それでは3話です。どうぞ。
騒ぐなのはを宥めて落ち着かせたあと、周りに転がっていた誘拐犯を縛り上げてようやくお互いに話始めることができた。
「では、改めて私はこの度『魔術師』のクラスで現界いたしましたサーヴァント、どうぞ気軽にタ――もといキャスターとお呼びくださいませ“マスター”。」
「は、はい!私は高町なのはといいます。その、助けてくれてありがとうございました!」
慌てて自分もペコリと頭を下げる姿と素直さにキャスターも笑みをこぼした。
「はい御主人様♪契約はここに。我が魔術はこれより貴女様と共にあり。よろしくお願い致しますね」
その同性でも見惚れてしまいそうな笑みを浮かべるキャスターに、少しだけ見とれてしまったなのはだったが、ふと先程から気になっていたことを訪ねた。
「えっとキャスターさん、御主人様ってわたしのことなの?」
「もちろんですよ♪コンな可愛くてイケ魂な御主人様に召喚して頂けるなんて、このタ――いえ、このワタクシ感激です♪」
「にゃああああ!」
言い終わるとともにいきなり抱き上げられて、なのはの顔が真っ赤になるが構わずに抱きしめる。
「でも、ご無事で何よりです。御主人様があんな変態どもに囲まれていているのを見てワタクシ本当に驚いたのですよ?」
「お、下ろしてほしいの!」
その言葉を聞いて、渋々といった感じで地面に下ろすキャスター。すっかり真っ赤になった顔を冷ましながら、なのはは改めてこのキャスターと名乗る女性を観察してみた。
綺麗な長い桃色の髪を藍色のリボンでまとめ、後ろで二つに分けた髪型。
大胆に胸元と肩と脚を露出した妖艶な藍色の着物。
しかし、そんな目を引く彼女の姿の中でも特に目を引くのが、頭の上で時々ピクッと音に反応する耳と後ろで左右にゆらゆらと揺れる尻尾であり、それが彼女を明らかに人では無いことを物語っていた。
(尻尾がすごくモフモフしてるの・・・)
思わず尻尾に目がいってしまうなのは。その視線を受けて
「本来であれば御主人様の思う存分ワタクシの尻尾を堪能して頂きたいところなのですが・・・どうか私の後ろにお下がり下さい。マスター。」
急に雰囲気を変えたキャスターに思わず目を向けると入口の方に向けて警戒しているようであった。
慌ててキャスターの後ろに隠れるなのは。
「かなりの速さで何者かが、こちらに向かって近付いて来ているようです。この気配の消し方・・・かなりの手練れのようです。」
その言葉を聞いて思わず、先程の恐怖心がよみがえり思わず着物の端を掴んでしまう。そんな、なのはの頭にキャスターはポンと手を乗せ。
「ご安心下さい御主人様。このキャスター、例え相手が何であろうと御主人様をお守り致します。」
そう言ってからなのはの前に出ると、何も無い中空に手をかざし、何処からともなく鏡を出現させて自分の周りを回るように浮游させる。
(まるで魔法みたいなの・・・)
一連の動作に目を奪われるなのは。この日は、誘拐に始まりキャスターの召喚と余りに非日常的なことばかりだが、自分を守ろうとする目の前のキャスターの様子と魔法に思わず目を奪われてしまう。
「?」
するとキャスターは袖口から紙のような物を取り出し右手に構えた。
(・・・お札なの?)
「マスター、耳を塞いでいて下さいまし。」
その言葉を聞いて慌てて耳を塞ぐなのは。それを横目で確認すると手に持った札を入口の扉に飛ばし、
「呪相・炎天!」
その言葉を受けて札に仕込まれた呪術が発動し、扉の向こうから此方を伺っていた居た相手ごと吹き飛ばす―――はずだった。
「っツ!!」
扉からとっさの判断でその場から飛び退いたその相手は、吹き飛んだ鉄扉や破片を何とか避けきり、体勢を立て直そうとして
「見え見えですよ♪」
頭上から降り下ろされた鏡による一撃を両手に持った得物で受け止め、無防備になった腹部に蹴りを叩き込まれ壁に叩き付けられた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
強い
目の前にいる正体不明の女性に対し、身体が震える。
それは武者震いであり――否、生物としての根源的な恐怖である。
ここに来るまでに自分達に対し、足止めをしてきた連中等比較すること自体おかしい、明かに自分達とは違う存在に歯噛みする。
(何故、よりにもよってこんな時に化物じみた相手が!!)
とたんに先程の鏡の様な物が襲い掛かって来る。
その一撃を必死で避けながら相手のようすを探る。
桃色の髪をリボンで纏めた、やたら露出した衣装を身にまとった妖艶な女性。
しかし、その頭の耳と後ろに生えた尻尾が明らかに人では無いことを示している。
そして先程、中の様子を探ろうとした自分を吹き飛ばそうとした何かの術と、浮游し今も自分に襲い掛かって来る鏡。
何より、こうして対峙するだけで伝わってくる相手が内包する力、触れただけで自分等蒸発してしまいそうな力の奔流に自分の身体が本能的に恐怖しているのが分かる。
ふと、奴と目が合う。
「よくもまあ有象無象の分際で、よってたかって私の御主人様に怖い思いをさせて下さいましたね?」
そして、目の前のナニカは自分達に向けて
「貴方達―――楽には殺しませんよ?」
そう、処刑宣告を下した。
―――勝てない。何をしようとどうしようと目の前のナニカに勝てる訳がない。
奴は、『貴方達』といった。であれば外の忍やノエル達にも気付いているのだろう。そして、おそらくこの事件の首謀者であろう『御主人様』とやらも奴がここで待ち伏せているからには何処かにひそんでいるのだろう。
(こいつが御主人様と従う相手だと・・・魔王か何かか?)
だが、例え相討ちになろうとも、大切な『妹』は返してもらう!
「悪いが、ここで引くわけにはいかない!」
「・・・そうですか。ならこの場で・・・!!」
そうして、互いに決着を着けようとしたとき、
「いい加減にして!お兄ちゃん、キャスターさん!」
「なのは!?」「御主人様!?」
誘拐されていたはずの妹が無事な姿でそこにいた。