皆さんこんにちは。月村すずかです。
今日は我が家は朝から大忙しでした。それは今日、家でアリサちゃんになのはちゃんにジルちゃんとお茶会を開く予定でその準備があったからです。
場所のセッティングから、紅茶の茶葉・お菓子や軽食の準備等々・・・
・・・そう特にお菓子や軽食の準備・・・
「足りる・・・かなあ?」
「これで足りない可能性が有るというのが・・・」
ノエルとファリンが心配して見つめる先には、大量生産された多種多様のクッキーやサンドイッチ、スコーン等の山。
私とアリサちゃんとなのはちゃんなら、過剰と言える位多いです。
・・・そう、ジルちゃん対策です。普通の量だとペロリと平らげちゃうジルちゃんと一緒ならこの位は必要なんです。・・・足りないと切なげな眼を向けてくるので罪悪感が凄いので・・・翠屋ではジルちゃんに餌付けするのが流行ってるみたいですけど、その気持ちはよく分かる気がします。先日とうとう桃子さんにバレて、大目玉を食らったらしいですけど。
「サーヴァントというのは、どれも大食らいなんでしょうか?」
「流石英雄ですね・・・」
「ジルちゃんだけ・・・だと思う・・・。」
「お嬢様。ライダー様の酒量とつまみの量は御存じで?」
「・・・」
ノエルの視線からそっと目を逸らす。その先にあったのは大量の空き瓶に空き缶、お摘まみの入っていた袋・・・で、でもなのはちゃんのキャスターさんが、沢山食べるなんて話聞いたこと無いからあの二人だけが特別なんだと思う。
その後、ライダーにこの後の事を話し合うために準備を二人に任せてライダーの部屋に行くと、
「お酒くさい・・・」
部屋の前から既にお酒の匂いがします。これはマスターとして物申さないといけません。
「ライダー入るよ・・・う・・・」
「おや、スズカお早う。どうだい?一杯?」
匂いだけで酔いそうな濃いお酒の匂いがする部屋の中、テーブルに付いてウイスキーをロックで空けている美女、ライダー。ケタケタ笑いながらお酒を私にすすめてきました。・・・小学生にお酒を薦めないで。
「また朝からお酒?」
「いや?夜からさね。」
呆れた。また朝までお酒を飲んでたみたいです。兎に角部屋の窓を開けて換気をし、お酒の匂いを追い出します。
「現代は旨い酒が多いから良いねぇ。つい飲み過ぎちまう。」
「だからってリニスまで巻き込んで・・・」
「良いじゃないか、大人の女のたしなみさ。」
ライダーの対面でテーブルに突っ伏して眠っているリニスの前には、空き瓶と手には氷が溶けたグラスが握られていました。
「ウイスキーとワインを各二本空けるまでは良かったんだがね。ブランデーとか日本酒とかスピリタスとか色々空け始めたら潰れちまったよ。」
「飲み過ぎ!?後、チャンポンはダメだよ!?」
飲酒は自分の酒量を弁えようよ!普通に飲む量じゃ無いよ!?そうこうしていると、テーブルで眠っていたリニスが唸りながら薄ら目を開けました。どうやら話し声で起こしちゃったみたいで・・・
「・・・うう~ああ、あ、・・・頭が・・・お早うございますすずか・・・いつの間にか3人に増えて・・・ああ、プレシア・・・河の向こうでアリシアが可愛らしく手を振って・・・こっちに来ちゃダメ?ははは、何を言ってるにゃー・・・」
「誰かお水とお薬ぃーーー!?」
リニスが、よく分からないけど見えちゃいけない物が見えているようなので私は厨房に走るのでした。
「こんな事で今日大丈夫なのかなぁ・・・」
突如現れた新たなサーヴァント、アーチャーとの遭遇から数日、なのはの部屋でなのはとキャスターが話し合っていた。
鏡台の前で椅子に座ったキャスターの膝に座り、髪を櫛で整えて貰っているなのはは、自身も櫛でキャスターの尻尾を梳きながら問い掛ける。
「キャスターさん。大丈夫なの?」
「ええ、アーチャーとの会談の結果次第ですが、悪いようには成らないかと。彼と同盟を組めば、サーヴァントが合計で3体。ジュエルシードだろうと問題無いでしょう。」
取り敢えず喧嘩を終えた後、すっかりやる気を殺がれたらしいアーチャーの
「後日話し合いの場を設けましょう」
との言葉により、兎に角決まったアーチャーのサーヴァントとの話し合い。上手く協力を仰ぐ事が出来れば、ジュエルシード探しも捗ることは間違いない。
「でも、やっぱり私も一緒にいた方が・・・」
不安げな顔のなのはを安心させるために頭をそっと撫でる。
「大丈夫ですよなのは様♪私に万事お任せ下さいまし。」
「・・・うん。わかった!」
髪を整え終わったなのはは、キャスターの膝から降りた。
「うふふ・・・っと、そういえば今日はどちらにまでジュエルシード探しに行かれるので?終わりましたら後程合流致しますね。」
バタバタしていて行き先を聞いていないことに気が付いたキャスターが、片付けをしながらなのはに尋ねた。
「違うよ。今日はジュエルシード探しはお休みで、アリサちゃんとジルちゃんと一緒にすずかちゃんのお家に遊びに行くの。」
「・・・え。今日ですか?」
そのなのはの言葉に、一瞬固まったキャスター。やや置いてなのはに話しかける。
「そ、そうですか。えっとなのは様?やっぱり私も一緒に着いていっても・・・」
「キャスターさんはアーチャーさんとお話でしょ!?何かあってもジルちゃんもユーノ君も一緒に居るから大丈夫なの!」
アーチャーとの会談をすっぽかそうとしたキャスターになのはが突っ込む。
「え~と、そうだ!ジルをアーチャーに会わせれば良いじゃないですか。」
「無理だよ!?ジルちゃんクラスの話し合いすら気配遮断して居眠りしてる位なんだよ!?いつも私が起こしてるんだから。それにお茶会とクッキー楽しみにしてたの。」
「いや、何で気配遮断してるアサシンに気付けるのですかなのは様・・・」
サラッととんでもない事を、何でも無いように口にしたなのはに思わず問い掛けるキャスターに、当のなのはは少し考えるように首を傾げる。
「慣れ?かなぁ。でも、お父さんとお兄ちゃんも何か慣れてきたって言ってたよ。感覚の修行になるって喜んでたし、お母さんは勘かしら?って言ってお話から逃げて隠れてたジルちゃん捕まえてたの。」
「・・・全アサシンが泣きますよ?慣れと勘でサーヴァントのスキルを看破しないで下さいまし。」
「理不尽。アサシンとして、いかんのいをひょーめーする。」
「あ。ジルちゃ・・・ん?」
丁度其処になのはを呼びに来たらしいジルが、テレビで覚えた言葉を話しながら部屋に入って来た。その腕にはなのはやジルと同じく可愛らしい服を着せられた・・・
「ユーノ君・・・」
「・・・見ないで・・・」
「何でフリフリでピンクな服を?」
「お母さん(マスター)が用意してた。可愛いでしょ?」
桃子によってドレスアップされたユーノを抱き上げたジルは、ご満悦のようだ。
「いや、ユーノ君はオスだし・・・」
「だめかな・・・?」
「いや面白いから良いんじゃないですか?」
「・・・不幸だ・・・っていうか僕は本当は・・・」
「だって私たち自慢のペットだもんね。」
「いや、もういいです・・・」
「よしよし。」
どんよりとうなだれるユーノが可哀想になったのか、なのはが宥める。
「それより、おねーちゃん早くすずかの家に行こーよ。お腹空いて来ちゃった。」
「いや、ご飯食べに行く訳じゃ無いからね?・・・ジルちゃん・・・本当に食べた物何処に消えてるの?」
「?魔力に換えてるよ?省ーエネは大事だもん。」
「省エネと言う言葉を辞書で調べて来やがれ腹ペコ幼女。」
「後、打倒腹ペコ王。」
「いや、誰?」
『むっ!?何者かの挑戦を受けました。騎士として受けて立ちましょう。お代わりを所望します!』
『なんでさ!?』
「誰!?」
「如何しましたかなのは様?」
「あれ?今なんか・・・あれ?」
一瞬何か凜々しい声と戸惑う声が聞こえた気がしたが、自分以外聞こえなかったようであり、なのはは首を傾げた。
「まぁいいです。本当に何かありましたら必ず呼んで下さいまし。」
「うん、それは勿論なんだけど・・・キャスターさん、私もジルちゃんみたいに食べ過ぎたりしてないかなぁ?不安になって来ちゃった。」
「おねーちゃん失礼。」
頬を膨らませるジルを無視して恥ずかしそうに聞いてくるなのはを、キャスターは苦笑を漏らして抱き上げる。
「うふふ・・・ご安心下さいませ。なのは様は、私の維持に魔法の訓練にトレーニング・・・消費カロリーが尋常じゃないですから沢山食べても問題御座いません。ってか標準的だと思いますよ?」
「よかった・・・」
「まぁ確かに抱き心地が良くなってますが、私的には丁度よろし・・・」
余計な一言を呟きかけたキャスターの側頭部に、レイジングハートが曲がるほどのフルスイングで叩き込まれたのは言うまでも無い。
「って事があったの!酷いよね!」
「いや、キャスターさんも悪いけど、あんたはあんたで何傷害事件起こしてるのよ?」
キャスターを昏倒させた後、恭也に連れて来て貰い友達と合流した月村家のお茶会の席で、憤慨するなのはに思わず突っ込むアリサである。
「ムグムグ・・・キャスター割とじょーぶだから良いんじゃないかな?」
「うーん、そうかなぁ?・・・ジルちゃんペース早いよ。でも、ユーノ君の格好は可愛いと思うよ?」
「でしょー♪」
「キュ~(ぐすん。)」
サクサクサクサクと小気味良くクッキーを食べるジルにすずかは困った様に笑う。テーブルにはクッキーにサンドイッチといったものからなのは達が持参したケーキ等が並べられていた。
「というかジル、お茶会なんだから紅茶を嗜みなさいよ!」
「モグモグ・・・んぐ。仕方ないなぁアリサは。」
「・・・何その顔、メッチャ腹立つんだけど?」
「フフン。アリサは私たちが、何処の生まれか忘れたの?仕方ないから私たちが、美味しい紅茶の味わい方を教えて上げる。」
「あ~そう言えば、あんたイギリスから来たのよね。じゃあ教えてもらうわね。」
ジルは自分のティーカップに紅茶を入れると角砂糖の入った容器を開け、ティーカップに一つずつ入れていく。
一つ
二つ
三つ
四つ
・・・
十五
そうして、紅茶にミルクを掛けてからかき混ぜ・・・
「紅茶はミルクたっぷり、砂糖増し増し、蜂蜜少しがベスト!」
「謝りなさい!英国と紅茶に関わる全ての人に謝りなさいよ!?」
紅茶の匂いがミルクと蜂蜜に掻き消された甘い香り漂うティーカップに思わずアリサは突っ込む。
「紅茶の香りがしないよ・・・何かドロッとしてる?」
「あ、甘過ぎると思うの・・・」
「そうかなぁ?」
「病気になるわよ・・・砂糖が溶け切れてないし。」
「でも、サイトで大絶賛してくれた人がいたよ?『私も地球の茶道で試してみるわ』って言ってたもん。」
「誰よ!?ってかあんたはまた変なサイトに登録して!?」
士郎と桃子になのはとお揃いの携帯電話を買って貰ってから、妙なグループと交流をするジルである。
「というか太っちゃうよジルちゃん。」
「そうだよ、体に良くないよ?」
そうなのはとすずかに心配そうな顔をされるが、当の本人はクッキー片手に首を傾げた。
「私たち(サーヴァントだから)いくら食べても太らないよ?」
この時、テーブルでクッキーを貰っていたユーノの耳にピキリ・・・と空気がなった音がした。
ふと、女の子達の顔を見れば笑顔のまま口元が引き攣っており・・・
「モグモグ・・・あれ?如何したの三人とも怖い顔して・・・何で席を立って、や、やめ!?おねーちゃんくすぐった・・・離して・・・やーーーー!?」
次の瞬間には、ジルが怒れる乙女三人に取り押さえられ、くすぐりの刑に処される。
(女の子って・・・)
スカートのまま暴れる少女達の方を見ないように反対側を見れば、
「にゃー」
「ニャーゴ」
「にゃーー」
「ミャー」
「ナー」
「にゃーお」
「ほれ、お前もネコ耳になれ。」
「みゃう」
「にゃー」
「ニャー」
「グルル」
「にゃーー」
「ニャー」
自分をガン見している猫の群れ。何故舌舐めずりをしているのか・・・考えたくない。
(僕もあっちの話し合いに参加したかったなぁ・・・)
いつの間にかテーブルの周りを猫達に囲まれ、白いネコにネコ耳を付けられながら空を仰ぐフェレット、ユーノ・スクライア。
少女の悲鳴が響いてはいるが、今日も平和であった。
商店街の一角にある喫茶店『翠屋』。街でも評判の味とサービスを提供する店である。
忙しいピークを越え、暇が出来た時間、テーブル席に四人の男女が席に着いていた。
「初めまして、オーナーの高町士郎と申します。」
「初めまして、妻の高町桃子と申します。」
「これはご丁寧に、アーチャーのサーヴァントです。・・・真名を名乗れない事、どうかお許し下さい。」
「いえ、お気になさらず。事情は理解しております。」
「忝い。」
「・・・どうしてこうなった・・・?」
アーチャーとの会談の場所・・・それは何故かここ、翠屋であった。
時間を少々遡る。
機嫌を損ねたなのはを見送り、待ち合わせ場所に向かえば、既にアーチャーは待っていた。
アーチャー曰く、『マスターに教えて貰った話題の喫茶店』とやらに足を運べばそこは翠屋。
流石に不味いと他の場所を薦めようとしたところ、偶然表に出て来た高町夫妻と目が合い・・・今に至る。
「先日は娘が・・・」
「いえ、こちらも・・・」
と、頭を下げ合う夫妻とアーチャーを横目で見ながら頭を抱えるキャスター。
(なんというか、今日厄日ですか私?只でさえなのは様が心配だと言いますのに・・・)
「キャスター大丈夫ですか?」
「うっさいです。ほっといて下さいまし。」
「もう、キャスターちゃん?そんな態度はダメよ?」
「ふむ・・・なのはの一撃が響いているのかもしれないな。」
「まだ小学生にもかかわらず、サーヴァントにダメージを与えるとは・・・実に将来有望な少女ですね。鍛え甲斐が有りそうです。」
素直になのはを評価するアーチャーと士郎はすっかり意気投合してしまっていた。
昨夜、高町家全員で集まった際に士郎はアーチャーの話を聞いて是非会ってみたいと考えていた。セイバー・アーチャー・ランサー、俗に三騎士とも呼ばれるクラスのサーヴァントは、キャスターやアサシンとは違い『武』で史に名を残した英雄が当て嵌まる事が多い。故に現代に生きる武人としては、話をしてみたかったらしく今も眼を輝かせている。
対するアーチャーも、士郎と桃子の人柄を見て好ましい物を感じ取り、すっかり警戒を解いていた。
「士郎さんと桃子さんでしたか、貴方方の様な人に出会えるとはとても喜ばしい。特に士郎さん。貴方とは是非一度、試合をしてみたい物です。」
「貴方ほどの方にそう言って頂けるとは、武人として誉れですな。是非お願いします。」
「あらあら士郎さんたら、まるで子供みたい。でも、アーチャーさんは、弓矢を使われるのでは?」
「えぇ、最も得意とするのは弓ですが、武芸全般いけますよ。生前は様々な生徒達に教えた物です。」
「あら、先生だったのですか?」
「そうですね。実に様々な生徒達に教えたものです。今も家庭教師のまねごとをしてます。」
和気藹々と語り合うアーチャーと高町夫妻。そして、頭を抱えるキャスター。
「あの~士郎さんに桃子さん?そろそろ話し合いの方を・・・」
「あらあら!私ったらつい・・・」
「はっはっは!母さんも人のこと言えないな!」
「もう!貴方ったら。」
「実に仲が宜しいですね。」
「ハァ・・・万年新婚カップルですからね・・・さて、そろそろ始めましょうかアーチャー。」
「えぇ、始めましょう。」
そうして、夫妻は「後はごゆっくり」と席を外し、キャスターはジュエルシードに関わる今までの流れを説明した。時折、頷いたりしながらアーチャーは話を静かに聞き、質問を混ぜ手元のメモ用紙に簡潔にまとめていく。そうして先日の樹木の事件まで話を終えた辺りで一息入れる事にした。
「成る程。確かに危険な物ですね。一つが暴走しただけでああなりますか。」
「全くです。おまけに時空管理局とやらの到着はまだ先の様ですし。」
「ふむ・・・」
コーヒーで一息入れながらキャスターもアーチャーも顔に皺を寄せる。ジュエルシードだけでも頭が痛いというのに時空管理局なるあらゆる権力を集めた組織の存在。
「権力集めた独裁的組織。オマケに自分で平和と正義を掲げるなんて腐ってくれって言ってるようなもんですからねぇ・・・大方出遅れてきた分際で、上から目線で物言って手柄だけかっ攫おうとしてきますよ。」
「いささか思考が捻くれすぎですが、考えられますね。加えて、我々サーヴァントとマスターも目を付けられるでしょうしね。」
キャスターの管理局に対する評価に苦笑しながらも、アーチャーもそれには同意見だったらしく頷く。加えて管理局が自分達サーヴァントにどう出るかも考える。
・・・懐柔か脅迫か・・・必ずマスターに接してくるだろう事は目に見えていた。
「まぁ、マスターに何かしてくるようなら○を○○てから、呪術と物理の両面で末代まで祟りますが。」
「ま、まぁ中にはしっかりと職務に就く方もいるでしょうけどね。ですがマスターに危害を加えるならそれは同意しますが。」
キャスターに若干引きながらアーチャーも対応については同意する。
「・・・判りました。取り敢えず私は貴女達に協力しましょう。ジュエルシードは放っておく訳にはいきませんからね。」
「宜しいのです?マスターに聞かずに勝手に決めて?」
「今回の件に関してはマスターから一任されていますからね。それに我がマスターなら、放ってはおかないでしょうから。」
「助かりますアーチャーさん。どうぞ宜しく致しますね?」
互いに握手をするアーチャーとキャスター。こうして、互いの陣営は手を結ぶことになった。
「そう言えば、アーチャーさん貴方のマスターは?」
「実は今日もここに来たがってましたよ。ですが流石に連れて来るわけにもいかないので、課題を与えて置いてきました。」
「そうですか。」
まぁ、普通は他所のサーヴァントに自分のマスターの情報を漏らすわけ無いかとコーヒーを啜るキャスター。その耳に翠屋のドアベルが鳴る音が聞こえた。
「お客さんですか・・・ってアーチャーさん?」
「い、いえ何でも無いです・・・」
笑顔を引き攣らせたアーチャーの表情を怪訝に思い、入り口を振り返ると
「いらっしゃいま・・・せ?」
困惑したような美由希の声と共に、入って来たのは4名と一匹の大型犬を連れたお客様。翠屋には盲導犬が入っても大丈夫なのでそれはいい、お客様の一人は車椅子だが、バリアフリー化してあるからそれも問題無い。
問題が有るとすれば・・・四人が四人共黒のスーツにボルサリーノ帽を被り、犬も含めた全員がサングラスを掛けている事。
「すんません、四人と一匹ですけど大丈夫ですか?」
車椅子に座ったマフィア(仮)のような格好をした女の子(声で判断)の声に我に返った美由希は、兎も角キャスター達のテーブルから離れた席に案内をする。
「すっかり遅なってしもたわー。」
「・・・主。本当にこの格好は目立って無いのですか?」
「大丈夫やて、シグ・・・これがこの世界における尾行時の正装なんやから。何としても先生のデート現場を目撃せんとな!」
「でも、ここに来るまでの間に物凄く人目に付いてましたよ?お巡りさんにも職務質問されたじゃないですか?」
「あーそれより早く何か頼もうぜ?」
「・・・」
「・・・あの、アーチャーさん?もしかして彼方・・・」
「・・・聞かないで下さい・・・あれ程言ったのに・・・」
和気藹々とケーキや飲み物、持ち帰り用のシュークリームを頼みながら時折チラチラと此方を伺ってくる不審者集団。特に赤毛の女性と金髪の女性から棘々した視線を受けながら、キャスターはアーチャーに訪ねるが、アーチャーは頭を抱え込むのであった。