皆様も体調管理にご注意を。
「フェレットですか。」
「そう。あまり見たことない種類なのだけどね。」
動物病院にて、院長とキャスターが診察室で話をしていた。目の前には手当てを受けて包帯と点滴を受けるフェレットが眠っている。
「よっぽどひどい目に遭ったのかしら?ストレスでほら・・・」
「キュー…キュー(女の人怖い刃物怖い獣怖い女の…)」
「何やら魘されてますね、可哀想に・・・。一体何処の誰がこんな酷いことを・・・そうは思いませんかなのは様。あれ・・・なのは様?」
先程まで居たはずのフェレットを連れ込んだ少女達はと言うと。
「もふもふだぁ・・・」
「すずか、そろそろ交代しなさいよ!」
「次は私なの!」
「くぅ・・・」
治療中のフェレットは置いといて、成り行きで取り敢えず着いてきた久遠を、待合室で思い思いに抱き上げてモフッていた。どうやら小学生の彼女らにとってはフェレット<子狐のようである。
「ちょっ・・・なのは様は普段からモフリ放題なのに・・・やはり若い
「久遠ちゃんは久遠ちゃんで毛並みが艶々もふもふしてて気持ちいいの。」
「キィー!妬ましい!!こうなったら本数を増やすか私が増えるかして・・・」
(あれ?なのはの家に動物っていたかしら?)
二人の会話を聞いて首をかしげるアリサ。そこへ獣医が治療室から戻ってきた。
「取り敢えず、フェレットは大丈夫よ。今日一日は家で預かるわね。」
「「「ありがとうございました!」」」
「どういたしまして。・・・もう一人の子は?」
「あ~あの子は医者嫌いなので・・・外に居ますよ。」
それでも、様子が気になったのか窓や入口から此方を時折覗いていたが。
「そうだ!ジルから物騒なの取り上げなきゃ!」
「ええと、アリサちゃん?」
「何よキャスターさん?」
「皆様今日は塾では?」
慌てて時計を確認した三人はもう一度先生に頭を下げて、外で野良猫と遊んでいたジルを回収して走って行った。
「さて、私も久遠を神社に送って帰りますか。」
「くぅ。」
ひょいと久遠を抱えて出口に向かう。
「では、私たちはこれで・・・」
「うん。お会計済ませてからね?」
「デスヨネー。」
かくして、フェレット治療費+猫缶(ジルが使用)の代金を支払うキャスターであった。
なのはがジルと共に帰宅し、夕食や風呂をすませたあと(両親に麻婆シューについて問い質したがはぐらかされた。)キャスター含む三人はなのはの部屋に集まっていた。
「アリサちゃん家もすずかちゃんの所もダメだって」
「まぁ、犬屋敷と猫屋敷ですからねぇ。」
「やっぱり、うちで飼っちゃダメかな?」
「やはり、飲食業を営まれてますから・・・あまり動物は宜しくないかと。」
「狐が居るから今更だと思うよ?」
「よしそこの幼女、表に出やがれ。」
保護欲が刺激されたのかフェレットの先について相談しようと目の前で喧嘩する我が家のサーヴァント達を誘ったが、相談相手を間違えたかなとなのはが思い始めた頃である。
『この声が聞こえる方・・・助けて下さい。』
「にゃあ!?」
「おや。」
「・・・?」
そんな声が頭に聞こえた。
「この声!?公園で聞いたの!」
「そうなんですか?なのは様?」
「うん。公園でも何か物凄く必死に『誰か本当に助けて下さい!できれば今すぐ!!』って聞こえたの。」
「・・・何か物凄く不憫そうな方みたいですね?」
「幸運値がEとかなんじゃない?」
そう話をする二人の横で直ぐにパジャマから普段着に着替えたなのは。
「行ってみるね!」
「お、お待ち下さいませ!?」
駆け出そうとしたなのはをすかさず抱き止めるキャスター。なんで!とでも言いたげに自分を見るなのはの我儘を聞きたくなるのを抑えて話をする。
「明らかに危険そうだってのに一人で!!しかも丸腰とか何を考えていらっしゃるのですか!?」
「根性棒があるもん。」
〈No Problem.〉
「あ、丸腰じゃ無かったんですねー・・・じゃねーです。過剰防衛ってご存知ですかなのは様?つか本当に何なんですかコレ!?」
取り敢えず根性棒を取り上げてベットに放り投げる。
「何するの!?キャスターさんひどい!」
「ぐっ!?で、でも危険なことをしようとするマスターをたしなめるのもサーヴァントとして、そして妻としての勤め。お許しくださいまし。」
こほん。と一つ咳払いをしてから自身の服を普段着から蒼い呪術師の服へと変えてなのはに向き直る。
助けに行こうとしたとき、キャスターさんが私服から本来の姿に戻って私に問い掛けました。
「マスターが、こうして見ず知らずの誰がが困っていても、その手を差し出すことができること。それはマスターの美徳であり、特別な所だと思います。」
「キャスターさん?」
呼び方がいつもと違うことに戸惑う私に、今まで見たこと無いくらい真剣なキャスターさんは続けます。
「それはとても素敵な事です。――ですが、今回はその助けを求める手段を見ても一目瞭然、日常から外れた尋常ならざる事態です。もしかすると巻き込まれることにより、なのは様が本来しなくてもいい怪我や、嫌な思いをされるやもしれません。ですからマスターは安全な場所で見知らぬ誰かに任せるのも有りかと存じます。私やジルに丸投げするのも有りです。」
いつもなら、私が危険な事をしそうなときは全力で止めたり、知らないうちに終わらせてしまうこの人が、このときだけはどこか迷ったような目をして私に話をしていました。
「・・・私はマスターの普通で、平穏で、安全な暮らしを守りたいので、サーヴァントなんて物以上に変な事には、あまり関わって欲しくないですし、危険な事はして欲しくないのです。・・・ですが、私はあくまで従者。御主人様の選択肢に従います。」
――でもきっと。
「お尋ねいたします。この声の主を助けに参りますか?」
――その質問は私が、『助けに行く』と答えるに決まっていると分かっていて。
――だから、そう答えた時に一瞬だけ哀しい目をしていたんだと思います。
「仕方ありませんね。・・・まぁ、そんなところがいいいんですけどね。もう、なのは様ったらイケタマなんですから♪でもでも~それはアタシだけに向けて頂けたらなーと。」
そう言いながら、先程までの雰囲気を霧散させたキャスターは、なのはの靴や上着を準備して着させてからひょいとなのはを抱き上げた。
「さて、参りますかなのは様。」
「え?キャスターさんも来てくれるの?」
「何を仰るのですかなのは様。そんなの当たり前じゃないですか。」
キョトンとしながらキャスターは告げる。
「なのは様が行かれるというならこのタ――じゃないキャスター。例え剣林弾雨の直中だろうが、屍山血河の中だろうが、黄泉の國だろうが、那由多の果てだろうが、お付き合い致しますよ。」
「ありがとうキャスターさん。」
「いえいえ。ですが本当に危なくなったら逃げて下さいね?」
「分かったの。」
そう答えるなのはは、キャスターが窓を開けたことに疑問を抱く。
「あれ?何で窓を開けるの?そして何で私を抱き上げてるの?」
「え?ですから急ぎますよね?」
窓辺に足をかけながらキャスターが確認する。
「じゃあ跳んで行きましょうか。」
「え?きゃあ!?」
なのはを抱えたまま飛び上がり、夜の街を駆けるのであった。
「・・・あれ?私たち忘れられてる?」
〈ですね。〉
部屋で先程までの流れを空気を読んで、気配遮断しながら見ていたジルが、ベットに投げ出されたままの根性棒を拾い上げる。
(それにしても、あんなキャスターはじめて見た。迷ってるみたいな・・・それだけの事態?)
普段とは違うキャスターの行動に首をかしげるジルだが、
「取り合えず、おかあさん(マスター)に報告してからおいかけよっか?」
〈そうですね。〉
急ぎ足で自身のマスターの下へと向かうのであった。
屋根から屋根へ、ビルの壁を駆け上がり、電柱を足場に夜の街を駆け往く。凄まじい速度で後ろに流れる夜景を見ながら、なのははキャスターにしっかりとしがみついた。
「うわぁ!スゴイスゴイ!」
「私とて、サーヴァントの端くれ。これくらいのことは出来ますよぅ。寒くないですかなのは様?」
「大丈夫なの!・・・キャスターさんあっち!」
身体を魔力で身体強化し、なのはを抱き上げた状態で足場から足場へと高速で飛び移る。結果、僅か数分足らずでその場所へと降り立つ。
「ここは・・・」
「昼間の動物病院ですね。しかし特に変わったことは・・・!?」
途端に周囲を何かが覆い、辺りが静寂に包まれる。
瞬間、なのはを抱えたままのキャスターがその場から飛び下がったと同時に病院が内側から破壊され、周囲に瓦礫を撒き散らした。
「あれは!?」
「キャスターさん!あの子が!?」
中から現れた3体の黒い化物を見てキャスターが声を上げると同時になのはが、同じく中から飛び出したフェレットを見つけた。
「なのは様は、フェレットを確保してください。あれは私が何とか致します。」
なのはを下ろし、鏡と呪符を取り出してキャスターが指示を出す。相手もこの現状で最も脅威となるキャスターを敵として定めたらしくキャスターに向き直り、牽制で放たれた炎天から距離を取る。
なのはがフェレットを抱いて下がったのを横目で確認し、
「ではでは、ササーッと片付けて私の凄い所をなのは様に見て頂きましょう・・・そんなわけで・・・」
目の前の獲物を見据え、構え直す。
「バリバリ呪うぞっ!」
叫びと共に戦いの火蓋が切って落とされた。
「キャスターさんスゴイ・・・」
なのはは安全と思われる場所まで下がり、戦いを眺め見惚れていた。
三対一にも関わらず、呪符と鏡を駆使して舞うように戦いながら相手の化物を圧倒する姿に改めて頼もしさを感じてしまう。
呪符が化物を凄まじい炎で焼いたかと思えば、今度は風が切り刻む。かと思えば宝具だと言っていた鏡で攻撃を受け、素早いカウンターで殴り返しながら距離を取る。
・・・時々「泣き叫べ!」とか「もんどり打てい!」とか「カッキーン♪」とか妙な掛け声が聞こえて来るのが緊張感を削いでいたが。
「あ、あれは使い魔!?」
「フェレットが喋った!」
腕の中に居たフェレットが喋ったことに驚き、思わず手を離してしまう。地面に降り立ったフェレットは、なのはに構わず話し掛ける。
「もしかして、君があの使い魔の主人の魔導師なのかい!?」
「え!?魔導師?魔導師じゃないけどキャスターさんのマスターは私なの。」
その言葉に何かを考えるような仕草をしたフェレットは、決意を込めてなのはに赤い宝玉を差し出した。
「君に頼みがある!」
(・・・まぁ、この程度なら余裕です。)
目の前の化物に鏡を叩き込みながらキャスターは、戦力を分析する。
近接戦闘に向かないキャスターとは言えどサーヴァントの端くれ、この程度の相手に遅れを取ることは無い。目の前の化物は、鏡による容赦無い殴打と強力な呪術によりかなり削られ弱っていた。
このまま圧倒すべく前に出ようとしたキャスターの背後から凄まじい魔力が巻き上がったのはそんなときである。
振り返れば、慣れ親しんだ主人の魔力で桃色の光の柱が聳え立っていた。
それを見届けたのは
「こいつはスゴイじゃないか。」
離れたビルの屋上で上機嫌に笑う紅い海賊。
「これ程の魔導師が・・・」
その隣に佇む灰色の女性。
「・・・なのはちゃん?」
紫の髪を持つ少女。
「何て魔力よ!」
「こんなことが・・・!」
屋敷を抜け出そうとした飼い主を眠らせて来た双子の猫。
「・・・おねぇちゃん?」
夜の街を駆ける銀髪の黒い少女。
「この街で何が起こっているのでしょうか?」
戸惑う、皮鎧を纏う青年。
それぞれの思惑を抱えた者達と蒼い月が見守る夜
「レイジングハート!セット・アップ!」
力強い声を響かせて、光に包まれて。
この日、一人の白い魔法少女が誕生した。