転生と狐と魔法少女   作:隣乃芝生

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大変遅くなりました。

皆様、いつもありがとうございます。


月と海賊とチョコレート・後編

 海鳴市上空、強い風の中、船の上の私達と空の上の仮面の人が向かい合う。

 

「・・・単刀直入に聞く。貴様ら何者だ?」

 

 怖い…

 

 思わずライダーの後ろに隠れる。

 

「ふん。いきなりご挨拶だね。ただの地元民だよ。」

「ほざけ。魔法の無いこの世界でその船。・・・貴様ら何処の管理世界の者だ。」

「・・・あん?」

 

 魔法?管理世界?この人何を言ってるんだろう?ライダーも眉をひそめたようだ。

 

「それを見ず知らずのあんたに言う必要があるのかい?」

「知らないとは言わせないぞ。そこの小娘と貴様らから感じる魔力…それほどの魔力を持ち、この船を操縦する。・・・何処の魔導師だ。」

 

 この人、もしかして何か勘違いしてる?なら、戦わなくても済むかもしれない。止めさせようと口を開こうとした私の口をライダーが空いてる手で塞ぐ。

 

「んー!!んー!?」

「さて、どこの魔導師だろうねぇ?もしかしたらただの一般人かもしれないね。」

「この世界に来る次元渡航者は全てチェックしている。しかし貴様らのような者の情報はない…そして、貴様と小娘の姿。・・・貴様、ロストロギア狙いの賊か?」

「・・・おやおや、どうする上官殿。海賊だってばれちまったよ?」

 

 ・・・海賊はライダーだけじゃない。何だか私が海賊の首領みたいに言わないでよ!誤解解こうよ!

 

 そうこうしているうちに仮面の人が船の上に降り立つ。と、同時にライダーの気配が変わった。

 

「やはりそうか、この地に居るとは貴様…狙いはあの本だな?」

「何の事かねぇ?それと無賃乗船とは礼儀知らずだね。家の船の掟だと…縛り首だ。安心しなよ?丈夫なロープを用意しとくよ。上官殿、下がってな。」

 

 一歩、二歩と歩きながら私の前に立つ。

 

「賊風情が、大方願いを叶えるなんて噂に惑わされた口だろうが、イレギュラーには、ここで消えてもらう。」

 

・・・願いを叶える本?そんな本がこの町にあるの?

 

「覚悟!!」

「はっ!」

 

 襲い掛かって来た仮面の人が、踏み込み、一瞬で間合いに入ったライダーへ凄まじい拳打が、蹴りが打ち込まれる。常人には捉えられないその拳を

 

「よっと」

 

 ライダーは涼しげな顔で全てをかわし、避けて、受け流す。

 

「すごい・・・」

 

 思わずその戦いに見入ってしまう。ライダーが強いとは、聞いていたけれどここまでとは思わなかった。

 一切の攻撃を避けられ仮面の人にも焦りが出てきたみたいだ。

 

「容易くはないと思っていたが・・・ここまでとは!?」

「いや、中々の速さだよ。生身でサーヴァントとやり合えてんだ。誇っていいよ。」

「貴様、まさか使い魔か!?」

 

 その言葉に驚きながらも仮面の人が、攻撃速度を上げようとしたほんの一瞬の隙に

 

「隙だらけだよ?」

 

 至近距離で、いつの間にか両手に持っていた拳銃の引き金を腹部と足に向けて引いた。一瞬だけ仮面の人が何かを展開したけれど、それはガラスのように砕けて弾は仮面の人にめり込む。

 

「ひっ!?」

 

 思わずそんな声がもれる。人が目の前で撃たれる。そんなの映画やドラマの中の話だと思っていた。

 火薬の臭い、苦悶の声、そして目の前の崩れ落ちる仮面の人から流れ落ちる赤い――紅い――アカイ――――オイシソウナ――

 

「!?ゲホッ!バカな!?たかが旧式の質量兵器に!?」

「ちっ!まだ喋れんのか――スズカ?」

 

 その声に意識が浮上する。そうだ、目の前に怪我をした仮面のエモノがいる。すぐにライダーを止めないと――――

 

 

 

 

 ――――私、今、何を考えた?――――

 

 

「あ、」

 

 ―――ダッテアンナニ朱クテイイ匂イガ――

 

「ああああ…」

 

 ――違う。私、そんなこと考えてなんか――

 

 

 ――ウソツキ、ダッテホントウハ――

 

 

 ――違う。違う違う違うちがうちがうちがう!!――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (スズカの様子がおかしい・・・魔力が不安定に、そして目が赤い。マズイ!!)

 

「どうし…うお!?」

 

 突然、スズカとライダーを光で出来た何かが鎖のように縛り上げた。

 

「無事か!?」

 

 その声に目線を動かすと、目の前の奴と同じ格好をした仮面の男が近付いて来た。

 

(二人目…増援かい。こんな時に…)

 

 正直な所一対一ならば、すずかを護りながらでも十分な勝機はライダーにあった。しかし、二対一で戦闘能力の無いすずかを護りながら…となると話は変わってくる。しかも、相手は両者共に経験豊富な手練れ。

 

(加えてアタシはマスターが錯乱、おまけに拘束か…すずかが正気なら令呪を使って脱出も出来たけど…)

 

 ちらりとすずかの方を見ると、縛られたまま甲板に倒れていた。先程までの状況を考えると…

 

(初めての戦闘で昂った所に血を見たからか…マズイねぇ。シノブにどやされるねこりゃ。)

 

「油断するな…アイツ…使い魔だ。」

「!?まさか…これ程の魔力を持つ使い魔を御せるなんて…」

「恐らくは…後ろの女の子だ。あの子が主人だろう。」

「その魔導師としての才能は惜しいけど…危険だ。計画の障害になるな。」

 

 倒れたすずかに仮面の男が光弾を作る。

 

「う・・・ら、ライダー」

「スズカ!?ちっ!」

 

 意識を回復させたすずかに、自身の魔力を込めて拘束を砕きながらライダーが叫ぶ。何とか、せめて庇えるようにと拘束を外しすずかに駆け寄る。

 

「シュート。」

 

 しかし、放たれた光弾はそれより速く無情にも少女の頭を吹き飛ばそうと迫り――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせません。」

 

 それよりも早くすずかの元に現れた、灰色の女性に阻まれた。

 

 

「何だと!?」

「申し訳ありませんが、目の前で新しい主を無くすわけにはいかないのです。」

 

 防壁を貼った女性は灰色の髪をして、何より特徴的な頭の耳と尻尾。

 彼女はそう言うと後ろでライダーに拘束を外されたすずかに振り返る。

 

 

「え?あの・・・」

「ご無事ですか?」

「は、はい。ありがとうございました…」

「お礼など要りません。先に助けてもらったのは私の方ですし。」

「え?・・・もしかして…ヤマネコさん!?」

「はい。リニスと申します。」

 

 よろしくお願いいたします。と微笑む女性――もといリニスに若干混乱するすずか。何だか今日一日で頭の許容量がパンクしそうだ。

 

「大丈夫かいスズカ?」

「うん大丈夫。ごめんねライダー・・・私のせいで」

「いや、アタシの遣り方がまずかったんだ。謝るのはこっちだ。それとアンタ…リニスだっけか?ありがとうよ。」

「いえ、此方こそ。もう少し早く人型になれれば良かったんですが…」

 

 そんな会話をしながら仮面の男達に向き合う。

 

「バカな…あのクラスの使い魔を二体、しかもあの歳で使役するだと…」

「化け物か何かか?あの少女は・・・」

 

 その言葉にすずかが反応する。

 

「違います!!私は化け物なんかじゃ…」

「ふん。自覚が無いのか…SS級の魔導師でもそんな事は出来ん。出来るとしたらソイツは人を辞めたか人の皮を被った化け物だ。」

 

 仮面の男の片割れが、そうすずかに返す。

 

「違う。違います!!」

「違わない。何より、そんな使い魔二人を使役しながら平然として話せているのが何よりの証拠だ。」

「ちがう…ちがうもん…」

「あなた達…!!」

 

 もはや泣きながら必死にその言葉を否定するすずか。そして毛を逆立て杖に魔力を込めるリニス。

 

「わからないなら何度でも言いましょうか?貴女は」

 

 そう言葉を紡ごうとした仮面の男を

 

「黙れよ。お前。」

 

 ライダーが殴り飛ばして黙らせた。サーヴァントが魔力と速度を込めたその拳は容易く仮面の男を吹き飛ばし、船外へと叩き出した。

 

「アリア!?」

「余所見ですか?」

「しまっ!?アアアアアア!!」

 

 余所見をした片割れに容赦なく雷を浴びせるリニス。しかし、喰らいながらも必死に身体を動かし何とか意識を失いかけて自由落下中の相方の元にたどり着く。

 

「無事か?」

「ロッテ…ゴメンちょっと無理かも」

「仕方ない相手が悪すぎるわ。」

「く…撤退してお父様に報・・・告を・・・」

「?何を見・・・て・・・」

 

 

 体勢を立て直し、改めて船を振り返って二人は言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちがうもん…化け物なんかじゃないもん・・・」

「すずかさん…申し訳ございません。私が無理に契約してしまったばかりに」

 

 泣きながら甲板に座り込むすずかに謝ることしかできないリニス。

 

「リニスさんは…悪くないよ…でも・・・」

「ったく。最初に言っただろうスズカ。泣き虫と弱虫はアタシの船には要らないって」

「ライダーさん!?貴女は!!」

 

 泣き止まないすずかにライダーがそんな言葉を投げ掛けた。

 途端に普段の大人しさをかなぐり捨てて、すずかは涙が溜まった目でライダーを睨み付けた。

 

「ライダーには・・・ライダーには分からないよ!!」

 

 ライダーを睨み付けながら、泣きながら立ち上がる。

 

「こんな体質も力も私は欲しくなかった!!私は、なのはちゃんやアリサちゃんみたいな、普通の女の子になりたいんだよ!!」

 

 その、叫びを聞いて

 

「やっと本音を口にしたねスズカ。」

 

 女海賊はそう愉快そうに笑った。

 

「何が可笑しいの!!」

「願い事を聞いても何してても、引っ込み思案な事しか言わなかったお嬢ちゃんが、ようやっと本音を吐いたんだ。そりゃ嬉しいってもんさ。」

 

 一頻り笑って、ライダーはすずかに向き合う。

 

 

「確かにスズカの願い事は、普通の手段や方法じゃ叶わない。今の進んだ医学でも治せやしないだろう。だけどさ、スズカが嫌ってるその力もまた、スズカの願い事を手に入れるのに必要な力だとアタシは思う。そもそも、スズカの力なんてアタシらサーヴァントからしたら可愛いもんだよ。」

「うう・・・」

 

 いつの間にか、すずかは泣くのを止めてライダーの話を聞いていた。

 

「さっき聞いただろう?ろすとろぎあ?だっけか、願い事を叶えるってもんがアイツらの言い方からして少なくとも一つはこの町にあるんだろうさ。しかも恐らくは他にも有りそうだね。こいつは世界一周した女海賊の勘だ。当たるよ?」

 

 にんまりと笑うライダーのそれは、明かに獲物に狙いを定めた海賊の顔だ。

 思わず、すずかも呆れたような笑みを見せる。

 

「もし、見つからなかったら?」

「あん?そんときゃ世界中の海を巡って聖杯でも捜して大冒険さ。心配すんなよ?このアタシが居るんだからね。」

 

 そう言って豪快に笑うライダーを見て、すずかは少し目を閉じて…決意を込めて目を開きライダーに右手を差し出す。

 

「私の願いを叶えるために…一緒に居てくれますか?ライダー。」

 

 ライダーもまた、すずかに右手を差しだし、その手を繋ぐ。

 

「これより我が船、我が旗は貴女と共にあり、貴女の運命は我等の航海と共にある。よろしく頼むよ?すずか。」

 

 

 そうして、手を離してすずかをリニスに預けて前に向かう。

 

「さて、アタシらの船での狼藉に加えて、うちの上官殿を泣かせた事をたっぷりと後悔させてやろうかね?」

「ライダー?どうするの。」

「ん?あんな腹の虫が収まらない事を仕出かした連中には、ありったけの弾を喰らわせてやるのさ。」

 

 そう言って船首に降り立ってすずかに

 

「スズカ。本当の化け物…スペイン共が悪魔とまで呼んだ力を見せてやるよ。」

 

 すずかから貰った金貨を噛み砕きながらそう凄みのある笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどまで居た船から凄まじい魔力を感じ、振り返ると船の周りに波紋のような物がいくつも現れ、そこから船が次々と現れた。

 

「「何い!?」」

 

 流石に驚きを隠せない二人の耳と夜空に

 

 

 

『野郎共、時間だよ!』

 

 

 

 船首に立ち、此方を睨み付ける女海賊の声が響いた。

 

「な、何よ…何なのよこれは!?」

「わ、分からないよ有り得ない!!こんなの!!」

 

 船団を率いた悪魔とまで呼ばれた女が謳う。

 

 

『嵐の王、亡霊の群れ――』

 

 

 大空に現れた大船団、その総てから息苦しくなるほどの殺意と濃密な魔力が仮面の男達を縛り付ける。

 

 ここに至り、二人は理解する。

 

――死ぬ。比喩でも無くどうしようもなく、無惨という言葉すら生温いくらいに。何故ならばアレは、戦争という誰も避けられぬ嵐の――暴力その物の具現だ。

 

 本能の域でそれを感じた二人は防壁を張りながら逃げに徹する。しかし、それは、

 

 

 

『ワイルドハントの始まりだ!!』

 

 

 

 轟音と共に次々と降り注ぐ砲弾の嵐の前には、余りにも無力であり遅すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・デタラメですね。自身が率いた船団を亡霊として使役。そこからの一斉集中砲火ですか…」

 

 顔を強ばらせて、未だに砲火を放ち続ける船団を眺めるリニス。その腕の中には魔力不足によりフラフラしていたすずかが抱かれていた。

 

「やりすぎでは?」

 

「はん!情けなんざ持ち合わせて無いっての。アタシにあるのは愉しみだけさね。出し惜しむのは幸運だけだ。命も弾もありったけ使うから愉しいのさ!」

「ううん…」

 

 そう言うとすずかの頭を撫でる。

 

「ま、スズカも初陣で疲れたみたいだし、帰るかね。」

「すずかは、大丈夫なんでしょうか?」

 

 リニスが周りを見回すと既に亡霊の船団は掻き消え、漂う硝煙の臭いだけがそこに残っていた。

 

「さっきのは戦闘の空気に当てられたのと、この子の一族の体質が原因さ。」

「体質…ですか。」

 

 何処からかワインの瓶を取り出して口をつけながら答える。

 

「取り敢えず、明日でもスズカが起きたら聞いとくれ。序でにアンタの事も。アンタが使ったのとアイツらが使ってた術は似ていた。何か知ってんだろ?」

「ええ、明日必ずお二人に話します。魔導師の事も次元世界の事も私の事も。」

「次元世界か…楽しそうだねぇ。」

 

 ワインを煽りながら上機嫌に笑うライダー。

 

(とは言え、先ずは例の願いを叶える本とやらか。何か胡散臭い気はするんだが…ま、折角だ。マスターがご所望なんだ。派手に略奪といこうか。)

 

 見えてきた月村邸を見据えながらそう方針を決めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに同時刻――

 

「!?なんや、急に悪寒が…」

 

某所に急な寒気に襲われる少女と

 

「何!?この子達大怪我してるじゃない!!鮫島ぁ!!」

 

いきなり部屋の窓辺に落ちてきたズタボロの猫二匹を助けた少女が居たそうな。

 

 


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