それではどうぞ。
月村家の自室にて三人で寛いでいたところ、突然
不思議な声を聞き、ライダーとリニスを連れて外に出て声の聞こえた場所に向かうと昼間に訪れた病院が破壊されており、三体の化物がすずかもよく知る人物、キャスターと交戦していた。
ならば、助けを求める声の主は?と離れた場所で状況を見守っていると。
「――親友が、魔法少女になった。何を言ってるのか分からないと思うけど私も分からない。ともかく・・・」
「すずか・・・現実逃避はその位で。」
「・・・そうだね。」
リニスの声で止まりかけていた頭をハッキリさせる。今は戦いに集中しようと再びライダーが、何処からか取り出した望遠鏡を覗き込む。
「いやいや、面白くなってきたじゃないか。」
「・・・楽しそうですねライダー。」
不謹慎なとでも言いたげに顔を曇らせるリニスに、月村家から持ち出したワインの瓶に口をつけながらライダーが答える。
「いいじゃないか。あんたも愉しめよリニス。で?あのお嬢ちゃんのアレはあんたの所の魔法だろ?」
「そうですね。恐らくは救援要請をした人物に貸与でもされたのか・・・すずか程で無いにしろかなりの魔力持ちのようです。」
「はっ!流石はキャスターのマスターってか。さて、どうするスズカ?手ぇ貸してやるかい?」
飲み干した瓶を棄ててマスターを見やる。
「・・・もし、なのはちゃんがピンチになったら、あの化物を攻撃して。」
「スズカは行かないのかい?ピンチに颯爽と現れる大親友ってさ。あのお嬢ちゃんなら、スズカもマスターだって分かったら喜びそうだがね。」
ライダーの言葉にすずかは頭を横に振って答える。
「そうしたら、きっと魔力の量とかで私の体の事とかもなのはちゃんにバレちゃうでしょ。だから駄目だよ。」
「気にしないと思うけどねぇ。」
「ライダー。」
軽口を叩くライダーをすずかが睨み付ける。それすらも面白がるライダーと苛立ち始めたすずかの間にリニスが割って入った。
「二人ともそこまでです。ライダーはなのはちゃん達の近くで待機していなさい。」
「あいよ。んじゃ行ってくるか。」
さっさと霊体化して、その場を後にしたライダーにリニスは溜め息をつき、すずかに向き直る。
「ごめんなさいリニス。」
「気にしないで下さいすずか。私から後でライダーには話をしておきます。」
あの性格には困り者です。と頭を抱えるリニスを見ながら、すずかは再び前の戦場に向き合う。
「・・・大丈夫かな?なのはちゃん。」
「え、ええええええええ!?」
謎の喋るフェレットに渡された赤い宝玉――レイジングハートを持ち、フェレットの言葉を繰り返し唱えた瞬間に白い、学校の制服にも似たような衣装に戸惑いながらなのはは驚きの声を上げた。
〈魔法に関する知識はお持ちですか?〉
「え!?いや全く無い・・・あれ?何かに似てる気が・・・」
手に持つ杖からの質問に答えながらも、その感触に何処かで覚えがあったなのはが首を傾げる。
〈どうやら、少しばかり使い方を学んでいたようですね。では、目の前のロストロギア異相体に貴女が思い描く強力な一撃をイメージし、封印しましょう。〉
「ろすとろぎあ?」
〈後程説明します。今は貴女の使い魔らしき女性の手により、かなり削られています。〉
前を向くと、三体の化物が逃げようとした所をキャスターが氷漬けにしていた。
〈好機です。〉
「わかりました!」
足を開き、杖の先を化物に向けると、同時に杖がまるで二又の槍のような形状に変型した。
「まさか、封印砲・・・あの子砲撃型!?」
フェレットの声を何処か遠くに聞きながら、胸の奥の熱の塊を両腕に集める。
(やっぱりこの感じ似てる・・・なら、やれる!!)
杖のロックオンが完了すると同時に引き金を引き、
桃色の砲撃が氷漬けのロストロギア異相体を飲み込んだ。
「やった・・・のかな?」
砲撃の反動で倒れこんだなのはが起き上がり着弾点を見ると爆煙が少し晴れて、『二つ』の青い宝石が浮かんでいた。
「あれは・・・」
なのはが宝石に目を向けた瞬間、
〈上ですマスター!!〉
手元からの声に咄嗟に顔を向けるとボロボロになりながら逃れた一体が襲い掛かって来ていた。
「あ・・・」
瞬間、頭が真っ白になり棒立ちになったなのはを救ったのは、
「やらせません!!」
一瞬で間に入り、鏡で一撃を防いだキャスターと、
「・・・おねぇちゃんをいじめたな?」
空中で体勢を立て直した異相体に銃弾じみた速度の
メスを投げつけ、滅多刺しにして
「ころしてあげる!!」
振り向いた瞬間に大振りのナイフで切り刻んだ、銀髪の少女――なのは達を追いかけてきたジルことアサシンであった。
「なのは様!?お怪我はございませんか!?」
「おねぇちゃん!?大丈・・・夫?」
異相体が消滅し、宝石に変わったのを確認して二人がなのはに駆け寄る。
「怖かった・・・キャスターさん、ジルちゃんありがとう。」
「いえ、それよりもなn・・・」
「おねぇちゃんその格好どうしたの?」
「人の台詞遮らないで下さいまし!」
「二人とも喧嘩しないで!?これは・・・」
「ごめん!僕が巻き込んだばかりに・・・」
そこへ近付いてきたフェレット。ジルはそれを見て目を丸くし、キャスターは目を細めてフェレットを睨む。
「あ、あの?」
「キ、キャスターさん!?落ち着いて・・・」
「よくも私のなのは様を・・・」
キャスターが、口を開きかけた時、
「おねぇちゃん!?フェレットが喋った!!」
「うわぁ!?」
目をキラキラさせたジルに掴み上げられた。
「なにこれ!なにこれ!何で喋れるの?」
「私も分からないの。」
「は、離して・・・」
ジルに握り締められ次第に青くなっていくフェレット。
「キャスター!これ飼いたい!」
「えー駄目ですよ。何か弱ってますし。つーか何度も人の台詞遮るんじゃ・・・」
「ちゃんと私たちが面倒見るから!」
「聞けよ。大体これは・・・」
「やだー!飼いたい、ちゃんと躾とかするから!」
「あーもう!人の話を聞けってんですよ!士郎さんと桃子さんの許可得なさい!」
「き、キュ・・・」
「その前に助けてあげて!?」
力一杯抱き締められたフェレットが、羞恥と圧迫により紫色になっているのを見かねたなのはが助けに入る。
渋々といった感じでジルが下ろすとフェレットは、息を整え始めた。
「ごめんね?」
「ゲホッ!い、いえ、此方こそ・・・」
「・・・窒息って人によっては快楽をおぼえるんだって。」
「覚えないよ!?覚えないからね!何でそんな残念そうなのかなぁ!?」
そんなジルとフェレットを見て、なのははキャスターと顔を合わせる。
「もしかして、苦労性なのかな?」
「若しくは突っ込み体質かM?・・・まぁ良いです。何か殺がれましたし。」
「いきなり睨むからビックリしたの。」
「うぅ・・・ですが、私とてなのは様がピンチになったら平静ではいられませんよ。」
少し落ち着いたキャスターは、思い出したかのように袖口から青い菱形の宝石を二つ取りだした。
「さて、先ずはコレをどうにかしましょ?なのは様」
〈ジュエルシード、No.18・20・21封印〉
キャスターが回収した二つと、アサシンが仕留めた一つをなのはが持つ杖に吸い込まれた。
「お疲れ様ですなのは様。」
「おねぇちゃん後で貸してね。」
なのはを気遣うキャスター、なのはの杖に興味津々なジル。
「ところでなのは様?そろそろその格好と先程の砲撃について説明して下さいませ。いや勿論、とてもお似合いですので今すぐ抱き締めてお持ち帰りした上で、撮影会は決まってるのですが。」
「うん。キャスターさんが平常運転なのは分かってるんだけど、何を言ってるの?」
「・・・デジカメのメモリー32Gじゃ足りませんね。後でコンビニ寄って買い足さなければ・・・」
「あ、聞いてない。」
ブツブツ言いながら思考に更けるキャスターに呆れるなのはに手元の杖――レイジングハートが明滅しながら提案する。
〈マスター利き手を彼女に向けてください。〉
「え?こう?」
〈シュート。〉
「・・・それにしても、時間の余裕さえ有れば撮影機材一式を新調してましたのに・・・みこぉぉぉぉぉ!?何するんですかなのは様!?顔狙いましたか今!?」
「ご、誤解なの!」
顔を掠めた光弾に冷や汗をかきながら、慌てるなのはにキャスターが詰めかかる。
〈今のが基本の射撃です。〉
「オイコラ。今のあなたの仕業ですか駄杖?」
〈『マイ』マスターの話を聞いてください駄狐。〉
「は?何言ってんですかポンコツ?・・・ねぇ、なのは様?『ワタクシの』なのは様にこんな危険物を与えた身の程知らずのフェレットモドキはどちらに?やっぱマジで呪う。TSとかどうですかね?」
「二人とも何でそんなピリピリしてるの!?」
なのははキャスターが戦っている間の事を説明した。フェレットから、杖――レイジングハートを託された辺りからキャスターが眉を顰め始めた。
「全くもう。なのは様は人が良すぎです。」
「でも・・・」
「そこでアサシンに可愛がられてるフェレットモドキが、『僕と契約して魔法少女になってよ。』的な悪徳マスコットだったらどうするんですか!?」
その視線の先ではアサシンとフェレットが戯れていた。
「私たちは高町ジル。好きな食べ物はハンバーグとハツ。」
「何で僕の心臓辺りを見ながらそんな自己紹介するのかな!?自己紹介が恐すぎるよ!?」
その様子を見て
「・・・大丈夫じゃないかな。何か悪い子じゃないみたいだし。というか止めなくていいの?」
「いいんじゃないですか?それは兎も角、今日日流行りの魔法少女とは名ばかりの『マジカルー』とか言いながらグロ展開する奴やら、少女でもプリティでもねぇ筋肉な奴やら、友達になる為にとか言いながらその相手を動けなくして砲撃をブッパしたり、部下の頭冷やす為に砲撃をブッパするような奴やらにされたらどうするおつもりですか!」
「よ、よくわからないけどそんな酷い事しないもん。」
「魔王だの悪魔だの言われたらどうするんです!?」
「何を危惧してるのキャスターさん!?」
何か遠回しにディスられたような気がしたが、気のせいだと思うことにする。
「兎に角!契約というものは危険なんです!迂闊に契約したが最後、変なものに付きまとわれたりしたら・・・何で私の鏡を私に向けるんです?」
「深い意味は無いの。うん。確かに危険だったけど、でもあの危ないのを倒せたし、封印出来たよ。」
「確かに結果オーライかも知れませんが・・・まぁ、諸事情はそこでアサシンに可愛がられてるフェレットモドキに帰ってから聞きましょうか。」
フェレットは、今度は普通にジルの腕に抱かれていた。
「はい!勿論説明します。」
「宜しい。アサシン。取り調べ手伝ってくださいな。」
「じんもんするのね?わかった。」
「え!?いや、全部話しますから!!」
慌てだしたフェレットを無視する。
「じゃあ、帰りましょうかなのは様。」
「うん!」
「あ、そう言えばお母さん(マスター)からキャスターに伝言で『後でお話聞かせてね?』だって。」
「なのは様・・・私、今夜は帰りたくないです。」
「皆心配してるし、明日も学校だから早く帰ろ?」
「・・・そうですねー。」
肩を落とし、まずは家でそれはそれは素敵な笑顔で自分達を待っているであろう桃子をどう説得するか、考える。
(しかし・・・一瞬だけ感じた気配は一体?)
なのはを助けに入った時、アサシンの介入とほぼ同時に消えた気配。そして、いくつも感じた視線。
「アサシン・・・貴女は気付きましたか?」
「うん。一瞬だけだったけどね。他にも居るのかも。どうしようか?」
「まぁ、先ずは家でフェレットの話を聞いて方針を決めてからですけど。」
先を歩くなのはの頭を見る。
「――マスターに危害を加えたり、邪魔をするならば、誰だろうと惨たらしく殺すだけです。」
「そうだね。」
(女の人怖い。)
「何の話してるの?」
「何でも無いですよなのは様。」
「なんでもないよ。おねぇちゃん。」
そう答えてから、何事もなかったかのようにキャスターは携帯を取り出して高町家に連絡を入れるのであった。
おまけの小話・フェレットと餌~その壱~
帰り道の途中。キャスターがスマホを取りだして高町家への電話を済ました後(段々顔が青くなり震えていたが)、今度は別な場所にかけ始めた。
「フェレット用の餌が必要ですから、知り合いに聞いてみますね。」
「桜ちゃんの家?」
「ええ、ペットショップマキリです。息子さんが最近は、普通の動物とかも仕入れ始めましたし。」
なのはと会話しながら目的の人物と会話する。
「あ、もしもし御隠居?ええ私です。急なんですが、家でフェレット飼うことになりまして、ええ、そうなんですよ。それでですね?フェレットを餌に出来そうな・・・もといフェレットの餌に出来そうなのっていませんかね?」
「今なんか変な言い間違いしませんでしたか!?」
聞き過ごせない会話に思わず突っ込むフェレット。
「あ、両方有りますか。」
「「あるの!?」」
「じゃあ、取りに伺いますので・・・よろしくお願いしますね。では~。・・・よし、これで餌の確保はバッチリですね。」
「何!?一体何を確保したの!?」
なのはがしがみついて聞き出そうとするが、「はて?強いて言うならミルワーム的な物じゃないですか?」とはぐらかすキャスター。
「ミルワームって?」
「小動物の餌にする幼虫ですよ。芋虫的な。」
「にゃあああああ!?虫を食べるの!?」
「で、出来れば普通の餌で大丈夫ですから!」
「出来ればってことは食べれるの!?」
「えーと、一族的にサバイバルの一環で・・・ああ!離れないで!?緊急時だけだから!?」
(おいしいのかな?)
その後、なのはとフェレットの懇願により普通の餌を注文することになる。
「ふむ。これがいいかの。」
「何してんだ爺さん?」
「いや何、翠屋の小娘から小動物の餌と小動物を餌に出来るものを頼まれてのう。」
――ギチギチギチギチギチギチギチギチギチ――
「・・・何に使うんだこれ?と言うか虫かこれ?そもそも、聞き間違えてないか爺さん。」
「さてのう?確かに言うとったんじゃが・・・家で交配して偶然出来たものじゃが、ミルワームの一種として売れんかのう?」
「明らかに餌にされるどころか相手を餌にしそうじゃねぇか。取り敢えず、桜ちゃん達が怖がるから部屋に持ってくるなよ?危ないし何か見た目が教育に悪そうだ。」
――『予約・高町家』と書かれた箱の中に入れられ、固形の餌と共に高町家へと渡される準備を整えられたソレは顎を鳴らしながらその時を待つのであった。