以前にちょろっと登場した二人。再登場です。
では、どうぞ。
「「「はぁ・・・」」」
朝のホームルーム前、聖祥大学付属小学校のとあるクラスに三人の溜め息が重なった。学年でも家柄よし器量よしの仲良し三人組、アリサ・バニングス、月村すずか、高町なのはである。
何時も賑やかな三人の重苦しい雰囲気にクラスの誰もが気にはしていたが、いざ聞きに行く猛者など現れなかった。・・・たった今登校してきた一人を除いて。
「三人とも。どうしたの?」
ウエーブのかかった茶色のロング、意思の強そうな光を宿したクリッとした焦げ茶色の瞳。制服の下に着込んだタートルネック。尊敬する偉人はフランシスコ・ザビエル。クラスで三番目位の可愛らしい容姿の少女。
「あ、白野ちゃん。おはよう。」
名を岸波白野といった。
「おはよう。なのはちゃん。で?元気ないね皆。何かあったの?」
小首を傾げる姿は可愛らしく、何処か小動物を思わせる。その雰囲気に幾らか気が楽になる。
「おはよう。ちょっと最近色々あってね。」
「おはよ。というかあんたの兄さんはどうしたのよ?」
普段一緒に登校する彼女の兄についてアリサが尋ねた。
「ああ、兄さんならこないだ放課後に昇降口で倒れてたのを助けた後輩の女の子からお弁当渡された後、その姉妹三人に追い回された挙げ句に、エジプトの留学生に連れていかれてたよ。」
「また、ラブコメしてんのね伯野の奴。」
「でも、優しいもんね。アリサちゃんもこの間・・・」
「ちょっ!?すずか!?それを言うならあんたとなのはだって!」
「にゃははは。」
元気になった三人に周りが安堵する一方、漏れ聞いた話に岸波兄は爆発すれば良いのに、といった声も聞こえた。
「で、何があったの?」
「うん。実はね。」
すずかの話によると・・・最近、警備の人を初めとして家族とも呼べる人が増えたのだが、夜に騒がしかったので様子を見に行ったら
「三人で抱き合ってたの。」
「うわぁ・・・」
「何というか・・・」
「なのはちゃんと同じ趣味だったんだ・・・」
「にゃあ!?違うよ白野ちゃん!」
慌てて否定するなのはだが、三人の目線は冷たい。
「でも、この間アリサちゃんとすずかちゃんの手を取ってジロジロ調べた後、『服を脱いで』って言ってたよね?」
「ち、違うよ!?あれはその・・・調べものしてたの!」
「それで脱がされそうになるこっちはたまったもんじゃないっての!訳を言いなさいよ訳を!?」
「うん。あれは引いちゃうよなのはちゃん・・・」
「うにゃあ・・・」
因みに原因は、二人の家に霊脈があると知ったなのはなりに、二人がマスターかどうか調べる為であったりする。結果腕にも手にも無く、白であると安心しつつも、ちょっと残念にも思っていたなのはである。
「まぁまぁ二人とも。世の中には下着のみを脱がそうとしてくる人も居るし。」
「え!?そんな変態が居るの?」
「・・・うん。まぁ・・・」
一体何があったのか、遠い目をしながら白野は、すずかに先を促す。
「で、この間はお姉ちゃんが恭也さんと何故か喧嘩してね。暫く落ち込んでたんだけど今朝、急に元気になって『ちょっと北欧に行ってくるわ!これで名誉挽回よ!』って出ていったの。」
「北欧?何しに行ったのかしら?」
「さぁ?一応護衛の人も着いていったけど(リニス大丈夫かな?)。後、おみやげに期待してなさいって。」
「その・・・大丈夫なのかな。お兄ちゃんは私とお母さんで叱っといたけど。」
因みにアサシンも尋問に参加しようとしたが、流石に灯油を持ち出してきたため止められている。
「大丈夫だよ。よく分からないけど、またお姉ちゃんが迷惑かけたんだよね?もっと落ち着いて欲しいよ。」
「元気なお姉ちゃんなんだね。でも、家の同居人に比べたら・・・」
「?どうしたの白野ちゃん。」
「ん?何でもないよ。」
すずかの話を聞いたあと、アリサがため息をついた。
「すずかも大変よね。うちもさぁ・・・」
アリサの話によると先日の謎の大爆発があった夜に大怪我をした猫を二匹拾ったそうだ。
「けど全然意識が戻らないし、時々うなされてるみたいなのよ。」
骨折・火傷・疲労等々怪我の見本市のような状態の二匹は、バニングス家の手により死は免れたものの依然として意識不明。現在も手厚い看護を受けているとの事。
「へぇ~そうなんだ。」
「心配だね…。」
「可哀想・・・」
今度、皆でお見舞いに行こうという話になった頃、教室に息を切らせて男子生徒が入り込んできた。
「あ、兄さん。生きてたの。」
「助けろ薄情者。ホレ、白野にもって。」
「おお、桜のお弁当♪」
名を岸波伯野。妹と同じ名前の読みをする名前を持つ兄である。妹と比べると特に目立った所の無いクラスで三番目位の容姿の生徒だ。尊敬する偉人はフランシスコ・ザビエル。
「朝からもてるわね伯野。」
「ああ、アリサちゃんか。おはよう。朝から死にかけるとは思わなかったよ。」
「ふぅん。」
何処か刺々しいアリサに気付かない伯野がのんびりと答える。
「兄さん。いい加減にしないと後ろから刺されるよ?」
「何でだ。それにお前に言われたくない。」
そんな話をする兄弟の側で
(二人とも自覚が無いからたちが悪いよね。)
(まったくよ・・・)
(本当なの。)
ひそひそと話す三人娘。
「それで?なのははどうしたのよ?」
「うん。実はね・・・」
と、なのはが机の上に花見にでも使うような大きな重箱をのせ、中身を見せる。
「一段目は・・・稲荷寿司ね。」
「二段目は・・・色んなおかずだね。」
「三段目はデザートやフルーツ・・・」
三段にぎっしりとお弁当が詰まっていた。
「何か・・・色々込められてそうだね・・・愛とか。」
「重すぎるの…」
「というか怖いんだけど。何で重箱?」
妙なオーラを放つ稲荷寿司を見て引く三人娘。
「量が多すぎでしょ。なのは一人で食べれるの?」
「ううん。実はこれ私一人の分じゃなくて・・・」
そこにチャイムが鳴り朝のホームルームの時間を知らせる。全員が着席し、担任が来るのを待つ。
「ホームルームを始める。日直、礼。」
「おはようございます。言峰先生。」
『おはようございます。』
担任の代わりに入ってきたのは、一応学校の職員の一人、言峰であった。
「げ。何で居るのよ。」
「ふむ。諸君らの担任教諭が急病の為、暫く代行を勤めさせてもらう。」
死んだ魚のような目をして、ニヤリと嗤いながら出欠を取る。
「さて、伝達事項を伝える前に転入生を紹介する。」
その言葉に全員がざわめく。
「静かに。では、入ってくるが良い。」
扉を開いて入ってきたのは、銀髪をざんばらに纏めた髪型。アイスブルーの瞳。何処か雰囲気を纏った少女であった。
「自己紹介を」
「ん。はじめまして。私たちは、高町ジルです。」
ペコリとするジルにクラスがざわめく。可愛らしい容姿もだが、問題なのは名字だ。
『高町』
つまり、この少女は・・・
「彼女は、このクラスの高町なのはの妹に当たる。高町、面倒を見るように。」
「は、はい!」
どよめくクラスを眺めながらなのはは自身の友人を見る。
『どういう事よ』
と、案の定こちらを睨んでくる金髪の友人に乾いた笑いを返し、『後でね。』と返した。
――顔を真っ青にした、もう一人の友人には気付かずに。
「で?どういう事よ。」
休み時間になり、ジルに皆が質問する中なのははアリサに捕まっていた。
「え、え~と私の妹なの。」
「何でいきなり妹が増えるのよ。」
「よ、養子になってね・・・」
「・・・なのは・・・あんた何か隠してない?」
「な、何も隠してないよ!?」
目を彷徨わせるなのはを見てため息をしながら、アリサはジルに目を向ける。
「ねぇねぇジルちゃんは何処から来たの?」
「ロンドン。」
「ジルちゃんは何が好きなの?」
「ハンバーグとか美味しいもの。」
「好きな人はいるの?」
「おかあさん(マスター)とおねえちゃん達が好き。」
「フランシスコ・ザビエルについてどう思う?」
「・・・だれ?」
「ところで眼鏡かけてみない?」
「何で?」
何だか受け答えをスムーズにしているように見えるが、アリサには何だかガチガチに緊張しているように見えた。
「ちょっと皆。緊張してるじゃない。特にバカ二人は何を聞いてんのよ。」
そう言ってテキパキと解散させると改めてジルに向き合う。
「ん。助かった。」
「にゃはは。ジルちゃんお疲れ様。」
「ううん。だいじょーぶだよ。」
(へぇ。中々良い子そうじゃない。)
へにゃっと表情を崩しながらなのはに答えるジルを見て自身の警戒を解く。
「アリサ・バニングスよ。アリサでいいわ。」
「ヨロシク。私たちは高町ジル。」
「私たち?まぁいいわ。よろしくねジル。」
「ええと・・・こちらこそ?でいいのかなおねえちゃん。」
「あってるの。」
何とか高町家で心配されていた、他人への挨拶等は出来ていて少し安心するなのは。しかし、
「すずかちゃん。どうしたの?」
「え?何でもないよ。」
少しいつもより下がった位置にいるすずかが、答える。
「すずかは相変わらす引っ込み思案ね。」
「そうかな・・・ええと月村すずかです。よろしくね。」
「・・・よろしく。」
何処かぎこちなく挨拶を交わしたすずかと怪訝な顔をしたジルを見て首を傾げるアリサとなのはであった。
「何て言うか、なのはより幼い感じがするのに結構頭良いのね?」
「勉強すごく頑張ったんだもん。このくらいとーぜんよ。」
昼休みの屋上にて、昼食を食べながらえっへん。と胸を張るジルに感心したような声を出すアリサとすずか。
(キャスターさんもすごく頑張ったの・・・)
そして、耳と尻尾をぐったりとさせながら自分を膝の上に乗せて充電していた従者を思い出すなのは。
『なのは様もフォロー頑張ってくださいまし・・・』
とは後ろから囁いた従者の言葉である。
「しかし、食べるわね。重箱の三分の二はジルが食べちゃったわ。」
「お腹すいてたもの。」
「ああ、ほら口に付いてるわよ。」
「ん。ありがと。」
大量のお弁当は、ジルとなのはにより片付けられていた。かなりの量であったが、殆どはジルの口に入っていた。
「あ、あのジルちゃんはどうしてなのはちゃんの家に来たの?」
ふいに、すずかがジルに尋ねた。
「え?おかあさん(マスター)に喚ばれたからだよ?」
「そ、そうなんだ。」
「呼ばれた?イギリスから?何それ桃子さんイギリスに知り合いがいたの?」
「にゃははは・・・」
何かを納得したような顔のすずかと、それを見て怪訝な顔をするアリサを笑ってごまかすなのは。すると今度はジルがすずかに口を開いた。
「私たちからもスズカにしつもんしていい?」
「え?うん。何かな?」
「どうして私たちを怖がってるの?」
固まったすずかに言葉を続ける。
「今日はじめて会ったばかりのみんなは、目がこーきしんや期待に満ちてたけど一人だけ、スズカだけが私たちを怖がってたの。ねぇ?どうして?」
無邪気にすずかへと近付き、目を覗き込むジル。そのアイスブルーの目を見てしまったすずかは、闇夜の奥底を覗き込んだような得たいの知れない錯覚に陥った。
「ねぇ?私たちの何を怖がってるの?」
「ヒッ!?」
そっと胸の中心――心臓の辺りを指でなぞられ、小さく悲鳴をあげたすずかに更に近付き、抱き付くようにして耳元で囁く。
「はくじょうしないと――食べちゃうよ?」
抑揚の無いその幼い声。しかし、その言葉の意味は裏も表もない、文字通りの意味だと理解し、すずかは本気で青ざめ震えた。
「何してんのよコラ!!」
「すずかちゃん大丈夫!?」
その言葉に、さっきまでの雰囲気を嘘のように霧散させてジルがすずかから離れ、すずかは大きく息を吐いた。
「どうしたのアリサ?」
「どうしたもこうしたも無いわよ!?いきなりすずかに抱き付いたりしないの!」
腰に手を当てて叱るアリサをキョトンとしながら見つめるジル。
「大体、すずかはおとなしい子だから。いきなりなのはに妹ができて、人見知りしてただけよ!」
「そうなの?」
「う、うん。そうなの。ゴメンねジルちゃん。」
「ふぅん。そうなんだ。こっちこそごめんなさい。」
ぺこり、と素直に謝罪したジルを見て漸く場の空気が戻る。
「もう。喧嘩しちゃダメだよジルちゃん。」
「うん。わかった。」
「何というかよく分からない子ね、全く。」
「あはは・・・そう、だね・・・」
その後は、たわいもない話をしながら昼休みの時間を四人で過ごし、予鈴が鳴った。
「どうしたのジルちゃん?早く行こ。」
「すぐに行くから先に行ってて。」
「どうして?」
首を傾げるなのはに「いいから」とジルは三人を先に行かせた。
暫くして、誰もいなくなった屋上に。
「全く、初日から問題起こさないでくださいよアサシン。」
「しかたないじゃない。はじめて会ったばかりの私たちをけいかいしていたんだから、敵マスターかも知れないし。」
霊体化して様子を見に来ていたキャスターが現れ、弁当箱を回収した。
「月村家にサーヴァントですか。貴女の媒介を持ってた以上、有り得なくは無いでしょうね。ですが、恭也さんがその事を知らないってのは、おかしくないですか?」
「私たちに隠してる・・・とか?少なくともスズカの腕には令呪は無かったよ。」
「腕以外に出ている可能性も有りますが・・・まぁ単純に忍さんから私達サーヴァントの事を聞いているだけかも知れませんけど・・・此方は暫く様子を見ましょうか。」
「そうだね。おねえちゃんの友達だもんね。」
簡単に二人で相談しあった後、ふとキャスターが尋ねた。
「・・・学校はどうですか?アサシン。」
「とても楽しいよ。みんなやさしいし。」
「そうですか。そろそろ戻りなさいな。なのは様が心配されてる頃ですから。」
そう言って、キャスターは再び霊体化してその場を後にした。それを見届けたアサシンも教室に向かう。
「まぁ、おねえちゃんの友達なら問題ないとおもうけどね。」
だが、もしも彼女が桃子やなのはの敵となる可能性が、少しでもあるというなら。
「マスターなら、ころしてあげればいいし。」
それに、とても美味しそうだから。その時はたっぷりと恐怖に塗れさせてから、その心臓を頂こう。
『アサシン』としての顏を覗かせながら、少女は無邪気に嗤う。
チャイムが鳴るなか、暗殺者は高町ジルとして再び学園生活に戻るのであった。