転生と狐と魔法少女   作:隣乃芝生

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大変お待たせいたしました。

いつも、皆様ありがとうございます!

それではどうぞ。


無印
夢と将来


―――不思議な夢を見た―――

 

真夜中の森の中で、

 

『お前はこんなところに居ちゃいけない。』

 

不思議な格好をした子が、ナニかと戦っている夢を

 

『あるべき所へ…帰るんだ!!』

 

だけどナニかは激しく暴れて、結局その男の子は吹き飛ばされて倒れてしまった。

 

男の子は、暫く呻いていたけど気を失ったのか動かなくなってしまいました。

 

 

「不思議な夢…」

 

 目をこすって辺りを見回してベッドの中であることを確めた。

 

「あの子は大丈夫なのかな。」

 

 夢が気になりつつも着替えて部屋を出てリビングに向かう。今日はいつものランニングはお休みの日です。キャスターさん曰く、

 

『乙女にとって美容に気を使うことも鍛練の内と申します。ご安心下さいませ、このキャスター必ずやなのは様を傾国の美女にして差し上げますので♪と言うわけで身体を休めるときはしっかりと休めましょ?』

 

 だそうです。別に傾国の美女になりたくないのになぁ。

 

 

「おはようなのは。」

「おはよう。お父さん、お母さん。」

 

 リビングに居たお父さんとお母さんに挨拶をする。今日もお父さんとお母さんは、元気でラブラブです。

 そんな二人を見てから、冷蔵庫のペットボトルを持って家の道場に向かう。

 朝から道場の外にまで激しい竹刀の音が響き渡る。

道場の中を覗くと、息を切らしたお姉ちゃんと道場の真ん中でお兄ちゃんとジルちゃんが、激しく打ち合っていました。

 

「まだまだぁ!」

「遅い・・・!」

 

 一瞬お兄ちゃんの姿がぶれたと思うとジルちゃんの後に現れ、竹刀を降り下ろしました。だけど、

 

「よみどおり。」

 

 それを読んでいたジルちゃんが、しゃがんでお兄ちゃんに足払いをかけ、たまらず倒れたお兄ちゃんの上に乗って、

 

「私たちの勝ち。」

「くっ!・・・参った。」

「うん♪」

 

 首筋に当てた竹刀を外し、起き上がったお兄ちゃんと一礼をして竹刀を片付け始めました。どうやら朝の鍛練はこれで終わりみたいです。

 

「おはようなのは。」

「お水ありがとね。」

「おねーちゃんおはよ。」

 

 お兄ちゃんもお姉ちゃんもジルちゃんも元気です。

 

 皆で母屋のリビングに戻ると、もう一人の私の家族が帰ってきてました。

 

「藤原さんのお豆腐とお揚げを切らしてたなんて、お味噌汁が美味しくならないじゃないですか・・・あ、おはようございますなのは様♪」

「おはようキャスターさん!」

 

 私のサーヴァント、キャスターさん。呪術の達人である、狐の耳と尻尾が特徴の女の人です。どうやら、朝から商店街のお豆腐屋さんに行ってたみたいです。『お豆腐の藤原』さんは海鳴最速の・・・

 

「なのは様、それ以上いけない。」

「?わかったけど、心の声に突っ込まないでほしいの。」

 

 我が家は、皆がそろったら朝御飯です。食べながらでもお父さんとお母さんは、相変わらず新婚ホヤホヤみたいにラブラブで、お兄ちゃんとお姉ちゃんも仲良しです。

 ジルちゃんは、お父さんやお兄ちゃんと同じぐらいの量のご飯を平らげて、私は・・・

 

「はい、なのは様♪あ~~ん♪」

「にゃはははは・・・はぁ・・・」

 

 とても、寧ろ過剰なぐらい愛されています。

 

 

 

 身支度を整えて学校へ行くバス乗り場までは、いつもキャスターさんが見送りに来てくれます。

 

「それでね、今日は不思議な夢を見たんだ。」

「不思議な夢・・・ですか?」

 

 今朝見た夢をキャスターさんに話すと何か考え込んでいました。暫くして珍しく真剣な表情をして、

 

「なのは様・・・それは今朝見た夢なのですね?」

「うん。何かあったの?」

「いえ、なんでもないです。」

 

 そうこうしているうちにバスが近付いて来たのを見ると、キャスターさんはいつもの優しい表情で手に持った大きなお弁当をジルちゃんに渡しました。

 

「はい。じゃあ落とさないように。後、一人で食べ過ぎないでくださいよジル。」

「うん。努力する。」

「・・・貴女一人で我が家のエンゲル係数、どれだけ上がってると思ってるんですか?少し自重して下さいませ。」

 

 そのままくるっと私の方を向くと

 

「取り敢えずなのは様、夢については仕事が終わり次第に私の方で調べてみます。・・・何やらあったようですしね。」

 

 そう言えば、今日は随分パトカーが走っています。

 

「ま、なのは様はお気になさらず学校を楽しんで下さいませ♪大丈夫大丈夫!」

 

 そういってバスに乗る私とジルちゃんを送り出してくれました。アリサちゃんやすずかちゃんと後ろの座席に座ってふとバス停を窓から見ると、いつものように姿が見えなくなるまで手を振ってくれていました。

 

 

 

 

 

「・・・と言うわけで。世の中には様々な職業がある。将来的に自分がどの様な職に就きたいのか・・・今から考えてみるのも良いだろう。」

 

 ジルちゃんが転入した位から何故か、私たちのクラスで教鞭に立つことが多くなった言峰先生が授業中そんな事を話しました。

 

「進路についてや他にも悩みがあるのならば何時でもカウンセリングに来るがいい。相談にのろう。無論、将来聖職に就きたいというのであれば歓迎しよう。」

「・・・だれが行くかってのよ。」

 

・・・アリサちゃん、聞こえるから。

 

「おなかすいた。」

 

・・・ジルちゃんは平常運転でした。

 

「ふむ。空腹ならば購買部に来るがいい。海鳴商店街の人気店、翠屋からシュークリーム等を仕入れ始めたところだ。」

 

 あ、ちゃんと悩み?じゃないけど相談は聞いてくれるんだ・・・じゃなくて!?

 

「家の店からも仕入れてるんですか!?」

「無論だ。これも地域活性化活動の取り組みの1つでな。泰山の麻婆豆腐を始めとした商店街の名物メニューを取り扱い始めた所だ。」

 

 知らなかったの。お父さんたちそんなこともしてるんだ。

 

「因みに高町夫妻には、購買部限定愉悦コラボスイーツ『激辛麻婆シュー』の製作にもご協力頂いた。」

「何してるのお父さんとお母さん!?」

「何を血迷ったの翠屋!?」

「激辛の時点でスイーツじゃないよ!?」

「「幾らですか!?」」

『買うの!?』

 

 思わず椅子から立ち上がって皆で突っ込みを入れてしまいました。すると言峰先生は、急に真剣な表情になり、

 

「高町、バニングス、月村、そして岸波兄妹。」

「な、なんですか?」

 

 厳かに私たちに告げたのです。

 

 

 

 

 

 

「授業中だ。静かにしたまえ。」

 

 

「「「「誰のせいだと思ってるんですか!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても将来の夢かぁ。」

 

 お昼休みに屋上でお弁当を食べながら、さっきの授業で先生が言ってたことを思い返す。・・・色々あったけどそれは家に帰ったら問い質すことにします。

 

「アリサちゃんとすずかちゃんはもう決まってるんだよね?」

 

「でも、ふんわりとした感じよ?私は、いっぱい勉強してパパとママの会社を継ぐこと・・・って感じかしら。」

「私は機械とか好きだから・・・工学系とか・・・他には貿易か・・・海洋考古学かなぁ。」

「海洋考古学?」

「うん。探したいものがあるから。」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんがそんな将来の夢を語ってくれました。

 

「しょーらい・・・か・・・考えたことなかったけど私たちは、翠屋かな。」

「あ、桃子さんの後継ぎってこと?」

「うん。一緒に居られるならそれでいい。」

「甘えん坊よね。でも何だかジルらしいわ。」

 

 少しずつですが、私とジルちゃんは翠屋で接客のお手伝いしてます。時々手の空いたキャスターさんも手伝ってくれますが、そうするとお客さん(男の人)が増えるから不思議です。

 

「私は」

「まぁなのはは、キャスターさんとくっつくとして・・・」

「そうだね。」

「ちょっと待って?おかしいよねその未来像?」

 

 何だかおかしなことを言い出した親友二人におもわず突っ込む。・・・何でそんな意外って顔をしてるのかな二人とも?

 

「だって・・・もう商店街だと若奥様とか言われてるし、本人全然否定しないもの。」

「うん。なのはちゃんを三代余裕で養えるだけの財産は余裕で有るって、こないだ本屋さんでゼ○シイ買いながら言ってたよ。」

「いつの間にか外堀が埋ってた!?違うからね!」

「さすがキャスター。やり方が汚ないね。」

 

 私が取っておいた肉団子を食べながらジルちゃんがそんな感想を言う・・・楽しみにしてたのに。

 

 

「にしてもよ。何でそんなにお金があるのに家政婦やっているのかしら?」

「やっぱりなのはちゃん目当て?」

「やっぱり怪しいわ。あの女。」

 

 ジルちゃんとおかずの取り合いをしている間にも二人がそんな話をしていました。

 

「と、とにかくね。翠屋を継ぐことも将来のビジョンの一つではあるんだけれど、でも本当に私がやりたいってことが何なのかわからないんだ。私は取り柄があんまり無いし。」

「・・・贅沢。」

「?ジル何か言った?」

「べつに?何でもないよ。」

 

 何だかジルちゃんの元気が無いけれど大丈夫なのかな?

 

「兎も角!自分で取り柄が無いとか言ってんじゃないわよ!私より理数系と歴史の成績良いくせに!」

「そうだよなのはちゃん。なのはちゃんしか出来ないことだってあるよ。」

「そうだね。ありがとう二人とも。」

 

 私にしか出来ないこと・・・いつか見つかるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。ここが、例の場所ですか。」

 

 公園のボート乗り場。普段はデートをするカップルや親子連れで賑わう場所は今、大騒ぎとなっていた。

 たったの一晩で小屋は壊れ、ボートは過半数が沈み、桟橋は砕かれ、回りの木々もへし折られ、無惨な光景が広がっていた。

 警察の鑑識が調べを進める周りは多くの野次馬に囲まれていた。

 

(・・・確か、これが始まり・・・でしたかね?しかしなのは様には、出来れば平和に過ごして欲しかったのですが。)

 

 そんなことを考えながら、野次馬に紛れて散策をするキャスター。周りに目をやると、木の上や人混みから離れた所に、

 

(いつぞやの山猫も来てますね、あとは・・・妙な猫がもう一匹。使い魔でしょうか?・・・おや?)

 

 もう一匹、自身の感覚に引っ掛かった物を感じて茂みの方へと向かうと、向こうからガサゴソと茂みを掻き分けて

 

 

 

 

「くぅ。」

 

 

 

 

 一匹の子狐が姿を現した。

 

「・・・何してるんですか?」

「くぅ。何だか妙な感じがしたから来てみた。」

 

 よく、なのはとのランニングの途中に立ち寄る神社の子狐、久遠が尻尾についた葉っぱを払いながら答える。

 

「そうですか。何か良くない魔力と危険な感じがしますから貴女も気を付けて下さいね。また、暴走されたら今度こそ討伐されますからね?」

「わかってる。もう大丈夫。」

 

 こくん。と頷く久遠。またなのはが知らない所で色々やっているらしいキャスターもそれを見て安心したように息をつく。

 

「あ、そうだ。」

「どうかしましたか?」

「関係が有るか分からないけど、こんなの拾った。」

 

 一度茂みに戻った久遠が、拾った物を口に咥えて戻ってくる。

 

「くぅ。」

「きゅ~」

 

・・・所々怪我をし、赤い宝玉を首に付けたイタチのようなモノを。

 

 

 それを見てたっぷり十秒程フリーズした後、キャスターが口を開く。

 

「・・・お腹壊しますよ?」

「きゅー!?」

 

 その言葉が聞こえたのか、最後の力を使って逃げようとするイタチ。そこへ。

 

 

「何か聴こえたの。」

「あ、なのはちゃんも?」

「あ、二人ともあそこ!」

「キャスター?」

 

 パタパタと音を立てながら四人の救い手が現れた。

 

 

 

「あれ、キャスターさん!?それに久遠ちゃんも。」

「キャー☆お帰りなさいませなのは様♪こんな所でお会いできるなんて・・・ですが、今日は塾なのでは?」

「えっと、近道になるからこっちに来たの。久しぶり久遠ちゃ・・・にゃああああ!?」

「くぅ。」

 

 と挨拶をする久遠の口元のイタチを見て、流石に驚く三人。

 

「こ、こら!?その子生きてるじゃない!ペッしなさい!」

「狐さん食べちゃダメだよ?離してあげて?」

 

 と、言われて久遠はやっとイタチを地面に下ろす。流石に力尽きたのか、イタチはぐったりとして動かなくなった。

 

(くぅ。別に食べようとした訳じゃないのに。)

(あー…まぁいきなり見たら狐の捕食シーンでしたからね・・・)

 こっそりと落ち込む久遠を慰めるキャスター。

 

「ど、どうしよう!?」

「取り敢えず手当てして病院に連れていかなきゃ!」

 

 と、慌てる三人に。

 

「じゃあ手当てするね?」

 

 鈴を転がすような声で、ジルが腰のポーチを探りながら声を掛ける。

 

「ジルちゃん手当て出来るんだ。」

「あれ?ジル、あんたさっきまでポーチなんて着けてたっけ?」

(そう言えば、ジルちゃん『外科手術』のスキルが有るんだっけ?)

 

 感心したようなすずかと頭を捻るアリサと、頭でジルのスキルを確認するなのはを横目に、目当てのものを取り出す。

 

 

―――血塗れの医療用メスと古い縫合針と糸を。

 

 

 

 

 

 直後に三人にジルは止められ、さっきより心なしか青くなり身体を震えさせるイタチを連れて病院に急ぐ事になる。

 

「こういうときは解せぬっていうんだっけ?」

 

 四人と二匹の後ろを走りながら、ジルは首をかしげるのだった。

 

 

 

 


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