そして、まさかの中編。
ではどうぞ。
放課後、購買部の言峰神父からラッピングされた商品をもらいアリサちゃんやなのはちゃんと塾へと歩いて向かう。
「本ッッッ当あの神父苦手だわ!敵よ敵!」
「あはは…アリサちゃん本当に神父さん苦手なんだね。」
「さっきもまたからかわれてたよね…」
受け取りに行くときに心配だからと着いて来てくれたけど、私としてはアリサちゃんの胃と精神が心配だよ。そう思いながらなのはちゃんと二人でアリサちゃんを宥めつつ近道の公園を通っていた時の事です。
「あれ?」
「ん?」
「?どうしたのよ二人とも。」
草むらの向こうで何かが動いた気がして、そっと覗いてみると、
「・・・ネコ?」
一匹の猫が、力なく横たわっていました。
「どうしたのよ二人とも?」
「アリサちゃん、あれ!」
「何その猫?弱ってるわよ。」
猫…にしては何処か不思議な雰囲気の猫を抱き上げ、取り敢えず動物病院につれていくことにしました。
「何て種類なのかな?」
「うーん。家にいる子達とも違うね。」
「とにかく急ぐわよ!」
アリサちゃんの言葉に急いで向かうその途中。
「・・・?」
私から腕の中のネコに何かが流れ込んだ気がしました。
「「「ヤマネコ?」」」
「多分そう。町の中に居るのも珍しいけど見たことない種類ね。」
院長さんに診察してもらい、点滴を受けているネコを横目にカルテを書きながら院長さんは、そう私達に伝えました。
「多分何処かから逃げ出したんじゃないかしら?外傷は特に無し、かなり衰弱はしていたけど随分回復したみたいね。」
「それって…」
「飼い主が現れれば良いけど…それにしても…」
回復が早すぎる。そう呟くのを聞いてヤマネコ?を見ると
「・・・・・・」
じーーーっと目を覚まして此方を――正確には私を見ているヤマネコ(仮)と目があってしまいました。
「あ、ネコさん起きたみたいだよ!」
「本当ね。元気になったわね。」
「うん。そうだね。」
ヤマネコ(仮)さんは、部屋を見渡したあと、なのはちゃんと私を見比べてやはり私の方をじーーーっと見つめてきました。
「何かすずかを見てるわね?ネコ好きオーラでも見えてんのかしら?」
「ネコさんすずかちゃんの所に行きたいの?」
なのはちゃんが話し掛けると、驚くことに器用に前足と口で点滴を外して私の頭の上によじ登り、
「にゃあ♪」
と鳴きました。・・・もしかしてこの子。
「人の言葉が解るのかな?」
「え、て言うか頭良すぎでしょ!?点滴を外したわよ!?」
「良いなぁ…すずかちゃん羨ましいの。」
そんな感じで騒いでいると、
「三人とも…塾はいいの?」
慌てて院長先生にお礼を言って、私達は塾へと急ぐのでした。
「・・・請求書何処に送ろう…」
「成る程、それで家に請求書が届いたのね。」
「うん。ゴメンねお姉ちゃん。」
家に帰ってお姉ちゃんにヤマネコさんを暫く飼ってもいいか聞きに行くとお姉ちゃんから病院の請求書について聞かれました。
「別に家族が増えるのは良いけどね。金額もそんな額じゃないし…ライダーさんが持ってくる請求書なんて…」
どこか遠い目をして乾いた笑いを浮かべるお姉ちゃんに腕の中のヤマネコさんが、ビクッとしたのを感じました。・・・うんヤマネコさん。そんなこの人大丈夫ですか?みたいな目で見ないで…
「まぁ月村家の勢力基盤が、あの人のお陰でかなり固まったのは事実だから良いんだけどね。」
「ライダー・・・やっぱり凄い人なんだね。」
「そっちの筋の人達に気に入られたり慕われたりしてるわ。本人も荒くれ共を纏めるのは得意だって言ってたし、彼女が居てくれるとかなり話がまとまりやすいのよ…」
溜め息をついて机に突っ伏すお姉ちゃんに
「当たり前だろう?あの程度の事も出来なきゃ船長や提督なんて勤まりゃしないよ。アタシらにしてみりゃ、シノブの交渉なんざ駆け出し商人に毛が生えたぐらいのもんさね。」
「ひゃあ!?」
私の後ろに突然現れたライダーが、止めを差した。
「おや、お帰りスズカ。」
「もぅ…いきなり後ろに立つの止めてよ…」
「細かいねぇ…」
カラカラと陽気に笑いながら私の頭を撫でてくるライダー。う・・・ちょっと気持ちいい・・・
「フシャ――――――!!」
「っと。何だいこりゃ?」
突然飛び掛かったヤマネコさんを軽く避けて逆につまみ上げるライダー。
「フ――――――!!」
「珍しいね、ヤマネコかい?」
「うん。学校帰りに拾ったの。」
「へぇ。まぁこれだけ元気ならネズミも捕れるだろ。」
そう言いながらネコを下ろすライダー。ヤマネコさんは、パッとライダーから離れると私の近くに来てライダーを警戒し始めました。
「おや、嫌われたね。これでもネコは嫌いじゃないんだが・・・」
「そうなんだ。何か意外かも。」
「割と失礼だねスズカ。もっとも愛玩目的ってよりかネズミ対策が主だったがね。船の上でネズミが湧いたらそりゃ大変なもんさね。」
「あ、そっか。」
水や食糧。果ては交易の品物まで駄目にされてしまい、更には病気まで。狭い船の上でそれが発生するともう目も当てられない。当時の船乗りにとってはネズミは天敵にも等しいのだ。
「まぁ薬やネズミ取りで対策するところもあったがね。ネコがいると船員の気晴らしにもなるし。」
「へぇ~。」
ヤマネコさんを宥めながらライダーとネコ談義をする。でも、何でヤマネコさんはライダーに威嚇をしたのかな?
「うー言ってくれるわねライダー。」
「あん?こないだの藤村組との交渉を鑑みるとそんな評価だね。悪いけど及第点もやれないよ。」
「ウグッ!?」
「向こうのペースに乗せられてよくもまぁ。暇潰しに偶々着いて行ってたアタシが、口を挟まなかったらどうなってたんだい?」
「・・・仰る通りです…」
お姉ちゃんが復活したと思ったら早速ライダーに鎮められた。・・・何したんだろう。
「っとまぁスズカの前で虐めて、なけなしの姉の威厳が無くなるのも酷だからここまでにしとくかね。」
「すずかぁ…ライダーが苛めるよぅ…」
「あはは…」
「にゃあ…」
「まぁ嫌なら他のサーヴァントでも呼ぶこった。」
「不満はないけど…色々試したけど私には令呪が出なかったの!!」
プンスカと擬音が聞こえそうな怒り方をするお姉ちゃん。確かにライダーを喚ぶために必要だった聖遺物は何故か家にあったけど、お姉ちゃんは色々家中探して契約しようとしていたみたいだ。
「一応アレコレ恭也にも色々理由を付けて触らせたりしたけど、私にも恭也にも出なかったのよね。」
因みに恭也さんとは、なのはちゃんのお兄さんです。世間って狭いよね。
「バーサーカーとか出たらどうすんのさ…」
「私的には、セイバーとかこう…恭也が喜びそうなのが呼べたらなーって・・・」
「・・・その雑念がいけないと思うんだがね?一応、アタシらにも相性の良し悪しがあるしね。それに聖遺物が偽物だったり、その英雄との繋がりが弱い物とかだから出てこないんじゃないかい?」
お姉ちゃんのサーヴァント召喚理由に呆れつつも助言をするライダーは、やっぱり面倒見が良いのかもしれない。私ならそんな理由で呼ばれたら宝具の一撃でも当ててしまうかもしれない。爆ぜて、お姉ちゃん。
「やっぱり偽物だったのかしら?なら恭也にあげてもやっぱり問題なかったわね。」
「ん?何か譲ったのかい?」
「ええ、倉庫にあった何か切れ味良さそうなナイフを。桃子さんが丁度リンゴとか果物を綺麗に切れるナイフを欲しがってたそうなのよ。」
「・・・ナイフでセイバーは出てこないんじゃないかい?出てきてもアーチャーとか、アサシンとかだと思うよ?」
「でも、私と恭也が触っても何も無かったし。」
大丈夫、問題無いわよと言いながら微笑むお姉ちゃん。うーん。大丈夫・・・なのかなぁ。
「ところでお姉ちゃん。誰の聖遺物だったの?」
「え~とね、確か――――――の聖遺物よ。でもやっぱり偽物…ちょっとすずか?何でいい笑顔でヤマネコさんを爪を出した状態で私に近付け・・・え、ちょ、まっヤマネコさんの爪は危な――!?」
取り敢えず、明日私も根性棒を買った方が良いのかもしれない。姉とヤマネコさんが戯れるのを見てそう思うのでした。あと、それとなくなのはちゃんに聞いてみよう・・・
ヤマネコさんによるお仕置きが済んで、食事を済ませ(いつもよりお腹が空いててたくさん食べてライダーにからかわれた。)、お風呂に入った後、
「割とエゲツナイ事するねスズカ…マストにロープで吊るす方が人道的な気がしたよ。」
「なのはちゃんの家をメチャクチャにする所だったんだよ!?お仕置きだよ。」
私の部屋でヤマネコさんを交えてライダーと話をしています。まったくお姉ちゃんてば!
「まぁ、出てくる奴を知らないで渡したならともかく…知っていた上でならねぇ…」
「そうでしょ。」
「にゃあ…。」
「まぁ、もう渡しちまったんだ。アレが偽物で、魔力持ちが居ないことを祈るしかないよ。」
「うん。」
「にや。」
「まぁキャスターもそこにはいるんだろ?ならよっぽどじゃなければ大丈夫だろ。」
「うん。そうだね。」
「にゃあ?」
首を傾げながら話を聞くヤマネコさん。・・・何かこうしてると人と話しているみたい…て言うか相づちうってたような…
「さて、もう遅い。早く寝な。」
「あ、待ってライダー。」
部屋から出ていこうとしたライダーを呼び止めてカバンの中から、それを取り出す。
「はい、ライダーに。」
「ん?何だいこりゃ?」
そういってライダーは、私から袋を受け取り中身をあらためる。中には、金色の
「おや!金貨じゃないか!?・・・ん?こりゃあ・・・」
そういってライダーは、手に取った金貨を剥がす。
「アハハハハ!何だいこりゃ?こんなのが今はあるのかい。」
上機嫌に笑いながらそれをかじる。
そう、私がプレゼントしたのは大した物じゃない。子供でも手に入る金貨――の包み紙をしたチョコレートだ。よく、駄菓子なんかである物だけど流石は言峰神父の購買部。やたらリアルだし味も良い。
「中々旨いじゃないか。酒のツマミに丁度良いね。」
空いた手で私の頭を撫でながらチョコレートをかじるライダー。
「しかし、成る程。子供にも支払える財宝があるってことかい。確かにアタシは金銀財宝が好きだが…こういうのも悪くないね。」
「砂糖も当時は高級品…でしょ?」
違いない。そう言ってライダーはこっちを向いて、
「さて、スズカが、自分の財宝を与えてまでのご命令だ。何を願う?マスター?」
そういってくれた。口は笑っているけれど、その目はハッキリと私の瞳を捉えていた。
それなら一つ、ライダーにお願いする命令は決めている。けど、ちょっと恥ずかしい。
「お船…」
「あん?」
「だからね。ライダーのお船…乗ってみたい。」
ダメかな。そう思って顔を上げると、
ライダーが笑って頷いていた。
「野郎共!!錨を揚げな!!」
言いながら、ライダーが何処からか上着を、それも夢に出てきた海賊達の服を私に羽織らせて帽子を被せると私を抱き上げた。
「帆を張りな!!ボヤボヤしてんじゃないよ!!」
声に驚いていたヤマネコさんが慌てて私の胸に飛び込んできたのを抱き抱える。
「旗を掲げろ!!」
そのまま部屋の窓を開けて窓から外に飛び降りる!
「ら、ライダー!?」
思わず私は目を瞑り――――
「さあ、出港だ。アタシの船を見せてあげるよスズカ。」
そうして私は自分の体が、落ちていく感覚が無くなり、浮き上がっていくのを感じて、目を開きました。
「うわぁ…」
強い風の中、空には月と満天の星々。
眼下に広がる街の光り。
そして、雲海を突き進む伝説のガレオン船。
「如何かねマスター?アタシの船は?」
その光景に圧倒されていた私に後ろからライダーが声をかける。
「すごい・・・凄いよライダー!!」
「そうかい。そいつはよかった。」
思わずライダーに飛び付いてしまうほど、私は興奮してしまいました。
「船がお空に飛んでるんだよ!!」
「まぁこいつがアタシの象徴たる船にして宝具だからね。こいつならこの世界の何処にだって行けるさ。さらに奥の手はこんなもんじゃないけどね。」
ちなみにヤマネコさんは、さっきから船縁でポカーンとしています。
「まるでピーターパンの世界みたい。」
「アタシはフック船長かい?ならスズカは囚われのティンカーベルってところかね。」
二人でそんな話をして月を見上げた。
「くしゅん!?」
「冷えたかい。それじゃあ戻るか…おや…」
「?ライダー?」
いつもと違う雰囲気と声にライダーを見ると空を見上げていた。そしていつの間にか、クラシックな拳銃がその手に握られていた。
「こいつは驚いた。スズカ。この世界にピーターパンが居るみたいだよ。」
「え?」
ライダーの視線の先には、
――此処が、遥か雲の上にも関わらず。
仮面を着けた人が、
――仮面越しからでもわかる敵意を持って、
空に浮かんで此方を見ていた。