げるとソコには、死んだ魚のような眼をした体の大きな、カソックを着た神父さんがいました。
「これはこれは、中々に愉しそうなお客様方だ。」
そういって笑う神父さん…違う、明らかにその笑い方はお客様を見てする笑顔じゃない。
「な、何よあんた!?」
「ほう。初対面から中々のご挨拶だな。実に子供らしくて良いことだ。」
「なんですってぇ!?」
何だろうこの人と、アリサちゃんの相性が物凄く悪い気がする。
「私は、この学校の購買部店長、並びにカウンセラーと非常勤講師を兼任している言峰という。格好を見てわかる通り聖職者も務めている。」
「て、店長さんだったの!?」
「カウンセラー!?嘘でしょ!?」
「先生だったんだ…」
何でこんな人が居るんだろう。
「私達は些かこの学校に用事があってな。私はこうして、この学校で仕事をしている。正直この配置には思うところがあるが、任された以上、最強の購買部を目指すつもりだ。」
「胡散臭い商品並べといてよく言うわよ。」
「これはこれは、ガラス玉の眼をしたお嬢様(笑)は中々に手厳しい。」
「だ・れ・が、ガラス玉の眼よ!?」
「あ、アリサちゃん落ち着いて!?」
この人、明らかにアリサちゃんの反応を見て楽しんでるから!!
「これ下さい。」
「「なのは(ちゃん)!?」」
唐突になのはちゃんが、レジに置いたのは…根性棒!?何に使うの!?
「温めますか?」
「温めないの。」
そんなやり取りをして、なのはちゃんは買い物を済ませた。
「ああもう。私もこれ下さい!!」
「シャーペンの芯1つ150円になります…もっと貢献して欲しいものだ…」
「――■■■■■■■■――!?」
「アリサちゃん落ち着いて!?落ち着いて欲しいの!?」
「もう何言ってるのか分からないから!?」
猛り狂うアリサちゃんを落ち着かせようとしていると、ふとあるものが目に入りました。
「言峰さん。これは?」
「ほう。中々にお目が高い。これはこういう包装をしたお菓子だ。名店の味に匹敵すると自負している。」
「うーん。こういうラッピングできますか?」
言峰さんにラッピングを説明する。すると言峰さんは頷き、
「別料金になるが?」
「じゃあそれで。」
「わかった。放課後取りにきたまえ。――少女よ。」
急に言峰さんは、顔を引き締め真剣な眼差しで私に口を開いた。
「――温めますか?」
「温めません!!」
ニヤリとしながらまたのお越しをと宣う神父を後に、私達はアリサちゃんを引っ張りながらチャイムの音を聞きながら教室に戻るのでした。