転生と狐と魔法少女   作:隣乃芝生

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お待たせしております。

八話です。どうぞ。


日常編・特訓と子狐と朝食と

 早朝、空が明るみ始め、町の人々が起き出す時間。

 

「も、もうだめなの・・・」

 

 公園にて、一人の少女が息を切らしながら走っていた。可愛らしい白い運動着姿で、息も絶え絶えに走る少女――高町なのはに後ろから桃色のジャージを羽織ったキャスターが声を掛ける。

 

「大丈夫です。私が付いてます。なのは様ファイトー!」

「にゃ~」

「・・・ダメっぽいですね。」

 

 あの日から約二週間、高町なのはとキャスターの主従は手始めに体力作りとして、早朝のランニングを始めていた。最初は恭也と美由希がなのはに教えようとしていたのだが、

 

「あんなのいきなりは無理なの」

「まぁあの方達は普段から鍛えてましたからねぇ。可愛い妹君が、体を鍛えると聞いて張り切ってましたし。」

「だからっていきなり山は無いの。」

 

 とまぁ自分達基準で『軽め』の特訓を張り切ってさせようとして、なのはに泣かれ、キャスターに止められ。桃子との話し合いの結果、中止となりかなり落ち込んでいた。

 

「まあ、あんなグラップラーな人外に片足突っ込んだ方々の事は放っておいて、まずは体力をつけるためのランニングなんですから、取り敢えず今日は神社の辺りまで頑張りましょうか?」

「うう、がんばる。」

「お昼過ぎにはお父様もようやく帰って来ますし、さくっとやっちゃいましょう。」

 

 そう――あれから、士郎の体も快復しリハビリも進み、とうとう退院の日を迎えていた。本人曰く、前より調子が良いとの事で、意識不明だった重傷患者が何故二週間で退院出来るほど快復したのかと、医師たちが頭を抱えていたそうだ。

 そんな事を話ながら公園を通過し、今日の最終目的地の神社を目指す。

 

 

「それにしても、ずいぶんランニングされたり運動されるかたが多いのですね。」

「うん。私も知らなかったの。始めた頃は少なかったけど今は沢山の人がいるね。」

 

 二人は知る由もないが、この二人のランニング姿を見るためにランニングやスポーツを始めた紳士も少なくない。

 桃色のスタイル抜群な美女と、栗色の髪の美少女が早朝にランニングを始めたとの噂が既に広まっており、中にはわざわざこの二人の姿を見るために、この時間帯に隣の区から走っている奴等もいるくらいである。何せ片や傾国レベルの美女が妙な色っぽさを醸しながら走り、片や息も絶え絶えといった様子ながら必死で美女に着いていく庇護欲を抱かせる美少女である。

 もっとも、不純な動機で近付こうとしたモノは何故か内股で泡を吹いて倒れるとの噂も広まっており、高嶺の花として遠くから見守られているにとどまっているのであるが。

 

 早朝の町を顔馴染みとなった町の人やランナーに挨拶をしながら走り、ようやっと神社にたどり着く頃には、なのはは息も絶え絶えに鳥居にもたれかかった。

 

「ぜぇ、ぜぇ、や・・・やっと着いた~」

「ふぅ、お疲れ様ですなのは様。」

 

 飲み物を落ち着かせてから飲ませ、タオルでなのはの汗をぬぐうキャスター。

 

「御参りして少し休んだら帰りましょうね。」

「にゃあ・・・疲れたの・・・」

「でも、始めてから二週間でここまでこれましたね。」

「・・・うん。少しは体力もついてきたかな?」

 

 飲み物をキャスターに返して訊ねるなのは。目的は少しでも強くなる。その為の第一歩がこの体力作りである。

 

「勿論です。昨日のなのは様より、今日のなのは様はちゃんと強くなってますよ。」

「本当?」

「はい。何事も毎日続ける事が大切なんです。ちゃんと一歩ずつなのは様は進んでますから。」

「だったら嬉しいの!」

 

 そういうと、タオルをしまい二人で賽銭箱に小銭を入れて御参りをする。

 

「さて、帰りましょうか・・・ところで、なのは様?」

「なあに?キャスターさん。」

「・・・今日は家までおんぶと抱っこ。どっちが良いですか?」

「・・・おんぶ。」

 

 顔を赤くして呟いたなのはの様子を脳内フォルダに保存しながら背中におんぶして帰路につこうとしようとして、ふと視線を感じ振り返るキャスター。

 

「ん?」

「?どうしたのキャスターさん。」

「いえ、あそこに」

 

 と、なのはがキャスターの視線をたどった先には

 

「キツネ?」

「です・・・ね。」

「くぅ・・・」

 

 一匹の子キツネが此方を木の後ろに隠れて伺っていた。その愛くるしさに思わず、

 

「可愛いね。」

「な、なのは様!?わ、ワタクシという狐がいながら他の狐に!?う、浮気!?浮気ですか!?」

「くぅ!?」

 

 なのはの感想に思わず取り乱すキャスターとその声に驚く子狐。

 

「ち、違うの!?単純に可愛らしいねっていうか・・・」

「な、何ですか!やっぱり若い狐の方がいいって事ですか!?チキショーこの泥棒狐!!よくもワタクシの御主人様をたぶらかして下さいましたね!?」

「く、くぅ~!?」

 

 取り乱すキャスターの背中にしがみつきながら落ち着かせようと必死ななのはと、必死に顔を横に降る子狐。実にカオスである。

 

「大体、なぁにがくぅですか!?可愛らしさアピールですか!?普通に喋れっていうんですよ!?」

「な、何言ってるのキャスターさん落ち着いて!?」

「お、お客さん落ち着いて下さい!」

「くぅ~~~~!!」

 

 とうとう通りかかった神社の巫女さんにも止められるキャスターと逃げ出す子狐。その後暫くして、ようやく落ち着いたキャスターは背中のなのはから他所の人に迷惑をかけた事についてお話をされつつ帰路に着くのであった。

 

 

 

 

「さ、災難だったね。大丈夫?」

「く、くぅ~~。」

「でも、さっきの人どうしたのかなぁ?」

「くぅ、人じゃない。」

「え?」

「神様」

「あはは。まっさか~。」

「くぅ・・・」

 

 

 

 

 家に着くとまず風呂場で汗を流してキャスターは朝食の支度をし、なのははその手伝いをする。この二週間ですっかり桃子と仲良くなったキャスター。既に商店街やご近所様達からも高町家の家政婦さんと認識されていた。

 

「キャスターちゃん手際がいいわね。味も良いし盛り付けもキレイね。」

「ありがとうございます桃子さん。ですけどまだまだですよ。」

 

 そう言いながら、くるくるとだし巻き玉子を焼いていく、火の通り具合も良く、いい香りが漂う。

 

「そんな事ないわ。本当に凄いわよ?」

「いや~友達のウズメちゃんに比べたら大したこと無いですよ。」

「あら、そうなの?」

「ええ、料理教室を開いてますし、歌も踊りも上手なんですよ。岩戸に引きこもった引きこもりを出てこさせるくらいに・・・」

「まぁ、凄いお友達ね。そのウズメさんって人。」

「ワタクシもウズメちゃんに教わったんですが、御主人様に満足して頂けるには私はまだまだです。でもこうして、愛妻料理を作るのは好きですね。」

「まぁ♪なのはは幸せね。こんなお嫁さんを貰えるなんて♪」

「ちょっと待ってお母さん。おかしいと思うの。」

 

 そんな他愛ない会話をしながらテーブルに料理を並べていく。

 

「そういえば、何時ぐらいにここを出られますか?」

「そうねぇ、一応10時位に出て士郎さんを迎えに行くわ。」

「無視!?無視なの!?」

「では、私もお手伝いに行きましょうか?」

「大丈夫よ。恭也達を連れていくから。キャスターちゃんはお昼の準備して貰って良いかしら?」

「わかりました。夜は快気祝いの宴となりそうですし、軽めのものを用意しておきますね。」

 

 そう言いながら、高町家の朝食が始まる。

 

「お母さんもキャスターさんも酷いの・・・」

「あらあら」

「申し訳ございませんなのは様。拗ねたお顔が可愛かったので・・・」

「むぅ…」

「なのは、強くなるのよ。強くなりたかったら食べないとね。」

「お姉ちゃん・・・わかったの。」

「ウフフ、強くなりましたね、なのは様。ささ、なのは様も、美由希さんも御代わりを・・・ってどうしたんですか恭也さん?頭を抱えて?」

「美由希…そんなキャラだったか?」

 

 その言葉に美由希は箸を置くと、厳かに応える。

 

「恭ちゃん…キャラが強くならないと出番も無いんだよ?」

「いや、何の話だ!?」

「御主人様はい、あ~ん♪」

「じ、自分で食べれるの!」

 

 真剣な眼差しで美由希は恭也を見据える。

 

「只でさえ濃い面子が多い中、出番を勝ち取るには強くならないといけないんだよ!!」

「だから何の話だ!?出番ってなんだ!?」

「うー。あ、あ~ん。」

「はい♪じゃあ次は・・・」

「あらあら♪」

 

 目尻に涙を浮かべながら応える。

 

「うう、恭ちゃんには分からないんだよ!!」

「だから何の話なんだ!?」

「あらあらケンカはダメよ?」

「はい、あ~ん。」

「も、もう大丈夫・・・うう、あ~ん。」

 

 そうして今日も賑やかに、高町家の朝食は進むのであった。

 

 

 

 

 

 




もう一話を挟んでから小学校に入ります。遅筆で申し訳ございません。

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