本当にありがとうございます。
お待たせしました。六話です。
キャスターによる説明会が終わり、簡単な昼食を済ませた後、士郎のお見舞いとキャスターに、町の案内をするという話になり出掛ける事になったのだが、
「その格好は、流石に目立つよな。」
「霊体化した状態でついて行きますから大丈夫です。その方が、御主人様の負担も軽くなりますし。」
「わ、私は大丈夫なの。一緒にお出掛けするんだから見えてないと嫌なの。」
というなのはの意見により、急遽キャスターの衣装が用意された。女性陣が張り切って用意した結果。
「カワイクなって新登場~♪似合いますか?御主人様?」
「わぁ、可愛いの。」
ピンクと白の縞模様のパーカーの胸元を開き、ホットパンツといった現代風の衣装に着替えたピンクな狐があらわれた。
「いや、そんな服どこに・・・まぁ良いが耳と尻尾はどうする?」
「ああ、ソレでしたらこの通り。」
キャスターがその場でくるっと宙返りすると、先程まで、付いていた狐耳と尻尾がなくなっていた。驚くなのはに
「ああ、見えないように変化したんです御主人様。ほら、ワタクシ狐ですし?コンなの朝飯前です。」
「変身もできるの!?」
「ええ。ただあんまり使いたくは無いのです。」
「?(何かあったのかな?)」
「もっとも~♪御主人様が望むのであれば?お望みの姿になって御主人様とアレやコレや・・・」
「キャスターちゃん?まだ、それはなのはには早すぎるわ。・・・ちょっとお話しましょうか?」
「何でも無いです桃子さん!!」
そんなキャスターに対する教育的指導があった後、先ずは商店街を案内することに。
――海鳴商店街。世の不景気も何のそのといった感じで賑わう商店街である。
「ここが海鳴商店街よ。」
「賑やかですね。やはり、海に面しているだけあってお魚も新鮮ですね。」
揃って歩く高町家とキャスター。普段から利用する高町家も美男美女揃いで人目を引き付けるが、今日は更にキャスターがいる為に更に人目を集めている。そんなキャスターの手を引くなのはは、少し照れながらもキャスターに町を案内しようと張り切っているようだ。
「お野菜も沢山あるの。」
「愛妻料理が作りがいありそうですね♪どれどれ」
と八百屋の中を覗き込む。新鮮な野菜が所せましと並んでいる。人参・ジャガイモ・茄子・ピーマン・ヒランヤキャベツ・マカラコーン…
「・・・ラインナップは、突っ込んじゃダメですか?」
「そっとしておくの。」
少し歩いて、美味しそうな香りがするパン屋さんの前を通りかかる。
「家も良くここのパンを買うのよ。」
「とっても美味しいの!」
「本当に美味しそうな匂いですね。何々、本日のオススメは、アンパン・食パン・カレーパン・ジャム…」
「・・・何かそれ以上はいけないの。」
それからもキャスターは高町家に、様々なお店を紹介してもらい、またキャスターを紹介しながら商店街を案内して行く。最後に花屋にて生花を買う頃にはオマケでもらった野菜やもろもろでキャスターの両手が塞がっていた。
「いやあ。変わったお店も多かったですが、皆様好い人ばかりでしたね。」
「キャスターさん皆に凄くオマケされてたね!」
「あらあら、もう商店街のアイドルみたいね?」
そんな風に笑いながら歩いていると、突然キャスターが足を止めた。その顔も引きつっているようだ。
「どうしたの?キャスターさん」
「――ほう。気付いたか。」
「恭也さん。あの店何ですか?」
キャスターが指すその店、一見すると普通の中華料理店のようだ。しかしならばこの嫌な予感は何なのか。
「あの店は――地獄だ。」
「やはりそうですか。こう、耳と尻尾が総毛立つような。ぶっちゃけマジやべぇって勘がします。」
「?」
「なのはは、知らなくて良いの。でもあの店で麻婆豆腐を頼んじゃだめよ?」
「?」
そうして、高町家はその場を離れて病院へ向かった。
――その店は、一見すると普通の中華料理店。しかしその看板メニューを口にしたものは語る。地獄の具現がそこにあったと。そんな店の名は、
――『大衆中華料理店・泰山 海鳴支店』
「――ふむ、この辛さ。まさに愉悦。」
高町士郎の入院する病院の部屋へ着くと、花を取り換えてから桃子達は担当医に話を聞きに行った。
病室には未だに眠り続ける士郎と、それを見詰めるなのは、そしてキャスターがいた。
(事件に巻き込まれ重体と聞きましたが・・・ぶっちゃけ良く生きてますって感じですね。)
キャスターは、独自に士郎の体を調べそんな感想を抱いた。キャスターの目で見ても正直な所、いつ生命力が途切れてもおかしく無いレベルである。
ふと、自分の幼いマスターを見る。士郎の武骨な手を小さな両手で握り締め、寂しそうに父の顔を見詰めている。
そこへ、暗い面持ちで桃子達が部屋に戻って来た。やはり、容態は変わらず。身体も日に日に弱っている。ということらしい。椅子に座り込み項垂れる桃子、重い空気が漂う部屋に士郎の体に付けられた機械の電子音が規則正しく鳴り続ける。
「――御主人様、魔力を使わせて頂きます。」
その言葉と共に、キャスターが青い呪術師の衣装へと姿を変えると、何処からともなく大きな鏡を取り出す。
「キャスターちゃん…その鏡は?」
恐る恐る桃子が、鏡――明らかに膨大な力を内包したそれについてキャスターに尋ねる。
「ああ、この鏡は私の宝具です。」
「宝具?」
怪訝な顔をする一同に、キャスターが続ける。
「英雄を英雄足らしめる、伝承や逸話。その具現と言いますか、私達サーヴァントはその出自となる伝承を武器に出来るんです。例えば、騎士王ならば『エクスカリバー』といったような感じですね。」
「じゃあその鏡がキャスターさんの伝承に関わる物なんだ?」
その奇跡の具現に驚く美由希。鏡を浮かせ高町家の前にスィと動かして見せると興味津々といった感じで覗き込むなのは。
「まぁ、真名に関わる物なのですが、名を明かさなければ只の頑丈な鏡なんで普段は鈍器にしてるんですが・・・」
「・・・良いのか?そんな扱いして・・・」
恭也の問をスルーしつつ、鏡を動かして士郎の上に浮かせる。
「ん~。ちょっとだけ、皆様部屋から出ていただけますか?」
「えっ!!キャスターさん。もしかして!?」
今から何をするつもりなのか気が付いたなのは達に軽く微笑みながら、
「――はい、御主人様♪今からちょっとお仕事しますので、お父様にかける言葉を考えといて下さいな。」
そう、鏡から妖しい――しかし温かな光を漂わせながら答えた。
Side
――長い夢を見ていた気がする。
暗く、冷たい正に深淵と言うべき場所で漂いながら落ちていく――否、それすら分からない。
ただ、――落ちる
――堕ちる
――墜ち
――ああ、コレが死というものか。
――覚悟はしていたつもりだった、だが、
――せめて、せめてもう一度――
『そんなにその場所が気に入った。とでも仰るのでしたら止めませんが、それ以上は戻れなくなりますよ?』
――だれだ?
『良いからさっさと起きてくださいまし。私の御主人様を散々悲しませたんですから。それ以上行くと大切な方全てを泣かせる事になりますよ。』
ふと見上げるとこの闇の中を照らす光が見えた。
そうだ、こうしてはいられない。私はまだ――
そうして、体を向けて光に手を伸ばす。まるで太陽の光を浴びたような心地よさが体を包み込み――
重い目蓋を開く
「・・・ここは?」
そう声を出そうとしたが、上手く声が出ない。
見覚えの無い部屋には沈みかけた日の光で紅く染まっていた。
身体中に付いたチューブを見るとここは病院だろうか?恐らくあの後、意識を失い病院へ搬送されたのだろう。長い時間がたったのか体のあちこちが軋んでいる。
ふと気付くと、そばに見慣れぬ女性がいた。露出の多い着物のような物を纏った明らかに人とは違う女性を見たときに――何故か太陽を思い浮かべた。
その女性が目の前からスッと消えたのには驚いたが、その直後に部屋の扉が騒々しく開け放たれ、思わず目を向けると、
記憶より遥かに痩せ、目に涙を溢れさせた妻が
驚きの表情を浮かべる息子が
目を真っ赤にした長女が
どこかふらついているが、こちらを見て泣きながら飛び付いてくる末の娘が
――私が愛する家族がそこにいた。