転生と狐と魔法少女   作:隣乃芝生

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や、やっと戻って来れた・・・

お待たせして申し訳御座いませんでした!


探索初日

 

「じゃあフェレットは、なのはの家で飼うことになったのね。」

「良かった。私の家もアリサちゃんの家もダメだから、心配してたんだ。」

 

 通学バスの中で出会った親友二人に、フェレットことユーノを飼うことにしたと説明すると二人は安堵の表情を浮かべた。

 

「今度遊びに行くときに抱かせなさいよ。あ、後あの子狐の久遠だっけ?あの子も!」

「あの子も可愛かったよね!モフモフしてて。」

「あの子は、神社で飼われてるの。」

(フェレット<子狐なのかな?)

 

 レア度、モフモフ具合、可愛らしさ、フェレットでは太刀打ち出来ないのだろうか?そんな事を考えていたジルがふと気付くと、昇降口に辿り着いた所でなのはは、先に親友二人を教室に行かせ別な場所に向かった。

 

「おねーちゃん、教室に行かないの?」

 

 その後をとてとてと着いていきながらジルがなのはに尋ねた。

 

「うん。ほら、ユーノ君ぐったりしてたから何か元気になる物が無いかなって思って。」

「男の子には、お兄ちゃんの部屋の本棚の裏とかにあったような本を見せたら元気になるってキャスターが言ってたよ?」

「そんな本があるんだ!?と言うかお兄ちゃんの部屋で何してるの?」

「探検ごっこ。因みに美由希お姉ちゃんの部屋には男の人同士が・・・」

「朝から購買部の前で何の話をしているのかね?」

 

 気付くと購買部の前に居た二人に言峰が声をかけた。

 

「おはようございます言峰先生。買い物に来ました。」

「うん。元気になる物が欲しい。あ、おねーちゃんロールケーキ食べたい。」

「まだ食べるの!?しかも、私が買うの!?」

 

 そんな二人の反応を愉しみながら、言峰は商品ディスプレイを手で指し示す。中には何かの結晶、瓶に入った薬品、焼きそばパンやカレーパン等の食べ物、菱形の宝石、根性棒と同じ感じがする道具類などが取り揃えられていた。

 

「ふむ・・・ならばこれにしたまえ。どの様に疲れていてもきっと体に稲妻が走り元気になるだろう。」

「何か赤黒いし密閉されてるのに目が痛い・・・ってちょっと待って下さい。」

 

 うっかり見逃しそうになってしまったが、よく見るとガラスケースの中に見覚えのある青い菱形の宝石が

 

『ジュエルシード:300,000円』

 

 の値札付きで置かれていた。

 

「な、何でジュエルシードが!?」

「おねぇちゃんのレアな写真で大体30枚分・・・」

「・・・待って。ジルちゃん今何て言ったの?」

「あなた何者?」

「ふむ?生徒が必要としている物を取り揃えているのが購買部ではないかね?」

「そろえるにしても限度がある。」

「そうだね。(誤魔化されたの。)」

 

 なのはを庇うように、前に出たジルが質問を投げる。氷のような視線を嗤って受け流しながら言峰は口を開いた。

 

「何、安心したまえ。私はあくまでも、今回は生徒が必要とする物を用意する事が仕事なのでな。・・・事実、根性棒を使った経験は昨夜、役に立ったのではないかね?」

「な!?」

「つっ!?」

 

 昨夜の事を知っている。という事に驚くなのはと、一層警戒を増すジル。

 

「まぁ最もその準願望機は海辺で犬が偶然拾った物だがな。君達が必要とするならば君達に売ろう。それ以外にも君達の役に立つであろう物を用意した。何れも未熟な君達の助けになるだろう。買っていくかね?」

「あなたは信用できないけど、取り扱ってる物は使えそうだね。おねーちゃんどーする?」

「え?えっと」

 

 2人からの視線を受けてなのはは財布を確認した。中には翠屋でのお手伝いで手に入れたお小遣い千円札が数枚。

 

「アイテムは買いたいし、ジュエルシードも欲しいけどとても足りないの。ジルちゃんも同じぐらいだよね?」

「えーと、私たちは・・・」

 

 ジルが財布を確認したのを見ると一万円札が数枚と五千円札が一枚と千円札が複数枚入っていた。

 

「私たちも足りないね。後でキャスターに相談してみよ。取り敢えずジュエルシードは取り置きして?」

「良いだろう取り置いておこう。」

「・・・ねぇジルちゃん?」

「なあに?」

 

 コテンと首を傾げたジルになのはが疑問をぶつける。

 

「お店のお手伝いで貰えるお小遣いは、多くても五千円札なのに・・・何で一万円札があるの?」

「・・・コレとコレとコレ下さい。」

「温めますか?」

「誤魔化した!?後言峰先生温めなくて良いですから!」

 

 必死に誤魔化すジルに対するなのはの詰問は、チャイムが鳴るまで続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 ユーノ・スクライアにとって誰一人頼れる人がいないこの管理外世界・地球で高町なのはとその家族の協力を得ることが出来たのは実に心強い事であった。

 

 自身が発掘したロストロギア・ジュエルシード。その運送中に起きた事故により、この街近辺にそれがばらまかれた事に責任を感じて一人で来たものの、暴走していた一個を捕まえただけで行動不能になり、あわや子狐に捕まったりとしながらも、現地の少女高町なのはとその強力な使い魔に助けられ彼女の家族達も交えて話をしたのが昨日のこと。

 

 当初、力が戻り次第に出て行くという自分に対して

 

「独りぼっちは寂しいもん。私も力になりたい!」

 

と、言ってくれたなのはや、

 

「私としては、なのは様が危険な目に遭うのは反対ですが・・・ご家族の納得も得られてますし、何よりご主人様が行くと言うのならお供致します。」

「おねーちゃんがやるなら私たちも手伝う。お母さん(マスター)だめ?」

 

 その使い魔達、

 

「子供達だけでやろうとするんじゃ無い。大人にも頼りなさい。」

「そうね。どれくらい助けになれるか分からないけど、皆でやればきっと大丈夫よ。」

「俺も色々街を探してみる。忍にも頼んでみるか・・・」

「私も見つけたら連絡するね。」

 

 そう言って、危険を承知してなお協力を申し出てくれた高町家の面々に頭が下がる思いであった。

 

 そうこう話をしている内に、眠そうになったなのはが部屋に行った後、気になっていた彼女の使い魔、『サーヴァント』について聞き、唖然とする。

 聞けば、この星の歴史・物語・神話等で英雄とされた人物の英霊を呼び出し、クラスという枠に当てはめてそれを使役するという―――それも自分と年の変わらぬ位の少女が、そんな規格外な存在を従えているという事に高町なのはの才能とその術に畏怖すら感じた。

 

 その一方で英霊召喚の魔法の可能性にもスクライア一族として興味が尽きない。

 

例えば――目の前の二体――狐の特徴を持つ美女と銀髪の自分とそう変わらない背格好の少女(いつの間にかなのはからレイジングハートを借りて話し掛けていた。)は、果たしてどんな逸話を持っているのか。

 

例えば――過去の偉人を呼び出す事は次元世界の我々にも出来るのか。

 

例えば――彼の聖王や覇王を召喚すれば――どれ程考古学や古の魔法や技術が解明されるのか。

 

 何より伝説や神話、物語の英雄達と直に話が出来るなんて、考古学者ならずとも胸が躍るではないか。ユーノの頭の中で「会いたい英霊リスト」と「聞きたいことリスト」が膨大に作り上げられていた。

 

 もっともそんな規格外を平気で二体も所持するこの家も大概普通じゃ無いなーともこっそり思っていたのだが。

 

 

 

 

――そう思ったことに罰が当たったのか。

 

 翌朝、朝食を頂いていた時に興味本位で蠢く箱をキャスターと共に開き、中から牙を鳴らして襲い掛かってきたクリーチャーのような蟲を必死に迎撃し。(何故か自分の方にのみ襲い掛かってきた。)

 

 その余波でメチャクチャになった室内で、なのはの母親である桃子にキャスターと二人揃って叱られた挙げ句、魔力の枯渇と精神的ダメージのタブルパンチで寝込んでいた所に、人が近づく気配を感じて顔を上げ、銀色の髪を確認したところで、白いスプーンのような物に乗った白と赤の何かを口の中に入れられ・・・

 

 

「はっ!?此処はどこ・・・痛い痛い痛い!何か口の中が灼けるような痛みを!?」

「ん?やっと起きた。」

 

 気が付けば可愛らしい白いワンピースを着てポーチを提げた銀髪の少女、高町ジルに抱えられて外を歩いていた。

 

「あ、アサシンさん?此処はどこ・・・というか何をしたんですか!?」

「んー、ジルでいいよ。放課後だから、お外にジュエルシード探しに決まってるじゃない。後は、魔力不足だったから、購買で売ってた激辛麻婆豆腐を使ったの。」

 

 言われてみれば魔力はかなり回復していた。因みにジルがやたらとおめかししているのは、ユーノと出かけるという話を聞いた桃子が、何故か気合いを入れて支度を手伝った為である。

 

「本当に回復してる・・・というか、口が物凄く辛くて痛いんですが・・・」

「それは私たちも知らないよ・・・本当に麻婆豆腐で魔力回復するかどうかのモルモットだったもん・・・」

「今何て言いました!?」

 

 後半にボソリと聞き逃せないことを口にしたジルを問い質そうとするユーノだったが、サラリとかわされた。

 

「まぁ、そんな小さな事は置いといて今はジュエルシードを探さないとね。」

「小さくはない・・・い、いや、そうですね!ま、先ずはジュエルシードを総て見つけないと!」

 

 互いにきりっと表情を引き締める。若干ユーノの表情が青いのは、生来の生真面目さと責任感故であろう。

 

・・・決して、ポーチの中の密閉された容器に入った赤黒い物を見たからではないと信じたい。

 

 と、ジルが立ち止まりある一点を見つめる。

 

(!?僕には何も感じられないけど・・・超常の存在たる彼女には何か感じ取れたのか!?)

 

 ユーノを抱いたまま、ジルは真剣な表情で其処へと向かった。

 

 

 

 

 所変わって、なのはは自室にて自身の新たな相棒レイジングハートと共にバリアジャケットの調整を行っていた。

 ジルとユーノは、なのはとキャスターを置いて先に町へと探索に出掛けている。・・・若干彼が、口から泡を吹いていたようにも見えた気がしたが何とかなるだろう。

 

 契約時、咄嗟にマスターであるなのはがよく着る服装を元にバリアジャケットを作製したレイジングハートであるが、やはり細部などが不十分であったためにこうしてなのはと調整を行うことを提案した。

 そこはなのはも女の子。自身の新たな服をアレンジしたり可愛くしたり、勿論実戦の事も考えながらも楽しみながら作業をしていた。

 

〈そろそろ休憩しましょうマスター。〉

「そうだね。んー!つかれたー。」

〈お疲れ様です。〉

 

 休憩に入ろうかとした時、ふととあるデータが目に入った。

 

「ねぇ、レイジングハート。このデータは?」

〈こちらはマスターが持つ『魔法使い』のイメージを元にしたデザインです。・・・個人的にお勧めはしません。〉

「そんなのもあったんだ。」

〈緊急時でしたので着なれていて防御力の高い方を選択しましたが・・・。〉

「ふーん・・・あれ?これってもしかして。」

 

 デザインを見て自分の持つイメージに納得するなのは。そこに、

〈・・・折角ですから、着てみますか?〉

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへへ・・・」

 

 鏡に写る姿は先程とは全く変わっていた。

 

――雪駄を履き、黒いニーソと大きく露出した足。

 

――大きくはだけた肩。

 

――腕には着物のような袖口。

 

――大きな帯とこれまた露出した胸元。

 

――なにより、頭とお尻に着いた狐の耳と尻尾。

 

 

「恥ずかしいけど・・・キャスターさんモードって所かな?」

〈マスターよくお似合いです。とても元が駄狐の服とは思えません。〉

 

 レイジングハートが応える。

 

――彼女にとって一番見慣れて着なれた服が制服ならば。彼女にとってもっとも身近で見慣れた魔術師と言えば、キャスターである。

 

くるくると鏡の前で回転してみたり、キャスターのポーズを真似してみたりとご機嫌になったなのは。

 

「・・・こほん。」

 

 と、一つ咳払いをしてから台詞とポーズを決める。

 

「コーーーーーン!・・・・・・にゃははは。なーんて・・・」

 

と、くるっと振り返って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――たまたま通り掛かったのか、部屋の扉前でフリーズしていたキャスターと目があった。

 

 

 

 

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 想定外な事態にフリーズした二人。最初に動き出したのは・・・

 

「・・・こふっ――」

「き、キャスターさん!?」

 

 吐血しながら崩れ落ちたキャスターであった。

 

「キャスターさんしっかりして!」

「ふ、ふふふ・・・流石なのは様・・・よもやこの身を可愛らしさだけで滅ぼそうとは・・・」

 

 何か一部が光りながら砂のように散ろうとしながらも、とても満ち足りた表情でなのはの顔に震える手を添えながらキャスターはかすれた声で呟く。

 

「な、なんか不味いかんじで光ってるの!」

「だめね。だって、私の願いはもう・・・叶ってしまったのだから――」

「え!?ちょっと、キャスターさーん!?」

 

 

 

 

「ん?おねーちゃん・・・?」

「・・・今度は何ですか・・・」

 

 ジルの腕の中でユーノは、疲れ果てた様子で口に駄菓子を咥えるジルに尋ねる。

 腕に提げたビニール袋には、先程ジルが向かった駄菓子屋で購入した大量の駄菓子が詰まっていた。

 

 先程から、興味を持った物に反応してあっちこっちと動くジルを宥め賺して疲れ果てていたユーノは、何故か自分にくれたやたらと甘いゼリーを啜る。

 

(ああ、灼けた口が癒やされる・・・あれ?もしかして)

 

 自分のために買ってくれたんだろうか、と思い声をかけようとしたが、当の彼女はすっかり探索に飽きていた。

 

「見つからないねー。つまんない。」

「まぁ、この街のどこに落ちたかまでは分かりませんし。虱潰しに探すしかないですよ。」

「見つかった物と言えば、お菓子に付いてた金の天使と何か星が入ったオレンジ色のボール位だし。」

「・・・何か、別のロストロギア見付けてませんか?」

 

 色んな意味で話がややこしくなりそうな物をポーチに仕舞い込んだジルはふと、何かを感じた。

 

「何・・・?」

 

 一瞬遅れてユーノもソレに気付く。

 

「これは、ジュエルシードの反応!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。まったくもう、危うく消滅する所だったじゃないですか。気を付けて下さいませなのは様。」

「・・・あんなので消滅しないで欲しいの。」

 

 何とか持ち直したキャスターに疲れた表情でなのはが呆れたように突っ込む。

 

「耐久値Eの私にあんな宝具クラスの威力の可愛さ防げる訳ないじゃないですか。何ですかあれ、約束された勝利ですか?天地開闢ですか?一に還っちゃうんですか?効果絶大じゃないですか。モニター前の紳士淑女な皆様も今頃吐血してますよ。」

「何の話!?モニター前の皆様って誰!?」

「取り敢えずどこかの世界でスマホやらPCやらがお釈迦になっているのは間違いないですよ。血で。」

「何で!?」

 

未だ混乱しているのか、尻尾をパタパタと振りながらよく分からないことを語るキャスターになのはが突っ込んでいた時である。

 

『あー、あー、マイクテスマイクテス・・・おねーちゃんとキャスター聞こえる?』

『にゃあ!?ジルちゃん!』

 

 習ったばかりの念話で突然話し掛けてきたジルの声になのはは驚き、キャスターは眉をしかめた。

 

『何の用ですかジル!?折っ角今から私のコスプレをしたなのは様と、R-15タグの壁を壊す予定ですのに!』

『何する気だったの!?』

『ずるい!キャスターずるい!おねーちゃん私たちの格好は!?』

『ジルちゃんはジルちゃんで何を言い出すの!?』

『あの、ジルさんそれより本題を・・・』

 

 隣にいるユーノから宥められてようやく本題に入る。

 

『む~・・・神社にジュエルシードの反応があったから早く来てね。』

『わかった!すぐに行くね。』

『チッ!仕方ないですねぇ、なのは様その格好のまま参りましょ・・・ってなんでそっちに着替えてるんですかぁ・・・』

「は、恥ずかしいもん!一緒の格好は嫌じゃ無いけど・・・恥ずかしいよ。」

 

 いつの間にか姿を白いバリアジャケットに戻したなのはが、顔を赤くして首を振った。

 

『そんなぁ!?じゃあ何が嫌なんですかぁ!?』

『自分のねんれーを考えて無いかっこーが嫌なんじゃ無い?』

『ぶち殺すぞ腹ペコロリ。ってか格好に関しては貴女も露出は一緒でしょうが!』

『べ~だ!私たちは年そーおーだもん。レイジングハート、私たちの格好も追加してね。』

〈畏まりましたサブマスター。〉

『いつの間にサブマスターになってるんですか!?後お二人ともあの格好は目のやり場に困るんですが・・・はっ!』

 

 思わず本音を交えて突っ込んでしまったユーノに対して、極寒の冷たい感情が籠もった念話が届く。

 

『ユーノ君・・・』

『えっちいのはいけないと思うよ?』

『ムッツリフェレットが・・・なのは様近寄らないように』

〈F○○K!〉

 

『ご、誤解です!そんなつもりじゃないんですー!?』

 

 

 ユーノ・スクライア。生真面目故に苦労人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まりは些細な事。

 

 お気に入りの神社での散歩中に見つけた小さな石。

 

 それは、早く、強くて大きな身体が欲しい。そんな自分の願いを容易く叶えた。

 

 本能的に理解した。コレを集めれば自分はもっと強くなれる。

 

 探しに行こう・・・その前にここに近付く人間と小さな獣を食べてから。

 

 次第に近付いて来る匂い。舌なめずりをして待ち構える。

 

・・・段々と霧が出て来た。益々好都合だ。霧に隠れ、強い自分の爪と牙で奴等を食い破ろう。

 

 身体を沈め、何時でも飛びかかれる体制を取り次第に濃くなる霧の中で息を整えようとして――

 

 

 石畳の上でのたうち回る事になった。

 

 

――匂いを嗅ごうとすれば、鼻が灼ける。

 

――周りを見渡そうとすれば、眼球が灼ける。

 

――息をすれば、肺と口内が焼け爛れる。

 

 体全体を襲う痛みに耐えかねた獣は、ただただ石畳を転がり必死に暴れる。

 

 既に周りは白い霧に覆われ、一寸先すら見通せない。

 

 

 そうして、漸く気付く。

 

――この霧は、自然な霧では無い。

 

――悪意を持った何者かの為の狩場である。

 

 

 最早、獣に戦意は無く痛みに何とか身体を立て直してこの場からの離脱を試みようとし――

 

『まぁ逃げれないし、逃がさないけどね?』

 

 前から、遠くから、耳元で、後ろから――同時に聞こえた声と共に霧の向こうから飛んできた刃物――旧い医療用メス――スカルペスが両前足と後ろ脚にゾブリと音を立て深く突き刺さる。

 

『ま、待って下さいジルさん何を!?』

『だって直接殺して中からえぐり出した方が楽だけど、お母さん(マスター)に買って貰った服が汚れるのはヤだもん。』

『な・・・』

『だから、こうやって動けなくして失血死させた方が良いじゃない?』

『殺す必要は有りません!!と、兎に角この霧も解除して下さい!僕が結界を張りますし、拘束しますから!』

 

 次第に晴れる霧と引いていく痛み。しかし、身体を魔力で縛られた獣には最早抗う気力も無かった。

 

 

 

 

 

 ユーノ・スクライアは、目の前で起こったことを信じられず・・・いや、理解したくなかった。

 

 ジュエルシードの暴走体が、現地の生物を取り込み暴れる。それは、大きな被害を――場合によっては人を襲って――起こすはずであった。

 

 それを最小限の被害で食い止めた。本来ならばそれは喜ばしいことだろう。

 

 ただ、そのやり方は余りにも残酷だった。

 

 彼女、高町ジル――否、アサシンのサーヴァントが行ったのは相手を『霧』で包んだ事。ただそれだけである。

 

 それだけで、相手がもがき苦しんでのたうち回り、次第に動かなくなっていった。その事に恐怖を覚えた。

 

「何をしたんですか!?あの霧は、一体何です!?」

 

 背筋に冷たい物が流れるのを感じながら、霧を解除して暴走していた獣が、動けなくなったことを確認していたジルに問い掛けた。

 

「え?私たちが居た当時の倫敦の霧。」

「霧ですって!?あんな兵器じみた霧が在るわけ・・・」

「だってそれが私たちの『宝具』の一つだもの。」

 

 十八世紀から二十世紀にかけての当時のロンドンでは、産業革命により深刻な公害が発生した。特に石炭を使った暖房器具、火力発電所やディーゼル車などから発生した亜硫酸ガス等の大気汚染物質は冬のロンドンの冷たい大気の層に閉じこめられ、滞留した。そして濃縮されたpH2――強酸性の高濃度な硫酸の霧がロンドンの人々を襲った。

 

「り、硫酸の霧・・・」

「そう。それが私たちの結界宝具『暗黒霧都(ザ・ミスト)』。」

 

 ユーノは、昨日得たばかりの知識を思い起こす。

 

 宝具とは、サーヴァント達の象徴にして切り札。

 

 目の前の幼い少女のクラスは『アサシン』。

 

 (つまり、彼女―ジルさんの正体は今から比較的近い時代に、霧に包まれた街で暗躍した『暗殺者』?)

 

 そこまで考えてユーノは、首をひねる。目の前のどう見ても訓練された様には見えない少女が、何故『英霊』として『暗殺者』に数えられているのか?この世界の歴史にはまだ詳しくない彼には判らないことだらけである。

 

――少なくとも、自分より遙かに強く無垢で有る事と。

 

――味方以外に対して純粋に残酷で在ること以外は。

 

「本当にえげつないですよねソレ。」

「あ、おねーちゃんとキャスターだ。」

「ジルちゃん!?大丈夫!?」

「よゆーだよ。」

 

 振り返れば白い姿になったなのはと、キャスターが立っていた。

 

「って何か物凄く血だらけで弱ってる!?ジルちゃん、やり過ぎだよ!?」

「仕方ないじゃ無い。私たち他にナイフしか武器無いもん。」

「取り敢えず、なのは様はジュエルシードを封印しちゃいましょうか。それから手当てして上げましょうか・・・しかし・・・なのは様の戦闘経験にはなりませんでしたねぇ。」

 

 キャスターは考える。なのはが戦うこと――危険な目に遭う事は出来るだけ避けたいというのが彼女の本音である。今朝方ジルがなのはに話した(刃物を向けたことに関しては制裁を加える予定)通り、戦った経験が(自分に根性棒を向けた事を除き)ほぼ無い彼女がジュエルシード捜索に加わるというのは、サーヴァントとして止めなければならないだろう。

 しかし、残念なことに本人が行くと言うのである。ならばなのはにも戦闘経験値を積ませ、『万が一』にも大怪我などをしないようにしたい。そこは、地球原産戦闘民族高町家の血を引くなのはならば、戦闘経験を積ませれば大丈夫だろう。

 

「・・・キャスターさん、何か失礼なこと考えなかった?」

「ん?何でも無いですよー?」

 

 疑わしそうな目でこちらを振り返ったなのはに提案をすることにした。

 

 

 

 

 

「戦闘訓練?私とキャスターさんで?」

「はい!まぁ、なのは様はまだ戦闘経験が浅いどころではないですので、私と軽く戦ってみませんか?モチロン手加減は致しますとも。」

 

 ジュエルシードを封印し終え、怪我した獣をお馴染みの動物病院に預けた後に立ち寄った公園で和やかに提案するキャスターの言葉になのはは戸惑う。

 

「で、でもキャスターさんが怪我したらどうするの?」

「あ、今のなのは様の実力で私に怪我を負わせることはまず有り得ません。つか、生身でサーヴァントに勝つとか人間辞めるか、余程な切り札が無きゃ無理です。・・・まぁ、高町家は前者に該当しそうですが。」

「危ないよ!私の魔法凄く威力が有るんだよ!?」

 

 キャスターに止めさせようとするなのはだが、

 

「うん。まず今のおねーちゃんじゃ勝てないから。安心して撃って良いと思うよ。」

「ジルちゃんまで!」

 

 ユーノを抱えていたジルが口を挟んだ。

 

〈マスター折角です。あの狐に身の程を教え込んでやりましょう。〉

「で、でもレイジングハート・・・」

〈マスターこんな言葉が有ります『弾幕はパワーだぜ』と。〉

「いや、誰の言葉?でも・・・うん、わかった!キャスターさんやろ!」

「さて、エロフェレット。結界は大丈夫ですね?」

「結界は大丈夫・・・って何ですかその呼び名!?」

 

 タッと音を立ててなのはから距離を取ったキャスター。鏡を浮かべてからなのはに人差し指を動かして掛かってこいとばかりに挑発する。

 

「因みに私に勝てたらご褒美あげちゃいます。私と添い寝でも~デートでも~自主規制な事でもバッチコイです!あ、因みに負けたら罰ゲームです。」

「それって・・・」

「勝っても負けてもおねーちゃんは罰ゲーム?」

「外野シャラップ。さてさて、なのは様如何なさいます?」

「ならキャスターさん。もし、私が勝ったら真名教えてくれる?」

「私の真名ですか・・・うーん・・・」

 

 なのはのリクエストに少し躊躇うキャスターだったが、

 

「そうですね構いませんよ?」

「本当!?なら頑張るの!」

 

 レイジングハートを起動させ、杖を構えるなのはにキャスターは目を細める。

 

「まぁ『勝てれば』の話で御座いますが・・・ね?」

「負けないもん!」

 

 言うや否や砲撃を放つなのはであったが・・・

 

「っと。はい、なのは様の魔力美味しく頂きましたー。つか、そんな大振りでみえみえな攻撃が私相手に通じるとでも思いましたか?躱してもよかったんですけど・・・」

「な、何ソレ!?」

〈鏡の前に展開された術により、殆どのダメージを削減された上に魔力を幾らか吸収されました!〉

 

レイジングハートと念話でタイミングを合わせて放った、不意打ちの砲撃を鏡を使った術を展開し、難無く防いだ上に魔力を吸収したキャスターに驚くなのはに、キャスターは微笑みを浮かべる。

 

「うふふ~驚きましたかなのは様?『呪層・黒天洞』防御と同時に、相手の魔力を吸収する私の主戦力です。これでも私、サーヴァントの中では弱い方ですが、昨日今日魔法を使い始めた小学生に負けるわけ無いじゃ無いですか~。」

「流石キャスター。やることが汚い。」

「す、すごい・・・」

 

 すっかり観客となったジルとユーノが見守る。 

 

「そんなわけで大人しく罰ゲーム『お姫様だっこで学校送迎』を受けて下さい。あ、商店街も通ります。」

「にゃああああ!?れ、レイジングハート!全力全開で!何としてもキャスターさんに勝つの!!力を貸して!!」

〈了解しました全力でサポート致します!マスターをそんな恥辱に晒させません!〉

 

 兎に角、今の自分が使える全てを必死にぶつけようとするなのはを見て、その姿に笑みを浮かべるキャスター。コレならばなのはにとって良い戦闘経験になる模擬戦になるだろう。

 

「では、反撃です♪まずは回避と防御から学んでいきましょうか?」

 

 

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