私?ずっと仕事です。
ではどうぞ。
さて、何やかんやで情操教育の為、聖祥大付属小学校に転入することになったアサシンであるが、ここで疑問に思うのは、高町ジルことアサシンに学校の勉強が出来るのか?という事だろう。
頭の回転が早いアサシンであるが、彼女もまた過去の人物。ある程度の現代知識は有しているが、流石に現代のそれも割と偏差値の高い聖祥大付属小学校にいきなり入れる訳がない。
その為、転入試験を受ける為にもかなりの量の勉強をすることになったアサシンなのだが、
「やだ――!!もうべんきょうや――!!」
「ああもう!駄々こねてんじゃねーですよ!休憩はまだ先!」
「や――!遊びたいの!」
と現在、高町家の居間で勉強を教えることになったキャスターに駄々を捏ねていた。
キャスターは嫌がったものの
『ちゃんとこの機会に仲良くなって!じゃないと・・・』
という自身のマスターからの、令呪をちらつかせながらの指示に根負けし今に至る。
「こんの我が儘娘!試験まで日が無いんですからキリキリ覚えやがれ!!」
「べんきょうなんて、きらいだもん。私たちはサーヴァントだからいいもん。」
「うちはニートは許しません!」
「キャスターだって、じたくけーびいんじゃない!」
「私は家政婦の仕事してんですよ!!」
涙目になりながらキャスターと口喧嘩するアサシンであるが、以前と少し見た目が変わっていた。左目と右頬の傷跡が綺麗に無くなっている。
そう。現在の彼女は例の完成した人形を使い、生活していた。
「ったく。こっちが徹夜して人形を完成させたんですからそっちも試験頑張ってくださいまし!」
「体も動きが少し重いよぅ。」
「サーヴァントの身体能力をそのままにして、小学校の体育なんざ出来るわけが無いでしょうが!?大体その状態でも士郎さん並なんですから、十分一般人から見たら化物です!」
先日、完成した人形の体の試運転がてら、高町家の道場にて、御神の剣士と手合わせをしたアサシンだが、
「いや、いい経験になった。」
と、高町士郎に言わしめるほどの動きを見せた。
型も何も無い独自の構えに、これから伝説の殺人鬼と戦うと気合いをいれて対峙した三人は些か拍子抜けした。
しかし、いざ動けば音も気配も無く、瞬時に間合いを詰め、身軽さを最大限に活かして死角に回り、急所を的確に狙って襲い掛かるアサシンに対して、士郎が本気を出し、三本中二本をアサシンに取られるという結果に終わった。(木刀が両者破損のため一引き分け。)
もっとも戦ったアサシンと見ていたキャスターからは、
「おとうさん人間?」
「いくらか動きが落ちたといえ、サーヴァントが正面から挑んだのを、何で数分間しのげるんですか?代行者か何かですか貴方?」
「はっはっは、酷いな二人とも。」
なお、恭也は惜しくも(最後の方はいくらか着いてきていた)三本共取られ、美由希は瞬殺(首・心臓・腹部に其々木刀を当てられた)されている。
因みに、実際にアサシンに強襲されたらどうなるかというのを一度夜になって試している。
高町家の敷地内で、アサシンが自身の宝具の一つを一部効果を除いて使った状態で、敷地内からアサシンに捕まる前(剣士組とキャスターには木刀で切りつける)に脱出するというものだ。
アサシンに襲われた時のコメントは以下の通り、
桃子によると、
「いきなり抱き付かれてビックリしたわ。」
「えへへ♪おかあさん(マスター)ほめてほめて。」
「でも、危ないことに使っちゃダメよ?」
「はーい♪」
なのはによると、
「な、何!?何が起こったの!」
「おねえちゃんビックリした?ビックリした?」
「全然周りが見えないしビックリしたの。」
キャスターによると、
「あんの幼女、マジで襲ってきましたね。ですがギリギリ防げましたよなのは様♪」
「だ、大丈夫なの!?」
「・・・なかなかやるね、キャスター。」
「模擬戦だったからいいですが、これをなのは様に使ったら楽には殺しませんよ?」
「おねえちゃんにつかうわけ無いじゃない。」
美由希によると。
「多分普通の人なら、死んだって事に気付けないと思う。」
「みゆきおねえちゃん、すきだらけだったよ?」
「うぐぅ!?」
恭也によると、
「くそっ!防げなかったとは不覚!もう一度だ!!」
「・・・え?」
士郎によると、
「いや、勉強になるね。これを修行に組み込むのも有りかもしれない。」
「・・・」
とコメントしている。
そんな先日の出来事を思い出して、二人で頭を抱える。
「キャスター・・・私たち何か自信なくしてきた・・・」
「あの人達は例外ですから・・・それに本当にあの宝具の能力を使えば、普通は身動きなんてまともに取れませんよ。」
「・・・ふつうの人なら・・・ね・・・」
「・・・動けそうですね。」
流石にそれは無いと言い切れないのが恐ろしい。
「まぁそっちはいいですから、さっさと続きして下さいませ。なのは様と学校に通うんでしょ?」
「うん・・・がんばる。」
ムムム・・・と机のテキストとにらめっこを始めるアサシン。
「べんきょうばっかりはイヤだけど、子供たちみんながべんきょうできる世の中ってスゴいよね。キャスターここわかんない。」
「ああ、ソコはここを・・・此れで分かりますでしょ?まぁ確かに裕福な時代ではありますね。」
「ああ、そっか。こうすればいいのか。子供たちなんて掃いて捨てるほどいるのにね。」
「あなたたちの成り立ちは聞いてますから同情はしますけど・・・あんまりそんな事言うんじゃないですよ。」
顔を曇らせて言うキャスターにキョトンとした表情をするアサシン。
「世界はそういうものだよ?私たちは、それをとてもよく知ってる。」
「それでも、です。確かに救われない事ばかりですけれども――あの方たちのような人々が少しでも居てくれるなら、世の中まだまだ捨てたもんじゃ無いって思えるんですよ。私は。」
「そうだといいね。」
アサシンは小さく呟いた。
海鳴市立図書館。そこに三人の少女が来館した。
「珍しいわね、なのはが調べものするなんて。」
「うん。少し気になった事があるから。」
今日は珍しく塾も習い事もなかった三人は、なのはの希望によりここ海鳴市立図書館で時間を潰す事にした。
「じゃあ、私も何か探してくるわ。」
「うん、後でね。なのはちゃん。」
「うん。後でね。」
そうして、別れた後なのはは歴史関連のコーナーに向かった。
「手掛かりは、『狐』と『反英雄』か・・・」
そう、ここに来た理由は一つ。自身のサーヴァントの正体を掴むためだ。
「こうして調べると沢山あるの。」
西洋東洋問わず、狐と人の話は多い。特に日本では文化・信仰の対称となっている。
アジア圏で特に有名な狐と関わりのある歴史上の人物と言えば、
「九尾の狐・・・中国の夏の妹妃・殷の妲己・周の襄似。それに日本にも・・・でもキャスターさんは一本だし。」
・・・違うよねと、次を探す。そもそも、『白面金毛九尾の狐』等と呼ばれ恐れられたそれらのイメージと、いつも自分の側で『なのは様♪』と言って抱き付いてきたり、撫でてくれたりと明るくて優しいキャスターとが、どうしても繋がらない。
――それに中国のお話だ。キャスターとは違う。
――そう頭を切り替える。
「そもそも、あの格好が日本か中国か分かりにくいの。」
肌露出多目の和服?らしきいつもの姿を思い浮かべる。間違いなく西洋の英雄で無いことだけが確かだ。
もしかすると歴史上の人物ではなく、創作の人物なのかもしれない。そう思って童話などを探してみる。
「ゾ○リ・・・多分違うよね。」
何故選んだ。
「!これかも!」
そうして、彼女は一冊の物語を選び出した。
――それは日本に伝わる哀しい物語。
――過ちを悔い、
――人に近づき、
――償い続け、
――最期に人に討たれたその哀れな狐の物語を。
(なのはちゃん何してるんだろう?)
児童書のコーナーで、『ごんぎつね』を両手で掲げ持つ友人を遠くから眺めるすずか。
(私は、ライダーに関する本でも探そうかなぁ・・・)
もっとも本人直筆の航海日誌を持ち、寝る前に本人から冒険譚を聞くすずかにとっては、二番煎じも良いところだが。
ただ、英雄とは後世の人物評価によって変わってくることも多い。かのヴラド三世が、吸血鬼に落とされたように。それほどまでに世界の風評というのは恐ろしいのだ。
だから、一般的な彼女へのイメージを知ろうと、本を探していた。
「あ、あった。」
探していた本が上の棚に見つかったので、脚立を持ってくる。不安定な脚立の上に立ち上がりながらハードカバーの重たい蔵書を取ろうとした時、
「!?きゃあ!」
思った以上の重さにバランスを崩し床に体が落ちそうになる。
(落ちる!!)
思わず目を瞑るすずかを
「おっと。危ないですよ?お嬢さん。」
そんな声に目を開けると自分を支えてくれている、しっかりとした体格の優しそうな男性がいた。
「ありがとうございました。」
「いえ、礼には及びませんよ。」
脚立から降りてお礼をするすずかは、改めて目の前の男性を観察した。
がっしりとした大きな体の持ち主ながら、その顔立ちと眼は優しく、知性を窺わせる。腰ほどに伸びた髪をゴムバンドか何かで括ってポニーテールにしており、手には様々なジャンルの参考書を手にしている。
ふと、広く美しい草原と山をイメージした。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、その学者さんみたいだなって。」
そんなすずかの言葉に微笑んで
「そうですね。些か教師のような事をした事もあります。今は家庭教師兼ヘルパーといったところでしょうか。」
「あ、本当に先生だったんですか。」
納得するすずかに、本を差し出す。
「大航海時代の本ですか。若いのに中々勤勉ですね。しかし、高い所の本は無理せずに職員の方に取って貰うことをお薦めしますよ。」
「はい。気を付けます。」
素直なすずかの態度に好感を持ったのか微笑みながら頷く。
「さて、私はこれで。生徒を待たせていますので。」
「はい。本当にありがとうございました。」
そうして、男性は軽くお辞儀をすると何冊もの分厚い本を軽々と持ちながら、テーブルの方に向かって行った。
「んー面白そうな物は無いかしら?」
一方アリサは歴史関連のコーナーに居た。何故か自分の友人達が歴史関連のコーナーを中心に見ていたので気になったのだ。一人だけハブられた気がした訳じゃない。無いったら無い。
「・・・うわ、自分のお腹浄めて戻してから死ぬって・・・」
割と凄惨な死に方が多い英雄達の物語を読み進める。
「映画でやってたわね。300人で何万人も相手にするやつ・・・どんな化物よ」
きっと身体も血潮も脳も、筋肉で出来ていたに違いないと思いながら次の本を読む。
「自分の歌を聴かせるために、劇場に閉じ込めるとか。」
とある暴君の逸話に呆れたりと割と楽しみながら読み進めていく。
「次は・・・インドのマハーバーラタね。しかし、何でこうも無茶苦茶なエピソードが多いのかしら?特にギリシャとインド。」
席に座り、読みながらふと思い出す。
「そういえば、家の倉庫にも骨董品みたいなのが色々有ったわね。」
今度、探検がてら入ってみよう。と心に決めて今は手元の神話に集中しよう。今からクルクシェートラの戦いが始まったのだから。
少女達は三者三様のゆったりとした午後を過ごすのだった。