転生と狐と魔法少女   作:隣乃芝生

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やっと・・・出来た。

寒くなりましたね。
皆様もお身体には気を付けて下さい。

※12/5 一部訂正しました。


大樹と後悔と

「な、何とか結界は間に合いましたが・・・」

 

 アスファルトは捲れ上がり、ビルは崩れ落ちる。

 

 ガラスが割れて辺りに散乱し、車は拉げる。

 

 異世界の遺物、ジュエルシードの暴走は巨大な樹を生み出し、街を侵食した。

 いつもの昼下がりの街並みは一瞬で、まるでSF映画のように余りにも現実味の無いモノと化す。

 

(ユーノから聞き出していて正解でした・・・なのは様に余計なトラウマを与える訳にはいかないですからね。)

 

 寸での所でユーノと同じ結界を張ったキャスターにより、抱えられて近くのビルの屋上に退避したなのはは、呆然と変わり果てた街を見渡す。

 

「そんな・・・」

「マスター!気を確かに!」

「キャスターさん・・・だって街が!」

「落ち着いて下さいマスター!結界は張っています!人的被害も有りません!」

「・・・ほんと?・・・あ、本当だ・・・」

 

 顔を青くしたなのはが周りを見ると、ユーノが張っていたのと同様の結界が張られていた。その事に安堵すると同時に身体を震わせる。

 

「もし、結界が間に合わなかったら私の所為で・・・」

「間に合わなかったとしても!それは決して、なのは様の所為ではありません!それより今はたらればの話ではなくジュエルシードです!」

「・・・うん。」

 

 レイジングハートを起動させ、白いバリアジャケットを身に纏ったなのはは、キャスターに向き合う。まだ、顔は青ざめているが自分が今成すべき事を理解した眼をしていた。

 

(お強い方です。この年齢にも関わらず・・・)

「キャスターさん、どうすれば良いの!?」

「そうですね…」

 

 気を落ち着かせたなのはがキャスターに尋ねると、キャスターは周りを見渡す。先程までの場所にジュエルシードと男女の姿は無い。

 

「・・・先ずは術の基点を見付けましょう。恐らくはあの二人と共にジュエルシードが、この樹々の何処かに居るかと思われます。ふっふっふ・・・この私の第七感(フォックスセンス)にかかれば何処に逃げても無駄無駄無駄ってもんです。」

「分かった。レイジングハート・・・お願い!」

〈畏まりました。〉

「え、ちょっなのは様・・・私の出番・・・」

 

 なのはを中心に魔法陣が展開、と同時に街中に光の雨が放たれる。しばらく目を閉じて集中していたなのはだが、

 

「・・・見つけた!」

 

 目を見開く。巨木の中に二人の男女が寄り添うように気を失っていたのを見た。その方向を見てキャスターは舌を巻く。

 

「・・・流石はなのは様。初の探査魔法だというのにお見事です。しかし、また遠い所に・・・オマケにシールドまで張られてますねぇ。」

「うん。でも、私とレイジングハートなら!」

〈問題御座いません。貴女はそこで指でも咥えて見ていなさい。〉

「チィッ!」

「こんな時まで喧嘩しないで!?」

 

 なのはの言葉に合わせて、レイジングハートが姿を槍のような姿に変える。

 足を開き、構えたなのはは、膨大な魔力を練り上げる。

狙いをレイジングハートが調節し、術をサポートする。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!」

 

 気合いに満ちた声と共に放たれた空を切り裂くような魔力の砲撃は、邪魔な木々を引き裂き、狙い違わず術の基点に命中。暴走したジュエルシードを抑え込み、封印した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・私の出番全く無かったですねぇ・・・なのは様、今日もお疲れ様でした。さてさて、早く家に帰りましょう。」

 

 キャスターは大きく伸びをしてからなのはに声を掛けた。

 

「うん・・・」

「なのは様?反省も葛藤も大事ですが、余り御一人で悩まないで下さい。」

「・・・あのね?キャスターさん・・・」

 

 結界を解こうとしたキャスターが、結界の中で壊れた町並みをじっと見つめるなのはに声を掛けると、ボソリとなのはが呟く。

 街を破壊した木々こそ跡形もなく消え失せたが、道はアスファルトが捲れ上がり、車は拉げ、多くのビルはひび割れ、幾つかは倒壊を起こしていた。

 改めて魔法という『力』が引き起こした惨状を前にすると表情は晴れない。

 

「私ね、『魔法』なら何でも出来るって思ってた。」

 

 ポツリ、ポツリと街を見ながらなのはが呟くのをキャスターは傍らで聞いていた。

 

「昔、キャスターさんが私を助けてくれた時のように悪い人達をやっつけて、ケガをしたお父さんを治してくれたみたいに。奇跡みたいな事が出来るんだって思ってたの。」

 

 そう言って、首に掛けられた待機状態のレイジングハートをそっと握り締めた。 

 

「私も魔法が使えるようになって、私にも困っているユーノ君のお手伝いが出来るって思っていた。けど、そんな気持ちじゃ駄目なんだ。一歩間違えたら、こんな事が起きてしまう力を私は使ってるんだ。ーーだから、」

 

 街を目に焼き付けながらなのはは話す。

 

「私、もっと頑張ろうって思う。魔法の訓練も。ジュエルシード探しも。ユーノ君の『お手伝い』じゃなくて・・・」

「なのは様・・・」

 

 段々と空は赤くなりつつある。

 

「もう二度と、こんな事が起きないように全力で。」

 

 

 

 

 結界を解除し、ジュエルシードを発動させた二人が目を覚まし周りを見渡して、首を傾げながら帰っていくのを見届けてから二人は夕暮れの街を歩き帰路に付いた。ゆっくりと並んで歩いていると、そっとキャスターの手をなのはが繋いできた。少しばかり驚いてなのはを見るキャスターだったが、

 

(・・・少しばかり手が震えていらっしゃいますね。まぁ、無理もありませんか。)

「・・・さて、今日はなのは様のお好きな物をお作りしますね。何が宜しいですか?愛妻料理の定番肉じゃが?カレーライス?オムライスでも?」

「うん・・・あ、ハンバーグがいいかな。ほら、ジルちゃんに悪いことしちゃったし。」

「気にすること無いですよ。つかお昼も食べてましたよね?」

「だって私が半分こしたの駄目にしちゃったし・・・」

「あ~、なのは様達が来る前に常連さん達にハンバーグで餌付けされてましたから、確実に二個以上の量食べてますよ?」

「お客さんもジルちゃんも何してるの!?」

 

 道を歩いて暫くすると、向こう側から一人の少女が腕にフェレットを抱いて歩いてきた。それを見てなのははキャスターの手を解いて少女の所へ向かう。

 

「あ、ジルちゃん!さっきはごめんね!?」

「ん。別にだいじょーぶ。」

「さっきまで桃子さんに泣き付いて・・・痛い痛い締め付けないで下さい!?」

 

 ようやっと機嫌を直したジルとジルに捕まっていたユーノである。

 

「なのは、ジュエルシードは大丈夫だった?ごめんね手伝えなくて。」

「あ、うん。私がジルちゃんに悪いことしちゃったのが原因だから・・・キャスターさんが居てくれたし大丈夫だよ。」

 

 なのはとユーノがそんな会話をしていると、ジルがなのはの腕を引いてきた。

 

「じゃあ、おねーちゃん私たちと帰ろ?」

「・・・そうですね。ジル、なのは様をお願いできますか?」

「任せて。」

「キャスターさん?ジルちゃん?」

 

 ジルに手を引かれて歩くなのはが、怪訝な顔で二人の顔を見る。いつも通りに見えるが何処か緊張しているようにも見えた。

 

「どうかしましたかなのは様?少しばかり、用事を済ませてから帰りますから御心配無く。」

「う、うん。じゃあ後でね?・・・そうだ、ジルちゃんお店でお客様に食べ物貰っちゃ・・・」

「気のせい。」

「いや、だってキャスターさんが・・・」

「キャスターの見間違い。お客さんにハンバーグなんて貰ってない。」

「・・・私ハンバーグなんて一言も言ってないよね?」

「・・・おねーちゃんの気のせい。」

 

 その場でなのは達を見送り、その姿が見えなくなってからキャスターは一つ溜息を吐くと、そのまま高町家とは別な方向へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 なのは達と別れて30分ほど町を歩き、人気の無い町外れの工場跡の中へと入り込むとふと足を止め、

 

「よっと。・・・さてこれでよし。」

 

 

 懐から札を取り出して、周囲に展開し結界を張り口を開く。

 

「・・・そろそろ出て来られては如何ですか?乙女をストーキングとは良い趣味とは言えませんよ?」

「・・・別段そういう趣味は無いのですが・・・」

 

 キャスターが振り向くと、何も無い場所にどこからともなく一人の男が姿を現した。長い髪を後ろで束ね、革鎧を身に纏う好青年とキャスターは静かに向き合う。

 

「それで?一体何の用ですか?こちとら早く帰って御夕飯の支度にご主人様とイチャコラしたりと忙しいのですが?」

「そうですね。先日からこの街で起こっている不可解な事件について知っていることを教えて貰おうかと。」

「行き成り現れた見知らぬサーヴァント相手に、はいそうですか、とこちらの事情を話すとでも?」

 

 会話をしながら相手を伺うキャスターであるが、相手の男はにこやかに礼儀正しい姿をしていながらも、その体に一切の隙は無かった。

 

(ちっ!厄介な・・・相当な手練れじゃ無いですか・・・)

 

「今回は、私のマスターも巻き込まれましたので是が非でも話してもらいます。・・・こちらとしても手荒なことは致したく無いのですが、仮に貴女達が私利私欲の為にあれ程の事件を起こしているならば容赦しません。」

 

 そう言って、目を細めるとその場から下がって間合いを大きく取ると同時に手に弓を構え、矢を番えた。

 キャスターも同時に札と鏡を出現させて構えを摂る。

 

「『アーチャー』のサーヴァント・・・」

「キャスターのサーヴァント、改めて問います。事情を話して頂けますか?それとも、ここで私と戦いますか?」

「何を勝つ事前提で話を進めてるんですか?とっちめて貴方のマスターの事とか話してもらいますよ?」

 

 互いの殺気と魔力により空気が張り詰め、今にも弾けそうになった一瞬。

 

 

 

「だめーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 互いの中間に白い影が飛び込んできた。

 

 

「何っ?」

「・・・は?」

 

 両者とも更に間合いを離し、乱入者を見る。特にキャスターは誰が飛び込んで来たのかを理解し、顔を引きつらせる。

 

 

「二人とも止めて!何で喧嘩してるの!?」

「おねーちゃん危ないから!?」

 

 白いバリアジャケットを身に纏ったなのはに、必死に止めようとしたらしいジルが腰にぶら下がっているが、飛ばれては流石に止められなかったらしい。

 

「な、なのは様!?何をなさっているのですか!」

「こっちの台詞なの!怪しいと思ったら何で危ないことしてるの!?」

 

 かなり憤慨しているらしいなのはに言い返されるが、流石に見過ごせずに反論する。

 

「その危ないことに何でマスターが突っ込んで来るんですか!?アサシン!貴女がついていながら!」

 

 アーチャーの射線から庇える様に動き、なのはの前に立つキャスターの言葉に、飛んできたなのはの腰に掴まったままのジルは、私の所為じゃ無いとばかりに睨みつける。

 

「止めたもん!止めたけど飛ばれたから仕方ないじゃない!そもそも、キャスターが結界なんか張るから気付かれたんだから!というかおねーちゃん本当に下がって!あれアーチャーのサーヴァントだから!」

「サーヴァント同士がぶつかってこの辺一帯に被害が出ないわけないでしょうが!張るのは当たり前で貴女がそれとなくなのは様を誤魔化して・・・」

「やっぱり!二人して私ばっかりのけ者にして!」

「私たちはのけ者にしてないもん!キャスターのせいだもん。」

「アサシン!自分だけ逃げる気ですか!?」

「キャスターさん!?お話なの!!」

 

 キャスターの直ぐ後ろに降り立ったなのはは、キャスターの方に向き合う。

 

「ですから危ないって言ってるでしょうが!」

「マスターは私だから言うことを聞いて欲しいの!後、ちゃんと話し合いをすればいいの!」

「んな事できる訳が・・・大体なのは様は・・・!!」

「・・・キャスターさんだっていつもいつも・・・!!」

「あの・・・お二人とも?」

「何なの!?」

「何ですか!?事情云々でしたらこのフェレットにでも聞いてて下さいまし!」

 

 静観していたアーチャーが声を掛けるが、二人の凄まじい剣幕に押されてそのまま投げ渡されたユーノを受け取ってしまう。

 

「・・・どうしましょうか?」

「少し待っててね?」

「ええ、それは構わないのですが・・・待ってるのもあれですし自己紹介でもしましょうか?」

 

 喧嘩を始めたなのはとキャスターの横で、アーチャーとジルとユーノは取り敢えず自己紹介を始めた。

 

 その後、見かねたアーチャーが仲裁に入るまで喧嘩は続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが管理外世界『地球』・・・」

 

 真夜中のビルの屋上に一人の少女が佇む。

 

「ここに母さんの捜し物が有る。」

〈頑張りましょうマスター。〉

 

 夜風にツインテールにした長い金髪を揺らしながら、黒い服に身を包んだ少女は決意を秘めた眼で街を見下ろしていた。

 

「そうだね。バルディッシュ。」

 

--少女は知らない。

 

 この街に生涯忘れ得ない出会いと出来事が有る事を。

 

 

 

 

 




アーチャー

マスター:車椅子の少女
真名:不明
媒介:古びた鏃
ステータス
筋力:B
耐久:B
敏捷:A+
魔力:B
幸運:C
宝具:A

クラス別スキル
対魔力:B
魔術発動における詠唱三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法を以てしても、傷つけるのは難しい。
「チートやん。」
「流石です師よ。」
「ずるいじゃねーか。」
「ちょっと卑怯です。」
「・・・」
とは家人達の台詞である。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
「遠くの書店を回ってマスターの参考書を用意するのに便利です。」
とは本人の弁。実に良い笑顔で有る。

保有スキル
千里眼:B+
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。心眼(真)との兼ね合いによっては限定的な未来視も可能とする。
当然カンニングなど見逃さない。

心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
その戦闘論理は、家人にも一目置かれている。

神性:C
大地の神と妖精との間に生まれた存在であるが、死ぬ直前にその身を人間へと貶めているため、大幅にランクダウンしている。
「先生に乗れたら買い物とか楽やったろうな。」とはマスターの談。

神授の智慧:A+
ギリシャ神話の神から与えられた賢者としての様々な智慧。英雄独自のものを除く、ほぼ全てのスキルにB~Aランクの習熟度を発揮できる。また、マスターの同意があれば他のサーヴァントにスキルを授けることも可能。
医術も含む為、マスターの介護の助けとなっている。
余談で有るが、とある家人に料理を教えても何故か上手く行かないために、街で有名な某喫茶店に自身が料理を学びに行くべきか真剣に悩んでいる。

宝具
※※※※


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