大変長らくお待たせ致しました。
「いやいや、もう少しで無駄に姿を晒す所だったよ。中々やるねあの二人。」
「お疲れ様ライダー。」
戦場になった動物病院から遠く離れたビルの屋上で、すずかとリニスがライダーを迎えた。
ライダーは、キャスターから気づかれないくらいのギリギリの位置で待機、なのはが撃ち漏らした一体を仕留めようかと現界しかけた瞬間にアサシンが介入したために直ぐさま霊体化し離脱した。
姿を見られてはいないが存在を感知された可能性があることにすずかは、若干表情を曇らせる。また、化け物が倒れた後に現れた宝石については、
「サーヴァントがキャスターだけならまだ一つくらい強奪出来たんだがなぁ、アサシンも来たら難しいね。」
「ジルちゃん?」
「アイツ相手に夜は仕掛けたくないね。アサシンの真名は知ってんだろスズカ。昼なら兎も角なぁ。」
「私はアサシンもキャスターもやり合いたくない相手ですね。どちらも色々危なすぎます。」
「そうだね・・・そう・・・かなぁ?ジルちゃんは確かに怖い・・・いやでも・・・うーん。」
真剣な表情の二人に、改めて高町家のサーヴァント二人への警戒心を強めるすずか。
・・・もっとも普段の姿――なのはが絡むと色々残念な自称良妻な家政婦と、初めて会ったときは別として食べるの大好きな色々幼い友人――を見て来ているすずかとしては首を傾げざるを得ないのだが。
「でだ。アイツらが集めていった化物から出てきた宝石だが、『ジュエルシード』とか言うらしい。」
「なっ!?ジュエルシード!?発掘されたのですか!?」
ライダーからの報告、その内容を聞いて驚くリニス。
「何か知ってるのリニス?」
「え、ええ。ですが、アレほどのロストロギアがこの管理外世界に何故・・・重要性から考えても輸送中に事故でも起こらない限り地球には・・・まさか・・・」
『まさか』の可能性を思いつくリニス。かつての主が、とある目的の為に必要とした物の一つ。当時は発掘されていなかった為、御蔵入りした計画。
「・・・いや、それは考えすぎですね。すずか、あのロストロギアはかなり危険な物です。恐らく、この鳴海市近辺に同様な物が散らばっていると思われます。」
「そんな!?」
「いいねぇ。暇潰しにゃ持って来いだ。」
軽口を叩くライダーを横目にすずかは考える。
(なのはちゃんはきっとこの件に首を突っ込むだろうし、キャスターさんもジルちゃんもなのはちゃんが参加するなら出て来るよね・・・バレたりしたら・・・でも、放って置けないし。)
悩んだ末に決心したすずかは、二人に告げる。
「ライダー、リニス、あのね・・・」
「・・・んぅ?あれ?私なんでこんなところで?」
所変わって、机に突っ伏して眠っていた少女、アリサは目を擦りながら辺りを見回した。
「確か・・・誰かに呼ばれたような・・・夢だったのかしら?」
自分の部屋で宿題をしていた時、頭に直接誰かの助けを呼ぶ声が聞こえ、そこへ向かおうとしたような・・・
と、足元を見ると屋敷で飼っている大量の犬達に負けずに生活する、双子の猫が佇んでいた。
「何か知ってる?」
「にゃあ?」
「みゃあ?」
「まぁ、知るわけないわよね。」
やはり、夢だったのだろう。そう納得したアリサは首をかしげる愛猫を抱き上げて寝室に向かうのであった。
(まさか、いきなり外に出ようとするとは思わなかったわ。)
(本当ね・・・咄嗟に眠らせてしまったわ。)
(多分夢の中の出来事だと思ってくれてる筈だけど。)
アリサがベッドで眠った横で姉妹は、顔を見合わせた。
(一応、お父様には連絡したから近い内に誰かしら派遣してくると思うのだけど。)
(それが来るまで如何するか・・・よね。)
(しかし、今回のロストロギアといい、『あの子』といい、あの化け物といい、よくまぁ危ない物が集まるわよねこの街。何か呪われてるのかしら?)
(しらないわよ・・・)
ロッテの言葉にため息をつくアリア。
(取り敢えず、私達はリハビリがてらにロストロギア回収と情報収集すれば良いのかしら?)
(そうね。取り敢えずはそう動きましょうか。)
簡単に方針をまとめた二匹に、
「・・・むにゃ・・・わたしも、さんか・・・くぅ~・・・」
妙な寝言を呟くアリサに苦笑する二匹であった。
「キャスターちゃんから連絡があったわ。もうすぐ帰りますって。」
家の受話器を置いた桃子が告げると、リビングに居た高町家の面々は安堵の溜め息をついた。
「そうか、しかし一体何があったんだ?」
「キャスターちゃんが言うには、少し厄介なことが起こったみたいよ?」
階段を駆け降りてきたジルが、マスターである桃子になのはとキャスターが出掛けたので追い掛けるという簡単な説明だけをして、本来の姿に戻り家を出てから一時間程経っていた。
「兎も角、なのはとキャスターが帰ってきたら問い質さないとな。幾ら、キャスターが同伴とは言えなのは達が夜間外出するのはまだ早い。」
「恭ちゃんは心配し過ぎじゃない?大丈夫だよ。」
「そうではなくてだな、平気で夜間に出掛けるというのが、問題で・・・」
そんな話をしている間に時間が経ち、
『餌にケージは分かるけど・・・キャスターさんそっちの箱本当に何が入ってるの?』
『さて?御隠居はオマケのミルワームって言ってましたけど・・・雁夜さんが目を逸らしたのが気になりますね。』
『何か・・・ビチビチギチギチ言ってるよキャスターさん?』
『小動物用の餌なんですから言うんじゃないですか?・・・多分。』
『そうなのかなぁ?』
『いや、ですから僕はそっちの固形ペットフードで十分なんですが・・・本当に。』
〈箱の中に生体反応有り。二体居るようですが、データに該当する生物ありません。〉
『本当に何!?』
『えっ!?(ま、まさか新種!?くっ『逃げろ』って色んな人の声が頭の中で聞こえてくるけど・・・新種を前にして逃げるわけには・・・そうだ、この好奇心から逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃ・・・)』
『逃げちゃダメ。逃げちゃダメ。逃げちゃ・・・』
『アサシン・・・フェレットの耳元で何してるんですか?』
よくわからない会話をしながら帰って来た面々を迎えるべく、士郎と桃子は玄関に向かった。
「おかえり、なのは。ジルちゃん。」
「お母さん!ただいま!」
「ただいまお母さん(マスター)。」
「心配したぞ二人とも。」
「うん。ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
玄関に出て来た両親を見て駆け寄ったなのはとジルは、素直に頭を下げた。
「こんな夜遅くにどこに出掛けてたんだ?・・・というかその荷物なんだキャスター?」
「まぁ少々色々と有りまして。」
「あ!キャスターさん、それもしかしてなのはが今日拾ったっていうフェレット?あ、もしかしてこの子が心配で出掛けたのかな。可愛いね!抱かせて!?」
集まって来た恭也と美由希も、それぞれキャスターに話し掛ける。
「それにしても、二人とも怪我も無く無事でよかったわ。」
「キャスターさんとジルちゃんが助けてくれたの。」
「お姉ちゃんはがんばってたよ。」
「あら、そうなの?でも二人ともあんまり危ないことはしちゃダメよ。」
そう言って娘二人の頭を桃子は優しく撫でた。心地よさげに目を細めるジルと同じく気持ち良さそうにしていたなのはだったが・・・
『風は空に・・・星は天に・・・』
「・・・え?」
嫌な予感がして、音が聞こえた方に首を向ければ、
『不屈の魂はこの胸に!こ、この手に魔法を!レイジングハート!セット・アップ!!』
「と、まあこんな可愛らしいなのは様を見れたので、私的には駄杖と契約したこと以外は大満足でしたが・・・」
「ま、魔法少女?」
「な、なのは。この変身は大胆じゃ無い?」
何やらスマホの画面を士郎達に見せているキャスターの姿があった。
・・・つまりは、先程の台詞から変身シーンまで家族に見られたわけであり・・・
理解した瞬間に羞恥で顔をトマトみたいに真っ赤にしたなのはは、慌ててキャスターの手からスマホを奪うべく飛び掛かった。
「にゃあああー!?な、何してるのキャスターさん!?」
「え?何と申されましても・・・強いて言うならなのは様の勇姿の鑑賞とついでに説明?」
「順番がおかしいし、そもそもいつの間に撮ってたの!?」
「なのは様を愛でる以上の優先事項なんてございません!!それにこの時は、シャッターチャンスの予感をピン!と感じて即行で相手を氷天で氷漬けにしてから撮影しましたので問題ないです!」
「結構シリアスな戦闘中だったよね!?何してるの!?」
腰に手をやり、胸を張ってドヤ顔しているピンクの狐に何でこの人は格好いい時と残念な時のギャップが激しいんだろうと頭を抱えるなのは。
「もしかしてなのは様・・・ギャップ萌?」
「・・・キャスターさん・・・少し頭・・・」
「申し訳ございません。ですが、やはり直に見て頂いた方が理解して頂きやすいかと思いまして。」
瞳から光を消したなのはが、0.5秒で手元にレイジングハートを取り出したのを見て一瞬で姿勢を正し、真顔に戻るキャスター。ソレを見たフェレットがなのはとレイジングハートの相性とその才能に戦慄し、冷たい汗を流したとか何とか。
「ふーん・・・本当に?」
「Exactly(その通りです)。ですのでその眼はやめて下さいまし。怖い、怖いですからなのは様。小学生がして良い眼じゃないです。」
「・・・真面目にしてれば格好いいのに・・・」
「?何か仰いましたか、なのは様?」
「何でも無いの!!」
少し顔の赤いなのはに首を傾げるも、手元から杖が消えたことに安堵の溜息を吐くキャスター。
「なのは、キャスター・・・色々説明してもらうぞ?」
「うん。分かってるの。」
先程の映像でまたしても日常からかけ離れた事件になのはが巻き込まれたことを察した士郎や恭也達に二人が頷き、キャスターがフェレットを拾い上げる。
「では先ず、こちらが・・・」
「は、初めまして!ユーノ・スクライアと言います。」
「喋った!?」
フェレットが、人の言葉を喋り挨拶したことに驚く高町家。
「キャスターちゃん。この子は?」
「このフェレットに化けてるのが、今回の事件の参考人かと。ま、詳しくは今から話してもらうって所ですね。」
「そうか、君にも色々聞かせてもらうよ?」
「はい。勿論です。」
士郎に頷き答えたユーノは、ふと視線を感じて顔を向けた。そこには、
「いいですか、嘘偽りが有れば即座に性転換させますからね?物理的に。」
「じゃあ私たちは、心臓をもらうね?」
「も、ももも勿論包み隠さず総てお話し致します!!」
「やめんか二人とも。」
凍るような目つきのキャスターと無邪気に提案するジルの頭を後ろから軽く叩きながら、恭也が呆れたようにツッコミを入れる。
「もぅ・・・キャスターさん。ちゃんと一緒に説明してね?」
「分かってますって、なのは様。あ、でもその前に先程の姿で撮影をば・・・」
「あ・と・で!!」
いっそのこと令呪を使うべきかと、自分に後から抱き付いているサーヴァントに頭痛を覚えつつ、リビングに向かうなのはであった。
海鳴市のとある一軒家、その一室になのは達と同じぐらいの年齢の少女がベッドに腰掛けていた。何かの本を読んでいた少女だが、ふと顔を上げるとその視線の先に背の高い時代錯誤な皮鎧を身に着けた偉丈夫が現れた。
「只今戻りました。」
「おかえり、先生。どやった?」
「思った以上に危険な状況のようでしたが解決したようです。ただ、事件はこれで終わりという訳では無いですね。それに私以外のサーヴァントも確認しましたよ。」
「事件も気になるけど、先生以外のサーヴァントやて!?会うてみたいなぁ。」
目の前で報告を受ける少女は、好奇心に満ちた目を輝かせるが、男は苦笑して宥める。
「相手によりますね。マスターと思われる少女は『キャスター』と呼んでましたが。」
「キャスターちゅーことは、魔術に関わって名を上げた人物ってことやな。どんな人やったん?」
「そうですね。露出の多い着物を着て、狐の耳と尾を持ったかなりの美人でしたよ。」
「うわー!リアル狐耳の美女とかほんまに会うてみたいわ。せやけどその条件が重なる人物言うたら・・・なぁ先生?そのキャスター、かなり危険なサーヴァントやない?」
若干不安げに目の前の男に問う。
「そうですね。実際のステータスは、見て頂かないとですが、かなり動きのいいサーヴァントでした。加えてもう一人何ですが・・・」
「は!?二体もおったんかいな!」
驚く少女。男はすまなげに答える。
「ええ、ですが・・・申し訳ないことにもう一人については何故か、容姿も何も思い出せないのです。」
「・・・なんやて?」
「恐らくは、スキルか宝具か・・・何かしら自身の情報を隠す物を持ったサーヴァントがいるようです。」
「なんやそれ・・・どないしよか・・・」
思わず自室のベッドに寝転がり、天井を見上げる少女。暫くそうした後に静かに口を開いた。
「何にせよ、その人らの目的を知らなあかんか・・・」
「ええ、機を見て彼女達に接触してみます。サーヴァントは兎も角、マスターらしき少女は悪い子では無さそうですしね。」
「女の子?」
「そうですよ。マスターと同じぐらいの年頃かと。」
「ほんまに?」
頷く自身のサーヴァントを見て、指示を下す。
「ほな、お願い。キャスターのマスターと機を見て接触して、この海鳴で何が起こっとるか聞いてくれる?」
「わかりました。必ずや。」
一礼をする青年に苦笑しながら少女は話を変え、たわいも無い会話を続けるのであった。
夜遅く、自分の部屋のベッドに倒れ込んだなのは。
先程まで、フェレットから事情を聞いていたがさすがに疲れてウトウトしていたのを見かねられて部屋に戻された。
恐らく居間ではまだ、キャスターや両親達が話をしているのだろう。
(あ、そうだ・・・アリサちゃんとすずかちゃんに・・・フェレットをうちで預かる・・・事にしたって・・・メール・・・しなきゃ・・・)
最早半分以上眠りかけている頭で、ふらふらしながら携帯電話を取り出す。
(あれ?メールが来てる・・・)
知らないアドレスからのメールであり、普段ならば見もしなかったであろうが、この時はぼんやりとした思考のままソレを開いた。
(どういう意味・・・なんだ・・・ろ・・・)
題名も無く、ただ一言だけ書かれた言葉。
『光あれ』
その意味を確認する間もなく眠りについたなのはの手元で、携帯が一度震えメールを削除した。
こうして、始まりの夜は静かに更けていくのであった。